中国の中薬業の現状と問題点について  
     
        天津新内田製薬有限公司  許カン申(XU GAN SHEN)

 中国では西薬、(合成薬)と中薬(漢方製剤薬)を用いた治療方法が明確に区分して共用
または分離されて提供されており、患者が選択利用している。
 本文は中薬業の現状と問題点について以下の通り分析を行った。

一、現状

 1.資源について
   中国の全国資源調査により、中薬を構成する材料の種類は12,807種類有り、その内訳は、
   薬用植物が11,146種類、薬用動物が1,581種類、薬用鉱物が80種類有るとされる。
   汎用薬用植物320種類の総埋蔵量は約850万dにのぼると言われている。
   中国の薬用植物の栽培面積は、約580万ムー畝(1畝=1/15ヘクタール)で、200余種の薬材を
   栽培している。積極的に栽培に取り組み、一部の薬材は栽培品が主流になり需要を賄って
   いる。

 2.病院と研究機関について
   1995年までのデーターによると、中医医療機関は2,552個所、中医薬大学は30箇所、
   中医薬専門学校は51箇所、中医薬研究所は77箇所、中薬新製品開発機関は100箇所
   以上のおよんでいる。医療、研究に従事している専門技術者は数万人いる。
   数千年の期間に実践された漢方治療の過程に多くの処方が模索され、30万以上の処方数
   になると言われている。現在までに6万処方以上が記録されており、人類薬理学の原始書類
   として認められている。

 3.薬事法について
   1985年に中華人民共和国薬品管理法が施行され、薬事法の整備と充実が開始された。
   1992年に新薬品批准に関する法令の修正と補足が発表され、中薬の分類、中薬の安全性
   を測る非臨床実験と臨床実験の内容について明確に規定された。
   1988年実験用動物管理規定が施行され、また薬品生産品質管理基準(GMP)も同年に
   施行された。
   1993年薬品非臨床安全性研究に関する品質管理規定(GLP)試行が推進された。

 4.中薬業の規模について
   1996年の集計によると、中国の中薬製薬業の企業数は1,059社、固定資産は133億元
   (中国1元=日本14円)になっている。中薬製薬業全体の年総生産額は235億元になり、
   薬品全体総生産額(中薬と西薬)の21%を占めている。中薬製薬企業の上位183社の
   生産額は126億元を占め、総額の54%になる。
   中薬は11,360社の商社から供給され、35,339箇所の中薬販売者(医療機関、薬店等)
   を経て消費者にわたっている。卸売りの年間総売上額は219億元、その中で0.05億元を
   超える品目は470品、1億元を超える品目は21品になる。中成薬(処方薬)の総生産量は
   20万トン、粗利益は37億元、純利益は19億元である。
   年間輸出総額は6億米ドルあり、薬材は77%、中成薬は23%で構成している。

二、問題点

 1.薬材資源の問題
   過去から、中薬材の野生資源確保についての意識は、中国は広いから資源が豊かであり、
   無限に使えると考える安易な内容が大勢であった。しかしながら、世界中に広まった植物薬
   ブームによる急激な薬材需要の拡大があり、中国の野生資源はかなりの確率で有限になり
   つつある。今後は、植物保護かつ合理的な資源開発が行われなれれば、近い将来に歴史的
   に禍根を残すことは間違いないといえる。
   薬材資源が豊であるか否かを下記の分析で表したい。

   @ 既に開発利用した種類はまだまだ少ないと考える。中薬材の全種類が12,807種類と
     いわれているが、開発利用している薬材は2,000種類に過ぎず、80%以上の種類は
     未開発で推移している。植物薬材の中で根と種子の植物は集中的に開発されているが、
     菌類の開発利用は不十分といえる。中国の真菌は8,000種類もあるが、約300種類の
     真菌は薬用出来るが利用しているのは僅かな種類に止まっている。
      陸上の動物薬材は利用し過ぎ、反面海の薬材資源は10%以下しか利用していない。

   A 全国の開発利用は調和が取れているとは言えない。中国の黄河、揚子江、珠江流域など
     の東部地域の薬材資源は十分に開発利用されているが、西南、西北地域の薬材資源の
     開発は進まず潜在的な資源量はかなり大きいと考える。四川省、青海省、西蔵の山々の
     生息している薬材資源は自生自滅で、あまり利用されていない。

   B 長期的な無計画な開発により、一部の薬材は絶滅に近い状態にまで推移している。
     中国の薬材産出地域が広大で、その種類も多く、どの国よりも豊かな資源を有している
     ことは間違いないが、長期的に無計画な開発がすすんだ反面、保護不十分、等の原因
     で本来豊かな薬材は徐々に減っており、危機的な種類もある。
     例えば無計画な開発の結果により、西蔵の冬虫夏草、貝母、天麻、熊胆などの貴重な
     薬材が絶滅に近いとされている。銀柴胡は、原産地域の寧夏では野生資源が極少なく、
     山銀柴胡を各地域から調達して代用品としている。
     中国全国薬材調査集計によれば、1978年に流通した銀柴胡350dの中で、真物は
     10%に過ぎないといわれている。売値が高いから採集する、多量の採集によって薬材が
     少なくなる、薬材が少ないから値段が上がる、そして売値が高いから活発な採集に繋がる
     悪循環により、野生人参、冬虫夏草などの貴重な薬材は絶滅に向かって加速する。
  
