オルゴール

 新月の夜にそれを見つけた。
 わたしは海の退いた廃港に着いたのだろう。テトラポッドの帯の向こうに 浮桟橋が見える。桟橋は両手を広げたほどの幅で、向こう端が見えないくら い長く、テトラポッドをかすめるように宙空に浮いている。幾つも幾つも果 てしなく。乾いた空気の遙か遠くから濡れたように大きな星たちが目を瞠っ ている。わたしは深い息を吐き、息は幾すじにも凍って流れていく。
 テトラポッドを越えて桟橋に歩みよる。金属だろうか。石だろうか。さわ りたい欲求に耐えられないくらい、なめらかですべらかな板。見つめるうち に視野が歪んでいくような気がした。いや、違う。海が乾上がった今も揺れ ているのだ。ゆっくりと、ひそやかに。
 手をつける。体の熱が音もなく流れ出す。心地良い。板は不思議と柔らか く、わたしの力をゆっくりと震動に変える。その揺れ具合がためしたくて、 わたしは次々に板を押す。
 突然、空で光がはじける。二条の流星が西と東に飛んでいく。見上げると 冬の大三角が回りながらその距離を縮めていく。西から鎌のような月が現れ、 太りながらくるくるまわって空を横切り、北極星を刈り取って北東の端へ消 えた。
 明日の朝は来るだろうか。


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