感謝祭の夜
封切りたてのウィスキーと並んでキッチンのテーブルに片頬つけて
目をつぶっていたら相対的に長い素足をしゅっと伸ばした妖精が小さ
なじょうろを僕の耳につっこんだ。
頭の中にドライ・アイスの煙が溢れる。妖精が指揮者よろしく腕を
振ると煙は赤く色づいて、ミクロの指がぱちんと鳴るとぱっと美人の
姿になる。けれどさらさらと光る髪はちりちりと震えだし、瞬時にち
りぢりに散って臙脂のもやに戻る。悠々の指揮でピンクに色づいて、
ぱちん。今度は官能のボディと挑発する視線に。
かつてなくクールな僕は昔の恋を思い出す。勝手な空想を押しつけ
あって、結局なにも通じなかったっけ。僕はゆっくり首を振る。
緑のぱちん。堂々のプレゼンテーション。青のぱちん。僕を見つめ
るスーツの一群。ごりごり仕事して、つまらない諍いで傷つけ傷つき、
何も得ることなかったっけ。また首を振る。そして気がついた。
青春が終わったんだ。
なにひとつ持たず、まるで零だけど、ようやく乾きたての洗濯物になった。
妖精はしばし腕を組んでいた。やがてぴゅうっと飛びまわり、ニッと
笑うとくるりと消えた。僕の頬にちょんと小さなキスを残して。
それはごくささやかな元気だった。