   以上の分析から、野生薬材資源の種類が1万以上あっても、薬材資源が豊かだとする見解は
   安易過ぎると考える。特に、近年の数年間で中国が計画経済から市場経済に変革し、薬材に
   対する無計画な採集は一層拡大した。伝導医薬業が資源使用を進める上で生態環境を
   破壊し、今後も生態環境に悪影響を及ぼす事実は中国だけに止まらず全世界から注視
   されている。現実に汎用している400種類余の野生薬材は危険な状況にあり、少なくとも
   20%以上が量的不足していると言われている。

 2.中薬品質の問題

   中薬が医薬品で有ることから、西薬同等な品質基準(別訳 西薬同様に中薬の品質基準)を
   守らなければならないと考える。しかしながら、中薬の原料に多くの問題を抱えている実状
   では、全量が良品であるとは言い難い。北京日報1997年11月30日の報道によれば、
   北京市で使用している薬材の26%が何等かの試験項目で不合格といわれている。中国の
   首都での実状から推察すると、地方地域で使用されている薬材品質の不合格率はさらに高い
   と考える。1998年、中国の衛生部(日本の厚生労働省に相当)は、125種の処方薬の製造と
   販売の停止を命令した。その主な原因は適切な効果が得られないとのことであるが、実質は
   永年にわたり使用されている伝統的な名方の再評価結果を反映したものも一部含まれるが、
   大半は薬材の品質に問題があると判断された結果と思われる。
 
  薬材は処方の基本である事が再認識された上の措置といえる。

  薬材品質の問題は下記の事例から明らかになった。

  @ 薬材品質の均一性が求められていない。結果として、中国各地方で製造された
    中成薬には、同一製品でもその有効成分の含量に大きく差があり、数倍から数十
    倍の差が認められた事実もあった。当然に、そのような中成薬の薬効と品質は当
    てにはならない。

  A 薬材の種子市場の健全性が保たれていない。種子の良し悪しは薬材の品質に欠
    かせない要素であるが、薬材の種子市場では取引価の乱高下、品質確保の価値観
    が希薄、そして種子の属性が退化するなどの多くの問題がある。

  B 薬材の採集、加工調整、保管等についての管理面の取決めが為されていない。
    採集時期、生育期間によって薬材の有効成分の含量に差異がある。品目毎に特
    性を把握した生育期間と採集時期の指定は重要な事と考える。例えば、2年生
    の白朮の精油量は1年生に比べ2倍量ある。人参のエキス含量は年数を経れば
    ますます高くなる。薄荷葉は成長の初期段階では精油は極少なく、開花時期に
    なると急に増加し、その後は減少する。晩秋に採集した丹参の有効成分はほか
    の季節の採集品と比べ2倍〜3倍も多く含まれている。冬採集の天麻は良品と
    評価されるなど、多くの事実からその管理の重要性と必要性が証明されている。
    採集後の加工調整法、保管期間、保管中の温度と湿度等の要素は薬材の成分を
    変化させることに繋がる。これらの重要な事柄が整備されていない実状を指摘し
    たい。

  C 薬材に農薬、中成薬に重金属、等の有害成分が許容を超える数値で残留して
    いる事実は深刻である。その事実について、薬農家・取扱業者、そして製薬業
    者までもが、薬品の安全性、有効性に大きく関わっている事実認識が極めて薄
    い事は重大な問題であり憂慮する。当然それらの事実から公的機関による調査
    と研究は遅れている。

  D 中国の薬材のほとんどが個々の品目毎に特定の修治(処理)を用い、修治を
    経た原料でいんぺん飲片を製して、調剤用原料並びにエキス抽出等の製剤原料
    として用いている。日本のように無修治の生薬原料を使うことは極めて少ないと言える。
    例えば、半夏は毒があるので生で用いることはなく、淫羊霍は羊の脂で焼いてから
    用いる等々の処理が行われている。永い歴史を経て言い伝えられた方法であるが、
    何等かの理由がある筈と考えるが、地方により処理方法、内容が異なる事実があり、
    その検証はほとんどされていない。この事実から、需要家に向かって薬材・中成薬
    への信頼を求めることは困難と考える。
    
 3.法などの整備が不十分

   1993年、GLPの試行が始まったが、GLPセンター或いは研究機関は設置されていない。
   新薬品を発売する際にGLP基準への合致は要求されておらず、薬品の品質基準、副作用
   情報の整備はおろか、GMP遵守が徹底されていない。市場での薬品の販売関連の取決め
   も未整備な実状である。中薬の有効性、安全性を確保させる上で、化学薬品と異なった
   品質基準、安全性評価規定、臨床評価規定の整備を強く求めたい。

 4.基礎的な研究が不十分

   中医薬理論は永い歴史の間の貴重な経験を積み重ねて成り立っていることから、化学薬品
   と違い効用の本質や原理が解明されていない。中薬そして中成薬の有効性と安全性に
   ついての科学的な取組みが弱く、総じて研究が不十分と言える。

 5.企業規模が小さいことから市場開発の能力が低い

   中薬製薬業の企業数1,059社の中で中小企業が1,018社あり、全体の96%を占めている。
   GMP適合社は僅かに1%にすぎず、その製造設備は70年代の国際レベルである。
   自然に親しみ、自然への回帰を望む傾向が世界規模でますます強まり、新たな市場の開拓
   機運が高まっているが、中薬業社側の実状認識は不十分であり、その反応は弱く不適切な
   内容といえる。

現状は製品品質に様々な問題を有しているが、市場の要求をくみ取り、中薬の置かれている
実状と将来見通しを理解し、新たな思想を取り入れた経営方針の基に管理運営されることを
強く望みたい。

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