とりあえず、今回で一連の治療は終えましょう。

 あれだけ顔を爪に引っかき回されたのに、化膿せずに治療できたのは本当に幸運でしたね。
 怪我の痕跡は残りますが、形成外科としての治療は100%終わりました。
 もしも顔に残った裂傷痕が気になったり、調子が悪いことがあったら、遠慮無く診察を受けに来てください。

 はい どうも ご苦労様でした。

 「ありがとうございました」 お世話になったF先生に深く頭をさげ、T大 形成外科の診察室を出た。

 たしかに日常生活としての不都合はほとんど無い。残った違和感としては、骨折した頬の部分を掌で撫でるとボコボコしていることと、右目眼球を動作させる筋肉の筋が何本か切断された事によるものと思われる目の焦点がとっさには合わせにくいこと、無意識に大きく口を開けたとき(あくび)に縫合部の筋肉が突っ張って痛い事、それに味覚の変調くらいだ。
 それぞれのコメントは
 頬のボコボコは「諦めなさい」
 頬の傷跡が気になるのなら「傷の再縫合が可能ですが、いい年した男ですから今更どうしますか?」ってやんわりと。
 眼球動作は「もしも、気になり治療したいのなら再度来院してください。今の状態では格別に治療しなくとも良いと思いますよ」
 筋肉の突っ張りは「どうしても怪我した部分は筋肉が収縮するのです。筋肉を柔らかくするために大きく口を開ける運動を毎日三分くらい行ってリハビリしてくださいね」

 味覚の変調は「対応策無しですね。歯の治療をしっかりと行ってください。そうすれば元に戻るかも知れません」
 現在の状態に対しては処置無しということらしい。
 味覚
 事故の後、甘みの感覚が鈍くなった。欠けた8本の歯の治療はいまだ継続中なので、その影響も確かにあるものとは思う。鈍さを表現すると砂糖タップリの羊羹を食べても殆ど砂糖の味が殆ど感じられない。反面、水を飲んでも舌の奥に苦みとすっぱみをタップリと感じるというように味覚音痴の状態になっていて良くなる気配がないのだ。饅頭もケーキも区分けが不明確で味っけの無い生活。歯の治療の成果が出て元に戻る事を期待するしかない。

 そんな状態ではあるが、「もう診察の必要は無い」って言われるのは嬉しいことだ。反面、診察を理由に出社時間を調整することが出来なくなった分だけ、僅かだが時間が不自由になった。
 歯の治療はまだ五ヶ月は続く予定だから一年がかりってことになる。

 そうこうして自身の熊治療は終えたのだが、またまた丹沢で熊に襲われたとか。いつか宮ヶ瀬尾根で遭遇したあの小熊だろうか。いや別か。年を経過すれば母親になったとしてもおかしくない。ただしマシラが他人様の事故に対してあれこれ言うのは余計なお世話だし、説得性もない。子を養う母は強し。ただ気をつけようとしか言いようがない。




 松田から乗ったJRは、よくある通勤時間帯と同じくらい混雑していた。富士スピードウェイで大きな行事があるときは何時もこうだ。それに連休で出かける人も大勢加わって、もちろんマシラもその一員として参加だからなおさらだろう。座ろう何てことは全く考えていないが、声を掛けて通路を開かないと降りられないっていうのは困ることだ。本日の西丹沢行きのバスが大増車されているのは先ほど新松田の駅で見かけたが、幸い一台目のバスに乗れて玄倉で無事下車出来た。
 満員の車内だが、玄倉で下車したのはマシラ一人。
 さもありなん。県民の森は通行止めだし、玄倉林道本線は2号隧道(青崩隧道)、6号隧道(同角隧道)は二箇所で完全閉鎖とくれば、残る行き先は秦野峠方面のみとなる。こちらの山に入る人は少なくなる分だけ静かな山歩きが楽しめるのだから、そのためには永遠の工事を希望するワタシにすれば嬉しい制限だが個人的な喜びを他の人に手を叩いて同調せよとは言いかねる。しかし、大型連休中ともなれば、他の人との干渉を最少にするための距離を保持しようと少しの不自由は何のそのとキャンパーは、車止め地点から何キロかは入り込む。だからか思いの他に河原には人の影が濃く、谷間に子ども達の歓声の声と若者達の嬌声が響き渡る。それでも女郎小屋手前の隧道からは人っ子一人いない玄倉川に変わる。

