俳句工房[ZA]−俳句と評論
 
 
 
フェリス女学院大学オープンカレッジ「俳句実作講座」
2006年度秋学期作品集(作品)
 
 
フェリス女学院大学オープンカレッジ「俳句実作講座」 2006年度秋学期作品集
秋の象/浦崎真子
乾きゆく時間/江島桂子
藪柑子/川久保珪子
仕舞湯/北野貞雄
冬ざれ/佐久間章
日溜り/田中千波
流星/田中益美
逆光/中山堯子
冬薔薇/橋田ちせ
冬芽/平田一夫
スープカレー/水谷佳奈
生き物/やまべゆりえ
冬日和/渡邉千華子
木立のこと/吉野裕之
秋の象/浦崎真子
 

秋の山あれこれ言つて下りけり

きちきちも来て陽だまりの絵本かな

ゆつたりと鼻伸ばしをり秋の象

秋耕の白き二つのつむりかな

一本の羽根の吹かるる愁思かな

青瓢店を畳みし麒麟堂

秋の菜のぶつきらぼうに届けらる

秒針の音なく刻む夜寒かな

ワッフルの香りに列の冬帽子

すれ違ふおおきなあくび冬ぬくし

女正月ジャズの流れる美容室

夕暮の鴨みな闇となりにけり

 
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渇きゆく時間/江島桂子
 

晩秋の雷ふかぶかと地を打てリ

古里の問はず語りや秋すだれ

菊日和父の遺せし句帳かな

古本に書き込みの跡冬に入る

「オリオンがみえる」と切れし電話かな

隣家との境きはどし朴落葉

職業ノ欄ハ空白 山眠ル

俯ク二 貝灰色ノ冬運河

明け近し薪の小屋の淑気かな

暖かに手集ひたる火鉢かな

割引のある焼芋の方を買ふ

雫してセエーター乾きゆく時間

 
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藪柑子/川久保珪子
 

新築の五棟並びてねこじゃらし

あれこれと家電買ひ換へ冬用意

出直しの報に淋しき七五三

小六月乗ってくる人皆無料

忠輝と名付けし鴨や日短し

集まりて途切れぬ話藪柑子

冬芽みて猫柳といひ辛夷と云ふ

口ばかり手伝ふ人と年用意

あらたまやつかまり棒の多きバス

表札のなき家多し小正月

寒に入る富士の山容凛として

寒林に猫の顔あり袋中

 
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仕舞湯/北野貞雄
 

秋燕七羽となりて帰りけり

仕舞湯に僧と二人や秋深し

野分あとまた倒れたり同じ鉢

葬儀屋の手袋白き秋の暮

花野きてふと亡き人を思いけり

せせらぎのにわかに高し秋の暮

幼児の素足出ている小春かな

灯ともりて時雨るる町となりにけり

木枯しやどこかで猫の鳴いている

極月の街路樹きつく剪られけり

悠々と人波を行く大熊手

抜け道をいつもの時刻冬帽子

 
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冬ざれ/佐久間章
 

友もまたやそぢとなりぬ秋彼岸

媼居て鳩に豆まく秋のくれ

秋日和追越すひとの長き脚

秋寒や日ごとに甘き柿の味

秋高し会釈せし人知らぬひと

カレンダーに残る一枚十二月

枝越しにビルの灯ほのか冬ざるる

たてよこに模様散り敷く木の葉かな

冬晴れを吸ひ込みし朝口かわく

電車待ち光るレールの寒さかな

電線に小鳥とまりて冬うらら

短日の遊歩する吾が長き影

 
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日溜り/田中千波
 

ほの明かり枕の底の虫しぐれ

手つなぎの輪のそとひとり秋茜

剃りあとの青々として秋の水

蕭々とただ蕭々と落葉かな

八枚のぴしりときまる畳替へ

息白く歩調それぞれ犬と人

しまひ湯にひっそりかんと柚子ひとつ

けんけんのいとも軽々寒鴉

短日や日溜りごとの立ちばなし

駆けぬける顎にずらしたマスクの子

初春や源氏の君のほそき眉

生きること御苦労なこと根深汁

 
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流星/田中益美
 

新蕎麦の張り紙出るを待ちにけり

墓参りすすきの坂の上にあり

 浜離宮舟寄せ
いにしえの殿を迎えし秋の水

銀河澄む帰郷の一夜更けにけり

どんぐりや同窓会の葉書来て

甘酒と眼下に続く紅葉かな

流星や思いのままに生きてみよ

