エッセイ

 エッセイ 
住宅と家族

住宅とは、社会の中で最小単位のコミュニティー施設であり、どのような状況下においても家族が集い、癒される唯一の安らぎの空間であってほしいものです。
私が住宅設計を手がけるとき、家族一人一人がどういう風に関わって生活を営むのか?住み手の生活スタイルを踏まえ、プライバシーを保ちつつ家族の気配がいつも感じられる住空間、そこに暮らす人の成長と共に成長していく住宅造りを心がけています。又、その場の生活環境、自然環境を熟知し、これらとの共生する健康的な住宅建築を目指しています。

 山椛(ヤマモミジ)
私たち建築設計士も仕事柄、建築物廻りの外構の設計を手がけますがその中で植栽についてはいつも悩むところです。やはり”餅は餅屋”という言葉があるように植木屋さん、造園屋さん、ランドスケープなどを設計されている方々には色々と教えてもらうことが多々有ります。
昨年も現場で植木屋さんに計画していたケヤキの木の剪定の基本みたいなことを教えてももらい、なるほど!と納得した次第です。
剪定次第で葉が異様に大きく育ったり、木全体の形がいびつになったりするそうです。ちなみに1本立ちのケヤキは幹全体が杯型になるのが一番美しいといわれているそうです。これについても納得です。
神戸市には六甲山系という休火山が海に迫って連なっていますがこの山中を抜ける道路の一角におそらくイロハカエデではなくヤマモミジだと思割れますが・・・群生地帯があり勤めていた頃はこの道を毎朝車で通勤していました。モミジというと一般的には秋を想像する方のほうが多いと思われますが、この季節になるとどの木も一斉に新葉が吹きだします。とりわけこのモミジの若葉は太陽の光に照らされ地面に輝く薄緑の木陰を与えてくれます。私は秋のモミジよりもこの初夏のモミジのほうが好きでして、今年も楽しみにしています。

 路 地(ろじ)
先日仕事で、車で移動中の信号待ちでふと車窓の右側を見ると車が通れるか通れないかの中途半端な道幅の脇道が目にとまりました。毎日通勤で利用している経路であるのに初めてその脇道に気付き少し感動をおぼえました。と言うのも神戸市では阪神大震災以降道路が次々と整備されこういう中途半端で真直ぐに整備されていない道はあまり見かけなくなってきています。狭い路地でもないこの車の殆んど通らない道は子供たちがボールを蹴ったり、自転車で走りまわったりするのに絶好の遊び場的スペースとなりうる丁度よい道幅に思え、生活の匂いが感じられ愛着がわきました。新しく開発される新興住宅地の道路などは同じ道幅で真直ぐに淡々と通されどこの道路も同じ景色で生活感がなくどこかしら冷たい、もの寂しい感じします。街づくりにはこういう生活の匂いのする道も必要不可欠ではないでしょうか?
皆様はどう思われますか?

 無用の用
無用の用という言葉があります。現代社会は(特に日本は)物質主義で無用の用と言ってもピンとこないでしょう。
無用の用とは「役にはたたないが用いようによっては役にたつもの」と言う風な意味ですが住宅においても同じようなことが有ります。代表的なものに吹抜け空間が有ります。この何の利用も出来ない空間、費用はかかるし冷暖房の光熱費は高くつく、でもこの吹抜け空間があることでそこに開放的なこの空間が住む住み手の心理を癒し、ゆとりあるものにし、心優雅にしてくれる要因となる場合もあります。これぞまさしく無用の用と呼んでも過言ではないと思います。吹抜けに限らず建築の設計ではこういう空間の大きさの微妙な変化により人の生活心理を左右する場合もあります。この微妙な空間の設計・・・まさしく設計を専門業としている設計事務所の「餅は餅屋」のなせる仕事でもあります。

 何々・・・風?
スペイン村、オランダ村、イギリス風・・・等々、日本各地の行楽地にはそういう西洋風の施設が近年多々見うけられ、施設の中には洋風の建築郡が建てられています。とかく日本人は西洋への憧れが今だに強いようで、西洋にたいして劣等感でもあるように勘違いするほどです。諸外国では決して見る事の出来ないこういう現象はどうしてなのでしょう?常々考えておりますが建築においてはやはり日本の伝統的な建築は暗いイメージがあり洋風の華やかな明るいイメージの建築にあこがれをもつのも無理も無いかもしれません。しかし大工さんが長年培った経験と技術によって建てられた日本の伝統的な木造建築は私たち建築の専門家から見れば西洋の張りぼての木造建築とは比べ物にならない程の魅力がありその技術にはほとほと頭が下がる想いです。隣の芝は蒼く見えるのはいた仕方ないとしても身近にある日本風をもう一度見直してもいいのではないでしょうか!日本建築の技法でも洋風に負けないすばらしい建築空間を構成できますし・・・

