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1997年 3月号
1.花粉症って?
一般にイメージされる花と花粉症とは、植物の花粉によって引き起こされるアレルギー性の病気です。アレルギー性の病気は、いわゆるアレルギー体質の人にしか起こりません。花粉症の症状は主に鼻と目に現れ、アレルギー性鼻炎や、アレルギー性結膜炎を起こしますが、他にも、のどや皮膚など、花粉と接触する部分のどこにでも、アレルギー症状が起こる可能性があります。花粉症と同様のアレルギー症状は、花粉以外の原因でも起こります。その代表的なものがハウスダスト(室内のほこり)のなかのダニです。両者の大きな違いは、症状の季節性にあります。
2.都心でなぜ花粉症に?
都心では、近くにスギ林があるわけではないのに、なぜスギ花粉症になるのか不思議に思う人も多いかと思います。スギ花粉は、風によって数10kmから100km以上も飛んでいきます。近くにスギ林がないからといって、スギ花粉症にならない保証はありません。また、東京都の調査では、スギ花粉飛散量は、都心部より郊外のほうが多かったにもかかわらず、花粉症の有病率は逆に都心部のほうが上回りました。都心部に花粉症が多いのは、都市環境が花粉症の誘因になっているからだと考えられます。改善されてきたとはいえ、大気汚染が鼻や目、のどなどの粘膜の過敏性を高め、花粉症を起こしやすい下地を作ると考えられます。また、都市部の地表のほとんどは、アスファルトやコンクリートで固められており、地表に落ちた花粉は、土に吸収されず、雨が降るまで何度も空中へ舞い上がることになります。また、最近の住宅は気密性が高く、ダニなどが発生しやすい環境にあるため、ダニによるアレルギーも増えています。このほか、現代社会のストレスや、食生活の欧米化なども過敏体質を増やす原因になっていると考えられます。
3.花粉症は春先だけ?
日本では春先におこるスギ花粉症があまりにも有名です。しかし、現在日本で花粉症の原因となると考えられている植物は、50種類以上もあります。花粉症にもいろいろな種類があるのです。まず、住んでいる地域に生育する植物が違えば、花粉症の起こる原因も違ってきます。例えば、スギのほとんど生えていない北海道では、スギ花粉症はまずみられませんが、シラカバによる花粉症が起こります。また、果樹園やハウス栽培などで、職業的に特定の花粉に接触する人には、独特の職業性花粉症が起こることもあります。それから、季節も様々です。2月から6月には、スギ、ハンノキ、シラカバなどの樹木の花粉が飛散します。5月から8月に花粉が飛散する植物には、カモガヤ、オオアワガエリなどイネ科の牧草や雑草があります。また、8月から11月に花粉が飛散するのが、ブタクサ、オオブタクサ、カナムグラ、ヨモギなどの雑草です。また、スギ花粉症の人の多くはヒノキの花粉でも、症状が起こることが分かってきています。ヒノキ花粉の飛散時期は、スギより1か月〜1か月半ほど遅れます。スギ花粉症の人で、症状が初夏まで続くようなら、ヒノキ花粉症を併発していることを疑う必要があります。
4.くしゃみ、鼻水、鼻詰り、目のかゆみー花粉症なの? かぜなの?
春先に起こるスギ花粉症の症状は、鼻かぜと間違えやすいものです。自分はかぜなのか、それとも花粉症なのか〜かぜと花粉症の症状の特徴を比較しながらみていきましょう。
そのほか、のどのイガイガや、せき、それに皮膚の炎症、耳のかゆみ、などを訴える患者さんもいます。
そして、いままで述べてきたのは花粉による直接的な症状ですが2次的な症状も起こってくる場合もあります。その症状は様々ですが、比較的多いものとして頭が重い、ボーッとする、だるい、眠れないなどがあります。これらの症状が重なって現れ、仕事や勉強などにも支障をきたすことがあります。
5.治療法は?
