俳句工房[ZA]−俳句と評論
 
 
 
[俳句をめぐるコラム]
大石悦子作品をめぐって(句集『耶々』)
 
 

 

 大石悦子さんの句集『耶々』(富士見書房、2004年)を拝読しました。昨年9月の上梓後すぐにページを開き、ゆっくりと読み進めながら、また読み終わったあともしばらくそばに置き、数ヶ月が経ちました。気づくと1年が経っていました。急いで読むことができなかったし、急いで感想をメモすることができなかった。ひとことでいえばそういうことですが、私にとっては珍しいことです。

  • 百代と書き損じたる吉書かな  大石悦子
  • 読初やことし見るべき花のこと
  • 篠原の風の来るなり初手水
  • 山墓の櫻は夢のやうに咲き
  • 舟涼み趾(あし)のきれいな男ゐて
  • 水無月のまづ一献は家刀自に
  • 贋作の乾山を置く涼しさよ

 読みはじめてすぐこうした作品に出会い、生活のなかにあるある種の厚みのようなものに惹かれながら、同時に、これは急いで読み進めるのはきついぞ、と思ったのでした。ゆっくりとゆっくりと。そうしないと、大事なものがこぼれていくような気がしたのだったと思います。

  • 花氷立ちふさがりし男かな
  • 闇汁に持ち来しものの鳴きにけり
  • 斧噛ませたるまま春の樹となりぬ
  • 雪代の太き濁りを抱き眠る
  • 父の帯どろりと黒し雁のころ
  • この闇に梟をれば喉渇く
  • くわりんの実僧形はこゑよかりけり
  • 手を入れてみたき箒木紅葉かな
  • 先生の名を言うてみよ葱坊主
  • 風の日の水仙売になりたりし

 惹かれた作品をさらに10句ほど引きました。陽/陰という軸でいえば、陰に傾いた作品が多いと思います。著者・大石悦子さんのその精神のありようと、それを支える技術的な確かさが、読者に読みの時間をゆっくり取らせるのだと思います。たった十七音の作品が、なにかとても大きく感じます。

 

大石悦子句集『耶々』(富士見書房)

大石悦子句集『耶々』(富士見書房)
 
*初出:<Made in Y>(雑記帳153:2005.9.8)
 
 
 

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