ジェミニの方舟

第一章 荒川
  1

 背後から軽快なジョギングの足音が近づいてくる。
 振り向いた玉城孝彦は目を細めた。陽はかなり傾いているが、九月としては強い陽光が目の奥に差し込んだ。
 深く息を吸い込むと、熱で膨らんだ草の香りが肺に満ちる。
 玉城は言葉を捜しながら、そっと横を見た。隣には小学四年生の長男、大輔が目を閉じて座っている。眠っているようにも見えるが、ときおり瞼が震えるよう に動く。どちらかといえば丸顔の玉城と違って、端整な面長の顔だ。色白なのも妻に似たのか。
 大輔が目を開けて眩しそうに瞬きした。
「前に来たのはいつだったかな」
「ええっと……夏休みの終わりごろ」
 気のない返事が玉城の気勢を削ぎ、次の言葉が見つからない。
 うちでごろごろしている大輔をなんとか連れ出したものの、会話の糸口がつかめない。メールでは週に二、三回、短いながらもやり取りをしている。家族、そ して同居している玉城の母親への伝言が主だが、最近の小学生と父親とのやり取りはこんなものか、と思っているところがあった。
「天体望遠鏡は見てるの?」
 去年のクリスマスに買ってやったものだ。