俳句工房[ZA]−俳句と評論
 
 
 
フェリス女学院大学オープンカレッジ「俳句実作講座」
2005年度春学期作品集(作品)
 
 
フェリス女学院大学オープンカレッジ「俳句実作講座」 2005年度春学期作品集
じゃがいもの花/浦崎真子
梵鐘凡打/江島桂子
夏木立/川久保珪子
梅雨の空/佐久間章
母の口ぐせ/田中千波
渦のあと/中山堯子
蟇眠る/橋田ちせ
かたばみの花/平田一夫
ライフ◎サイクル/水谷佳奈
辿り着きたる/やまべゆりえ
涼風/渡邉千華子
遠い人/吉野裕之
 
じゃがいもの花/浦崎真子
 

連休の始発電車や花みづき

信濃路や春とはじけて家族旅

自転車の少年新緑ピュッと切り

いさかへばじゃが芋の花母に似て

短夜や北壁の谷蒼くして

夏岳や中立国に兵役あり

夏空を丸ごと映しめがね拭く

カーテンの新しき日や濃あぢさゐ

転勤はいやと娘のいふ杜鵑花かな

こはれゆく妻見送るや夏帽子

扇風機忘れし人の遠き声

草刈の残せし花の二つ三つ

 
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梵鐘凡打/江島桂子
 

春曉の耳に梵鐘凡打なり

海坂を風の生る木や更衣

泣くよりかひっ飛んでみろ苔の花

味噌蔵に呼びかはす良き黴の声

麦秋やSからMへ紙おむつ

梅雨明けを待ちて仔犬を購へる

海びらき青き街区の一つとし

ごっと起(き)と焼酎の名を石工村

言ひさして瓜食む男こりごりと

海の日へ人工波の工事かな

八月や石突きといふ武器もどき

中二階やや新涼の及びけり

 
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夏木立/川久保珪子
 

ここに吾ありと名乗らむ桜ばな

いっぱいの風の馳走や鯉のぼり

声あげて子ら追いかける花吹雪

カタコトと耳打つ音や五月来る

散歩する犬の多さよ夕薄暑

涼やかな風に一息バス停に

辻々で道問う人の多き梅雨

いつまでもペンキ塗る手や夏の夕

大凧の風切る音や梅雨合間

幾百の鳥のねぐらや夏木立

蚊食鳥暗き川面を急降下

海の日や住宅街はシンとして

 
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梅雨の空/佐久間章
 

梅雨入りのニュースに思はず空を見る

華やかに海から山へ虹の橋

コンチェルト奏でるチェロに汗光る

紫陽花の緑輝く雨上がり

梅雨の月雲に覆はれほの白く

ラジオ鳴りウトウト短夜が明ける

五月雨小止みて山の烏啼く

七夕や五色の短冊風任せ

箱根路や万緑浴びて家族旅

露天風呂松の葉越しに夏の空

梅雨明けの日差し遮る雲の峰

西国は酷暑と聞けど風涼し

 
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母の口ぐせ/田中千波
 

新茶ふくみ時ゆらゆらと過ぎにけり

いぬころの顔こでまりの花まみれ

黄薔薇活けいまひとときのひとりかな

「ありがとねぇ」母の口ぐせ韮の花

泳ぎつき腹で息する水着の子

とりあへず麦茶人心地つきにけり

幼な児の笑ひころころ初夏の土手

夏下駄や十個ならんだ爪の紅

背泳ぎにすれちがひたり日焼顔

腕白がさながら役者天花粉

籐椅子に背すじ伸ばして薄紬

 友の一周忌に
かの人の気配たしかに蝉時雨

 
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渦のあと/中山堯子
 

立夏かな地球も薄き雲まとひ

泰山木まずてつぺんに花を置き

万緑や眠る子の聴く風と聲

ヤマモモに染まりたる掌の少女めく

新宿のビル雲に入れ六月来

梅雨茸の笠の小さき七八本

夏の朝レタスさくりと水に割れ

ふくふくの首の斑や天花粉

音消へて鼠花火の渦のあと

夕闇や百合の一叢白烈し

風立ちて話始まる蓮の花

朝顔の二階に集ふ謡かな

 
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蟇眠る/橋田ちせ
 

馬酔木咲く段々登り広場かな

春昼や本読む人の手動かず

虎杖が馳走となりぬ山の宿

刈り込まれ花二つ三つさつきかな

桑の実の落ちて道染むばかりなり

美味さより演出が冴え夏料理

蜜柑葉を食い尽くしてや梅雨の蝶

蝸牛舌ありて苔食すなり

間引きする指にぬらりと蛞蝓

木の叉に一葉となりて蟇眠る

踊り場に猫腹見せて夏の昼

直売の無人スタンド大西日

 
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かたばみの花/平田一夫
 

逃げ水やふにやりと伸びし先行車

沈丁の香やバス停の角と其所

黴びし実をひとつ残しし石榴咲く

ひとひらが棺に入りけり朝桜

骨壺に映りて青き花の雲

水汲めばなだりなだりの谷若葉

かたばみの花や引く手の止まりたり

球を打つ音遅れ来てねぶの花

阿も吽も深閑として蝉時雨

夕立雲入日背負ひて崩れけり

夕闇や朱の残りたる雲の峰

雪渓や雲に落ち行く霧と風

 
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ライフ◎サイクル/水谷佳奈
 

披露宴桜のカクテルで始まり

子雀のまだまどろんで道の上

人帰るビルの出口にある暑さ

鎌倉や干梅のある君の家

沙羅双樹一杯ずつコーラで偲ぶ

水羊羹つるりと甘く胃を癒す

まのびした月ただ有りて夜も夏

枝豆やベテランの放つ決勝打

夏虫や増えゆく自動販売機

〆鯖の売り切れている八重洲かな

サンダルの色で暑さに挑みけり

毎日の日焼け右半分にあり

 
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辿り着きたる/やまべゆりえ
 

風光るシャガールの陽の中にゐる

蔓薔薇の厨の朝を覗きけり

峡若葉茫茫として奔りたる

目印の社宅解体走り梅雨

ぎしぎしと抜歯三本梅雨入かな

大いなる重石の如く梅雨の雲

捨てられぬ本積み上げる半夏生

持ち替えて信号待ちの白日傘

炎天や舗道の点となる身体

大西日一気に落とすブラインド

手さぐりのことば集めや草茂る

夏草や辿り着きたる無言館

 
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涼風/渡邉千華子
 

ウグイスの名前を数へ朝をゆく

マクロビをはじめて春が並ぶ食卓

五月闇雨止みを待つねこのよこ

夏をせき行き交うひとのちり散りに

肩越しの川面に青を落とす夏空

ジャスミンのひときは夏をしるすふるまひ

道なりが空につながる夏帰り

サンダルのかたちになった足を解く

木斛も熊野三社の遠見番

杖の足むかふ古木の青葉闇

夜電車まったき涼風になりにけり

六郷に決めて常盤木夏を辞す

 
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遠い人/吉野裕之
 

父の肩春夕焼けの中にあり

立夏かな体操をする遠い人

太りゆく青梅太りゆく時間

こつこつと歩く男や六月に

目が四つ驚いてゐる蟇

蔵はれて祖父の書物や入梅す

空泣きの後の筍ご飯かな

夏の坂母が近くにゐるやうな

夏草や遠く国会議事堂は

尾力の弱くなつたる父の夏

雨が来る前の素足を伸ばしけり

図書館に木の階段や夏のほか

 
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