 青崩隧道手前から玄倉川に降る。
 逆U字を行く。
 石崩隧道に登り返す気はない。
 だって登り返しの開始から石崩隧道を通過して玄倉発電所に着くまでは約10分はかかる。
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モチコシ滝(逆U字経由して)

 それならば
 U字の通過には一時間くらいかかっているが、実際のところ歩行時間が占める割合は半分以下であり、残りは滝を見たり写真を撮ったりしている時間だから、その分をカットすれば15分くらいで通過できるのでは無いだろうか。そう考えたのが今日の逆U字を辿るルートにした理由であった。
 しかし、この丹沢随一の渓谷美と称されるルートに入りこんでいるのに景色に見入ったりシャッターボタンを押さないで済ますというのは難しいことだ。何回も通って、
「同じ場所での同じ構図のデジカメデーターって腐るほど持っているジャン」
と分かっていても、ついつい立ち止まってしまう。今日はその時間が少しだけ短かかったというのが普段と違うくらいで、やはり立ち止まってしまう。従って15分で通過するのつもりが、そうはならずに25分もかかってしまった。予定通りに立ち止まらずに歩けば15分ではちょっと忙しいが可能な時間ではあると考えるが、その為には景色を見ないと決めてそれを貫徹する鉄の意志が必要なのだ。それにルートを熟知し岩場に迷わない者であることと発電所のゲートが締まり渓谷の水量が想定内に収まるという前提条件がそろってであることは言うまでもないが、そこまで急ぐ必要がある山遊びっていうのは存在するのだろうか。たぶん ない。なのに先を急ぐあほらしさってこったね。
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逆U字を経由する 発電所前の難場(右岸をへつる)

 遅れた時間を取り戻そうと6号隧道は河原に突きだした柵の下をショートカットした。ただし同じ場所を通過する人には真似はしない方がよいって警告は言っておく。マシラだって次に通過する機会があれば、間違いなく河原に降りる大巻きルートにするだろう。
 なぜって?
 柵下の路肩は足場が良くなく靴の引っかかりが悪い。それに柵を覆っているエクスパンションネットの大きさが中途半端で指に力が十分に加えられないくせに角が鋭く、指に当たって痛いのだ。下の河原までは10mの高度差があり、失敗した場合に笑い話ですませる距離ではない。そのリスクの代償がたった5分くらいの時間カットでは割に合わないだろう。そう思うからだ。それに河原に降りれば、対岸に流れ落ちる大滝
 (赤棚っていう名称だと聞いているが、本流に注ぎ込む10mくらいのザレ滝を登り左に曲がったその先に30m程の一枚岩の滝がある)
の見学も出来るし、石英閃緑岩の岩床の瀬をジャブジャブ歩くのも暖かい季節には悪くないのだもの。
 目的地の同角沢入り口には以上の道順で達した。林道から見印のカーブミラー横の路から本流に降ると、F1が落ち込む瀞に釣り師が一人竿を立てている。その人に向かって上流から飛び石で対岸に渡り下降するのは魚を驚かすので迷惑な行為だろうが、他にルート選択の余地がなければやむを得ない。釣り師に出来るマシラの配慮は出来るだけ短い時間に彼の漁場を立ち去ることだけだ。しかし、それにばっかり気を取られ、傾斜の岩床に足を取られ、スッテンコロリン派手に転んで釜にひそんでいるはずの獲物を更に脅かしてしまった。これから15分間は、たとえどんなごちそうが目の前に転がっていようとヤマメは隠れ家から出てこないだろう。ゴメンナサイね釣り師さん、じゃまを意図して転けたわけではありませんので、その証拠に左手中指を軽く突き指しちゃったってことを報告しておきます。
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同角沢三重の滝(二段目下から上を見上げる)

