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【創作スレイヤーズ:魔物と戦う者】『リナ=インバース』
これは、あたしが一人旅を始めて、まだ間もないころの話。
あたしは日暮れ前に、とある森に囲まれた村にたどり着いた。宿を取ろうと
したが、魔道士に対して排他的な村らしく、あたしはどこでも断わられ、仕方
なく、野宿の場所を探して森へ入った。そこへ一人の村男が声をかけたのだ。
彼は、村人の手前、自分の家に泊めることはできないが、森に木こり小屋が
ある、と告げ、案内してくれた。あたしは、屋根のある場所で夜を過ごすこと
ができることが、ありがたかった。
そして真夜中を過ぎた頃。狼の吠え声で、あたしは目が覚めた。窓を覆う板
戸の隙間から気配を伺うと、十三頭の狼が小屋を取り囲んでいる。
あたしは屋根の明かり取りの窓を開け、『浮遊(レビテーション)』で宙に
浮いた。十分に高さを取れば、狼に襲われることはない。――はずだった。が。
一頭の、銀色をした狼が、毛を逆立ててうなると、突然、そいつの周りから
『火炎球(ファイアー・ボール)』が、あたしめがけて飛び出したのだ!驚い
たあたしは術のコントロールを失い、地上に落下した。なんとか、風の結界の
おかげで激突を免れたものの、狼たちは一斉に襲い掛かってきた。
あたしはショート・ソードで応戦し、呪文を唱えようとしたが、連中は数に
ものを言わせ、いきなりとどめを刺すのではなく、少しずつ噛み傷を負わせて
体力と気力を奪う作戦で来た。
さっきの『火炎球』といい、この戦いぶりといい、こいつら、ただの狼じゃ
ない!
あたしが気づいた時は遅かった。腕に噛みつかれてショート・ソードを落と
し、肩口に牙を突き立てられて地面に倒されたあたしは、呪文を唱えようとし
た。しかし、すぐに別のヤツが足に噛みついてきて、あたしは悲鳴を上げ、呪
文の詠唱が途切れてしまう。
万事休す!
その時、先ほど『火炎球』を放った銀色の狼が、人間の言葉で攻撃を止めた。
そいつの方を見やると、月明かりの中、銀色の狼がまたたくまに、若い女に
変身するじゃないか!黒に近い茶色の髪。目はグリーンに燃えている。引き締
まった裸体を、満月が冷たく照らし出す。
狼女はあたしを指して、せっかくアイツが約束に従って提供した女だ、殺し
たら役に立たない、と言った。
別の黒い狼が男の声で、こいつは魔道士だ、アイツが狼たちを退治させるつ
もりでよこしたんじゃないか、と抗議したが、狼女は、あたしが先手を打って
攻撃しなかったことを指摘して、刺客であるはずがない、と反論を封じる。
こいつら、みんな狼人間(ワーウルフ)だ!
狼女は、うずくまるあたしに近付き、あたしのアゴに手をかけて、あたしの
目を覗き込む。
そいつは、このまま噛み殺されるか、それとも狼人間の仲間になるか、とあ
たしに迫った。狼人間になれば、人間など恐れるに足りない、夜の世界で無敵
の存在として我が物顔に振る舞える、と。さらに、魔道士であるあたしでさえ
彼らの前に無力ではないか、とまで付け加えた。
ふん!こういう手合いの言うことは、信用しちゃあいけない。ウソしか言わ
ないものなのだ。それに、あたしがヤツラに負けた、という言い草が気に入ら
なかった。
あたしはいきなり狼女の目の前に、光量最大の『明かり(ライティング)』
を発動させる。こいつの目さえつぶせば、恐らく、魔法での攻撃はないはず!
ほかの狼たちが飛び掛かるより早く、あたしは次の呪文を完成させた。『翔
風界(レイ・ウィング)』で高い木の枝に飛び移ったあたしは、そこで『治癒(リカバ
リイ)』の呪文を唱え、たちどころに傷を回復する。だいぶ体力を失ったが、
あたしは怒りに燃えていた。ここで狼人間どもと決着をつけるっ!
案の定、あたしの血の臭いを嗅ぎ付けて、狼人間どもが駆けつけてきた。さ
すがに、この高さの木を登ることはできず、根本でさかんにうなり声を上げて
いる。再び銀色の狼の姿になったリーダーが、ゆったりと現われた。
彼女は、あたしを木の枝から落とそうと、またもや『火炎球』を撃ち出して
きた!そう何回も同じ手が通用するかっ!
あたしが唱えた『風魔咆裂弾(ボム・ディ・ウィン)』の烈風が、狼女の
『火炎球』の炎を地面に叩き付ける。木の根本に固まっていた狼人間たちは、
モロに炎を浴びることになった。
後には十二頭の狼の死体が残った。多分、あの狼女だけが逃げおおせたのだ
ろう。そう思った時、狼の遠吠えが聞こえた。あたしは警戒したが、次の攻撃
はなかった。
翌朝、あたしは村に戻った。狼女が言っていた、約束に従ったアイツ、とは、
あたしを木こり小屋に案内した男を指すに違いない。すると、アイツはあたし
を、狼人間の犠牲にしようとしたのだ。ただで済ますわけにはいかんっ!
