石小屋沢

 ユーシンロッジの裏手、明治薬科大学の山岳部小屋横を通り、山の斜面に付けられ昔はそれなりに整備されていたらしいが今は崩壊が進んだ登山道を歩いてから平坦な林に入る。そこの杉の打ち付けられた道標に導かれて土手の斜面を10m下ると檜洞沢のほとりに立つことになる。そして対岸の大岩に赤ペンキでなにやら書かれているのを点をつなげて読み直すと、きっと「石小屋沢」と読むことになるはずだ。このように石小屋沢はユーシンからのアプローチ短く、出会いもはっきりとしているので、そそっかしいマシラでさえ、まずは間違うことがないと断言できる。
 対岸に渡り、ペンキ表示の大岩を下から回り込むと成り行きのままに石小屋沢に入る。その出会いには少しの流れもなく、乾いた石ゴロが続く。冬の氷の少ない時期でもあるが沢を抜け出るまで岩床の上を走る水の瀬は無く、僅かに岩を舐める程度の水流が出会いからの滝場が終わる中流域までの間に続くのだが、これで沢と命名されているのはどうしてだろうか。おそらく、窪みは浅いが、いくつかの滝があり、大雨が降った場合には水が出るからということなんだろう。そんなことはどうでもいいことなんだが!
 出会いに立つと狭い谷の奥に上に大きなCSを乗せている最初の5m滝が見える。そこは右から大まかなホールドを使って快適に越える。
 暫く滝の連続になる。

 緩やかな岩床のスラブを短く挟んだら、CSの代わりに倒木を落ち口の上に乗せた6m滝が続く。その6m滝は純層のホールドに従って右から登る。確かな手応えがあるから掴んだ岩が剥離するなんてこと無いとは思っていても、その場合に一応は備える。だから足のフリクションは大丈夫かななんて水垢の付いた岩のエッジの感触を確かめつつ登るものだから、易しい割にはかなり時間がかかっていると思う。全域が石英閃緑岩に覆われたこの沢のフリクション状況は実際問題としてよろしくないのだ。岩が大量の水で磨かれていれば、岩の組成面の中でも堅い方の白い結晶がつぶつぶとなって露出して靴底に食い込むからフリクションはすこぶる良いのだが、水に磨かれる事のない石英閃緑岩は表層を水コケのコーテングが覆い尽くし、これがまた実に良く滑るのだ。岩の白さにつられて少しだけでも傾斜の着いた岩に乗ろうものならぴかぴかに磨かれた鏡氷の傾斜面を滑るように抵抗をするまもなくドタッと上半身から転げることになるのは必定と言っていい。
 続くナメ状滝も緩やかなので易しいはずなのだが、表面に広く水苔が広がり、おまけに朝露に湿ってヌルヌルッとしていて、靴底がスッ〜と滑る。思わず膝を突いて制動を利かせる。それを越えると岩床と小滝があり、8mの平板の中に左上に複数の節理が平行に走る急傾斜な滝へと続く。