 風 化 
先日建築士会の研修で阪神大震災の原因となった活断層を保存している兵庫県の淡路島にある野島断層記念館を訪れました。行かれたことのある方はご存知でしょうがこの記念館は阪神淡路大震災で動いた活断層のずれた様が地表面に直接現れた場所でその部分を保存するために覆いかぶせるように建物を建てて記念館としたものです。震災直後は断層の地層が荒々しく鋭角に立ち、生々しい活断層のずれた様子が見られたのですが、震災から7年も経つと屋根に覆われているにも関わらず、地層の各部分は丸みをおび断層の活動した気配が薄れ、単なる傾斜面に見えるように風化しておりそれはまるで私たちの意識風化と同時に進行しているかのようでした。昨年のアメリカの同時多発テロもそうですが1年、2年と時間の流れとともに薄れていく記憶を今一度思い返し建築物の設計に要求される安全性、耐震性を考えさせられました。建物の安全性を満足するにはどうしても目の見えないところに工事予算が費やされるものなのですが建て主の方にはまだまだ理解してもらえないところがあるようです。この場を借りて改めてご理解いただけるようお願い申し上げます。

 ゴッホ
私の事務所のある兵庫県神戸市は皆様もご存知のとおり1995年に阪神淡路大震災に遭いました。兵庫県立美術館もその影響で新しい建物に生まれ変わり今年オープンし、そのこけら落とし?の特別展「ゴッホ展」にいって来ました。「ゴッホ」といえば自画像、ひまわり等が有名でその色づかいはどちらかといえば明るい印象ですが若い頃のゴッホはその有名な画風の印象とは似つかないアースカラーに白のハイライトという暗い印象の画が多いのにはびっくりしました。ゴッホはどちらかといえば経済的には恵まれていない画家といわれています。解説を読んでいくと色使いの変化が彼の人生の感情の変化と比例して明るくなったり暗くなったりしている様子が良くわかります。少し意味合いは違いますが一昔前の住まいにおいても同様にそこに住んでいた形跡、思い出を何かしらの形で残していたものです。例えば柱の傷、床板の古びた光沢、長い年月によって角が丸くなった石、等々・・・それでも汚くなったから取り去ってしまいたいという感情にはあまりならないのは自然の材料を駆使して使った建物だからこそ思うのではないでしょうか?最近の建物には新建材と呼ばれる機能的な材料で構成された住まいが殆んどですでもそんな材料、空間に無機質感を覚え、親しみが感じられず少し汚れてくると取り替えたくなる心境に陥るのは私だけでしょうか?新建材で構成された住宅は住まいというよりも便利などこかの宿泊施設のように思えます。だからといって新建材を全く無視しては技術的にも建物を構成できない面もありますのでその辺はうまく調和させながら住まい作りに貢献したいものです。

 透(すける・とう)
日本建築の美しさ、特徴を表す言葉はたくさんあります。詫び、寂び、幽玄などお聞きになった事もあるかもしれません。私のような者ががこのことをお話するのはいささかおこがましいかもしませんが事務所の屋号にも使っておりますので少しだけ・・・
お若い方はピンとこないかもしれませんが歴史的には日本の住宅(住宅に限らず建築全般)はあまり壁がなく紙張障子、格子などの建具と呼ばれるもので仕切られた部分が多くこの建具を開けたり、閉めたりすることでその時々に必要な空間(部屋)を造り、利用して生活してきたのですがいずれの建具もその仕切られた向こう側の気配が感じとられる道具です。障子越しに外の明るさを感じたり、格子の向こう側に街行く人の気配、庭の風景を感じたり・・・この閉鎖的で開放的な建具などで仕切られた空間は西洋の壁で囲われた空間にはない奥行き、広がりを感じさせます。気候、風土、または社会的要因に起因して自然に発達したものかもしれませんが?こういう技法?は日本建築のすばらしい特徴であると思います。このことを「透けの美学」などと言われることもあります。(もしかしたら私が間違って解釈しているかもしれません)
狭いながらも広がりを得られる伝統的な技法を大切にし、現在の住環境とうまく融合させてよりよい建築を提案していこうと思っております。
 あせる・・はもらいが少ない?
最近では一般的な規模の木造2階建ての住宅程度なら3ヶ月から5ヶ月ぐらいで完成しますが一昔前は1年も1年半も時間をかけて仕事をしていました。といってもその頃の住宅は今日では田舎の方でもだんだん見られなくなってきている壁を土壁にしていたせいもありぶっ通しの仕事ではなく、所々で養生期間を設け、一見すれば途中で工事がストップしてしまったのかと勘違いするほどの様子でした。しかし、この期間には建物の為に大変重要な期間であることに建築に関わる仕事に就いて初めて知りました。建物が完成していくにつれその重みが建物のいたる所にかかり、段々となじんでいく訳でして建物の仕上りに大なり小なり影響を当てえるようです。やはりある程度なじます時間というのも工事中には必要に思えて来ます。是非マイホームを建てられる時はこのような処も考慮して工事の期間を予定されるほうがベターと思われます。



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