 F1を右側の岩場から登り、その上の樋ナメ状を見下ろして進み、小堰堤を右側から軽く乗り越す。そうして玄倉川の本流は見えなくなり、自分のペースで進むことが出来る。
 暫くはゴタゴタとした河原を行くが、程なくして三重の滝に着く。全体の高度差は30m程、一段目の小ハングに二段目・三段目は境を不明確にしてツルツル肌のナメ状滝が続く。一段目も二段・三段も流れの直ぐ脇が登れるらしいが難しそうだ。確保無しにはとても無理。
 流れの右側に鎖がセットされ、その鎖を頼りに登るのが普通だと思う。その鎖、かなり古っぽい年代物である。しかし、そんな年代物であろうが使わないとなると一段目は人工登攀になるし、二段目以降は水煙に濡れて育つ草々に足元を取られまいかと常時スリップが気になる恐怖の登りになるだろう。無論マシラは、その鎖に100%の信頼を乗せてしがみつき登るのである。
 続くは不動の滝20m 垂直に立つ滝だが、流水の左にがっしりとしたルートがある。ただし3/4地点がオーバ・ハングなので、確保無しで登る滝ではないと思う。前々々回に来たときには、この出口に残されたカラビナ二枚を下から回収したのは良いけれど、その後下降するのに苦労した。当然、今日は巻き道である。滝の10m手前の右側のザレ岩を登り、滝と10mの距離で対峙するように巻き道を登る。もっと安心な巻き道を取るなら更に20m手前の右側(左岸)から砂礫&ブッシュ帯を昇れば良いだろう。

 無名沢の出会いの小ナメ滝を右から巻き、そのまま出会いにかかる少しだけ水が流れている無名沢出会いの棚を見物したら本流に戻って先を急ぐ。綺麗な岩床が暫く続き、そして堰堤に続く。

 この堰堤、堰堤の左側に鉄筋の階段が付いていて通過するって難しくなかったと思う。しかし、今日の沢歩きでは一番手間取った。
 どういう風に手間取ったかって?
 鉄筋階段の下部はしっかりとしていたので、最初の五段くらいはさっさと登る。ところが、堰堤出口にかかる手前くらいから、堤防本体に水平に打たれた梯子の鉄筋が左右のいずれかで上から落ちてきた石に打たれたかして堰堤から外れ、あるいは左右が分断され、おまけに根本から下に80度以上の角度で折れ曲がっている。堰堤から水平に突きだしているならともかく、水平部のほとんど無い斜めの鉄筋に足を置いて体重かけるって緊張する。雨の日の路上の鉄板がものすごく滑るって事知っているなら、流水に打たれてひん曲がった鉄筋(それも表面にぼこぼことした土木・建築用の物ではなくφ15m/mのツルツルの鉄棒)をスタンスにするなんて論外だろう。堰堤上から古いロープ(シュリンゲ)が垂れ下がっているのだが、まともに荷重を支えられるものかどうか多いに疑わしい。手にはしたが、荷重をかけるのを躊躇してしまった。そのあいだ、ロープ・鉄筋にかかる流水が上腕を伝って体に流れ、上半身が水浸しになる。そのままではらちがあかないので下まで降って、このクリアの方法を考え直すことにする。しかし、周囲を見渡したって簡単なエスケープの路は他には無さそうだ。多分、多くの人は、上部鉄筋に万が一の確保用支点を用意してロープを着けて登るんだろうと思う。その場合の確保用としては、鉄筋は申し分無い。
 他に簡単にパスできる方法が思いつけないとすると、手段選択は簡単だ。この階段を上るしかないのだ。足元が斜め鉄筋に滑らないことを祈り、最上段のシュリンゲロープをたぐり、そのロープが括り付けられている鉄筋(堤防の水平部に階段用ステップの延長って感じで付いている)に手を伸ばしたら一気に乗り越え堤防をパスする。この部分、再びのトライでの通過時間は10秒程度のあっという間でシャワーをかぶっている時間もないくらい。
 鉄パイプ滑るかもと躊躇しなければ、ヤダナと少しも感じないくらい簡単にすむだろう。
 