 その8m滝は節理に指先を利かせ左上へせり上がり、節理が詰まったら一本右の節理に手を伸ばして上に登っていけば大丈夫だぞ言いたいところだが、節理には指がかかるほどの確かなすきまな見あたらず、それに石英閃緑岩の岩肌には一面に赤味がかった水苔が広がり、靴を乗せたら絶対に滑らせて見せるぞと岩が主張しているように感じられれば、ここをプロテクション無しに登ろうとなぞとは思いもつかない。滝右横の石の転がる窪地を暫く登り、そこから左方向に獣の踏み跡らしき砂のバンドを辿る。岩地の上に薄く乗っただけの砂地は支持力が弱く3m程行ったところで懸念したとおりにはげ落ちズルッと下まで滑り落ちてしまうが、そんなことは先刻承知の上、登り返すだけ。不安定な部分は最初のその部分だけであり、先ほどの8m滝を真下にしてはいるが、しっかりとした巻き道を使って落ち口から5m程上流側で沢に戻る。
<写真削除しました。あしからず 091018>
左上がりの節理が走る8m滝(右から巻いて登ることになる)
 その次は腐れ倒木が谷間にブリッジ状にして横たわる先の緩やかなナメスラブ3mに続く5m程の滝の前となるのだ。全く次ぎから次へと滝がこれでもかと続くのだが、いずれも人を威圧するような大滝ではなく、似たような小滝ばかりなので遡行図をひっくり返して見ても、さてあの滝はどんな滝だったっけという印象が明確には浮かんでこないのが、この沢の欠点かもしれない。
 ところで5m滝は一見易しく見えるのだが、よく見ると落ち口下の1m程が傾斜がきつい。そのくせ、明確なホールドが下からは見あたらず。下からではそこに登るための手がかりがあるんだろうか心配になる。それに、そこの岩の状態と言ったら例の水苔が黒々とテカッて見える。試しに、滝の取りつきで、上部のそれと同じ色をしている岩の上を手で撫でてみれば、家庭用の中性洗剤の原液を垂らした鍋の上をこすったときの感触によく似ていると誰しも思うだろう。こんな状態で登ってホールドに詰まったら、上に登れず下に下れずになるのは必定だ。逃げるが勝ち。滝の左側から珠洲竹をホールドにして登って巻く。
<写真削除しました。あしからず 091018>
腐れ倒木の向こうは緩いスラブの滝(しかしヌルヌルの苔が付き運動靴では登れないのが難点だ)
 そして、まだまだ滝は続く。
 続くのは二段8mの滝である。下の4mは右側の小カンテに取りつき、中段のテラスに立つ。上部の4mは本来なら樋状の底、もしくは左のフェースを登るのだろうが残念ながら運動靴ではフリクションが少し足りなくて登れそうもない。かといって樋の右側は逆層気味で無理だと思う。途中一カ所でいいから足をかけられる場所があれば、それでもトライはしてみたいが、それもない。それで左岸に引かれた珠洲竹のバンドを使い小尾根に出ていったん登ってから、踏み跡に導かれて沢に戻る。沢床に戻る2m程は切れていてロープが欲しいが、短い距離である。ロープの代わりに灌木を引き倒し、その枝を便りにターザンごっこ見たいな格好で足の定まらない下降を行う。まっ、枝が折れて切れても2m下の岩床に転がるだけだから着地にさえ失敗しなければどうってことないと思える蛮気がないと、この下降は苦しい。。
 そうしてせっかく頑張って下ったのに、目の前には急傾斜な8m滝である。直ちに巻いて逃げるルートを探すのだが周囲は急な岩場に覆われているので逃げるとなったら、さっき無理して下ってきた所をもう一度登り返すよりルートはなさそうである。その巻きも、谷底のここから上部を見渡せば相当に上まで急な露岩帯は続いている。だから、それを登り切るとなると、かなりの時間がかかるに違いなかった。

 「あんまり 時間を掛けたくない」
 そう考えれば、一番短い時間で済むのは滝そのものを登ることである。マシラって「難しい滝は巻く」って決めているのに、「面倒くさい」ってなると、面倒くささはどんな手段を使ってでも楽に回避しようという選択がリスクに超越するというずぼらな性格なのだ。
<写真削除しました。あしからず 091018>
中央左の草の中にお助けハーケンが隠れていた。
 8m滝も近づいて見れば、最初の印象よりも傾斜は相当に緩い。難しいのは中間付近の大きな一枚岩のスラブであり、そこさえ何とか出来れば、他は何とかなるだろう。ただなあ、ちょっと岩のぬめりが気になるんだよな。
 ともかくもそのスラブの下まで行ってからも下るのは何とかなりそうだから、まずは取りついてから考えよう。そう考えて取りつく。しかし 案ずるより産むが易し。その大きなスラブの上端の枯れ葉を払ったら、そこにはハーケンがシュリンゲ付きで隠れていた。そりゃあ、そうだよなあ。人が普通に登る難しいところには必ず手がかりがある。それが丹沢の鉄則なのだ。そいつをガンガンと引っ張って腐ってないことを確認した後に、テンションに使い、上のホールドに手を伸ばす。そこからは易しい登りだった。

 沢の両岸が狭まり、その中に小滝が三個くらい続くミニ・ゴルジュ(といっても水はほとんど無い)を過ぎると沢幅はいくらか広がる。それに傾斜も今までに比べれば緩やかになって、今までの岩床が上に石が乗っかるゴーロと転じ、ようやく滝場が一旦は終わる。出会いからここまでは実際には1時間ほどかかったのだが、実際はそれを感じることないくらい短い距離だと思う。

 沢は狭いままに石ゴーロを暫く歩く。左手に大きめの小沢を一本見て、やや右手方向に曲がって、もう一度左手に向けるので元の方向に戻った状態の中を歩く。そうすると前方に大きな岩が三個ならず場所に到達する。この大岩がこの沢の名称の源と言われている石小屋らしい。中央と右手の二個の大岩の間の下にそれらしき雰囲気はあるが、そこにはびっしりと岩が詰まっていて、岩小屋としては機能していない。それに左手の岩は周囲が掘れて空間が空いているので不安定も思えるので、昔はいかがだったか知らないが、今の状態では先ほどの場所に岩小屋の空間があったとしても安全且つ安心して休む場所ではないだろう。