花粉症の治療の中心は薬による『薬物療法』です。
薬物療法には症状を抑える『対症療法』と、症状があらわれないようにする『予防的治療法』とがあります。従来は対症療法が中心でしたが、最近では、症状が現れる前から抗アレルギー薬を服用して、症状が出てこないようにする予防的治療が基本になっています。抗アレルギー薬は、飲み始めてから効果が現れるまで1、2週間かかります。したがって、予防的治療を希望する場合は花粉が飛散しはじめる2週間以上前に医療機関を受診する必要があります。体質改善をはかる長期的な治療に、『減感作療法』(げんかんさりょうほう)もあります。この療法は花粉症の原因となる花粉のエキスを少量ずつ注射して、体に免疫を作っていく方法です。薬物療法で効果のない人や、症状が重い人は、医療機関に相談してみましょう。また、鼻腔を左右に分けている鼻中隔の湾曲がひどいなど、鼻の構造に異常のある人は鼻の『手術』を考える場合もあります。
今までに述べてきたものは、医療機関でのメディカルケアですが、花粉症対策には、患者さん自身のセルフケア(生活療法)が欠かせません。
花粉症は、原因となる花粉に接触しなければ起こりません。たとえば、テレビや新聞の花粉情報をこまめにチェックし、花粉飛散量の多い時の外出は極力控えるようにしたり、また外出する場合は、花粉との接触をできるだけ避けるために、マスクなどでガードするといった注意も大切です。花粉症は、薬を使っていれば、それで済むわけではありません。医療機関での治療を始めてからも、こうしたセルフケアは続ける必要があります。
6.Let'sセルフケア
『花粉症対策=メディカルケア+セルフケア』ということは前述しましたがここではそのセルフケアの方法をご紹介します。その第一歩はズバリ『花粉の飛び方を知る』ことです。スギ花粉の時期になると、毎日のテレビの天気予報や新聞などで、その日のスギ花粉の飛散予報を目にするのが当り前になってきました。それだけに、『花粉情報』というと『本日の花粉飛散量は、、、』といった毎日の予報だけを考える人が多いようですが、花粉情報の役割はそれだけではありません。
セルフケア;(1)花粉情報を知る
1.シーズン中の花粉の飛散量の予測
その年、『その地域にどれだけの花粉が飛ぶか』という花粉の総量が分かると、その年の花粉症の 症状の程度も予測できます。また、花粉は飛び始めの時期は量が少なく、その後、増えていくのが普通ですが、花粉の総量の多い年には飛び始めから急激に飛散量が増えます。当然、症状も出始めから急に悪化します。花粉の総量の予報から、こうした症状の変化も推測できるわけです。
ポイント 猛暑の夏の翌春はスギ花粉が大量発生
2.飛散開始日の予測
花粉症の人が一番早く知りたいのは、『今年はいつから花粉が飛び始めるか』ということです。
抗アレルギー薬による予防的治療のためには、症状の出る前に医療機関に行くことが大切です。その年の花粉の飛散開始日の予測に従って、その2週間ほど前から薬を飲み始めることになります。ポイント 暖冬の年はスギ花粉の飛散開始が早くなる
3.毎日の飛散予測
日毎の花粉飛散状況の予測により、花粉を避けるための対策がどの程度必要か知ることができ、『外出に向く時間帯はいつか』など具体的な対策を立てる目安になります。
ポイント 晴れて気温の高い日には大量の花粉が飛ぶ
日本では現在、スギ花粉についての予測を中心に、こうした花粉情報が提供されています。
花粉症のセルフケアのために、まず花粉情報に強くなりましょう。
こんな日は花粉が多いんですよ!!
