俳句工房[ZA]−俳句と評論
 
 
 
[俳句をめぐるコラム]
茨木和生作品をめぐって
 
 
■2 (句集『椣原』)

 

 茨木和生さんの句集『椣原(しではら)』(2007年、文學の森)を拝読しました。

  • 孕み猫潮を舐めて戻りけり  茨木和生
  • 山稜に人は来てゐず初桜
  • 悪たれの戻りてゐたる春祭
  • ぼうたんの散りざま淫らとも違ふ
  • 宙を行くごとく歩けり草いきれ
  • 石ひとつ動かす大事日雷
  • 行く雲は山にあたらず百日紅
  • 白壁の蔵ふたつある雛の家
  • 冷房を一日入れず暮石の忌
  • 座布団は僧の一枚地蔵盆

 先の句集『畳薦(たたみこも)』(角川書店、2006年)について、日常のさまざまなことがらを切り取るために、方法のひとつとして切れを強くしない作品があるのではないか、また韻律のやわらかさが大きな魅力であるということを述べました(■1)。
 今回の句集『椣原』についても、その印象は大きく変わりません。ただ、よりやわらかくなったのではないか、そう思います。そして、「日常のさまざまなことがら」がよりくっきりと読者の前に立ち現れてくる、そうも思います。

 

茨木和生句集『椣原』(文學の森)

茨木和生句集『椣原』(文學の森)
 
 
■1 (句集『畳薦』)

 

 茨木和生さんの句集『畳薦(たたみこも)』(角川書店、2006年)を拝読しました。

  • 雪濁り拡げて一向宗の国  茨木和生
  • 雛の日の柱祝となりにけり
  • 吹かれ飛ぶごとく蟷螂生まれけり
  • さざなみはひかりを呼べり麦の秋
  • 霍乱に塩湯を立ててやりにけり

 こうした作品にチェックをしながら読み進めたのですが、なんだかよくわからない違和感が読み終わるまで付き纏いました。「なんだろう、この違和感は」。違和感の正体を知りたくて、再度通読しました。

  • 秋はじめ日差の中の火の色も
  • しぐれせる崖下に町出雲崎
  • 汚るるといへば日差も棕櫚の花
  • 日雷海には遠き山国の
  • 崩れたる土塀離れず秋の蜂

 おそらく、こうした作品がその理由ではないか。ふと、そう感じました。つまり、切れ。
 この一冊の収められた作品は、切れが弱いものが多いのではないか。切れが弱いというと、欠点のように聞こえるかもしれませんが、先に引いた作品からもわかるように、切れのしっかりした、骨格の正しい作品も多くあります。その一方で、切れの弱い作品がある。これは著者が選び取った方法なのではないか。日常のさまざまなことがらを切り取るために、それにふさわしい切り取り方をする。その方法のひとつとして切れを強くしない作品があるのではないか。理屈っぽい言い方をすれば、有季・定型・切れを約束とする俳句の概念を少し拡げる試みなのではないかとも思います。

  • 口々にとんど組む日の寒さいふ
  • この暑さ麦刈り裸といひし日も
  • 熊の胆を殺いでくれたる水中り
  • 刈草のあをあをとある渚かな
  • 貸切の舟を仕立てて菌狩
  • 一年が来て柿の皮捨てにけり
  • 初霜の来たる木の色菌山
  • 陶工の大きてのひら冬に入る
  • 猪のゐさうな山と見上げけり
  • 時彦のお骨を拾ふ薄暑かな

 惹かれた作品をさらに10句ほど引きました。韻律のやわらかさも大きな魅力です。
 茨木さんは、「あとがき」に「終の地と決めて移り住んだ、ふるさとに近い平群の地から送り出す句集である」と記しています。畳薦は平群に掛かる枕詞。「畳薦平群の若菜摘みにけり」。集中のこの一句が、この一冊の意味をすべて語っているといったら、安易でしょうか。

 

茨木和生句集『畳薦』(角川書店)

茨木和生句集『畳薦』(角川書店)
 
*初出:<Made in Y
(1=雑記帳194:2006.9.17 2=雑記帳230:2007.9.12)
 
 
 

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