俳句工房[ZA]−俳句と評論
 
 
 
[俳句をめぐるコラム]
小澤實作品をめぐって
 
 

■2 (『俳句のはじまる場所』)

 

 今年も残すところ3日となりました。振り返ってみると、小澤實さんの『俳句のはじまる場所』(角川選書、2007年)と出会えたことがとてもうれしい年だったといえるかもしれません。むろん出会ったすぐれた書物はほかにもあります。ただ、『俳句のはじまる場所』は出会えてうれしい、そんな一冊でした。夏に上梓されて、ゆっくりゆっくり読み進めました。実はまだ読み終わっていないのですが、今年のうちにメモしておきたいと思い、この雑記帳を書いています。
 第一章のタイトルが「俳句を志すひとへ」ということからもわかるように、この一冊は入門書です。しかし、読み進めていくと、入門書にしては難しいのではないか、と思えてきます。
 なぜ俳句を作るのか、境界を越えた冒険者たち、俳句異界論、発句と俳句、挨拶の起源、挨拶の重要性、近代の挨拶、挨拶と句会と、俳諧・俳句の思想、俳句における志、なぜ俳句を縦に書くのか、仮名遣いは思想である、なぜ俳句は季語を含むのか、定型が大前提、切字−この不思議なるもの、文語をもって詠む、取合せの試み、取合せ俳句の源流、写生とはなにか。第二章から第二十章までのタイトルを引きました。
 俳句を考えるうえで必要なことがらがていねいに選ばれています(「境界を越えた冒険者たち」「俳句異界論」といった魅力的なキーワードを交えながら・・・)。そして、ことがらがていねいに選ばれているだけでなく、ていねいな議論がなされています。このていねいさが、入門書にしては難しいのではないかと感じる理由です。しかし、これほどていねいに、つまり一所懸命考えているひとがおられることを知るだけでも、いや、知ることができるからこそ、入門書として意味があるのだと思います。つまり、これは初心者のための入門書ではなく、私たち俳句に関わるすべての人たちのための「入門書」なのだと思います。
 小澤さんは「これから俳句を作りはじめようとしているひとにとっては、とくにたいへんな時代であると言える」と述べ、続けてつぎのように記しています。「一番心配なのは、さまざまなところで質の低い俳句を眼にして、すぐれた感受性をもったひとがよく知らないままに、この形式を軽蔑(けいべつ)してしまうのではないか、ということである。俳句とは、この程度のもの、自らが携わるに値しないものであるとして、見限ってしまうということも、考えられる。これは誤りである。おそろしいことだ。そう思ってほしくない」。
 非常に厳しい発言です。よくぞいってくれた、といいたいのではありません。そうではなくて、こうした厳しい物言いは、自分に還ってきます。それを知りながらもこう発言する、その意志のありようを指摘したいのです。こう発言する小澤さんは、確かにこの一冊でその責任を果たしておられます。
 
小澤實著『俳句のはじまる場所』(角川選書) 小澤實著『俳句のはじまる場所』(角川選書)
 
 
■1 (句集『瞬間』)

 

 小澤實さんの句集『瞬間』(角川書店、2005年)を拝読しました。観念やイメージによってつくられたものも含めて、いま・ここという、まさしく瞬間をことばで捉えた作品群という印象をもちました。

  • 林中にわが泉あり初茜  小澤實
  • 春闌けぬ貝の蔵して小さき闇
  • 雉子鳴くやみなおろかしき土産物
  • 山桜腰手拭の日和なり
  • 大枝の鬱金桜を一壷かな
  • ばてれんの天草にあり冷し酒
  • 鰻待つ二合半(こなから)酒となりにけり
  • やんま一翔朝市の空にあり
  • 山国に生きてとどける海鼠かな
  • 榛の花歩みて馬身微光なす
  • 床に貼りつきし鮟鱇剥がすなり
  • 寒鴉老太陽を笑ふなり
  • 軍港や熱湯に生蝦蛄投ず
  • 蛸の脚寸に刻めり寸動く
  • わが足を稚魚つつくなり水の秋
  • 洛中に居るが肴ぞ春の暮
  • にはとりの五尺飛びたり春祭
  • しばらくは酸つぱい顔や今朝の秋
  • 佛間まで磯蟹あがる暑さかな
  • 秋風や山羊垂らしをる大ふぐり

 惹かれた作品を20句ほど引きました。作品を抄出すると、こうした印象は薄れてしまうかもしれませんが、いま見ているものをことばにしようという意志は、これらの作品からだけでも受け取れるのではないでしょうか。

  • 人妻ぞいそぎんちやくに指入れて
  • 酒匂川吹かれてすかんぽもわれも
  • 春風や辛子滲めるカツサンド
  • 表札は名刺に画鋲著莪の花
  • 夏座敷テレビ二台を置けるなり

 この一冊は、こうした作品も収める多様な句集でもあります。
 小澤さんの主宰誌「澤」は、2005年6月号が創刊5周年記念号となっています。450ページほどの厚さに驚かされます。

  • 初比叡一点のわれ立ちにけり

 小澤實作品「一点」63句から一句だけ引きました。

 
小澤實句集『瞬間』(角川書店) 小澤實句集『瞬間』(角川書店)
 

*初出:<Made in Y>(1=雑記帳149:2005.7.3 2=雑記帳243:2007.12.28)

 
 
 

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