ダウン症候群とは
ダウン症候群とは
 人の染色体数は46本です。1番から22番までの染色体は常染色体といい、男女で差は無く、それぞれ父由来の1本と、母由来の1本からなる22対あり、合計で44本あります。残りの2本は性染色体と呼び、女ではX染色体が2本あるのに対して、男ではX染色体1本とY染色体1本があります。ダウン症では21番染色体が1本多い3本となっています。これを21トリソミーと呼んでいます。21番染色体以外の染色体はすべて正常です。
 ほとんどのダウン症は21トリソミーですが、過剰な21染色体が他の染色体に転座していたり、モザイクといって21トリソミー細胞と正常細胞とが混在する場合もあります。転座型でかつ親に転座染色体がある(転座保因者という)場合に限り、次の子どもにダウン症が再発する可能性が10%程度あります。転座型ダウン症でも、親の染色体が正常なら再発率は高くならない点を知っておきましょう。

発生頻度は
 800〜1000人に1人の割合で生まれます。ダウン症の発生頻度に性差や人種差はありませんが、母年齢が上昇するにつれて指数的に発生頻度は上昇します。ダウン症の発生は妊娠が成立した時点では6−7倍高い130〜140人に1人の割合で発生していますが、80%以上が流死産で失われ、生まれるのは約15%に過ぎません。したがって、生まれることができたダウン症は生命力の強いお子さんといえます。

ダウン症の医学
 大きな合併症がなければ、ダウン症の生命予後はかなりよいようです。平均寿命は50歳といわれています。身体発育もやや悪い程度です。成人したときの最終身長は、男153cm±4cm、女143cm±4cmと予測できます。精神運動発達の遅れもみられますが、遅れの程度は平均的には中等度で、個人差が大きいのが特徴です。早期からの療育が極めて効果的です。あまり早い時期から発達の限界を予測せず、可能性を信じて、焦らず、ゆったりとお子さんの成長発達を見守る姿勢が大切です。重要な合併症として、先天性心臓病がほぼ半数のお子さんに認められます。しかし、近年の小児循環器領域の進歩はめざましく、ダウン症であっても、手術や内科的治療は健常児と同じように行われ、治療効果も良好です。白血病やてんかんの頻度も通常より高いようですが、それらに対する治療成績は悪くありません。小児病院などでは年齢に応じた適切な健康管理プログラムを持っていますので、積極的にそれを活用し、できるだけ活動的な前向きの生活を送らせるようにしたいものです。運動との関連で、頚椎の不安定性は重要な合併症です。3歳になったら専門的に頚椎のX線検査を受けるようにしましょう。たとえ頚椎不安定性が発見されても、頚椎脱臼を予防する方法がありますので、必要以上の心配はいりません。逆に、不安定性がなければ自由に運動させてください。学童期以降には肥満と甲状腺異常に注意が必要です。定期的に専門外来で診察を受けるようにしましょう。眼科、耳鼻科、歯科の合併症もよく起こりますので、それぞれ専門的に管理してもらいましょう。思春期以降には、肥満、甲状腺の異常、高尿酸血症に注意しましょう。白血病などの悪性腫瘍には常時注意しておくことが大切です。急に進行する貧血、出血傾向、なんとなく元気がなくなるなどの症状には注意しましょう。いろいろと合併症について述べましたが、きちんと専門的な定期フォローを受けておけば、あとはあまり心配せず、何にでも積極的にチャレンジする活動的な生活を送らせましょう。表1に年齢別健康管理の概要を示しておきます。

表1.ダウン症の年齢別健康管理の概要
年齢層 注目すべき項目 主な検査と対応
乳児期
(1歳未満)
心臓病、消化管奇形
痙攣、眼振
歩行遅延、不安定歩行
心電図、 胸写、消化管XP
脳波、神経内科、眼科受診
整形外科受診
3歳前後 頚椎環軸不安定性
弱視、屈折異常など
難聴、言葉の遅れ
頚椎XP、神経学的検査
眼科受診
聴力スクリーニング
就学前 知的障害程度評価 知能検査、適応性テスト
学童期 肥満、甲状腺異常
白血病、各種悪性腫瘍
う歯、脱毛
その他合併症
甲状腺検査、栄養指導
血液検査、腫瘍科受診
歯科、皮膚科、精神科受診
関連診療科受診
思春期以降 肥満、活動性低下
痛風発作
心因反応
白内障、皮膚病変
甲状腺検査(年1回)
血中尿酸測定(年1回)、腎機能
精神科受診、カウンセリング
眼科、皮膚科受診

日常生活は
 基本的には普通の子どもたちと同じように生活できます。合併症の程度に応じて適切な生活管理が必要になることもあります。例えば心臓病の子どもには生活管理表が定められ危険性を減少させながら、できるだけQOLを向上させるような配慮がなされます。ダウン症の存在のみで日常生活に制限が必要なことはほとんどありません。ダウン症はほとんどの方で程度の差はあれ知的遅れがみられますが、情緒面や芸術的能力に遅れはみられません。むしろ、優しさ、思いやり、温かみなどは、通常の人たちより優れており、人間として尊敬に値します。何にもとらわれない自由な発想から生み出される芸術にもすばらしいものがあり、今後それらを発展させるような配慮が周囲の人たちに求められます。
 ダウン症だからできないだろう、ダウン症だからこのぐらいでよいと、親を含めて周囲が考えるのは好ましいことではありません。音楽や、絵画、ダンス、さまざまな社会活動で生き生きと活躍しているダウン症の仲間たちについて、特別視せず、当たり前なこととしてみていきましょう。そのためには普通の人にも必要なように、ダウン症でもしっかりした家庭教育が基本として大切であることを認識してほしいと思います。

みんなと社会への願い
 人はだれでも生まれつき明らかな遺伝的欠陥を10%ぐらいの割合で持っています。潜在的な遺伝子異常は、すべての人が必ず7−8個もっています。最近の遺伝学研究の進歩で、人は70%の人が一生の間に何らかの遺伝要因による異常(病気など)にかかることが明らかになりました。遺伝病はわれわれとは無縁の稀な異常ではなく、ごくありふれた疾患なのです。人が生物である以上避けられない多様性のひとつと考えるのが妥当なようです。このことを、疾患を持つ本人や家族がまず自覚し、一般市民にも理解して貰うよう啓発しましょう。健康な人も先天異常をもつ人も、皆がお互いを理解し尊重しあって、共に当たり前に暮らす社会、それが今後望まれる成熟した社会ではないでしょうか。患者サイドも医療関係者も、そして行政も、そのような社会の到来に向けて、それぞれの立場で努力して行きたいものです。

川崎医療福祉大学 黒木良和