壮大な鰯雲見ゆ橋の上

鎌倉の焚き火の匂いなつかしき

冬日差す大きな窓に揃いけり

一月の多摩川土手の遠い人

影冴えてあともう少し話したい

 
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逆光/中山堯子
 

木の葉散る中に焼き立てパン屋かな

駅ごとに人減るばかり虫の声

裏木戸を梯子出てくる小春かな

冬帽をひよいと持ち上げ行く背中

寒木に凭りかかるひと逆光の

片頬に冬の夕日のぬくみかな

モノクロの家族写真や霜のこゑ

少年のくちひげ冬の苺かな

箒目の波のかたちを冬の靴

冬晴に白はたはたと笑ひけり

年暮るるビルの間を横向きに

首細き山羊孕みけり冬菫

 
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冬薔薇/橋田ちせ
 

にぎやかに二万歩達成秋日和

昏々と眠りの止まぬ花野かな

長月の仏の顔に紅点さむ

ここが良し決めたる墓地や山粧ふ

目鼻ありかぼちゃも並ぶ花屋かな

種すする甘露や甘露庭の柿

夫婦して厠に立つや夜寒し

檻劈く孔雀の声や山眠る

沢水の流れ隠すや枯落葉

風邪引かぬとは思わねどゆず湯かな

面会を拒みて逝きぬ冬薔薇

健忘を互に認め初笑ひ

 
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冬芽/平田一夫
 

滝壺を湧き来て朱きもみぢかな

森ゆれて残る紅葉の飛びにけり

入日影刈田の畔の道祖神

夕闇に稲架のいなほの匂ひけり

鳥威遠音の谺山に消ゆ

戸の外に野分の音を残しけり

凍雲や今宵双子座流星群

目覚むれどまだ戸を叩く野分かな

鉈彫りの弘明寺観音石蕗の花

目角笑む円空仏や冬の山

裸木の冬芽の空の青さ哉

寒椿錆自転車が置かれけり

 
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スープカレー/水谷佳奈
 

秋澄める君さがす横断歩道

秋冷のガラスに耳のかげ愛し

冬隣日本のスープカレーかな

右側をすずめ弾みて冬木かな

白き毛皮犬は王者のごとき夜

押しボタン式押し忘れ冬ざるる

河豚鍋にくちびるの柔らかきまま

冬将軍写真の中のパリの靄

オリオンに会えぬ 忘れしものふたつ

コンタクト左落として右脳左脳

初雪を浴びて引っ越し荷物かな

仏像に口ひげのある春隣

 
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生き物/やまべゆりえ
 

住み替への十一年や月仰ぐ

すこしづつ眠気引き出す昼の虫

虫時雨どこかに指揮者ゐるやうな

人の声釣瓶落しの中にあり

介護へと話とびけり薄紅葉

髪切りに老女くり出す小春かな

金色の芒の道を通りけり

匂ひきてあたり見廻す焚火かな

人込みに寒さ揉み合ふ祭りの夜

初糶の手締の気迫揃ひたる

締めきって鳥の声聴く障子かな

待春の生き物として橋の上

 
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冬日和/渡邉千華子
 

百代の秋水として最上川

手庇に十月の空こぼれけり

冬立つや月の広場の音なへる

白鳥をなかに水輪の極まりけり

作業着の一団に会ふ冬日和

舞へるものおほき師走となりにけり

かた結びのやうに待ちたり冬座敷

冬ざれや真一文字のおのづから

診察を待つ人の列年終る

大いなる朝元旦の鼻さはる

蝋梅の香り動かして少年

大寒や三たび隣の入れかはる

 
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木立のこと/吉野裕之
 

古書店に小さな客や秋彼岸

べたべたと日差しありけり秋の家

レポートの溜まる九月の必死かな

いつぱいの悲しき顔や吾亦紅

熟れ柿の砕けてゐたり枝の先

立冬の影を掴んで立ち上がる

冬の駅から始まりし会話かな

荷揚げ場に水積まれゆく十二月

一升の薬酒づくりも年用意

冬日和動物園にゐるやうな

ここからが今年のことでありにけり

口々に木立のことを冬の客

 
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