【鳴く虫の世界をカネタタキから】
【カネタタキの声に耳を傾けよう】
<カネタタキ発見>
ある秋の頃,子どもたちとミカンの木の手入れをしているときに,ある子が小さな虫を捕まえてきた。それは体長1cmほどの虫で,コオロギを少し平たくしたような形で,羽があるのかないのかわからない虫だった。ちょうどその頃,職場に自然観察のたのしさを教えに来ていただいているS先生がいた。そのS先生が来られたときに,S先生がかさを広げてひっくりかえし,木のえだのところを葉っぱといっしょにパンパンたたくと,かさの中に小さな虫が何匹か落ちてきた。その虫が,子どもたちがミカンの木で見つけた虫だった。そう,それが「カネタタキ」だったのだ。
カネタタキはコオロギに近い仲間で,林の周辺の低木や生垣に住んでいて,その名のとおり,鉦(かね)を叩くように
「チン チン チン チン」
と音を立てるのだ。よーく聞いてみると,
「チッ チッ チッ チッ チッ」
というように聞こえるように思えるのだが。

生垣やみかんの木にもいる「カネタタキ」
<カネタタキはどこに>
カネタタキをはじめて見た人たちも,見つけた子どもたちも,
「きっと珍しい虫なんだなあ」
と感じていただろう。もちろん私自信もそうだった。しかし,この虫はぜんぜん珍しくなく,けっこう都会の樹上でも,はたまた野山に囲まれた自然の豊かなところでも,家の庭先でもどこでもお目にかかることができる虫なのだ。
しかし,私も子どもの頃は例に違わず虫好きな少年だったが,生まれてこの方このカネタタキという虫にお目にかかったことはなかったし,声も聞いたことがなかった。いや,見落とし,聴き落としをしていたのだろうが。それとも最近帰化してきた昆虫なのだろうか? いやいや,そうでもなかった。子どもたちといろいろ調べてみると,カネタタキという虫は,1000年も前から日本では有名な虫だったようである。
清少納言の枕草子の一部に
「みのむし,いとあはれなり,鬼の生みたりければ親に似て・・・中略・・・・〈ちちよちちよ〉とはかなげに鳴く いみじうあはれなり。」
という一文がある。この中のみのむしが鳴くというのは間違いで,今ではカネタタキが鳴いているのをみのむしと勘違いしたのだろうとされている。
(参考文献:「鳴く虫の博物誌」松浦一郎著 文一総合出版)
この文だけでなく,けっこう詩や俳句の中にもこのカネタタキが鳴いているという文が出てくるのだ。カネタタキは,けっこう昔から親しまれてきたようである。

海岸沿いに多い「イソカネタタキ」
<そっと,耳を傾けよう>
では,なぜ分からなかったのか。これは理論的に説明するのは難しいが,分かることは
「心そこにあらざれば 見れども見えず」
ということ。カネタタキが鳴いているにもかかわらず,多くの人たちは,この大音響の世界にせからしく生き,そんな小さな音に耳を傾けている暇もないのではないのだろうか。言い方が大げさかもしれないが,かなり当たっているように思える。
じつは,子どもたちも大人も,この頃からこのカネタタキの音がすると,敏感に感じ取って,「ほら,カネタタキが鳴いているよ。」
というようになってきたのだ。あるとき,会議をしているところに,外から女の子が二人私を呼んでいた。出てみると,その部屋のそばの小さなモモの木でカネタタキが「チッチッチッチ」と鳴いていたことを知らせに来てくれたのだ。ある人は,
「カネタタキの鳴き声がとても印象に残っているんです。」
と教えてくれた。

神奈川県では珍しい「アシジマカネタタキ」
【鳴く虫の季節がやってきた】
この時期になると,スズムシの音色をたのしむ人たちが増えてくる。昨年まで飼っていたスズムシが産んだ卵が6月ごろ孵化して,ちゃんと世話を続けると,夏休みあたりから鳴きはじめる。みんなきっと,その清楚な声に聞きほれているのではないのだろうか。
♪あれマツムシが鳴いている・・・チンチロリン
あれスズムシも鳴きだした・・・リーンリン
秋の夜長を鳴きとおす ああおもしろい虫の声♪
歌い継がれているこの歌も,まるで日本の秋の風物詩のような気さえしてくる。
しかし,その中のスズムシは別として,マツムシやクツワムシ・ウマオイの鳴き声を本当に知っているだろうか。マツムシは本当にチンチロリンと鳴いているのだろうか。クツワムシの鳴き声はガチャガチャなのだろうか。ある小学生の女の子が、「クツワムッシって、ガチャガチャ鳴くって言うけれど、私はそう聴こえなかった。シャシャシャシャシャって聴こえる。」
と言っていた。うん、確かにさわがしいからガチャガチャというイメージだが聴いてみると意外や意外。これはマツムシにも言えるかも。何しろ、自然の中で本当の音を聴いてみるのが一番だろう。今はCDでも出ているので、聴いてみてから鳴き声を求めて本物を探しに行っていいかもしれない。夜の観察会も出てみよう。きっと今までと違った鳴く虫の世界を発見することだろう。(参考CD:山と渓谷社「虫しぐれ」)
大音響の中に生きる私たちも子どもたちも,ときにはこんな小さな虫の,小さな命の鳴き声に耳を傾けてみるのもいいのではないだろうか。夜,そっと窓を開けて外の虫たちの演奏会を聞いてみよう。その中にときおり「チッチッチッチッ」とカネタタキの声が聞こえてくるかも・・・。
「初等理科教育」に掲載された元原稿より改編。「初等理科2002年9月号」より
ヒロピー仙人