茅の木棚沢(丹沢玄倉川)

朝は寒い。それを忘れてちょっと失敗した。
家の中で「これで十分さ」と考えて綿のアンダーにスリーシーズン用の薄手フリース、夏と違うのは上にウィンドブレーカーを羽織ったことくらいの服装で駅に向かう。
が三分も立つと体が冷えてきて、もう一枚重ねてくれば良かったかな?と失敗に気づく。しかし取りに戻ると電車には間に合わない。少々寒いままだけど暖冬の今年である。凍えて死ぬなんてことないだろう。
そう思うことにして乗った小田急4両編成の全車両は合算しても乗り合わせは多めに数えても8人とくれば速度が変化する度、通路にはすきま風が右に左に耳元を吹きまくって寒くて眠れない。西丹沢行きのバスもファンは全開にして廻してくれているらしいが、風ばかりが体に当たり、温度は上がらない。それが利きだしたのは谷峨を過ぎた付近からだった。
もうすぐ下車。
ここで眠ったら乗り過ごすから寝ちゃあイカンと目をこする事になる。けれども清水橋を渡る頃からは夢の船の中に入ったみたい。幸い、それはごく短い間だったのだが、目が覚め、あわてて目を左後ろを見渡せば湖上の上に白い富士山が薄暗青色の空の中にぼんやりと浮かんでいた。玄倉である。
ようやく朝が来ようという時間にバスを降りる。玄倉はなお一層寒かった。風は僅かなのだが、その風が顔に当たると頬にピッと来て皮膚が切り裂かれるように感じる寒さに感じる。霜が降りた路面は凍り付き、靴で踏むとツルッと滑る。綿手をはめ、歩き出すが、気がつけば首をすくめ、背中も丸め、表面積最小の姿勢を知らぬ間に取り、とぼとぼと歩いている。砂防堤から落ちる水が打つ音が林道の側壁に当たり反射して聞こえる音も寒々しい。
しかし、それも暫くだろう。体が温まるまでの間さ。そう思って歩くのだが、夜明け直前って一日の中では一番寒い時間である。体を温めようとピッチを上げて歩いているつもりなのだが、ポッケに突っ込んだ指先が寒くてたまらない。早く日が当たらないかなあ。
青ザレ隧道の入り口から玄倉川に降りる。工事はユーシン側の洞門の路肩を整えるのが中心だったらしく、それはあらかた終わったように見える。交通制限はいまだ行われているが年明けから今の時間は通行が許されている。だから、上流に行くには隧道を行けば良いのだが、冬の時期のU字帯を歩いたことが無かったので、アプローチが少しだけ長くなるけど歩いてみようと考えた。
冬の今の時期としては普通の水量なのだろう、夏の時期より若干だけ少ない。水は大半がモチコシ沢からのもので、それに向山沢、タツマ沢からの水が若干だけ加わる。上流の水は100%玄倉ダムが発電用として集水しているから通常の天候の日にはダムの水門から下流には一滴たりとも水が流れる事はない。だから、この辺りの通常の水量は玄倉川でも一番少ないエリアに属する。そうだからこそ丹沢黒部なんて称され遡行するには厳しいと言われながらも、冬でもこの部分は歩くことが出来るのだ。
それは前述のように取水ダムが水流を減らしてくれるからこそ言えることで自然本来の流れだったら、冬に寒中水泳する趣味があれば別だが、マシラのように冬に濡れるのは真っ平という人間には絶対に近づいてはならない領域となっているのだ。だから、ここを歩くための今日のテーマは”絶対に濡れないこと”タダそれだけ
モチコシ沢に30m入り滝を見て本流に戻るまで、それは守れた。しかし、直ぐにダメになった。上流に向かおうと流れを飛び越して砂地に着地したとき、砂と思ったのは実は泥でヌメヌメと沈み込み左足の踝までが泥と水に埋まり、すぐに0.1秒も間隔を置かずに足を引き抜き、岩の上に移る。
それくらいなら靴の中まで濡れないだろうと思うだろう。
だけどマシラの靴といったら!
