俳句工房[ZA]−俳句と評論
 
 
 
フェリス女学院大学オープンカレッジ「俳句実作講座」
2006年度春学期作品集(作品)
 
 
フェリス女学院大学オープンカレッジ「俳句実作講座」 2006年度春学期作品集
真夏の顔/浦崎真子
嬰の夏帽/江島桂子
夏の駅/川久保珪子
老犬/北野貞雄
夏来たる/佐久間章
枇杷を剥く/田中千波
山遥か/田中益美
眠草/中山堯子
夏来ぬ/橋田ちせ
夏薊/平田一夫
会う/水谷佳奈
行き過ぐ人/やまべゆりえ
展く/渡邉千華子
はたた神/吉野裕之
真夏の顔/浦崎真子
 

まどろむや右半分の暖かさ

耕人の影ふかふかと土にあり

夏めくや吊革つかむ力瘤

母の日の花屋の前に男の子

みつばちのとまりて落つる花のあり

初めてののの字逆さま風薫る

クレーンの先かがやきて夏来る

五月闇青信号のとほくまで

夕立に黄の靴底の駆けぬけり

新妻の指つややかにすもも摘む

日の射して真夏の顔となりにけり

でで虫の背に一片の草のあり

 
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嬰の夏帽/江島桂子
 

風光り海の中道行きのバス

花に会ひ母に会はずに過ぎにけり

嬰の夏帽落下傘のごとくして

貫きとほる槍の柄道や麦の秋

日は順に シーソー ブランコ 泰山木

父の日の岸砂船の繋がれて

トンネルを抜け早稲饗に列したく

密にゐて一人なる水神夏遠嶺

端居の座単彩絵本複刻版

二次発酵半夏生のパンの種

海へ発つ荷の詰め物として水着

西ヘ行ク八月特ニ何モ持タズ

 
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夏の駅/川久保珪子
 

四人ゐて三人までが春嫌ひ

青葉風立ち話する女五人

にぎやかな声の溢れる夏館

十薬の八重に咲きたる白さかな

青梅雨や人は無口にすれ違ふ

待ち合せする楽しさや夏の駅

明鴉アアーカアーカアーと六月尽

風鈴の音に誘はれ熟睡(うまい)かな

午後ふかし緑陰に立つ休刊日

昼も夜も静まる家にただ冷房

夕かなかな便りなき母居ます奈良

子ら集め夏季教室や鞠を蹴る

 
註:「明鴉アアーカアーカアーと六月尽」の「アアーカアーカアー」は文字の大きさに変化があるが、ここでは表示の制約から同じ大きさで表示している。
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老犬/北野貞雄
 

