俳句工房[ZA]−俳句と評論
 
 
 
[俳句をめぐるコラム]
和田耕三郎作品をめぐって
 
 
■3 (句集『青空』)

 

  • 東京に住みあきてをり鳥ぐもり  和田耕三郎
  • 耳元に人の息せる椿かな
  • 春疾風夜は鯨を連れてきし
  • 摩天楼真向ひにして茄子の花
  • 獏を見に白き日傘をさしてゆく

 和田耕三郎さんの久しぶりの句集『青空』(ふらんす堂、2007年)は、こうした作品からはじまります。勢いがぐいぐいと読者を掴んでいきます。
 通読して思ったのは、個性の感じられる、かつ多様な作品を収めた一冊、ということでした。

  • 洗濯もの山とたたみて都鳥
  • 湖の空ひろびろとあり南瓜煮ゆ
  • 秋風やなまあたたかき札の束
  • 脱ぎしズボンくねくねとして冬夕焼
  • 秋風に頭突きひとつをしたくなる

 たとえば、こうした作品に見られる取り合わせの面白さ。それはときに、ユーモアを含んでいます。

  • 金雀枝や寝起きの顔を太陽に
  • 向うにも虹を見てゐるひとりかな
  • 空であり海でもありし朝寝かな
  • 種蒔いて天地に物申しけり
  • 山が山押して夜の来る年の暮

 たとえば、こうした作品に見られる意志のありよう。風景の描写あるいは構築を通して、つまり風景と自己を往復しながら意志を提示していく。

  • 花火終へ倉庫のうらを帰りけり
  • 寒晴に楯突いてゐる煙かな
  • 朝の薔薇佳き音立てて電車来る
  • 魂棚に五つのいろの野菜かな
  • 腹筋を鍛へ五月の来たりけり

 また、たとえばこうした作品に見られる風景の切り取り方の独自性。大胆さと繊細さを併せ持った手法が、それを可能にしているのだと思います。
 このような多様性は一冊全体にリズムをつくり、それが読者を引き付けていきます。しかしこの一冊は、単にリズムだけで読者を引き付けているわけではありません。俳句という詩型に正面から向き合う和田さんの姿勢が一句一句から感じられる、そんな句集だからこそ読者は引き付けられるのだと思います。
 栞のなかで、櫂未知子さんは「抑制された措辞を用いながらも、どこか華のある耕三郎俳句」という言い方をなさっています。

  • 冬晴の湖やスープの皿真白
  • くらがりを殖やしてゐたる椿かな
  • 空青し冬には冬のもの食べて

 最後にこの三句を引いておきたいと思います。

 

和田耕三郎句集『青空』(ふらんす堂)

和田耕三郎句集『青空』
 
 
■2 (「OPUS」第8号)

 

  • 脈搏つて十一月のあたたかし  和田耕三郎
  • 脱ぎしズボンくねくねとして冬夕焼け
  • 耳からの眠りにつけりクリスマス
  • 月光の浸み込んでゐる冬木の芽
  • 雲行くや山を残して冬深む
  • また山の暗くなりたる寒の雨
  • 凍蝶のまたほたほたとあらはれし

 俳誌「OPUS」第8号の和田耕三郎さんの作品「春隣」15句から引きました。和田さんのこれまでの作品とはすこし違った印象を受けます。濃さのような、あるいは力といったものが感じられる作品、といったらいいでしょうか。たとえば、一句目の脈搏つことと十一月のあたたかさの取り合わせ、二句目の脱いだズボンのくねくねとしたようすと冬夕焼けの取り合わせ、また「くねくね」というオノマトペ。表現上のことをいえば、こうしたあたりにそう感じさせるものがあるようです。しかし、単に表現上のことだけでなく、対象への向かい方やその切り取り方に、ある種の意志のようなものが感じられます。おそらく、それに惹かれるのだと思います。

 
 
 
■1 (「OPUS」創刊号)

 

 和田耕三郎さんより俳誌「OPUS」創刊号(青鳳会、2002年10月20日発行)が届きました。22名の俳句作品(ひとり15句)と参加者外から2名の作品評、参加者2名の作品選(十句選)が掲載されています。
 評論やエッセイなどのない誌面づくり。ひとつの見識だと思います。編集後記には、「参加者の多くは『蘭』六十歳までの仲間であるが、他結社、無所属の参加者もいる。句歴は初心者から数十年とまちまちだ」とある。また、「年二回このようなスタイルで会報を刊行することを目標とした。(略)『オーパス』への参加は結社の枠を越えて自由であり、一人一人のよき鍛練の場、俳句を存分に楽しめる場となることを願っている」とのこと。こうした文章から推測するに、おそらく、活動の中心は句会なのでしょう。その記録を積み重ねるための会報としてこの雑誌「OPUS」がある。シンプルな、しかし確かな意志の雑誌だと思います。
 とくに年2回の刊行に注目したいと思います。俳句にしても短歌にしても、多くの結社誌が月刊のペースで刊行されていくなか、年2回というのはとてもゆっくりとしたペースです。しかし、ゆっくりとしたペースで活動を行っていくことから見えてくるものもあると思います。今後どのような展開をなさっていくのか、現時点ではまったくわかりませんが、なにかとても楽しみです。

  • 蛇は穴出でて正午の鐘鳴れり  和田耕三郎
  • ロッカーの扉が噛む背広五月来ぬ
  • 柿の木に蛇現るる生家かな
  • ひと泳ぎして教会に来てをりぬ
  • 馬が来て覗けば水の澄みにけり

 和田耕三郎さんの作品から5句だけ引きました。

 

俳誌「OPUS」

俳誌「OPUS」
 
*初出:<Made in Y
(1=雑記帳81:2002.10.25 2=雑記帳170:2005.5.2 3=雑記帳232:2007.9.30)
 
 
 

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