MA&Co. TOY BOX
宣伝会議「環境ビジネス」バックナンバー 「デジタルコミュニケーションを上手に使おう。 」(最終回 )

2003年12月号
”「量子コンピューティング」はどのような世界をもたらすのか?”

0と1で仕事をしてきたデジタルにそろそろ別れを告げるときがくるようだ。次の世界は0でもなく1でもない状態を作るキュービットが活躍する「キュービタル」な世界。
量子コンピューティングは無限の可能性を導く未来の技術の鍵となる。

●ついにデジタル時代の終えんか?

「キュービタル」という言葉は、量子力学で使われる「キュービット」という単位に由来している。0と1で仕事をしていた「ビット」に対して、0でもない1でもないという状態を作る「キュービット(量子ビット)」が主役になる。

「今後きっと大きなパラダイムシフトが起こるでしょうが‥」というメタソフト社の早川さんの言葉を以前に紹介したが、実は最近その「パラダイムシフト」の気配を強く感じてきて興奮がおさまらなくなってきた。この感覚は、最初にインターネットを体験した興奮を大きく超えている気がしている。まだ得体が知れないというのが正直なところだが、確かに感じる。しかもそれは非常に衝撃的なのだ。

その変化の気配とは「“デジタルな時代”が終わり“キュービタルな時代”がやってくる」ということだ。これは東京大学名誉教授の石井威望先生の言葉。それはどんな時代なのだろうか?いつも未来の先を見つめて研究されている石井先生に直接聞いてみることにした。

●「場」に入り込むキュービタルの世界

場所は東京海上研究所のハイテク会議室。部屋の中の大型スクリーンには携帯電話の動画を映すモニター画面が見えている。その画面は4分割されていて、4つの風景の前に別々の4人が映っている。これは「パラレルリアリティ」の実験だという。同時に違う場所で存在し、それを自覚することによって4人には相互作用が生まれる可能性が高い。大事なことはこの4画面のうち一つは自分が入っているということだ。デジタルな世界では自分は「客席」に居て、対象物と自分の関係は、「演技者」と「観客」のそれだった。しかし、量子コンピューティングの世界では、自分が中に入る「場」を作り上げることができるのだという。この「未来心理」を味わうことは、今とても重要なステップである。

20世紀の終わりから21世紀の初めにかけて私たちの生活や仕事環境はアナログからデジタルへの移行を体験してきたところだ。しかし、デジタルが人間の細かいニーズに応えてくれるほど万能かというと、確かに限界が見えてきた。デジタル、つまり、0と1でこの地球上のすべての現象を解明できるのかというと、答えはノーだ。生物の超微細な営み、予測不可能な現実というものはとうていデジタルには手におえない。しかし、かなり近づくことができた。ヒトゲノムの解析、地殻変動のシミュレーション、インターネット、ソフト、ハードウェアの発達は世界を席巻した。次は、その発展を踏まえて世界は新しい段階へ入っていく。新しい世界の代表的な技術が「量子コンピューティング」であり、「キュービタル」という概念だという。例えば医療。「さらに進んだバイオテクノロジーはまさに“テーラーメイド”な一人一人に最適な医療を実現するでしょう」と石井先生の言葉は強力な未来を示唆する。「21世紀はバイオの時代なのです」とも指摘する。

●レンズの奥に映る、美しきカオスの世界

石井先生はさらに不思議な現象を見せてくれた。それは、会議室に設置してある小さなカメラとモニター画面を使った実験だ。部屋の様子を映していたカメラをリモコンで動かしてモニター画面自身をレンズが捉えたとき、先生は質問した。「さて、何が映るでしょうか。」レンズが捉える映像をレンズが捉えるのだから、それはカメラ自身だ。カメラ自身をさらに撮る。要するにレンズは自分自身の中へ中へと入り込んでいくことになる。合わせ鏡に映る現象と同じだ。カメラは際限なく自分の中へ入り込む。フレームの中にフレームがありそれが延々続く。

しかしこの後どうなるのだろう、と思った瞬間、モニター画面に信じられないような模様が現れた。フレームのような物質の形ではなく、なんとも形容し難い、しかし美しい模様だ。まるでカレイドスコープの作り出す模様のようだった。ビデオフラクタルだ。「これがカオスです」と先生は厳かに教えてくれた。これがこの世界だ。息を呑むような「カオス」を見たときに、キュービタルな世界が始まるのだと確信した。それは無限の可能性を導く一歩である。

Copyright©2003Marsha:::Column Index:::TOP:::