俳句工房[ZA]−俳句と評論
 
 
 
現代俳句名句選
季節別作品選/秋
 
 
 
隆々と馬の尻立つ今朝の秋
鈴木太郎 [句集『秋顆』(2007年)]
朝顔の紺のかなたの月日かな
石田波郷 [句集『風切』(1943年)]
座布団は僧の一枚地蔵盆
茨木和生 [句集『椣原』(2007年)]
引潮のごとく街見ゆ法師蝉
今村俊三 [句集『至順』(1975年)]
一本の村を出て行く月の道
神蔵器 [句集『月の道』(2006年)]
うたゝねのさめていよいよ菊日和
水原秋櫻子 [句集『霜林』(1950年)]
秋風に頭突きひとつをしたくなる
和田耕三郎 [句集『青空』(2007年)]
一年が来て柿の皮捨てにけり
茨木和生 [句集『畳薦』(2006年)]
中京(なかぎょう)や幾重の木戸の紅葉闇
恩田侑布子 [句集『振り返る馬』(2005年)]
川ぞこの石くれてゐる紅葉かな
大野林火 [句集『海門』(1939年)]
 
 
波郷の「朝顔の紺のかなたの月日かな」を知ったのは、俳句をはじめてまだ間もないころ。大きな衝撃でした。具象と抽象のバランスの確かさ。そのときはこんな理屈っぽいことを思いませんでしたが、思わなかったからこそ、衝撃は私のなかでとても大きなものとして、どうしたらよいのかわからず、しかしとても心地よいものでした。
「今村俊三の身近で過ごした二十代の数年は私の大切な宝物だが、ある年の晩夏、お宅の門のところで、もう秋が来ていますね、と何気なく呟いた彼をときおり思い出す」。今秋のはじめ、俊三の「引潮のごとく街見ゆ法師蝉」を詞書とした「夕庭に父の背なあり引潮というには遠い時間とおもう」を含む7首に添えた短文にこの一段落を記しました(「東京新聞」2007.8.25夕刊)。
俊三とその師・波郷に出会って20年が経ったことをあらためて思います。
(2007.12.16掲載)
 
 
 
とほくまでゆく秋の靴そろへけり
対中いずみ [句集『冬菫』(2006年)]
新涼や紺を深めし江戸切子
椎名書子 [アンソロジー『槐選集 觀』(1999年)]
歯が抜けて口のあたりに鰯雲
大屋達治 [アンソロジー『現代俳句の精鋭T』(1986年)]
鶏頭の影をはげしく打ち重ね
岸本尚毅 [アンソロジー『現代俳句の精鋭U』(1986年)]
火を絶ちし汽罐車の下ちちろ鳴く
鷹羽狩行 [句集『定本 誕生』(1976年)]
茸山のざわざわとせるあたりかな
岸田稚魚 [句集『萩供養』(1982年)]
人ら地のおもてに老いぬ鰯雲
今村俊三 [句集『翼』(1978年)]
秋の暮薪割りおえし呼吸(いき)きこゆ
古沢太穂 [句集『三十代』(1950年)]
能面に痩男あり蘆を刈る
後藤夜半 [句集『青き獅子』(1962年)]
黒々と暮れて色ある紅葉山
深見けん二 [句集『星晨』(1983年)]
 
 
いま、窓の外はミンミン蝉がうるさく鳴いています。立秋間近の暑い暑い土曜日の午後です。今年は梅雨が長く、横浜では8月になる直前に明けました。梅雨明けから立秋まで1週間とちょっと。なんだか損をしたような、でもそれもまあ面白いか、といった不思議な気持ちです。
ちょっと懐かしいアンソロジーを何冊か引っ張り出してきて、ぱらぱらとめくりました。『現代俳句の精鋭』が出た1986年は、私が俳句をつくりはじめたばかりの頃。当時購入はしなかったのですが、数ヶ月ほど前、蔵書を整理しておられた外川飼虎さんが送ってくださったのです。『槐選集 觀』は、「槐」100号記念でまとめられたもの。表紙の岡井省二の「觀」の字が、岡井省二らしくなかなかいいのです。
選んだ10句を読み直してみて、今年はこんな秋を期待しているのかもしれないな、と思ったりもしています。
(2006.8.5掲載)
 
 
 
吹きおこる秋風鶴をあゆましむ
石田波郷 [句集『鶴の眼』(1939年)]
月の座をぬけ出て月と歩みけり
山田みづえ [句集『中今』(2005年)]
一生の手紙の嵩や秋つばめ
田中裕明 [句集『夜の客人』(2005年)]
道端のおしろいのみな閉ぢゐたり
対中いずみ [「椋」第6号(2005年10月)]
草木より人飜る雁渡し
岸田稚魚 [句集『雁渡し』(1951年)]
妻ゐぬと思ふ小鳥の来たりけり
石田勝彦 [句集『秋興以後』(2005年)]
父の帯どろりと黒し雁のころ
大石悦子 [句集『耶々』(2004年)]
村を出るための橋ありきりぎりす
大串章 [句集『大地』(2005年)]
こつくりと僧のあたまや吊し柿
今村俊三 [句集『摘花集』(1988年)]
親しさの音にもありて冬用意
児玉輝代 [句集『天穹』(2005年)]
 
 
石田波郷句集『鶴の眼』はときどき読み返す一冊です。秋の句を、ということになれば、やはり「吹きおこる秋風鶴をあゆましむ」を選ぶことになります。この句に出会って20年近くになりますが、私のなかでは、加藤克巳の短歌作品、「鶴はしづかに一本の脚でたちつづけるわらひのさざなみにかこまれながら」(歌集『宇宙塵』、書肆ユリイカ、1956年)、「鶴の足 かなしみのあし むらさきのつゆくさ蹴って発つときのあし」(歌集『球体』、短歌新聞社、1969年)と美しく響き合っています。
秋は、春とは別の、しかし確かにはじまりの季節です。
(2005.10.9掲載)
 

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秋の風景−吾亦紅

 

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