佐藤 つや子
アンティカの道に歌う
おおディオニューソスよものみな眠る真昼
あなたが狂わしくわたしを捕えようと
お手が触れるとわたしのなびき走る
金色の髪はみどりそよぐ木の葉
さえぎりとどめた河岸に爪だつ
指さきはもう岩に張る木の根
天たかく叫びのばした手のさきが
小枝と変わるわたしの目のまえに
ああアポロわななき青ざめなおも
かき抱かれて歎きあえぐお声は
わたしの枝枝をめぐり鳴りひびく
永遠の処女の定めを知りながら
火の足で追いすがられた神よ
川風にこぼれるわたしの涙を
大地にくずおれるあなたにふりそそぎ
わたしは息たえてやがて枯れるでしょう
愛しらぬままに石に刻まれることでしょう
永遠の石のかたる
火の言葉をたどる
旅人はうたうひとり
古代の野に駈けのぼり
翼ある石にのり
石の竪琴をひき
永遠の戸をひらき
精霊の祈りをきく
永遠の都のまねき
路に石の花かおり
鳥は石の枝わたり
石の穂波なびき
石に日月の冠
石に星つらなり
石にみのる葡萄
旅人は石にねむる
朝露にひかる野の花が
夜半の星よりあかるい日
あのかたの申し込みを受けた
桂の木の白い花かげで
かんばしい香りも織りこみ
羽のような衣装の布を織る
葡萄をつくり羊を追う
丘から見える石の都から
あのかたは騎士のように現われ
野百合のようだとわたしをみつめ
太陽の家をつくりたいと
社の石にふたりの手を重ね
新月を仰いで誓った
良い星のめぐりある日を
祝福の結婚の宴(うたげ)と
雷(いかづち)に黄金の光はしり
豊穣のみ告げの雨に
おお はらからの歌のこだま
あなたの炎の太陽の目が
満月が欠けてゆくように
日ごとうすれ茨だけ伸び
花の散りつくした垣根よ
宝石の海の南の国
置いてきたわたしの思いは
野に立ちつくす糸杉
祭の夜 消えのこる灯のよう
角笛を吹きわすれたサティロが
首をかしげてうなだれる
デルフィーノも唖になったいま
たばねた黒髪をふりほどき
雷鳴の崖にひれ伏しいのる
おおムーサよ よみがえりたまえ
太陽は旅人の魂に
黄金のアモレの矢を射かける
傷あとに咲く真紅(しんく)のけしに
つばめの鳴声が蜜をそそぐ
神秘の扉ひらく鐘の音が
七色の噴水のように湧く
大理石の彫像をめぐり
この世を抜けでて葡萄酒を汲む
三日月にひらめく稲妻
古代の浴場に歌うこだま
観客席は夜のハープになる
若い詩神の目がうるみ
石の都がさざ波だち
旅人は 永遠の園をさまよう
太陽を食べてしまった蝙蝠(こうもり)の
口ばしを裂き腑もつを占う
今宵のわたしの心は嵐の海
あのかたは近い日 炎のよう
月の光の泡から生まれる
アフロディテーにもまがう処女の
唇に愛のうきこむとのお告げ
オリーボの丘 波だて走る
海風はアランチアの実を落とし
わたしのひとつの愛もさらった
大理石に思い出の日日を刻み
深い谷をながれる涙のなか
永遠にうたうこだまになろう
オリーボの丘をいくつ越えたら
あのお方に会えるの いま
梢に顔をだした丸い月よ
わたしの手をとり助けておくれ
アランチアの樹をもういくつ
かぞえまがれば 岩かげで
火の口づけに焼かれるの
雨雲よ まだ横をむいていて
糸杉の影 どれだけ西にのびたら
赤い血のけしの花に埋もれ
蜜蜂が羽ひろげるような
待ちこがれた熱いお胸に---
いつきまつるヴェネレだけはごぞんじの
めくるめく恋の月日をかさね
ゼウスのいかずちも恐れぬ
太陽の炎の誓いをかわした
燃える翼の足で駈けより魂をとりこにする
微風の口づけで両腕のなかによみがえらせる
金色の角の雄牛のよう現われたり
湖のほとり膝を折り思いこめて葦笛を吹く
野の白百合に恋する若者のよう清く
青空をつまびく風のよう竪琴ならし
葡萄のながい房 露おもく実らせる
愛にぬれた瞳はこの世ならぬ宝石のきらめき
香る花火うちあげる花の雄しべにも似て
蜜ふくむ声を波うつ恋人の髪に埋めると
待ちこがれていた人は野の花の衣装つけ
泉の水に化粧した姿は目ざめた星か
おお 愛の神えらびたもうた豊穣の女神
いだきあい大地に横たわるとき ふたりの
よろこびは春の雨のよう種子ふりそそぐ
めくるめく愛の大いなる結婚の宴よ
メドゥーサの頭の蛇もうっとりと目をとじ
地獄の鬼の腕もしびれ責めをやわらげる
氷と闇 茨のうえ さらに注ぎたまえ神酒を
おお たぐいない愛の結びを讃えて歌う日よ

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