俳句工房[ZA]−俳句と評論
 
 
 
フェリス女学院大学オープンカレッジ「俳句実作講座」
2007年度秋学期作品集(作品)
 
 
フェリス女学院大学オープンカレッジ「俳句実作講座」 2007年度秋学期作品集
秋澄む/浦崎真子
引戸の音/江島桂子
初写真/川久保珪子
始発バス/北野貞雄
初雪/酒井一彦
吠える犬/佐久間章
咳ひとつ/田中千波
花八手/田中益美
顔あらふ猫/中山堯子
木枯し/橋田ちせ
心すなおに/本間満美
丁寧な日々/水谷佳奈
大切なもの/やまべゆりえ
オープンカフェ/吉村元明
生活の音/渡邉千華子
かぶらを食うて/吉野裕之
秋澄む/浦崎真子
 

流星の円卓に抜くワインかな

突堤に膝を抱く人秋澄めり

火のごときことばと思ふ石榴かな

雁渡し夕日落して途中駅

列島に大魚一枚うろこ雲

ファスナーの布に噛みたる夜寒かな

山茶花の千も咲くべしほつほつと

長き畝ぴしりと決まる冬菜畑

着脹れのまだ続きをる立ち話

冬夕焼駅より一人二人減り

傾きて届く切手や冬ざるる

探梅や空の青さを諾へり

 
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引戸の音/江島桂子
 

見回して日向へ枝を移りゆく

木戸先に誰が届けし衣かつぎ

短日や引戸の音は下の階

ぷちぷちと錠剤吐かす夜の秋

裸木となりて二の木の名は不明

竿竹屋ゆく曇天の十二月

磯のもの野のものを炊き初厨

雪に昏れ無人の駅は棒立ちに

食事後のドルチェを選ぶ小正月

雪晴れを来て日常を晒しけり

ふところに祖母の化粧田山ねむる

抱き枕すこし汚れて二月かな

 
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初写真/川久保珪子
 

くるまざの若者つつむ虫しぐれ

園児らにうわうさわうの運動会

左折車をひと睨みして秋の暮

霜降のあさの道路のこみぐあひ

色鳥のけはひさはさは大樹かな

空中をわたる人あり師走くる

冬晴やきらりと光る魚の腹

枝落ちてこうえんふいに冬ざるる

張替し障子のまへにかしこまる

口角をあげていちにち冬籠

初写真ぱつととびだす大画面

紀元節旗はためかせバスの来る

 
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始発バス/北野貞雄
 

夕暮れて俄かにふえし秋茜

冬物を広げし妻の夜長し

銀杏を潰さぬ槌の打ち加減

熟れ柿や蔕点々と枝の先

屯して客待つ昼の酉の市

霜枯れて大根なおも直立す

徳利おき決めかねているおでん種

着膨れてまた一人来る始発バス

葱畑をよぎりて力もらいけり

大根の取り残されて霜枯るる

初詣大吉そっと仕舞いけり

日脚伸ぶ古き茶房の隅の席

 
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初雪/酒井一彦
 

小春日や波はいづくぞ象の鼻

嚏爺満員電車を跳ね上げる

柘榴裂け父を語りし雨の宴

大根引き青空ゆれる親子かな

木枯らしや揺らす葉もなし柿畑

細胞に凍みこむ大気冬大根

 吉沢深雪「星の旅に行く」を読んで
賢治や零士に憑いて星の旅

ひとつ済みひとつ気になる大掃除

近くの子窓拭き遊び晦日蕎麦

あちこちの疲れと語る寅彦忌

猫来たりあるじ顔して冬ゆるむ

初雪や頭ぎっしりとまる駅

 
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吠える犬/佐久間章
 

梨剥くや刃先に滴るつゆ甘し

壁越しにギター弾く音昼寝ざめ

秋の空傘を手にして万歩計

秋雨や静かに濡れて傘が行く

喪ハガキに偲ぶ面影冬ざるる

さまざまに落葉敷く道日の光

小春日や小虫ついばむ雀二羽

風はなし雲晴れて遠き山の雪

落葉踏むや塀の中より吠える犬

冬晴れや仙人掌咲いてピンク映え

拝むごとく手を摺り合わす寒さかな

ミレニアム過ぎて八年老いの春

 
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咳ひとつ/田中千波
 

でんと置く茶碗おおぶりとろろ汁

木犀の風追ひかけて追ひこして

声なくてただ緩き笑み花芙蓉

天高し挑むをとこの大太鼓

この下に径あり銀杏落葉かな

畳まで伸びて夕映え石蕗の花

車いす傾ぐ帽子の冬日和

チャイム押すまへの身仕舞咳ひとつ

雪空のほかなにもなき京の路地

すれ違ひざまの吐息や今朝の冬

遠く近く雪掃く音かさりさりと

やや酔ひて窓にうつる身大寒波

 
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花八手/田中益美
 

石焼芋むかしはみんな子供かな

母はもうゐないふるさと山葡萄

洋梨のパンケーキ焼く冬に入る

一枚の葉書を出しに花八手

父のもと離れて長し石蕗の花

駅までは迎へに行かう冬銀河

ベランダは星みるところ湯冷めして

灯油売りの曲が流れて冬ざるる