中央の大きな岩が石小屋の石小屋たるゆえんらしい
 石小屋沢は二度目である。最初のCS滝と、この岩小屋は印象があったが他の滝は全く印象がなかった。岩小屋を後にして暫く進むと三から四m程の岩に行く手を塞がれる。明確な手がかりはなく、おそらく水に濡れている岩の部分を登るんだろうが、今日の靴の状態では登れそうもない。右から巻いて登る。
 右に左に支窪が何本か別れる度に、この窪はどこまで続いているんだろうかと想像しながらゴーロを暫く歩く、おそらくき左手の支流に入ればいくらもしないでユーシンロッジへの登山道に出ることになるんだろうとは思うが、本当のところは行って見なければ分からない。
 ゴーロの先の4m滝には申し訳程度に氷が着いていた。しかし、下の岩とは剥離し、朝日もまともに当たっていないというのに解けだしていて、靴で蹴ればみんな落ちそうな弱い氷だった。石小屋沢は北東向きの沢であり、標高も相応に高い上に、水の量は少なく、しみ出す水が凍り付くには、本当に良い地形の中にある。本来の冬ならば、今頃は沢一面にびっしりと氷が岩に張り付いた状態となっていて少しもおかしくない。それなのに、岩陰にほんの少しの雪と、この場所まで来てから、ようやく申し訳程度の氷・・・
・・・・なんと言おうと本当に今年は暖冬!!!!
・・・・三枚重ねて来たが、暑くて、上着を一枚脱いで歩かないと汗だくになるほど!!!!

 上には稜線が見えていて、ぼちぼち、終わりだろうと思う。その割にはなかなか終わらない。

 といいながらも、さて、この沢の最後の滝は6〜8mの滝だ。水は無く、乾いているが表面は例によってヌルヌルしている。右側から巻いて登る。上の樹林帯は近い。
 ゴーロの詰めは傾斜が強まることもなく、それでも砂地と上のブッシュ帯の接続点の段差を避けるため、直前から左手の樹林帯に移動して沢を終える。踏み跡が断続して続く小尾根は思ったよりも長く、しかし、あっさりとテーブルのある小ピーク(石小屋沢の頭から少しユーシン側に寄ったP1350m)に出て尾根登りも終わる。霧雲に覆われて辺り周囲の風景はないが、幽深な山頂の雰囲気は良い物だと思う。今日、このあたりを歩く山人はいないはず。


 下山路
 テーブルからユーシン側に下る。5分とたたず最初の登山標識の立つ地点が東沢経路の入り口に着く。今日はこの経路を同角沢まで下り、モチコシの頭から女郎小屋乗越まで行ってから東沢に下る。そして仲ノ沢経路を歩いて県民の森から玄倉に戻る。


 ところでアプローチ(マシラはルールは犯しません)

 玄倉林道は青崩洞門までは通行可能だが、その先は全面通行止めだという。それは知っていた。お知らせのHP写真を見ると素堀とコンクリ巻き部分の接続点付近に亀裂が生じ、崩落の可能性があって危険だというのが理由だという。復旧への工事期間は三年以上かかり、現時点では未定だという。

 でも、その亀裂がなぜ生じたんだろうかなあ?
 マシラはそれを知っているんだな。
 大事になってしまったんで黙っているかと言えばそうは行かないマシラさ。
 みんなに小さな声で教えるね。

 それは 1月20日だったんだよ。
 あの日、ユーシンに行こうとして、でも例によって懐中電灯とかヘッデンなんて持っては行かないので青ザレ隧道にさしかかる前に両手にススキの枯れ葉を携え、それを闇夜の中のトンネル側面を探る触角にして暗闇の中を進んだのさ。ところがススキが少しだけ短かったんだな。それに方向感覚も悪かった。ちょうど、あの地点で素堀とコンクリの接続点に顔面をぶっつけた。ぶつかった瞬間は頭がブチ切れるほど痛かった。
 しかし、痛かったのはマシラだけではなかったんだ。ぶつけられたトンネルはもっと強い衝撃を受けて岩盤がブチ切れて、あの崩落に至る危険性を帯びた節理が瞬間に生じたんだ。
 おかげで、あの隧道が通行禁止になってしまい、山のみんなには迷惑を掛けたと本当に反省している。ゴメンナ
 
 その反省もあり、でも向こう三年もユーシンに行く度に逆U字を経て歩くんじゃ一時間は余計に時間がかかることになり不便でこまる。何とかならんだろうか。そう思って今日の山歩きになったわけさ。
 もちろん、マシラは規範を尊び率先遵守する良き社会人であるから、お上が決めた約束事を逸脱するなんて行為は許されない。ルールの中で何とか良い方法は無いだろうか。
 そしたらマシラホームページで既にそれは公表済みだったことを思い出したのだ。だけど、それは状況から行けるんじゃないかと推測を書いただけで実際にそれを敢行したことは無かったことだったんだ。責任ある社会人としてはキチンと実証しておかないとまずい。