 ダルマ石 
 「あっ あれがダルマ石」って見える地点では小さな岩だが、そばまで来て見上げれば10mの高さがあろうかという大きな岩がダルマ石である。岩の左側が小ナメになっていて簡単に通過する。
 次は左岸の岩を切り裂いたかのように大杉沢が合流する。出会いにかかる滝20mにはたくさんの水が流れ落ち、普段でも難しい言われる滝だが、今のように流水がかかる状態ならどんなに達人であろうが最上段から最下段まで20m連続するチムニーの部分は登れないだろう。マシラは出会いから10m奥に引っかかるCS岩の下から眺めるだけである。

 行水の滝
 本流をしばらく行くと 左右の岩が狭まった所にチョックストーン(略称記号:CS)3m程の滝がかかる。これが「行水の滝である」
さて、この滝 どうやって登ったっけ? おそらく、素直にダイレクトに過去は登っているはずだ。沢通しに行く場合には、そこしかルートがない。しかし、下の堰堤でずぶ濡れになったばかりで体の冷えが収まっていない最中にもう一度行水したいとは思わなかった。CS手前10mの疎林帯を15m程登るとエスケープの踏み跡があり、それを辿って行くと下のCSを眼下にして無事通過ができた。狭い両岸に挟まれるようにして進み、次は4m程のナメの滝。これも滝自体を登るにはシャワー100%となる。左手前5mの岩尾根に良いホールドがあり、尾根を登りきると少しだけ降って沢に戻る。
 このあたりは次から次と大滝小滝が出てきて、登るのもよしなら、難しいから巻いても藪は僅少でらくちんで良しと同角沢が丹沢沢登りのメッカと称されるだけの事はある。

 次は無名の滝20m
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無名の滝20m 登るのは難しい滝
 すべすべとした黄色みがかった一枚岩の切り立った滝に流れ落ちる水の一部が霧となって舞う滝だ。ここを登ったのはサブちゃん達と来た三十数年前の二回きりで、それ以降何回も来てはいるが単独と言うこともあり、こりゃあ登れないとパスしている。当然、今回もパスである。滝手前10mの小さな窪からザレ地を登り、ここまでが緊張するが、左手の樹林帯に移動したら以降は簡単になり、傾斜が緩くなるまで登ってから踏み跡に従って落ち口方向にトラバースして済ます。
 沢幅が広がり、ナメとなり、その中にゴロ石が転がる。このまま200m程進めば遺言棚に突き当たって同角沢は残り10分で終わるだろうなって頃に広い一枚岩の沢床が二つに分かれる。ようやく目指す大欅沢の出会いだ。本日これまでの同角沢は、そのためのアプローチって事になる。
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大欅沢出会い さてこの奥に何があるかワクワクだ
 大欅って名前があるくらいだから、それにふさわしい欅の木がどっかにあるのだろうが滝はあるか無いかな、どうかな。それが本日のテーマ。
 出会いは岩床の緩いナメから始まる。古木が上に横たわる。そのナメは二段の樋状滝につながる。下の樋状は傾斜は緩く、樋の右のバンドから流れの中に移動して簡単に登るが、上の岩がなめらかで手がかりが少なく、樋の中に足を突っ込んで登る事になる。その先も緩い綺麗な岩床が続く。沢の両岸は狭く、先が左右に曲がる度に、そこに大きな滝があるんじゃないかと想像するが、残念ながら顕著な滝と言う状態にはならないのである。
 右岸から20m程の垂直棚が落ち合い、それを左に見て進むと岩床の上に大石がひっかかったCS部分となる。
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大欅沢の樋状滝 簡単な登り
 あたりを見渡すが大きな欅というものは見あたらない。大木が全く無いわけではないが、それらは樅か杉の100年物の類と思われ、まだ大木とは言いかねるし、沢の由来となる大きな欅と思われるようなものは全く目に入らない。
 この沢の命名は昭和も中頃時期だろう。それからは80年くらいは過ぎている。その間に切られたり風雪に負けて倒れたりということも十分に想定できる。その木がどうなったか知っている人がいたら是非教えて欲しいのだが、それは無い物ねだりかも知れないなって思う。ともかくもマシラの節穴には大欅は見つけられなかったのだ。
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沢に倒壊した大欅の名残?  いいえ杉か檜の倒木だね
 CSは左側から簡単にパスする。流水が無くなる。沢は三俣に別れ、右と中央の二つは、すぐ上に見える少稜(大欅沢と大杉沢との分界尾根)に向かう。
 左手の分岐の上方を見上げるとCSが見える。そこは急だがCSの間を靴のジャムが決まったので簡単に登る事が出来た。そうすると大きな古木が沢を横切るかのように横たわっていた。三箇所に折れていたがつなぎ合わせると周長5m全高は25mはあろかという大木で、これが山の斜面に立っていたとしたら相当に目立つと思う。でも、欅の木では無く、杉か檜のどちらかである。周囲を見渡すと斜面にはそこかしこに枯れた同種の枯れ木が空に突きだすように立っている。葉が生きているのは大半が背の低い雑木であり、大木は見あたらなかった。なぜ大きな木が枯れてしまったのかは知らないが、春の季節の瑞々しい緑の中に大きな木だけが立ち枯れているのは、少し悲しい。