小指が飛び出すほどサイドに穴が開いちゃっているんだね。靴の形をしたサンダルと言うとわかりやすいかも知れない。靴は山に行く毎ユミコちゃんが洗濯してくれるが、その都度
「この靴もう使えない。捨てる!」
ってユミコちゃんは言うんだよな。そんな状態だもの、水に浸かればすぐに中が濡れる。でも代わりの靴を買う暇ないので、新しくなるまでは雪が降ってもおそらくこの靴で雪中行軍するんだろう。丹沢ではそれでも大丈夫ってことになっている。
向山沢下を通過し、次にタツマ沢の滝を見上げる。どこから登ると出会いの滝部分を巻いて上部に出ることが出来るのかな。しかし、どうルートを選択しても簡単には落ち口までたどり着けそうもない。タツマ沢に入るにはモチコシ沢大滝の巻き道途中から向山沢大滝上を通過する仕事道を使わないダメらしい。
そんな事を考えているからか、林道歩きの時に感じていた全身の寒さはとっくにどっかに行ってしまった。へつるときに岩が寒いとは思うが、それよりも落ちないようにと手がかりを探す方がもっと気になる。残置による2mの下降、右岸の電線道のトラバース、それから最後の難所は右岸へつり。それが終わればダムの下となり、ちょっとだけ左足が濡れたけど本流の遡行は終わる。
さて、繰り返すが今は冬だ。氷見物するには暖冬すぎて今冬の丹沢では無理だと思う。しかし、いくら暖冬とはいえ、冬は冬であり、日陰の氷も岩に張り付くことからフリクションを使った登りは止めた方が無難だ。難しいルートを歩くのは厳しい季節である。冬に歩くには滝のない穏やかな沢が良い。そんな消去でもって選択しで本日入ったのが茅の木棚沢なんだ。
そうなんだよ 実は当初歩こうと思ったのは”鉄砲沢”だったんだ。茅の木棚沢よりも熊木川の一本上流にあり、鍋割峠に向かって伸びる沢である。ユーシン先の車止めゲートから、それが二本目に当たることは出かける前の自宅の地図で確認してあった。だから一本目二本目と数えて入渓したのだが、枯れ葉をお化けと見るように見事に間違えたらしい。前の記録をしっかり読んでくれば決してそうならなかったはずなんだが、記憶の中では茅の木棚沢も鉄砲木の沢も識別できていなかったということだ。しかし、それに気がついたのは沢が終わった時点だったね。 この程度の間違いはどうでも良いことかな。
岩床がいったん区切りがつくと小石のゴロを少し歩く。6mほどの滝が出てくる。傾斜が手頃で大まかなスタンスがあるので簡単に登る。そうすると左手上方10mに幅20m高さ40m程の垂直な崩落の岩場が見下ろす下に6mスラブ滝が出てくる。ここは暖かい時期ならフリクションぎりぎりで登れるかも知れない程度の急斜になっている。今は氷がアッチこっちに付着していて、とても登れない。崩落壁の下裾まで登り、裾を上流側にトラバースし、滝の上につながる小リッジを落ち口に向かって下降する。しかし下には次のスラブ滝6mが見え、そこも急そうだ。このまま下っても、そのスラブが登れないかもと思い登り直し、壁の裾から上流側に10mトラバースして、窪を木の根っこを頼りに下り、最後の2mは飛び降りる。
続けて3mスラブ滝。ワイヤロープ付きである。滝登りようにセットされたワイヤではなく、上で使われたものが落ちてきて立木に引っかかっているものと思われる。このワイヤはまだ十分に柔らかい。何も無いと厳しいがワイヤはバランスには使えるので助かる。
この一連の滝場を合算して、ひょっとして”茅の木棚”と言うのだろうか。でも、わからない。
そこからは岩床とざくざくの石の詰まった窪地が続く。枯れ葉が沢を埋め、下の石を隠し、どこを歩けばいいのか下の感触を靴で探りながらの登り。傾斜はきついが石も砂も寒さによって固定されているのでずり落ちないのはありがたい。
時間的にも距離的にも出会いから短いが、二俣までくればもう源流だ。上には大きく露出した白い地肌が稜線を覆い尽くす。地肌の中に食い込む中の一番左の窪に入り、その一番左の露岩の傾斜の弱い部分を狙らって、冷気でコンクリのように固められた砂ザレを登る。ザレが終わると境界見出し+火の用心の標識が立ち、その下には平成元年建立の中田■さんの慰霊碑ある登山道である。鎖場最末端付近に当たる。碑にはコップ酒が一本 ゴチになろうかなとも思うが神様用ならお下がりの作法は知っているつもりだが仏様のものをいただく作法は知らない。勝手にいただいては罰が当たる。それに少し日が経っているようにも思えるから罰が当たる可能性はかなり高いからあきらめる。
鎖場を二箇所越えると鍋割峠に着く。鍋割山はそこから一息。そこからの富士山が今日は広い。裾の右下には南アルプスの山々が白く輝き広がっている。
稜線の道は日に照らされ泥の道が始まる。宮ヶ瀬方向から入る山々なら冬の時期に泥で靴が濡れて困るなんてことは少ない。しかし日のあたりが良く、多くの人が表土を掻いて歩く表方面は泥の山塊らしい。夜に凍った表土は朝日が当たった瞬間から溶け出すのだ。日に当たる部分は既にぬかるみだしていて、踏み込む毎にグニュッと靴底にくる。もう一時間もたてば一面の泥場だろう。それが傾斜のある部分であったならマシラの靴は全くの無力無抵抗になってしまう。踏ん張りも何も利かないのだ。だからこんな道は四本ツメアイゼンでも持たないと危なくて、よう歩けない。
こけないようにするにも何事にも用心が肝心だ。大倉への下山道は、その中で泥の付着が一番少ないと思える訓練所尾根にするのはマシラの知識の中では当然の選択である。先週の大風の影響なんだろうか、赤松の大木三本が倒れてまだ間がない状態だったが、大半を泥無しで無事に下降できた。
二股から大倉へ
12時最初のバスには急いでもギリギリだと思う。走って飛び乗るのはゴメンだな。次のバスなら時間が余る。だから時間を調整すべく行く先を大倉から堀川に転じる。少しだけ早かったので、そのまま歩いたらバスより先に渋沢駅につくことになった。
写真集です お時間あればどうぞ
自宅4:50〜本厚木5:16〜新松田5:55〜玄倉6:50〜青ザレ隧道入り口7:40〜モチコシ沢出会い8:00〜大滝下〜本流向山沢大滝下8:15〜タツマ沢下〜石崩隧道ユーシン側(玄倉ダム下&アッチ沢出会い)8:50〜ユーシン分岐9:20〜茅の木棚沢出会い9:25〜中間の滝場9:50頃〜終了(登山道鎖場下)10:15〜鍋割峠〜鍋割山10:50〜小丸〜分岐11:05〜二俣11:35〜堀川12:30渋沢駅まで歩く11:55_12:02〜本厚木12:30頃〜自宅12:55 2007/01/13 快晴(朝方は結構寒かったが日中の日が当たる場所はポカポカ 今日はどんと焼き ユミコちゃんも応援に駆けつけ、たくさん団子をもらったので、今年は健康でありますように願って昼食代わりに六個も食べる。GoodLack)
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