石田郷子さんの句集『木の名前』(ふらんす堂、2004年)を拝読しました。
- 高枝に夕日のあたる斑雪かな 石田郷子
- 白鳥の帰るつもりの声そろふ
- むかうから日当つてくる春の芝
- まだそこにきのふがありし落椿
- 火の色の見えてきたれる春田かな
- 菜の花のふくらんでくる涙かな
- 押し合つてゐる海と川初ざくら
- 笑ひたる声の残れる桐の花
- へうたんの花咲く稽古囃子かな
- 一つづつみかんの坐る机かな
- 冬近し叱られてゐる影法師
- 話したきことがたくさん桃の花
- 柚子の実に飛行機雲の新しき
- これよりの冬百日の葱太し
- まなざしを向けてくる馬草の花
- 牛乳のいろに朝来る濃りんだう
- 鉄瓶の湯気あがりゐる紅葉かな
- 呼ばれたる顔のまま来る春田かな
- 裏口のあけつぱなしの薔薇の雨
- 桜の実夕日のなかに入りけり
しなやかな作品群だと思います。それはまずことばのしなやかさですが、それよりも著者・石田郷子さんの精神のありようを思わせます。一句十七音にものごとが圧縮されているのではなく、ちょうど十七音の、あるいはそれに余裕をもったことがらが掬い取られている。そんなたたずまいです。
季語の斡旋の確かさが、これらを支えています。 |