 その後にもCSが三個くらい続く。
 急場のCSは気をつけないとならない。CSが登れれば良いが、そうは行かなかった場合、左右の壁も脆く急な場合が多く、そこに逃げられるって方法が取りにくい。うまく側壁に移れたとしても万が一の場合にエスケープした分だけ落下距離も大きくなるので危険度が増す。CSが積み重なるような場合には更に注意が必要だ。無理にCSを突破して上で行き詰まった場合には上には行けず、戻るには下降が難しすぎて戻れずっていう最悪の状態には陥りたくない。だから何時でも戻れる範囲でしかトライをしないと決めている。登れなかった場合には安全地帯まで下降して別の突破口をさぐるしかないのだ。注意 注意
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行き詰まった三個目のCS 右壁に良い手がかりがあればともかく、二個目下までの高度差を感じたら登れなくなってしまった
 見た目では難しくても、高度差も3m程しか無く、下の着地面もしっかりとしているということもあり、いずれも簡単にパスできた。さて、更に奥まって二俣となる。メーンは左手だ。三個のCSが少しづつ間をあけ沢の両岸の岩に押しつけられて挟まっているのが見える。右手もCSが三個積み重なったフェースとなっている。

 あのCS登れるかなとは思いながら左手に進む。最初のCSは至って簡単に、二番目は「もしも下降する場合には」と考え、下降の際の足場を確認して登る。そして三段目
 ちょっと急だ。側面の岩には苔が付き、小さなホールドはあるが脆そうだ。登る距離は3mだが、もしも落ちた場合は下のCSの下まで8m程は落下する可能性がある。それでも下のCSの下降を考えると突破したかったのでトライする。うまく読み通りなら行けるだろう。しかし手にしたホールドが一つボロッと剥がれたので、ヤッパリと止める。別の手段を講じるより突破出来そうもない。転んでいた枯れ丸太φ15cm 長さ4m程を立てかけ木梯子にしようと持ち上げたが狭いルンゼ状の中で思うように操作出来るほどの体力を持っていないのが分かる。諦める。

