ゲートを越えて歩くのは久しぶりだ。
 日の光さえ感じられるような薄い雲なのに、バスを降りたときから降る雨は林道を歩いている間中降り止まず、大倉に着くまでこんな天気が続いた。
 とは言えポツ ポツ ポツ/ポツ  ポツ 程度の雨は路面は濡れても、頭上を濡らす迄にはいたらず、この程度なら冷やしてくれる分だけ梅雨明けのジメッとした低地の林道歩きを快適にしてくれるから、かえって好都合とも言えた。

 車の通らない林道を一人歩くのは悪くない。
 周囲の立木を眺め、道ばたに派生する踏み跡の行き先を推察し、水溜まりを避けて進む。小尾根を回り込む地形にさしかかると、下から聞こえてくる瀬の音が今日の水量を普段より多そうに伝えてくる。本当はどうだろう。もう少し行けば分かることだ。本流から少しだけ遠ざかる窪地では蝉の鳴き声が木立を通して静かに聞こえてくる。それに自分の足音が重なる。
 どちらかというと、ペースは遅めだった。青崩隧道に着くまで一時間程度かかった。

 この隧道は現在閉鎖中である。
 閉鎖が開始されてから早3?年目。この間に行われた工事で見に見えているものはない。ひょっとして閉鎖ゲートの改造だけは行われているかもしれないが。
 地方財政切迫と言うことで神奈川でも工事財源が枯渇していると聞く。そうならば公共の利便性の少ない隧道なんて、崩落する可能性に対しては通行禁止処置を設定さえ行えば落盤事故が生じたとしても責任は逃れられるから良しとして、改善工事は費用捻出の目処が立つまで先送りしよう、と考えるのは専門家でなくとも想定できる。それに、全面通行禁止とうたっているが、電源施設工事関連と思われる車両が隧道の先で走っているのを何回も見ていることからは実際には隧道改良工事なんて着手しなくとも関係者の通行には支障ないことが想定でき、権利者にとってはいまの状態でも大型工事でもあれば別だが、改良工事の必然性が感じられないと考えてもおかしくないのではなかろうか。
 それに「早くやれよ」という山主や、ゴネ力のあるサロン系登山グループの圧力もなしとなれば、工事をやる大義名分も立たない。
 もしもそうだと想定したら、いつになったら、この閉鎖が解かれるのかは全く分からないことになる。もっとも車に乗らないマシラにとっては、定期観光バスでも走れば別として閉鎖だろうが開通だろうが山遊びのアプローチに何らの違いはなく、工事が進むとか停滞するなんてことはどうでも良いことである。
 いやいや 開通したら営業再開することになっているユーシンロッジに一度は泊まってみたいと思っているのだから、せめて日程の目処をつけてくれるとありがたいなあ。だけど、再開前にロッジが荒廃してしまって廃止を余儀なくされての閉鎖も十分あり得ることだろうね。情報公開なんて声高には叫ばないが、どちらにしても先の道筋を示すというのは大切なことだ。よろしく関係諸氏(神奈川県企業庁の方々へ)
 
 元に戻す。
 青崩隧道
 前回、通ったときに比べると色々変化がある。
 閉鎖してあるゲートを強行突破する為のものと思われる木梯子が封鎖柵に立ちかかっている。
 玄倉川に降りる踏み跡道には虎ロープが設置された。
 玄倉川に降りないで隧道沿いにショートカットを試みる猛者もいるようで、その跡も残っている。しかし、20m先で断崖に遮られて踏み跡道は途切れていることから、このコースはいまだ完成してはいない。完成に至る先も見通せない。クライマーが新ルート設置などとこだわれば可能性が無いわけではないけど、マシラを含めて登攀用具を持たない一般人が通行できるコースとしては設定は無駄な努力だろう。

 本日は前回途中の大雨で追い返された鉄砲木の沢にいく。
 まずは青崩隧道を通過せねばならない。
 玄倉川に降りる。
 ショートカットは好きだが、ここでは少し時間はかかるが、歩いて楽しく見て嬉しい逆U字状をたどることにする。

ヌメヌメと異様に光る岩肌 今日はどこもかしこもツルツルと滑る
 右岸女郎小屋沢右岸尾根に入る仕事道を通過したところで玄倉川を下ってくる登山者と会う。彼が言うに発電所方向から下降してきたそうだ。その隙のない格好、背にはカバーに入ったクライミングロープが乗り、ベテランというのがすぐに分かる。上流には同角沢下付近に釣り人が二人ほど入っているのみで、今日は静かな歩きが出来るからお勧めだとのことだ。