花の雨片手拝みの道祖神

花散っていつもの朝の戻りけり

春眠やどこかで雨戸あける音

梅雨長し栞のページまた開く

博識の植木屋の来る梅雨晴間

夏つばき母の齢を超えにけり

空蝉の触れればしかと踏ん張りぬ

老犬の上目を遣う炎暑かな

炎天に落として行きぬ嬰の靴

旅かばん緑陰に地図ひろげたり

思いきり短髪にしてかき氷

炎昼や死して大魚の流れおり

 
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夏来たる/佐久間章
 

涼風や木陰にいこふ狗と人

遠ざかる救急車の音初夏の街

かたまりて白き花咲く薄暑かな

夏空や仔犬じゃれあふ昼さがり

夏あらし顔をたたくも振り向かず

梅雨晴れや物干し竿は白一色

雲厚しミサイルの飛ぶ夏の空

緑陰にいこふ我あり我思惟

作り滝ましろくひかる炎天下

旅先の妻の声聞きビール飲む

梅雨明けの木立ミンミン蝉が鳴く

風止まりバイクを飛ばす音暑し

 
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枇杷を剥く/田中千波
 

風光る乳の匂ひの児のあくび

ふっくらと老ひませりたり蕗のたう

山門を入りて牡丹の群深々

立夏なりもんじゃのおかみ声太し

吹き出でる汗おさへいざ蓮華組む

ピッチャーの足高々と夏来る

しがみつく児の手の力プール脇

いっときは静かになりて枇杷を剥く

父の日や忘れたふりは夕餉まで

きっぱりと仕立て上がりの藍ゆかた

乾杯は切り子の青の冷酒なり

濡れたまま皮はじけたり茄子を焼く

 
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山遥か/田中益美
 

更衣中学生の通るなり

雨受けてどくだみの白深々と

パリパリッとはじける西瓜香り立ち

深閑とストラディバリ聴く梅雨の堂

夏至来たり夕日まぶしく高々と

静寂の母が焚きたる迎え火や

高く澄み南部風鈴夏の市

影も濃く坂の町行く七月や

青田道走る車や盛夏なり

水撒けば露草の青そっと映え

母に言う盆は帰らず山遙か

花火かな音は近くにありにけり

 
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眠り草/中山堯子
 

たんぽぽに陽のたつぷりやバターぬる

銀輪のシャツ翻し夏来る

手のひらのかすかなかゆみ眠草

虹二重フルーツゼリーが揺れ始め

広告の多き夕刊梅雨長し

足跡のあつちやこつち水鉄砲

忙しき毛虫戦車のごと過ぎぬ

「ご自由に」でこぼことまと二十ほど

千年を経し百済観音涼し

ゆつくりと團扇を使ふ大人かな

羅の僧の白足袋駅中へ

柱時計二時を打ちたり蟻の列

 
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夏来ぬ/橋田ちせ
 

黒門をくぐりて八重の桜かな

ごみ置き場タンポポ咲いて立ち話

降る雨を受ける大葉や岩タバコ

集合は駅の北口半夏生

建て付けの軌みはじめて梅雨長し

門柱に蝉の生まれて明けにけり

翡翠を見たとかけ来る子供かな

街路樹の影なくしおり油照り

炎天の角のポストの遠きこと

ふるさとのバス停いつも立葵

やぐら立つ学校の庭大西日

墓へ行く慣いとなりし終戦日

 
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夏薊/平田一夫
 

水口に合羽の屈む卯月哉

あぢさゐや花の向かふの昼の海

残りたるゆきがた白く山滴る

夏富士や洗濯物の竿の先

内陣の読経の僧や半夏生

五月雨や茅の大屋根しぶきけり

茅葺きの鐘つき堂や朴の花

鐘つけば余韻も過ぐる夏野かな

荒南風や蔵王の釜の青緑

火口壁ぐずと崩して雲の峰

夏雲や欠けし地蔵とかざぐるま

夏薊山黒々とありにけり

 
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会う/水谷佳奈
 

風船の糸所在なげ博物館

しろえびと君甘く会う冷し酒

夕立に水沿う髪のうねりかな

白シャツの襟立ててゆく会議室

梅雨みやげただ仏蘭西語のパッケージ

手紙待つパイナップルの芯にいて

草いきれ余韻は夜に優しきや

「海」と書きこむ手帳から夏になる

先駆ける in holiday の知らせかな

空豆を右手しょっぱくなりゆきて

白ビール沖縄のイメージで飲む

梅酒割り時ひきのばす日曜日

 
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行き過ぐ人/やまべゆりえ
 

裏山に大波のたつ竹の秋

仲人は数学教師山桜

新しき奥歯かみしむ浅蜊飯

ひと芽ごと鼻にあてては新茶摘む

先生の地下足袋きまる植樹祭

もり上がり島かけ下りる瀑布かな

白きかげふるへてゐたり梅雨の蝶

ひとへきて席ゆづらるるメトロかな

緑蔭を行き過ぐ人にみられゐる

めつむりて草笛をまつ男かな

住職は父の教え子茄子の花

あふむけに髪洗はれし湯殿なり

 
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展く/渡邉千華子
 

桜から大人しくなる二人かな

剥落の寺の五月に至りけり

蛇口全開旧道の夏に入る

二の腕に夏草さはる抜小路

甘藍にすみやかに瑕疵生れにけり

梅霖の嵩張つてゆく  身体

夏帽に追ひつく風のありにけり

七月の水音重き舳かな

百合に雄蕊(いうずい)ふれてくるごと匂ひけり

諸々のこととりあへず夏の月

一切の空青みゆく蝉の声

古に波音展く八月や

 
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はたた神/吉野裕之
 

気仙沼とはたくさんの春の船

囀りや父の近くに住むごとく

花種を買つて駅まで歩きけり

まだ二分と花の話や男どち

春の壷もしくは人のかたちかな

いつのまに涙八十八夜かな

夏の寺風来るまでを立ち話

芒種なり父の眼鏡が玄関に

問診や遠ざかりゆくはたた神

町ぢゆうに夏が来てゐる夕餉かな

ハンカチーフ足流れゆく駅頭は

熱き茶のあとのことばや大西日

 
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