現世妖怪小説

Hyakki-yakou
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妖怪「怪奇草紙」
今は昔の物語。
江戸の町に、怪奇草紙なる物が流行ったことがあった。それは文字通り「怪異」を物語に仕立てたもので、物見高い江戸っ子達の人気をさらったものだ。
やれ、誰々が化け猫の話をしたためたと言えばそれを手に取り、それ何処々で新しい草紙が書かれたと言えばそれを見に行き。
多くの書き手が人々を怖がらせ、楽しませた。
その多くの書き手の中に、一人、異彩を放つ者がいた。
彼の書いた草紙は、たったの一冊。しかもありきたりの怪奇譚ではなく、今で言う「サイコ・サスペンスホラー」のような、人の心の闇を書いた物だった。
温厚な武家の青年が、夜な夜な悪夢にさいなまれる。ある晩いつもの悪夢から目覚めると、抜き身の刀が血に染まり、足下には死体が横たわっている・・・。
人格の変貌、周囲の不審、そしてついには許嫁までその刃にかけることとなり・・・。
今でこそ、そう珍しい筋書きではなくなったが、当時は衝撃的な題材である。この本は口コミであっという間に江戸中に広がり、ついには幕府のお偉方の目にも留まることとなった。
「乱心した侍が人を襲う話を書いているそうだな。」
ある日、奉行所に呼び出された書き手は、そう言われた。
「武家を辱めるような、このような草紙は捨て置けぬ。草紙は全て焼き、二度と筆を執ることまかりならん。」
沙汰は重いものではなかったが、物書きにとっては死刑宣告にも等しい。
草紙が全て河原へと集められた。そして全て灰へと帰し・・・その晩、彼は自らの命を、絶った。
それから幾日かが過ぎ、町にはある噂が流れた。
「一冊だけ、あの草紙が残っているらしい。」
「書き手の怨念が本に宿り、自分の生を奪った者に復讐をしているらしい。」
「抜き身の日本刀を下げて、夜道に現れるそうだ。」
噂はまことしやかに語られ、怪奇本の内容を知る者が噂にさらに脚色を加え・・・。
いつしか、路地裏や河原に、「本当に」死体が横たわることとなった。
人の思いが草紙にあり得るはずのない命を与え、そして妖怪は生まれた。
草紙に書かれたとおりの姿形・・・そう、日本刀を下げた武士の青年として。
書き手の、読み手の、そして草紙自身の復讐を果たすために。