- 雨の翌日でよく晴れ上がった日
- カラリと晴れた暖かい日
- 風の強い日
セルフケア;(2)花粉との接触を避ける花粉から身を守る
花粉症の症状は、主に目と鼻に現れます。
そこでまず鼻と目を花粉から守ることが最も重要になります。そのために活用していただきたいのがマスクと眼鏡です。マスクは最近では花粉症用のものもいろいろ出回っていますので、そうしたものを利用するのもよいでしょう。ただ、花粉症用のマスクでなくては効果がないというわけではありません。花粉の大きさは普通のガーゼの目よりも小さいので普通のマスクをしても無駄ではないかと思う人もあるかもしれません。しかし、普通のマスクでも効果はありますし、なかにしめらせたガーゼをはさんでおけば、さらに花粉防止効果は高くなります。一番大切なのはマスクをするということなのです。
眼鏡は、花粉が目に入るのを防ぎます。レンズの周りにプロテクターのついた花粉症用眼鏡などもありますが、普通の眼鏡やサングラスでも、それなりに効果はあるものです。つぎに帽子と髪形の工夫です。髪に花粉がついたからといって症状が起こるわけではありませんが、後で花粉が落ちてきて、目や鼻に入ったりします。髪に付いた花粉を落とすのは容易ではないのでなるべく花粉を付けないようにしたいものです。そのためには、帽子が有効です。つばの広い帽子にすれば目や鼻に飛び込む花粉を減らす効果も期待できます。髪の長い人は、なるべく髪をまとめた髪形にした方が、花粉がたくさん付くのを避けられるでしょう
そして、肌をあまり露出させない服装を心がけることです。花粉が皮膚につくと肌あれの原因になることがあります。特に首から上によく症状が現れます。顔がピリピリする感じがしたり、化粧ののりが悪くなる、顔が腫れぼったいなどと訴える人もいます。顔は全く露出しないというわけにはいきませんが、前述のマスクや眼鏡、帽子は皮膚に付着する花粉を減らす手助けにもなります。また、首は汗がたまったり、服の襟でこすれたりしがちな所です。花粉がつくと炎症を起こしやすい部位でもあります。首すじを花粉から守るためには、スカーフを使うという手もあります。
最後に、外側に着る服は花粉の付着しにくい素材を選ぶということです。毛足の長いセーターなど、花粉の付きやすい服だと、花粉をため込んでもち歩くことになりかねません。それを後で身の回りにまきちらせば、症状をおこす原因にもなります。花粉シーズン中一番外側に着る服は、織りが細かく、表面がすべすべした素材のものが望ましいでしょう。
セルフケア;(3)花粉を屋内に持ち込まない
外出中についた花粉は徹底的に落とす
これらは花粉症の患者さんだけでなく、家族全員に協力してもらうことが大切です。
洗濯物や布団と一緒に花粉を入れない
部屋の中の花粉を徹底的に減らす花粉の多い日には極力窓を開けない
花粉シーズン中には、窓を開けることに慎重になって下さい。よく晴れて風のあるような気持ちのよい日はつい窓を開けたくなりますが、こんな日こそ花粉の飛散も多いものです。特に窓を閉めておく必要があります。ただし最近はサッシの普及で住宅の気密性が高くなっています。石油やガス器具などを使う際には、閉め切ったままでは事故にもつながりかねません。必要な換気まで忘れることのないようにくれぐれも注意して下さい。
室内に舞う花粉を減らすには空気清浄機が効果的
いくら気を付けていても、家に花粉が入ってくるのは防ぎきれません。そこで、室内に侵入した花粉を取り除いていく対策も必要になります。室内を舞っている花粉を取り除くには、空気清浄機が効果的です。特別なものでなくても、一般の家庭用の空気清浄機で十分に補集できます。空気清浄機を使った人と使わなかった人では、症状に差がみられることも分かっています。
床に落ちた花粉には雑巾がけが一番
空気清浄機は空中を漂う花粉に対しては頼もしい働き手ですが、花粉がいったん床に落ちてしまうと、効果は期待できません。床に落ちた花粉は掃除機で吸い取ります。じゅうたんを敷いてある場合は特にていねいにかけましょう。床だけでなく、ソファーやカーテンなども花粉が付きやすいので、掃除機でよく吸い取っておくようにします。花粉は普通の掃除機の紙フィルターを通り抜けないので、念入りに掃除機をかければかなりの花粉を収集できます。ただし、掃除機からの排気で花粉を舞い上がらせてしまうこともあります。これを防ぐには、掃除機に長いホースを取り付けて、本体を部屋の外に出しておくのもよいでしょう。また、掃除機をかけた後、空気清浄機で舞い上がった花粉を吸い取らせるという手もあります。フローリングや畳の部屋なら、さらに『ぞうきんがけ』をして、残った花粉を拭き取ります。花粉をよく吸着させるには、このぞうきんがけは水拭きに限ります。乾拭きでは花粉を他の場所に移動させるだけになりかねません。ぬれぞうきんでの拭き掃除は、室内の花粉退治の決め手といえます。