 ただし、マシラと同じルートを辿ることの安全性の保証も時間の保証なんて、これっぽっちもみんなに約束するつもりはないゾ 所詮戯言と以下を読んでくれれば良いさ。
<写真削除しました。あしからず 091018>
玄倉川にいったん下り、青崩隧道下を通過してから写真左の斜面を登って林道に戻る。
 青ザレ洞門入り口の柱に「モチコシ」と書かれた案内に従って柱の外側を歩く。隧道入り口付近まで進むと、そこから玄倉川方向に降りる踏み跡が付いている。踏み跡にはなっているが、整備された登山道とは違って足元は不安定だ。が、それをたどれば玄倉川に約三分ほどで降りることが出来る。
 そこから、上流側に進むのだが、青崩隧道の外側の岩が崩落して落っこってくるなんて事が想定できるから、一旦は瀬を渡って川の右岸側を進むべきだろう。もしも、上の玄倉ダムの水門が閉まっていれば、辺りでは水流は消え失せているはずだから右岸側に行くのは易しい。しかし、今日もゲートは開きっぱなしらしい。瀬の中に入るならば濡らさないよう靴下を脱いで行く必要がある。それには脱いで渡り、冷たい水に素足をさらして渡って縮こまった血流を元に戻してから靴をはき直すまでに10分は必要だ。それは面倒だ。出来ることなら飛び石出来る場所はないかとポイントを探し、下の大堰堤間際までってようやく渡ることが出来る。

 さて、大堰堤から上流方向に80m歩き、川が逆Uに向かって90°左に曲がる地点まで来たら(そこは裸丸山に登る仕事路のとりつきである)林道のある対岸に渡る。渡る地点は上下50m程の間に何カ所か選べば靴を脱ぐ必要はないだろう。そこからの目を直上し林道と交差させると、出口側の洞門が石崩隧道側に終わっている部分に相当する。登るのはそこから石崩隧道までの80m程の間なんだな。この80mの間に石がゴロゴロした戯れた部分があるので、万が一 不安定な石が転げるかもしれないので、右(青崩洞門側)か左(石崩隧道側)のブッシュ帯を登るのが良いだろう。今日は、洞門側の小リッジを登った。僅かばかりの踏み跡はあるが一部急な部分も有り、万人に勧めるルートではないと言っておく。シナリオに無かった玄倉ダム水門が開門中ということで瀬を渡った事と、途中カメラを取り出して撮影したりしたので10分くらいかかったが、そんなことしないで黙々と歩けば林道を使って隧道を越える場合に比べて5分くらいの余計な時間で歩けることになるんだろう。
 ちょっと面倒だが、このルートなら、たとえ仏岩上部から小崩落があっても玄倉川の河原を50m以上大岩が転げ回らない限り安心なはずだ。一応は遵法だし!
 でも繰り返す。よい子は真似をしてはいけません。マシラの真似すると不良になります。きっと良い目には遭わないよ。
 大崩落が生じたらどこにいたってダメだけどね。

 規範逸脱を大勢に誘発するおそれがあるので隧道完全封鎖の状況はここに記述しない。
 知りたければ自己責任&安全を呪文に唱えながら現地に行って実地に見なさい。そして隧道に猪突猛進さえしなければ、おそらく死ぬようなことにはならいないでしょう。下との交通が遮断されるためユーシンロッジは緊急避難以外の使用は出来ないことも付け加えよう。くれぐれもご用心あれ
 

写真集です お時間あればどうぞ

前回の石小屋沢 2003/05 石小屋沢(玄倉)

 自宅4:50〜本厚木5:16〜新松田5:55〜玄倉6:45〜モチコシ洞門7:45〜玄倉川下降〜モチコシ隧道と石崩隧道入り口の間の斜面を登る〜洞門の工事状況観察8:00〜石崩隧道〜第二発電所(下のダムの水門は平きっぱなし)8:05〜ユーシン8:40〜石小屋沢出会い9:00〜石小屋沢最後の8m滝の下10:15〜P1350m10:40_45〜東沢経路入り口10:50〜同角沢11:00〜東沢乗越11:05〜モチコシの頭11:15風に外れた道標をセットし直す〜女郎小屋の頭〜女郎小屋乗越11:35〜東沢へ下降(女郎小屋沢を登った場合の下降路)11:40〜仲の沢休憩所跡(欅平)11:55〜県民の森〜弥七沢出会(ドロの洗濯)〜玄倉13:26〜谷峨13:40_14:02JR〜新松田14:23〜本厚木〜自宅15:00_16:00〜大倉山岳SCへ古い山屋との飲み会(泊)夜 就眠したのが24時過ぎとなる山遊びで忙しい一日でした。
頁トップへ  マシラのHP