俳句工房[ZA]−俳句と評論
 
 
 
[俳句をめぐるコラム]
石田郷子作品をめぐって
 
 
■3 (「椋」第10号)

 

  • 花桃を見てゐてはうれん草貰ふ  石田郷子

 「椋」第10号(2006年6月)の石田郷子さんの作品「花すもも」10句のなかの1句です。
 桃の花を見ていてほうれん草を貰うことなんかあるのでしょうか。ありそうだといえばありそうな…。不思議な句です。花桃という季語、そして歴史的仮名遣いのやわらかさが、なんだかありそうな気にさせてくれます。

 
 
 
■2 (「椋」第3号)

 

  • 東風吹いて少し顔ぶれ変りけり  石田郷子
  • 白雲の水に映れる葦の角
  • 松の葉に万の雫ぞ赤彦忌

 「椋」第3号の石田郷子作品「日輪」10句より引きました。俳句は小さな詩型だということをあらためて思います。そして、その小ささが魅力なのだと。
 俳句という詩型の、あるいは俳句という営みのよさを知ることができる作品です。私にとっては同世代の先輩ですが、こうした作家の作品を同時代的に読めることをうれしく思います。
 なお、「椋」は椋という名にふさわしい手触りの用紙の、本文36ページの小さな雑誌です。

 
 
 
■1 (句集『木の名前』)

 

 石田郷子さんの句集『木の名前』(ふらんす堂、2004年)を拝読しました。

  • 高枝に夕日のあたる斑雪かな  石田郷子
  • 白鳥の帰るつもりの声そろふ
  • むかうから日当つてくる春の芝
  • まだそこにきのふがありし落椿
  • 火の色の見えてきたれる春田かな
  • 菜の花のふくらんでくる涙かな
  • 押し合つてゐる海と川初ざくら
  • 笑ひたる声の残れる桐の花
  • へうたんの花咲く稽古囃子かな
  • 一つづつみかんの坐る机かな
  • 冬近し叱られてゐる影法師
  • 話したきことがたくさん桃の花
  • 柚子の実に飛行機雲の新しき
  • これよりの冬百日の葱太し
  • まなざしを向けてくる馬草の花
  • 牛乳のいろに朝来る濃りんだう
  • 鉄瓶の湯気あがりゐる紅葉かな
  • 呼ばれたる顔のまま来る春田かな
  • 裏口のあけつぱなしの薔薇の雨
  • 桜の実夕日のなかに入りけり

 しなやかな作品群だと思います。それはまずことばのしなやかさですが、それよりも著者・石田郷子さんの精神のありようを思わせます。一句十七音にものごとが圧縮されているのではなく、ちょうど十七音の、あるいはそれに余裕をもったことがらが掬い取られている。そんなたたずまいです。
 季語の斡旋の確かさが、これらを支えています。

 

石田郷子句集『木の名前』(ふらんす堂)

石田郷子句集『木の名前』(ふらんす堂)
 
*初出:<Made in Y
(1=雑記帳116:2004.19.3 2=雑記帳136:2005.4.20 3=雑記帳176:2006.6.11)
 
 
 

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