セルフケア;(4) 家庭でできる花粉症の補助療法花粉症の治療はあくまで『薬物療法』が中心ですが薬を使わず、家庭でできる治療法もあります。『家庭療法』だけで十分な治療効果が得られるとはいえませんが、補助的に併用すると、症状が楽になります。
鼻の症状を楽にする『温熱療法』
『温熱療法』は、体温より少し高めの42度から43度の水蒸気を鼻から吸入する治療法で、1回に10分程度の吸入を1日数回行います。以前は医療機関で行われていた治療法ですが、家庭用の蒸気吸入器が市販されるようになっていますので、そうした機械を使えば、家庭でも簡単にできます。妊娠中の女性や、肝臓に問題があるなどで、薬を使いにくい人には特に試みる価値のある治療法といえるでしょう。
目のかゆみを鎮める『局所冷あん法』
目のかゆみや充血がひどいときの対症療法として、最も安全で効果が期待できるものに、昔ながらの『局所冷あん法』があります。言葉は難しそうですが、冷たいタオルなどで目を冷やすだけの簡単な方法です。一時的には、症状がかなり楽になります。目がかゆいときには、つい目をこすってしまいがちですが、結膜や角膜を傷つけてしまうとさらに大きな問題を招きかねません。外出から帰ったときには、目を洗って花粉を洗い流すのもよいのですが、あまりたびたび目を洗うのは、目を守る役割のある涙まで洗い流してしまうことになり、問題があります。目がかゆくてしかたがないというときには、まぶたの上から冷やすようにしてください。
花粉症の治療は、私たちのメディカルケアと患者さんのセルフケアとの協力です。花粉症なんかに負けずに一緒にがんばりましょう。
スギ花粉源対策に期待される
『無花粉スギ』
スギは、1本の木に雄花と雌花の両方を付ける、雌雄同株です。つまり、花は別々でも、花粉を作る機能(雄花)と受粉して種子を作る機能(雌)の両方をもっているわけです。ところが1992年の3月に、富山県林業技術センターの方が、偶然に遺伝的に花粉を作る機能がない『雄性不稔』(ゆうせいふねん)ではないかと思われるスギを発見しました。雄性不稔については、トウモロコシ、タマネギ、ニンジン、ピーマンなどの栽培植物では、すでに実用化されています。品種改良のために二つの品種を交配させる際には、種子を採る親(母親側)のほうの品種は花粉を除いて、もう一方の品種(父親側)の花粉と受粉させ、雑種1代(F1)の種子を採るわけです。このとき母親側としたい品種が花粉を作らなければ、その花粉を除く作業をしなくても、かけあわせたい品種の花粉で確実に受粉させることができます。これは、雑種一代の種子を採取するには大変効率のよいことになるのです。スギについても同様に交配種を作るのに利用することも考えられますが、花粉を全く生産しないという特性を生かしてスギ花粉飛散の軽減に役立つのではないかと考えたそうです。さらにセンターの方々は雄性不稔のスギの木に自然交配で作った種子から苗を育て、ジベレリンという植物ホルモンを使って、人工的に開花を促進する処理をしたところ、苗の13%ほどは、雄花に花粉が形成されませんでした。花粉をつけないという性質が、ある割合で遺伝していることは明らかです。その遺伝様式を解明するには、さらに多くの交配実験を重ねていく必要がありますが、この雄性不稔のスギを使って品種改良を行い、花粉を飛ばさないスギを作るのは可能だと考えられています。今多くの人がスギ花粉翔に悩まされていますが、日本のスギ林の林齢構成(植林してからの年数)を考えると、今後、飛散する花粉は増え続けるので花粉症の人もさらに増えていくことが予想されます。スギ花粉症対策の一環として花粉源対策は重要な課題です。いずれこのような『無花粉スギ』の育苗が実用化され、花粉を飛ばさないスギの植林が進められば、花粉飛散時期の空中花粉の量を大幅に減らすこともできるはずです。
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