
序章
私がどんなことをきっかけに、鳴く虫の世界に足を踏み入れたのか。それがこの頁をつくるきっかけになっているのだ。はじめて鳴く虫の声を聞くようになったのは、鳴く虫の観察会に出たからだ。そこではじめて聴く「マツムシ」の声、さまざまな虫の声。けっこう感動だった。しかし、さらにあとがある。国立科学博物館附属自然教育園の日曜野外案内に出席して、矢野先生の指導を受けた。その中で、一点気を惹いた言葉があった。それは、
肩刺せ 裾刺せ 綴れさせ(かたさせ すそさせ つづれさせ)
そう、この言葉だ↑。「ツヅレサセコオロギ」というコオロギがいて、このコオロギが鳴く声を、昔の人はこのように鳴いていると聴きなしていたのだ。
「肩させ 裾させ つづれさせ」
「つづれさせさせ つづれさせ」
「肩させ 裾させ 寒さがくるぞ」
普通に聞いたら、こんなふうに聞こえるはずがない。
このコオロギは「リィ リィ リィ リィ リィ リィ リィ リィ・・・」と単調に鳴いているだけだ。
どう聞いても「肩させ 裾させ・・・」とは聞こえないではないか。
しかし、昔の人はそのように聴こえたわけがあるのだろう。
「肩刺せ 裾刺せ綴れ刺せと」は、
「着物の肩、裾に針を刺し、綴れ(つづれ)すなわちほころびを直しなさいよ。」
「寒い冬がやってきますよ。早く冬のしたくをしておきなさい。」
ということだそうだ。人間は、このコオロギの声を聞いて、このように想像を働かせていたのだ。それほど、季節の虫の声まで自分たちの生活と結びつけていたということだ。
これが私が鳴く虫を深く知りたいと思った一番のきっかけなのである。もちろん、歴史的なことだけではなくに、鳴く虫の声そのものに一番惹かれているのが本音なのだが。
この部屋に入った人が、
「そうか、そんなわけがあったのか。おもしろいなあ。」
「鳴く虫のことを さらに興味をもったぞ。」
と、少しでも思ってくれたら幸いである。 By Hiropy Sennin