 アプローチの川音からは水量が多そうに想像していたが、実際には、上流の水はすべて発電所ダムが堰きとめ、流れているのはモチコシ沢からの分にとどまって普段と変わらず、そのモチコシ沢までは何回か飛び石を行えば水に濡れることなく達することもムリではない状態であった。
 逆U底突端からはいつもの通りに、モチコシ滝の下まで行って見物会を開く。大滝下の淵は踝までの深さとますます浅くなり、アプローチは実に簡単な方に変容している。

 だが、本流に戻ってからは面倒だった。
 水量はかわらない。
 向山大滝下も普通に通過だ。
 なのに何が面倒だったかというと、岩のフリクションが普段と違うことである。
 あたりの岩は言わずとしれたガンガンの石英閃緑岩に覆われている。この石の詳しい組成は知らないけれど、火山性の岩で白い地に黒っぽい線が混じっている。割れた岩の表層はザラザラとして、その場合のフリクションは極めて良い。水に洗われて岩の組成が表面に浮き出している場合も一般にフリクションはよい。
 だけど、今は露があけた直後で水苔の元気がよい。水から離れた岩は青みをもった苔に覆われている。そこに今日の雨である。ヌメヌメとしていて如何にも滑ると思わせる。
 他方、水に洗われる近辺の岩も、発電所ダムで水流が止められているので岩の表面には高機能素材のコーティングのようにオングストローム単位くらいの厚さで水苔が素材を覆い尽くし、本来の白基調から微妙に色合いを変えている。普段のように表面が乾いていれば、このコーテング材は機能せず、フリクションにほどんど問題はない。ところが今日の雨で岩の表面はすっかり濡れてしまっていて写真でとった画像を確認するとヌルヌル・ピカピカと異様に輝き、実際、足を置いても摩擦はほとんど感じられない状態だった。こうなれば水平面以外はスタンスにならないのだ。その結果、乾いた季節なら何も考えることも感じることもないままに通過するような瀞の通過が、相当面倒に感じられることになる。

2mを下るに使う捨て縄はちょっと短くて、滑り降りるのも勇気?が必要
 そんな場合には側壁には決して入らず、岩に触れず、瀞に入り、水溜まりを泳げば面倒を減じることは可能なのだが、全身ずぶ濡れになるよりは側壁をトラバースして、体を濡らすことなく通過する方が余程快適だと体に刷り込まれたプログラムは頑固に修正に応じず、どうしても岩の方に体が吸い寄せられていくのを止められない。
 特に正面が瀞・プールで、それを避けるとなると左(右岸)の露岩の上に上がり、残置のロープにすがって2m程下降しなければならない地点で摩擦が足りないと強く感じられた。いままで、何回も通過しているが、そこで躊躇したことは一度として無かった。何も考えなくとも露岩の上に上がり岩が乾いていればロープにすがることなく下降もしていた瀞の通過が、今日はイヤらしく感じたのだ。
 露岩を上がり、露岩の割れ目に打たれた二本のハーケンの上に乗り、残り1mでロープに手がかかるところまでは良かったが、そこで足が止まった。もう一・二歩が動けなかった。靴を通して感じる岩の摩擦はゼロ・踏ん張れば横に滑る。ダメならばと下に下るのも頼りなく、尻を着き滑り台の上を滑るように2mを下って瀞の前に戻る。やりなおし。
 でも瀞を通過するには3m位は泳がないとならないと思い知らされる。落ちても困るという状況では無いでしょと、さっきと同じルートで行こうと気合いを入れ直し、もう一度ハーケンに乗り、次の一歩は靴を押しつけてグリグリして、靴と岩が馴染んだと感じてから体重を一歩移すと残置に手が届いた。これでヤレヤレだったが、その先・岩を回り込んで下降する為のロープは流れに揉まれたらしく、安心して下降するために手首に巻いて滑り止めにするには長さが中途半端で、1mほどは飛び降りるような状態だった。下について、ようやく「ホッ」
 ハーケンはまだしっかりしていそうなので、次に来るときは交換用ロープを持参しようとおもう。そうは思っても、忘れなければのことだ。二週間前のことさえ覚えていない状態だから、たぶんマシラによって交換されることは期待薄だろう。

アッチガ沢F1を下から眺める こんなの登ったよな昔 今は見るだけ
 この前までなら一番面倒に思っていた最後の瀞は、踝程度の深さの小さな水溜まりとなっていて、ここは全く問題なく通過できた。
 沢って言うのは、このように次期や季節、年によって状況が大きく変わり、当然ながら遡行の難易度もその時々によって違う。このような変化があるからこそ面倒だといえるし、また楽しいとも言える。
 左に発電所ダムを睨みながら、隧道を潜って本流に落ち込むアッチガ沢F1の下に抜けてから林道に戻る。

