さりげなく汽車の窓より見てとほる 四月はじめの朝あけの舞子の浜のしほらしさ。 ぎらりぎらりと浮く波の紋(もん)と斑(ふ)との閃きは 匂い油か見残した鴎(かもめ)の夢のつらなりか。 淡路島さへ朝もやに透いて見える心快(ここちよ)さ 夢の小唄かまぼろしの舟の揺れひびき。 さりげなく汽車の窓より見てとほる 四月はじめの朝あけの舞子の浜のなつかしさ。 青の凪(なぎ)吹くささやかなれんじ窓をそとあけて 別墅(べっしょ)住まいの小女のそのたしなみの朝化粧。 プラットフォムにさまよへる 西洋夫人の靴の音さへつつましく。 さりげなく汽車の窓よりみてとほる 四月はじめの朝あけの舞子の浜のここち快(よ)さ。 --- さりげなく --- 四月はじめの朝まだき、汽車の窓から見た舞子浜。 日に光る波の模様は鴎の夢の跡か。かすんで見える淡路島。舟の響きは小唄のよ うでしおらしい。 朝凪の吹き込む窓を開けて、別荘に住む少女の朝化粧は美しく、プラットフォー ムを歩く西洋夫人の靴音は慎ましく響き、懐かしく感じられる。 四月はじめの朝まだき、汽車の窓から見た舞子浜は何と心地よいことか。 [Tad翻案] ゆったりとした初春の瀬戸内海風景を、まるで水彩画のスケッチのように描く人見東明。彼の他の詩を余り読んではいないが、総じて彼の詩は、自然の情景をさりげなく詠い、自らをその中にゆっくりと浸して楽しんでいる。 人見東明は明治16年、岡山市に生まれた。早稲田大学英文科を卒業している。大学卒業後、詩作のかたわら、積極的に詩壇活動に入り、機関誌を発行した。交友関係として、河井酔茗、三木露風、野口有情、相馬御風、三富朽葉、山村暮鳥などが上げられる。 口語自由詩の推進者となり機関誌「自然と印象」を発行したが、自分の詩が風俗紊乱の罪に問われ、発禁処分を受けたこともあった。やがて詩壇から離れ、昭和女子大学に長く在職した。 東明は昭和49年に享年91歳で没した。 東明の詩を更に一編紹介する。 待合室のしばし もの云いたげな光は空に 楽しき群は来たり美しき群の去る待合室の 秋の日の空しばし。 絵葉書にペンを走らせつつ思うことなきとき 朗らかな光は壁にまどろみ。 ベンチに寄る異国の夫人と隣りて わが頬はあたたかし。 いくたびか汽笛は鳴り いくたびかとどろく待合室のしばし 出発前(たつまえ)のしばし。 [2000年8月記] |