- わだつみの底ひまで雨蕗をむく 恩田侑布子
- 裏山も流れゆくなりほととぎす
- 道なりに来なさい月の川なりに
- 春長けてわが履く下駄やうるし闇
- 藤房の夜の池なにもなかりけり
- 脳天の視野が欠けをり蝉しぐれ
- みんみんの止み際男佳かりけり
- 竹皮を脱ぐ遠ざかるかの声も
- 中京(なかぎょう)や幾重の木戸の紅葉闇
- 閉ぢあはす銀器の記憶黒あげは
- 白象(びゃくぞう)の小さきくちびる夏逝けり
- 声ならぬこゑ初蝶の生(あ)れにけり
- あの世この世つりあふ春の時雨かな
- 春寒しみづかきをもつほとけの手
- 身の中に大空のあり鳥帰る
- ただいまと骨壷に云ふ寒さかな
- 葉櫻を飛び降りて子の消えにけり
- 頬髯のちくりと痛し夏燕
- 秋の水会へば木綿のごとき人
- けふといふはるかな一日野紺菊
恩田侑布子さんの句集『振り返る馬』(思潮社、2005年)は、やわらかな作風でありながら、俳句という詩型の可能性を追求する意志によって支えられている作品によって構成された一冊、そんな言い方ができると思います。韻律の組み立て方や季語の働かせ方、そこに独自性を感じます。韻律の組み立て方も季語の働かせ方も、堅苦しくない。とても自然なありようが読者をほっとさせます。この「ほっと」というのが、大切なのだと思います。 |