生
大気はいつしか音を失い、重く滞っていた。
サンキューベイベー!
乾いて熱っぽい喉を絞ってもう一度叫んでみる。声はかすれ歪んで途中から裏返って、返事のないまま空に呑まれてしまう。目の届く限り、メンバーも観客たちも、皆寝ちまったらしい。
すべて歌い尽くしただろうか。
幾年も曲想を練ってきたのだけれど、もう疲れはてて思い出せない。
古代の水道に杭を打ち込んだ。かまうもんか。維管束は過去の遺物、生きているのは皮と梢に過ぎない。そして世界は生者のものなのだ。
噴き出す水を合図に果てしないライブは始まった。甘い痛みが胸郭を突き抜け、声は体の内から空間へ反響していった。一人また一人ユニゾンが力を増し、どれが俺の声だかわからなくなった。
なんで音楽? もてたいからよ! そうだろ、至純の動機さ。
汗が飛び散った。水浴びをした。消えるものは失われ、残るものが歴史になる。あの瞬間の全ては楽譜やなにかには収まらない。
噴水も今は黄色く粘りつき、仲間の体を浸して滲んでいる。しどけなく脱ぎ捨てた衣もどこかに吹き払われ、潤んで水色に透きとおっていた翼も褐色に古びている。
俺もひと眠りしよう。
枝を風が渡り、木洩れ日が揺れる。葉擦れの音が遠い彼方へ誘っている。
その蝉は根方に転がってジジ、と鳴き、そのまま動かなくなった。