ジャップ集結
特に人との係わり合いが嫌いなタチではないけど、
比較的一人でいる事を好む。
人見知りするタチではないものの、
人見知りされると嫌われているのかと思い込んでしまうネガティブ思考ではある。
それなりの日常会話はこなせるけれども
所詮オタクの類なので、興味のある話と無い話で熱しやすく冷めやすい。
そんな性分なので、これまで日本人との関わりは極力避けていた。
旅慣れしてないオレにとって旅慣れしてる連中は、どうも馴染めないものがある。
バンコクで最初に出会った暗黒な連中の印象があったからかもしれない・・・。
第一に、いい歳しての海外旅行である。
若い連中にえらそうに講釈されるのが、たまらなくイヤなのだ。
・・・というよりそんな若い者にすら甘えてしまいそうな弱い自分を見せるのがイヤだったのかもしれない。
それ以降は、意識して日本人宿はできるだけ避けるようにしていたところがある。
しかしベトナムに入ってからそれがただの杞憂であったと知る事になる。
安いプライドは何も意味を無さないただの俗物根性だった。
滞りなくベトナム・ホーチミン行きのバスに乗る。
相変わらず喉が痛い。
腹の具合も芳しくない。
安静にしてるに限る。
数度の休憩を挟みつつ、見飽きた田舎風景を眺めながらひたすら突き進むバス。
退屈で仕方ない。
同じバスに乗った中に、日本人らしき兄ちゃんを一人発見する。
色黒でひげ面で、なおかつ原色バリバリのゆったりした現地の服に身を包んでいたので、
本当に日本人かどうかを判断できないまま、声をかけることはなかった。
喉もガラガラになってるのであまり声を出したくなかったのもある。
なんか目つきもシャープで、怖いし。傍から見るとチンピラ風なんだよなこのお兄さん。
現地の服も、彼のパーソナルカラーなのかムラサキ系のものでコーディネイト。
ムラサキの服を好んで着る人間なんて
古き良きヤンキーかムラサキ曹長しかしらねぇよ。
ベトナムは15日以内の滞在であれば、VISAは不要である。
国境をそのままバスで進入して、そこで一旦入国審査となる。
バスの添乗員が「パスポートをまとめて預かります」というので渡す。
コレは不安だ。
パスポートは旅行者の命の次に大切なものなので、
添乗員とはいえ、よくもわからん現地の人間に迂闊に渡してもいいのだろうか?
するとムラサキ曹長が、微妙なはにかみ笑顔で話しかけてきた。
喉から振り絞るように声を出すのはいやだったんだが・・・・話しかけられて無視もできまい。
「パスポート渡しましたか?」
「ん〜なんか他の連中も渡していたから、渡したよ。君は?ガラガラ」
「渡しませんでしたよ。無くされると困るし・・・」
「困るよな。オレも不安だったが・・・そういうことで添乗員に任せたガラガラ」
「そうですかー」
30分ほど待たされて、
手続きが終わったパスポートを順番に渡された物から同じバスに再搭乗。
まずは一安心。

強面なムラサキ曹長であったが、話してみると気さくなセーネンで
待っている間色々話を聞いた。
28歳。名古屋出身。フォークリフト等の整備士だそうだ。
現在3ヶ月の休職中なので、その時間を使って長旅をしようとしているらしい。
本当なら、退社するつもりだったが・・・・社長さんに「人手が足りない」と泣きつかれたらしい。
なので休職。
一ヶ月ほどタイの少し南にあるタオ島ってところでのんびり過ごしつつ、
スキューバダイビングの何とか言うクラスのライセンスを取得してきたと言う。
日本に比べて段違いに安く入手できるとかでタオ島は、その手のパッカーに人気なんだとか・・・。
しかもショップの先生も日本人だから何も心配はいらないんだって。
海旅士(マリーナ)の予備軍だなムラサキ曹長。せいぜい名古屋湾の柱(ピラー)でも守護しておくれ。
やっぱスキューバはド定番なのだな。
バンコクで、金を丸ごと盗まれたんだか無くしたんだかしたドジっ娘パッカーに助けの手をのべて、日本大使館まで付き合ってやった。
なんて話を聞くダニ、男気にあるヤツなんだと判断。
「もしかしたらそのドジっ娘といい仲にでもなったのではないかな?」
そんな突込みをすると
「いやーそれはないでしょう」と意味ありげに笑う。
ふん。オレは信じねぇゾ。
タイ以降はオレと同じでカンボジア〜プノンペンそしてホーチミンまでと、道程が重なったわけだ。
ただ、あと一ヶ月も無い俺に比べて、彼はまだまだたっぷり二ヶ月の期間が残っているのだ。
一通りベトナムを満喫したら、インド方面に行こうと考えているようだ。
行って来い。

