FLIX 1992年5月号

「ロバートはすべての条件にかなった素晴らしい俳優だ。」(リチャード・アッテンボロー)
長年の懸案であった『チャーリー』の撮影中、アッテンボロー監督が行った記者会見です。ロケ現場から駆けつけたロバートの緊張の面持ちに、全身全霊をかけてチャーリーと取り組んでいた当時の彼をうかがい知ることができるでしょう。

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LAでの10週間の撮影が完成し、ロンドンの撮影に移行したリチャード・アッテンボロー監督の待望の新作「チャーリー」は順調に製作が進行中だ。このほどロンドンで大規模な記者会見が行われ、200人近いジャーナリストやカメラマンが詰めかけ、この映画に寄せられる期待の大きさを関係者は改めて認識したようだ。
 撮影中とは思えないほどバイタリティー溢れる様子でマイクに向かって話しかけるアッテンボロー監督は嬉しそうに顔を紅潮させていた。
「長い年月がかかりましたが、やっとチャーリー・チャップリンの伝説映画『チャーリー』の製作を開始した。今回リサーチをしてしみじみ感じたのですが、チャップリンは偉大なスターであったのに、彼に関する本が驚くほど少ないんです。遺族の方たちからはありとあらゆる資料を提供していただき絶大な協力をいただきました。しかも脚本のほうも自由に書いて構わないとまで言ってくれたんですよ」
 やがてチャップリンを演じる主役のロバート・ダウニーJr.がロケーションから駆けつけてこの記者会見に参加した。アッテンボローは本人を前にしてキャスティングの苦労話を快活に続ける。
「5歳から83歳までのチャップリンの生涯を描いた作品なので、主役を選ぶのに苦労しました。イギリスの俳優も含めて3年間もリサーチしたんですよ。小柄なチャップリンと似た体型で、あの個性的なメイクアップをして演技している時もオフステージのときもそっくりにこなしてもらわなくちゃならない。それに彼は非常にハンサムな人だったから、無名の新人じゃなくて話題性のある男優がいいと思っていたんです。天才バレエダンサーのニジンスキーはチャップリンのダンスのうまさは天下一品だって褒め讃えたほど、彼の芸は一流だった。ここにいるロバート・ダウニーJr.はまだ年若い俳優ですが、そのすべての条件にかなったすばらしい俳優です」
 会場から満場の拍手がわいたのに、ロバート・ダウニーJr.は緊張のせいか、ニコリともせず、表情が硬い。
「僕自身もこんな大役に選ばれて非常に責任を感じています。でも、こんなすばらしいチャンスに恵まれるなんて、やっぱり幸運ですね」
 彼はチャップリンになりきるために、あの独特の歩き方から転び方にいたるまで厳しいトレーニングを受けた。コックニー訛りの英語も悩みのタネだったに違いない。
「チャップリンにはものすごく強いコックニー訛りがあったんですが、ロバートは上手にこなしてくれました。こんなに見事に訛りを真似してくれるとは予想以上でしたね」とアッテンボローはロバートがテレるほど誉めまくり、場内には笑いが起こった。
「僕はあえて、チャップリンが今まで明かさなかった秘密もあばいてみようと思います。その女性関係にも焦点をあてながら、彼の反逆児的なところや、ものすごく手ごわい男だったという面も含めて描こうと思っています」とアッテンボローは力説する。
 幼くして両親が離婚したため、母親ハンナの手で育てられた彼は5歳の時、声の出なくなった母親にかわって舞台に立って歌った経験がある。育ち盛りのとき、一家は貧乏のどん底で、ろくな食事にもありつけないつらい日々を送っていたが、さらに不幸が続いた。
「14歳の時、気のふれてしまった母親を精神病院に送らなければならなかったんです。この出来事は後々まで彼の人生に大きなインパクトを与えることになるんです」とアッテンボローが指摘するように、チャップリンの母親への愛と絆は深かった。その母親を演じるのが彼の長女ジェラルディン・チャップリンというのもなかなかニクイ演出だ。

記事提供:ウーラさん