が、村に入ったあたしは、大勢の村人に歓迎されることになった。なんと、
昨晩、村に狼男が現われ、女子どもを噛み殺したというのだ。その狼男は捕ま
えられたが、そいつが言うのに、森にもっと多くの狼人間がいるらしい。村人
たちは、魔道士であるあたしに、森の狼人間を倒してほしい、というのだ。
あたしは、すでに狼人間の大半を倒したことなどおくびにも出さず、村長か
ら前金をせしめると、捕らわれた狼男を取り調べることにした。
頑丈な牢屋に閉じ込められた狼男を見て、あたしはたまげた。あたしを木こ
り小屋に案内した、例の男じゃないか!あたしは彼を問いただした。
彼の話では、彼が森に泊まった時、夕べのあたしと同じように狼人間に囲ま
れ、死ぬか、仲間になるかの選択を迫られた、という。そして彼は、仲間にな
る選択をしたのだ。狼女は彼の血を吸い、自分の血を彼に与えて、彼を仲間に
した。彼は、満月とリーダーの吠え声に反応して狼に変身し、森で他の狼人間
といっしょに狩りをした。だが、彼は村人としての生活――妻と子どもに囲ま
れた人間の暮らしを、捨てようとしなかった。リーダーはそれが気に食わなか
った。彼は、一人の女を新しい仲間として差し出せ、さもなくば家族を殺す、
と迫られ、家族も村人も犠牲にできず、たまたま通りかかったあたしを、犠牲
に選んだのだ。
しかし狼人間はあたしの力で、リーダー以外全滅した。リーダーは、あたし
が刺客として雇われた、と思ったのだろう。彼に復讐するため、遠吠えを上げ
て、彼を家族の目の前で狼に変身させたのだ。
狼に変身すると人間の心を失う。特に、狼人間になって間もない場合は、野
生の殺戮本能が極端に働くらしい。彼は、自分の妻と子どもを、自分の牙で引
き裂いたのだ。
女子どもの悲鳴で駆けつけた村人たちは、狼から人間の姿に戻る彼を見つけ
た。そして、以前から村の近辺で起こる狼の被害を、全て彼のせいだと決め付
けた。だが、森にまだ仲間がいる、という話は信用した。夕べも森から狼の吠
え声がしたからだ。
捕らわれた狼男は、狼人間のリーダーである狼女が、いかに自分に執着して
いるか、を語った。彼女が人間だった頃の恋人に、面影が似ていたらしい。
狼女は、自分が処刑されるとなれば、きっと助けに来る、と彼は言った。そ
こで村人とあたしは、彼を処刑すると見せかけ、狼女に罠を張る事にした。
処刑場に引き立てられた狼男は、森に潜んでいる狼女に、救いを求める遠吠
えを上げた。果たして、銀色の狼がやってきた。契約を交わした悪魔のように。
狼は、処刑場の柵を軽々と飛び越え、落とし穴の罠も難なく跳躍してかわし
た。あたしは狼の足を止めようと、『魔風(ディム・ウィン)』を放つ。狼は
素晴らしい跳躍をまたも見せたが、空中に飛ぶことで、村人が巻き添えになる
心配はなくなる。あたしが『黒妖陣(ブラスト・アッシュ)』で生んだ黒いモ
ノが、狼の身体を包み込み、塵と化した。
村長は、助けに来た狼人間がたった一頭だったことをいぶかしく思ったが、
あたしが既にほかの狼人間を倒したことを話すと、喜んで残りの礼金を支払っ
た。なかなか心が広くてよろしい。
村長の気前が良かったのは、あたしが最初に正直に話さなかったことへ悪感
情よりも、狼人間に対する恐怖と憎悪が、はるかに大きかったからだ。そのこ
とは村人全体にも言えた。
残った狼男はある意味で不幸だった。彼は裁判にかけられたが、生死の選択
を迫られたことや、自分の手で家族を殺してしまったことの情状酌量はなかっ
た。彼は生きながら生皮をはがれ、八つ裂きにされることになった。
抵抗する力も意志もないヤツに、これほど無慈悲な村人の態度を、あたしは
気に食わなかったが、よそ者が口をはさんでいい問題でもないことは、わきま
えていた。
この狼人間はアンデッドに近い。八つ裂きにされてもまだ生きるので、最後
のとどめはあたしが刺さなくてはならなかった。
あたしは、その胸が悪くなるような光景を見ないように、ずっと下を向いて
いた。だが、悲鳴は聞こえて来る。正直な話、あたしは痛みに弱い。他人が、
苦痛を味わっているのを見るのも、苦手だった。
あたしが顔を上げた時、村人の狼人間に対する恐怖と憎しみを一身に受けた
男は、肉片となって地面にうち捨てられていた。血まみれの顔が、薄く目をあ
けて、あたしに救いを求めていた。
彼は言った。
人間としての自分を大切にするべきだった。自分を大切にしないと、人間は
どんな魔物にでもなってしまう、そうなったら、後悔してももう遅い、と。
あたしの放った『青魔烈弾波(ブラム・ブレイザー)』が、狼男の眉間を貫
いてすべてが終わった。
今でも時々、あの狼男の最後の顔と言葉を思い出す。
彼は、自分を『魔物』と表現したが、『魔物』は彼だけではない。彼を仲間
にした狼女もそうだし、必要以上に残酷な村人だって、その心は『魔物』だ。
どいつもこいつも、自分を大切にしないから、自分で自分をおとしめるような
ことをして、やがては身の破滅を招くのだ。
彼の言葉を思い出しながら、あたしはいつも誓う。
あたしはけっして、魔物にはならない、自分を大切にするのだ、と。
【魔物と戦う者】『リナ=インバース』<終わり>
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