ホーチミンに到着。
ホーチミン(ベトナムの偉い人の名前)って割には、ここはベトナムの首都ではない。
さすがに大都市と噂に聞いただけあって
無駄にバイクが多い。
カンボジアに比べて幾分、交通ルールがしっかりしてるようだ。
みんなしっかりヘルメットをかぶっていたからだ。
偉いぞベトナミー。
ムラサキ曹長は、フォングラーオ通りの「ほうれん荘」とかいう日本人に人気のある宿に向かうのだという。
昔少年チャンピオンで連載されていた某ギャグ漫画ライクな名前ではあるが、
彼曰くドミトリーがついていてこの界隈では一番の安さだ!
と「地球の歩き方 ベトナム」に書いていたのだとか。
生憎とオレの手持ちのガイドには、その宿の名は乗っていない。
どういうこと!?
日本人宿は避けたいし、そのまま着いていくのも甘えだよな・・・と思い。
「オレは別をあたるよ」
・・・とかっこよく別れを告げる。
ひとまず目当てのドミトリーのある宿に寄った。断られた。
満室だから。
第二候補の宿に向かう。泊めることはできないと言う。
満室だから。
なんでさ?オレがなにをやったってーいうのよ?
しかたなく荷物を持ってうろついてると
「宿あるよ」と声をかけられた。
テキトーに入った先は、とても綺麗でエアコンがついてるところだった。
「18$ね」
「もっと安いのないの」
「一番安いの15$。でも今は空いてない」
その近辺をうろつくも、空いてる部屋はどこも似たような金額。
さすがに予算的に10$以上はきつい・・・・。
5件も探して希望の部屋が無いと、さすがに気がめいる。
しかし、もう少し粘ろう。
「安い部屋探してるか?」
背のちっこいおばちゃんに話しかけられる。
「安いところしってるね」
「いくら?」
「3$。ただしドミトリーね」
「おう!OkOk」
渡りに船とばかりに、おばちゃんの後ろをついていく。

あそこね。
着いた先の建物の看板を指差すおばちゃん。
「ほうれん荘」
うん。いいオチをありがとうおばちゃん。
これまた間口の狭い建物で、
一階は有料のネットカフェを経営。12台とそろっている。こりゃいい。
2階、3階共に二間続きのドミトリーで、一間二段ベットが3台、6人分のスペースとなる。

割と清潔な感じ。
3階にいくと、紫色の物体が目に入る。
「あ。着たんだ」
「結局ね」
ムラサキ曹長が笑顔で迎えてくれた。
他に、丸刈りの山梨某大学の院生。なぜか顔に小さい痣がチラホラと・・・わけあり?
小柄のチャライ印象のジャニーズ。この手のタイプ苦手。
ひさびさ日本人と遭遇する。
さすが日本人に人気の宿だけあるよな。
でもオレはまだあんたらを友達と認めたわけじゃないぜ。
偵察がてら、散歩に出る。
手持ちのドルをベトナムの通貨であるドンに両替するどん!
タイやカンボジアの通貨と違って、0のケタが無駄に多いので少々把握しづらい、
しかし入手するとえらく金持ちになった気がするどん。
20$換金しただけですごい札束になって帰ってくるので困るどん。32万ドン。万!ドン!
今度は大切に使わなきゃ。特にボラれないように気をつけなきゃね。
小腹がすいていたので、サンドイッチの屋台で一本買ってみる。
「いくら?」
「21サウザンド(21000)」
とシレっと目もあわせないで答えるおばちゃん。
「OK」
と札束でいっぱいになった財布から2万1千ドン出す。
・・・んで買う。
ちなみに1$(100円)=約16000ドン
ミネラルウィーター1.5が、約7000ドン前後 (40円ぐらい?)の相場のようだ。
・・・・。
かなりボラレタ。
サンドイッチでは足りなかったので
ベトナムで有名な肉まん屋を見つけて買う(6000ドン)
これは値段間違いなし。
近くに広々とした公園まで持って行き。
地元の人たちが思い思いのくつろぎ方をしている様子でもみながら食べるとしますか。
熱々の肉まん。日本のコンビニで売っている物よりもふた周り大きいので食べ応えがありそうだ。
端っこをかじると、それなりに弾力のある生地。ちょっと粉っぽいかな。
半分に割ってみた。
あ、たっぷり肉が詰まってるぜ。中心部が赤みがかっている。
半生だろコレ。![]()
どうせお腹の調子も悪いし、いっその事もっと悪くしてしまえ!と気にせず食べるオレも問題。
食後の一服と行きたい所であったが、
声が思うように出せない上、咳が鳴り出すと止まらないという、トンでもない状況になりつつある中。
そうだ薬局に行って薬を買おう。
小さな薬局を見つけて
「スロート!ディジーズ!メディシン!」とかなんとかいいながら、ジャスチャーまじえて喉の痛みを訴えた。
咳まじりで話していたこともありすんなり理解してもらえる。
んで受け取った薬がコレ。