 二個目のCSからの下降は登るときの下降予行演習が利いたのか思いの外に簡単に下降できた。
 そして30mを下降して二俣に戻る。次は右の三個積みCSにルートを取る。下から見たら三個目は少しオーバー・ハング気味だが下の二個のCSは順層だし、最上段と中段の間が良いホールドになると思えたので、ハンドトラバース出来て、こちらの方は楽勝だと思ったのだ。しかし、いざ取り付いてみると、そうは簡単では無かった。思った以上に二個目の積み石面が急なのと表面のボコボコが少なくスタンスがとれない、二個目と最上段の岩の間に30cm程の空間が水平に開いていて、そこに入り込めばトンネルくぐりの要領で通過が出来そうなのだが、そこに頭を突っ込む為の体勢を作る手がかりが見あたらない。
 いいや細い灌木が一本、その岩肌の上に生えているが、手で荷重したらボコッと剥がれてしまいそうで、バランスには使えても怖くて加重できない。これ以上進んでから待避しようとしても体勢が悪くなる一方で退却が難しくなるだろうな。それで、このルートも諦めることにする。
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三個積みのCSも二個目の上で詰まってしまった。見た目よりずっと急なハング状が登れない またまた撤退
 隣のCSからの撤退し、そしてまた待避。登れなかった代償は上半身も下半身も草付きとクラックにまみれて泥だらけ。他には得るものがない。
 再度、二俣まで戻り、先ほど退却した右のCSの隣の小尾根に取り付いて登る。徐々に見た目の難易度を減らしたコース取りの三度目の正直である。取り付きでは不安定だった斜面は先ほどの三個積みCSと同じ高さまで登ると安定する。そのままCSの上で沢に戻ることも可能だったが、続く斜面を登り、大杉沢との境界尾根に出る。ここからは大杉沢を登ったときと同じ道のはずだ。暫く急登を行うと大石山を眼下にするピークの突端で登山道に出て沢歩きが終了する。やれやれ
 衣服を整えている間に登山者が一名通過する。声を掛けたマシラの言葉が意味不明だったらしく、登山者は首を傾げはしたが、返事はなく下降していった。

 さて、この先 どうしようか
 雨山峠越でというのと仲ノ沢径路が予め考えていたルートである。しかし先ほどのCSトンネル工事で泥だらけとなり、その性もあって登山者にも無視される風体では、その先の電車バスに乗るのがはばかれる。それを打破するには洗濯を行って帰れば良いのである。

 そうだ!
 絶好の洗濯機があるじゃない。近くに最良のが!

 帰宅して確認したら無名の沢の時もそうだった。大杉沢の時もそうだった。最初の時はルート進行方向間違いの結果としてで意志に反してはいた。二度目は意図しての違いはあるが、どうやら同角沢系統を登った場合は帰路は小川谷で体の洗濯ってマシラの場合は決まっているらしい。

 石小屋の頭の登りにかかる地点まで行き、大石山〜東沢乗越の径路に入る。この径路は歩く人が少ないらしく、年々踏み跡が薄くなっていて、同角沢を目の前にする付近からは目をこらさないとテープ標識を見失う場合もあり、尾根上になってから本来は左手方向に進路を変えて下降する地点を見失って直進すると遺言棚落ち口直上にでる事があり要注意だ。その地点さえ見間違えないでいれば、白砂の斜面を適当に降っていくと同角沢に降りつく。標識通りに歩けば人が歩くには差し支えない程度に道形が残っている。同角沢に降り立ったら遺言棚方向から上流側200m程の地点・石棚山稜から同角沢に降ってきた来た場合には僅かに上流の大石に ”大石山→”の赤ペン表記と1m程の高さのケルンが積んであるので目印にすると良いと思う。

 同角沢から東沢乗越までは5分ほどだ。そこからモチコシの頭に向かう。崩落した岩の砂で固められた跡を女郎小屋ノ頭へ。
 そこで進行方向を右手に大きく屈曲して大タルに進む。屈曲しないで直進すると女郎小屋沢の左岸尾根に乗ることになる(その尾根を下降途中で左手に進行すると逆U字の玄倉川の取っつきへ下降し、直進すると女郎小屋沢の二俣に下降する。どちらも踏み跡はある)

 女郎小屋の頭から大タル山に向かうと途中に女郎乗越があるが、稜の右手側から下降すると危ない場所もなく通過が出来る。今日、もしくは昨日あたりに着けられたらしいモチコシの頭から続く新しい踏み跡は女郎小屋乗越付近までで跡形が無くなった。先行者は女郎の乗越から定番の東沢に下降したんだろうか。