留守番の子にあれこれと年詰まる

手に受けて白き年玉袋かな

少しづつ夜明け早まるヒヤシンス

パスポート受取りに行く春隣

 
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顔あらふ猫/中山堯子
 

朴落葉山を鳴らして歩きけり

花野行く天然酵母パン買ひに

かくれんぼ鬼振り返る暮の秋

飴玉の頬ふくらませ一葉忌

ニュース読む紙繰る音の寒さかな

着膨れの背中ならべてコップ酒

しづけさの果ての音あり寒三日月

枯菊や軒に日残る谷戸の家

赤ん坊のこぶしが叩く初湯かな

羊羹の砂糖凝りけり冬永し

明けきつて木に白露の七日かな

念入りに顔あらふ猫春隣

 
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木枯し/橋田ちせ
 

雲海や地のざわめきを遮断せり

秋暑し葬儀はせぬの訃報なり

どの菓子もくるみ入りなり里興し

明るさは雑木の森の黄葉かな

熊はいます案内人は鈴振りて

時雨来る飛来待ち居る伊豆沼に

木枯しや列島暖気一掃す

割烹着形見分けとぞ冬桜

荒巻の下顎上げて届きけり

息するや鼻奥刺さる寒気かな

迷ひなく鍋に決めたる寒さかな

冬空やらしあんぶるーの猫の顔

 
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心すなおに/本間満美
 

流れ星心すなおになれそうな

父母の忌を終えたる夜半に星の飛ぶ

愛犬に枕とられし今朝の春

ゆったりと仕舞い湯に入る柚子ひとつ

生きるもの皆走るかに十二月

電飾の立ち木聖樹になりにけり

湯どうふの角をくずして夫と食ぶ

開け放ち部屋いっぱいの十三夜

野仏の肩まで埋めて落ち葉かな

栗ご飯レシピ尋ねる母は亡く

息白しマラソンに湧く箱根山

背伸びして結ぶみくじや初御空

 
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丁寧な日々/水谷佳奈
 

無花果のその青くささ懐古かな

種茄子のむっしりと種見せており

踊る男のかたちする冬の錆

マスク跡頬に残して横顔や

いっぺんで着ぶくれ溜まるエレベータ

その心ありてキィ押す師走かな

クリスマスレシピ本屋にいる放課後

丁寧な声する初電車に乗れり

どうしても子年(ねどし)賀状を愛兎(まなうさぎ)

空の顔色悪いから氷雨かな

息白し梅ぷくぷくと丸きもの

寒鴉翁(おきな)敢然たる大股

 
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大切なもの/やまべゆりえ
 

秋の蚊の待ち伏せて居る墓参かな

そこだけにしづかな魔法霧襖

朝刊の冷たき量を取り込みぬ

空の青均して居たる寒さかな

いったんは父とはぐれしゑびす講

大熊手綱あやつりて下ろされり

乾鮭をあぶれば生るる海の風

大切なものぽとぽとと師走かな

枯蔓を引けばこぼるる種いろいろ

枯れてなほ臭ひ放てり灸花

大くさめ立読の腰立て直し

日脚伸ぶメトロノームに指紋二個

 
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オープンカフェ/吉村元明
 

武者返しある石垣や野分晴れ

海はるか見据ゑる龍馬鷹渡る

新酒酌む親しきかうべ寄せ合ひて

秋ざくら白寿に近き母の笑み

四方紅葉くの字への字の峠かな

銀杏散るオープンカフェの客疎ら

葱きざむけさも真白な割烹着

冬ざれやクレーン連なる大埠頭

渋滞の都心はけさも冬の靄

おんぶより抱つこが時流冬日中

客去りて三日の猫の大欠伸

座してをる屏風越しなる雪をんな

 
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生活の音/渡邉千華子
 

月天心足下に街を従へり

いきいきと裏方出づる焼銀杏

鬼皮を剥ぐところより栗の飯

冬立つや階下より生活の音

大根のあつさながさの揃ひけり

潦から冬空の広がれる

もう土とわからなくなる落葉かな

 第八代将軍吉宗
法律に残る病や冬の影

一軒の灯りもなさず師走かな

口々に雪のすがたを話しけり

四日目にアンダーライン去年今年

父も木もむかしなりけり柿膾

 
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かぶらを食うて/吉野裕之
 

町長の首かくかくと終戦日

先生の近くにあれば秋の水

市役所に人の集まる野分かな

桃の葉の色づく日々を妻の秋

手の届くところにあつて吾亦紅

にんげんに家草々に秋の風

人びとが渚に集ふ秋日かな

草の名を妻に習つて小六月

若やかに空あることの冬はじめ

浜島にかぶらを食うてゐる冬至

桜の木から伸びてゐる去年の影

大寒の牛の頭のごとき岩

 
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