緑色のあやしい錠剤。
処方箋を見てみるが、古代語のような文字で読めた物じゃない。
テキトーに二粒ほど飲む。
咳と体調不良のため、油断するとダルくなる。
日はまだ明るかったが、薬を飲んだついでにベッドに横になる。
といっても眠れるわけでもなく、ぼんやりしながら体調の回復を図る。
「ハイ」
デッカイ荷物をしょった金髪のイケメンが向かいのベッドに入ってくる。
スベンと名乗る。ちかじか22歳のなると言う21歳のチャライ若造だ。ドイツ人。
2週間ほど日本を訪れた事があるらしいが、日本語は覚える気が無かったとおどけてみせる。
「ハローエブリバディ〜♪」
デカイ荷物をしょった金髪の姉ちゃんが入ってくる。セスィ〜リアと名乗る。「〜」を発音しなきゃいかんらしい。
セシリアじゃダメなようだ。
スウェーデンからやってきたこれまた陽気な娘。
インド2週間、ネパール10日滞在。3ヶ月ほど仕事休んでの一人旅らしい。
スベンは、荷物を置いたらそそくさと下に下りていった。
日本人宿かと思っていたら、あまり人種に関係ないようだ。
聞くと2階が外人ドミトリーらしいが、満室なのでこっちにずれて二人が入ってきたわけだ。
ドミトリーに女性が入ってくるのは男性ならどいつも心がときめく物だ。
しかもブロンドもの。
英語がまるでダメだというムラサキ曹長とオレとでセシリア相手に色々話しかけた。
聞くも無残なデタラメイングリシュなのだが、セシリアは笑顔で相手してくれる。
なんだか独特のリズムと愛嬌を持つ魅力的な女性であることはわかる。
そして入手した情報が先ほどの彼女のプロフだ。
彼女は明るくひょうきんものだ、国籍わけ隔てなく人懐っこく話しかけてくれるので、すぐに人気者になった。
喉風邪で大変なオレを気遣いつつも心配してくれる。絶対、おじいちゃんこだ。間違いない。
まるで名作劇場の主人公な設定だな。
これがスベン。

夜中。隣のオレに「ライター持ってないか?」といってくる。
渡すと。
なにやらひざの上で何かを作り始める。自作のタバコかな?
「なに作ってんだスベン?」
「ヤー。○○ね」
「○○!?」
まじかよ。こいつ。
さらしてやりたいところだが、モラル的なものもあるのでとりあえず伏字にしておこう。
警察のみなさんすぐにこいつを捕まえてください。
バルコニーには、タバコをふかしながら雑談をしているムラサキ曹長とジャニーズと丸ちゃん。
参加したかったが・・・タバコ吸いたくなるので、顔は出さなかった。
その前に雑談できるほどオレの声は回復できていなかった。
完成させたスベンが「イェあ!」といいながらバルコニーへ。
しばらくして三人組の
「おお〜っ!」という驚きの声の三重奏。
まさかあいつら付き合う気じゃないだろうな・・・。
ならば見届けてやらねばならぬな!
咳を圧して顔を出してみたところ。
ムラサキ曹長が吸っていた。
「どうよ?」
「うーん。特に、普通のタバコですよね」
「なんだそうなんだ。つまんね」
その奥で、ムニャムニャ寝言のような言葉を漏らすジャニーズ。
「ジャニさん決まっちゃってますね」
敢えて○○に手を出さなかったマルコが指差す。
スベンは傍らでヘラヘラ笑いながら煙を吐き出す。
その二人が
ケタケタケタケタケタと笑い出したので、
ムラサキとオレと、マルちゃんで。
「こいつらおもしれー。ラリッてるよ。うははは」と笑い飛ばしてもりあがる。

セシリアは無視を決め込んでいる。スベンが何をしているのか承知のようだ。
すこし見下したような視線を彼に向けていたな。
そんな中、マルちゃんのメンソールを一本いただき。
喉が悪いにもかかわらず吸ってしまう。
・・・・ダメなオレ。
大っぴらに○○作り出すスベンもスベンだが・・・
勢いだけでそれに手を出す日本人は
本当にバカだなと思った。
そんな馬鹿どもの、英語と日本語がいりまじった珍妙な会話を聞きつつ
耳慣れた日本語の響きに心地よさを感じながら、タンクトップで寝入るセシリアを意識しつつ
体調回復を祈って今晩は素直に就寝することにした。
そんな夜、ムラサキ曹長はトンでもない事態に陥っていたのだった。