 大たる山からは目の前にあるはずの大タギリ方向は見通しが悪く、大タギリの対岸を目をこらして探し進行する。

 そうして大タギリ
 下りも登りもロープは虎テープに統一された。掴みやすかった荷物用ロープは撤去されたようで見あたらなかった。
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白ザレ(仮称)のピーク(大タギリ横)で一休み
 もともとマシラが始めてこの場所を通過した2003年10月(同角大杉沢遡行の帰り)にはロープの類は何も無かった。その直後に多くの標識と大タギリと女郎小屋乗越にロープが設置されたのだった。

 そして2008年の今
 その時に設置された荷物用ロープは誰かに撤去され、虎ロープは残った。標識は御料林径路入り口に当たる堤防の所の一枚と白ザレのピークからワナバの頭に登るに地点の方向間違い防止として有効な青いプレートの二枚が残るのみとなった。だれが撤去したんだろうか。

 この標識とロープ設置・維持に関して、およびこの界隈の径路の概要についてマシラは設置者のたぎりさんよりメールを頂戴している。(2006年)
 その内容についても公開OKの了解は頂いているが、私信なのとそのロープに対する設置者しか知りえないマシラの秘密の暴露がされているので何事も世間体第一を優先するマシラの都合により公開は今暫く留めおこうと考えている。そのうちにホントかウソか、判断は皆さんに判断していただくような形で全公開したいと思います。きっと多くの人の興味津々の内容になるんじゃないかな。

 たぎりさん 今 暫くお待ち下さい。

  出来ることなら、それ(ロープ設置&標識設置)に対する撤去側の論理・蘊蓄も書き出してみたいものだというのも公開を差し止めている理由の一つである。できるなら撤去への見解も互いに並べ書きして意見の相違を確認したいだけの事であり、決して悪いようには取る扱うつもりは無いので撤去に覚えのある方からの連絡を待っています。どうぞ、よろしく

 
 タギリを通過すると女郎小屋右岸尾根に下降する道にさえ入らねば(ここも経験済み)芋沢の頭からの御料林径路までは良い道が続く。
 そして芋沢の頭手前からの御料林径路に入る。開いている鹿柵に入ると径路は二個目の鹿柵から右手に水平にトラバースを開始する。
 しかし、今日は小川谷で体についた泥の洗濯を行うのがさっき決めた予定だから、径路には向かわず、そのまま直進し三つ目の鹿柵門を通過する。ここで右手に大きくトラバースするのがヤナバ沢にもっとも簡単に下降するポイントなのだが、尾根状が先に続くので今日はそれに従う。だが気持ちの良い尾根は直ぐに急傾斜になり、気がつくと登り返すのも面倒に思われ足元も不確かな傾斜帯に立っている。
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小川谷に下降する(ワナバ沢出会いから一つ奥の5m滝)
 本来のポイントでヤナバ沢に入れば15分ほどで小川谷本流に到達するのに、
「おっ、この尾根良さそう」なんていう少しばかりの興味に従ったあげくは40分も時間を掛けた上に足元が疲れてヘロヘロの状態でようやく小川谷につくことになるのだった。
 足がヘロヘロになると小さな傾斜で転んだり、少しの水苔に滑ったりとバランスが悪くなるから、しっかりとした山道を歩くならそうでもないが沢の下降は辛くて危険だ。洗濯なんて言って遊んでいられない。真剣に確実に歩く必要に迫られる。

 おっとっと 滑っちゃったよ 

 とは言っても、小川谷 いざとなれば水に飛び込むだけさ。
 二段5mは右岸を巻いて降ったが、その下の三段は右手の窪は無理だし、流水に沿ったらモロ高飛び込み5mジャンプになってしまう。下り方が分からず、右岸のザレ地を50m程登る大巻きをしてから、なだらかな斜面を降って沢に戻る。この15分ほどのエスケープには記憶にある。(大杉沢経由と同じコース取りだ)
 降って下から確認のため見通すと窪と水流の中間の段々状を降れば楽勝ジャンと思い出したが時既に遅しだ。
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左が深い(とは言ってもヘソまでの)自動洗濯機の釜になっている5m滝を流れの左側から下降する。
 その下の滝5mは釜が深いがフリクションの利く虚仮威しの滝だからウエストバックを首から肩にタスケガケしてから本来ルートを下降する。降りきったら釜の中でヘソから下を立っているだけで瀞の中の水の勢いに任せて自動洗濯を行う。
 出会いまでに下降する滝は残り二つ。二条に流れる5m滝は流木が立てかけてるルートを取り、木の上でのスリップを気にしながら下降する。そして最初の2m滝を下降すると水浴びが終了し、全身が綺麗さっぱりとする。
 少々足取りがヘロヘロしているのが珠に傷って感じなのが気にいらないが、終わりよければ全て良し。
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小川谷 最初の滝(これにて小川谷下降はお開きです)
 残りは県民の森からは急げば四十分で着く玄倉に帰ることだ。次の便まで一時間は持ち時間があるので急ぐと暇つぶしに困るのでゆっくりが良い。弥七沢下の河原で、この時期には大音響をだして遊んでいるいつもの団体さん(遠く茨城・千葉等関東一円から集まる百人規模だが、どんな目的のどのような集団なのかマシラには不明で不思議に思う)も、林道閉鎖が理由かどうかは知らないが、現在はその片割れと思われる大テントが二張りに便所テントが一張りのみである。いったい、明日明後日はどうなるか分からないが今のうちは静かで良い連休中の河原だ。

 途中、喉が渇いたのでいつものパイプから湧水を頂こうとしたが、先客
(イガイガさん ご挨拶もまともにせずゴメンナサイ 山の中でも東沢径路への登り下りなど交絡する径路でしたが少しだけ時間帯が違っていて会えませんでしたね 残念)
がおられたので、そこはパスし下の立間橋上の湧水に口を接して飲む。名水と言われているのにすこしも美味しく感ぜず、苦みが喉の奥に残るのは事故を忘れるなという自然からの残滓/贈り物だと認識している。

 さて、玄倉には予定通りの4時少し前に着いた。その時間は本来なら自宅に帰り着く時間なので少々いらついていた。
 しかし弱り目にたかり目
 4時6分のバスは定刻を5分ほど遅れてやってきたが、何人か立ったままの乗客がいる状況で「直ぐ次のバスが臨時でやって来るから、それに乗ってくれ」と言って走り去った。「間に会うかな」
 そのすぐ来ると言ったバスは、それから10分ほどしてやってきた。案の定、清水の交差点手前で渋滞にはまり、谷峨には4:33の10分遅れの到着となり、JR国府津行きは既に発車した後だった。やむなく、そのままバスに乗り続けたが大型連休の最中に定刻運行はあり得ない。途中渋滞によりJRなら4:45には着くはずの松田に5:20過ぎの到着となり、遅い!高い!ユミコちゃんには「大遅刻だから明日からの外出は禁止!」と大目玉まで喰らってしまい、玄倉で無理してでも最初のバスに乗るんだったと反省した。まあ、そんなバスの渋滞に小言を言う暇があったら、山中でのルート間違い(御料林径路からワナバ沢下降ポイント選択ミス)を反省しな っていうのが本筋だろうな。


周辺のまとめ(参考)





自宅 6:30〜本厚木6:51〜松田7:23JR〜谷峨7:45富士急西丹沢行〜玄倉8:15〜青崩隧道下の玄倉川へ9:20〜玄倉渓谷(逆U字)経由〜玄倉第二発電所9:45〜同角沢出会10:10〜ダルマ石手前の堤防(送水線)10:45〜大欅沢出会11:30〜稜線(大石山の上の登山道)12:30〜東沢径路入り口12:45〜同角沢12:55〜東沢乗越13:00〜モチコシの頭13:05〜大タギリ13:40〜芋沢の頭手前から御料林径路を左に見て直進下降してワナバ沢出会で小川谷に下降14:20〜小川谷出会15:00〜御料林径路入り口15:05〜玄倉16:00_16:15臨時バス〜新松田17:22〜本厚木〜自宅18:00 曇り 山中では雲間に晴れの山歩きには絶好な爽快な天気でした。2008/05/04

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