 彼の人が言うとおりに同角沢下で釣りをする二人が林道から見えた。同角隧道先のゲートは柵はあるが施錠はされておらず、遠回りする必要はないのが助かった。

 ユーシン・ロッジへの入り口を左に分けて、直進する。玄倉林道は変化があり、長い道だが飽きがこない好きな道である。特にここから先は車道ではあるが、ときおり熊木ダムの整備事業の車が入るだけで車の轍も不明瞭なくらいだ。道の周囲の緑は映えて、しっとりとしていて散策気分で歩くには第一級の雰囲気を持つ道だと思う。欠点が一般車の終点から遠いこと。
 そんな感じで歩いていたので、「ウッ アレッ ココダ」危うく鉄砲木の沢の出会いを通り過ぎてしまいそうになった。

 何回も歩いているのに、

 鉄砲木の沢はナメの美しい沢である。危険な部分といえば詰めで稜線にでるところくらいかな。だが、マシラにとってはなにかと水とのトラブルに縁がある沢である。前回、ここに来たときは途中で大雨に遭遇して退散した。その前の時はアプローチでカメラが水難事故に遭遇してダメになった。今日は途中退却のリベンジも兼ねているのだが、さてこの先どうなる事やら。

 沢の状況は何回も紹介しているので省略・省略・もしくはショートカット

鉄砲木の沢の小滝 釜は深い
 林道から砂斜面を降り、砂防堤を右側から越える。次のも右側から。その次/集水缶のある砂防堤は左から越える。堤上には鉄串状の石押さえがあり、その先から小滝に小釜の本格的に沢歩きになる。 最初の小滝は丸太を渡り梯子のようにして通過する。次の小滝は釜の中に足を置いて流れの左側に取り付ければ登りは易しい。
 ナメを挟んで砂防堤(石+コンクリ)がもう一つあり、それをパスすると、この沢のメーンである連続四段の滝部分となる。釜深く一・二段目は右側から回り込む。三・四段目は巻き道を近くにとるのは地形的に不可なので、どうしても滝を登る必要ある。

四連の小滝群 いずれも釜付き 下二段は右から巻いて上の二段は滝を登る
 三段目3m・釜が深い。大の大人の胴回り程度の倒木が釜の底から落ち口に向かって立てかかっている。丸太はヌルヌルなので手がかりにはならない。釜の中を足探りして腰までの深さの位置で滝に取り付ければ、その先は難しくない、
 先ほどの丸太の上にハンドホールド用のテープが巻いてあるが、下降には有効だが、登りには不要だと思う。四段目も釜の中に入って滝の岩に手が届けば一気に登っていける。いずれも小さな滝だし、落ちても下は背が立つくらいの釜があるので水に濡れはしても怪我するような滝ではないから、思い切って突っ切ればよい。

四連滝の三段目 釜は深い 左の丸太の向こうで滝を左から登る 快適
 しばらくナメ状が続き、沢がP921を回り込むように左にうねり始める場所で沢は、いったん右に曲がる。その地点の小滝も釜の中に入ってから1.5m小滝を登るのだが、水の中のスタンスが悪く、思った通りには簡単に行かない。続く4m積み石の滝は左に迂回する。
 そしてナメが本格化する。ひたひたと石畳の上を歩く感触は悪くない。ときおり靴が滑るって事がなければ言うこと無しだが、それは安物靴に執着するマシラに起因するのであって、この沢の性状によるものではない。
 途中に前回、雨宿りにつかった倒木の位置を確認する。
 そこから歩いて十数分後にS字の小滝を通過して、さらにゴーロとナメ状石畳を歩いて、二俣に着く。

前回はこの下で雨宿りした後に引き返したのだった。下は快適なナメ
 雨はポツリポツリ。風に木がさやぐ。

 この二俣。
 いまは何も無いけど、平坦度と広さから、どう見ても人為的工作がなされた跡地である。それも小屋跡というより、ワサビ田があったか、三椏の栽培地だったのか、この場所で何らかの生業がなされていただろう事を想定させる程度の広さをもっている。
 さて、沢をこの先に進んでも崩落状態を経て山稜に至るのみで、顕著な滝などは無いと分かっている。そうであれば、この左右の二俣を分ける背後の分界尾根を歩いてみようかと思った。おそらく、生業がなされていた小屋の背後なら、少なくとも人が歩いて行ける道はあるだろう。そう思ったのだ。

二俣の平地 奥行きあり 作業場があった雰囲気である
 実際には、
 実際に踏み跡はあるが人為的な標識は何も無し。馬酔木系の樹木が密生しているが、尾根は人が通れるだけの踏み跡道がしっかりついていて木々に邪魔されることはない。。ただし、地形は思ったよりも複雑で地形図には表されない小さなピークが四つほどあり、各ピークの鞍部は小さいがそれぞれキレット状になっている。幸い通過困難というほどの険しさは無かったが、尾根がえぐれ、樹木の根っ子の下すべてに空間が広がっているような細い箇所、ピークを巻くためにそれを見落とすと、不安定な露岩を攀り登らねばならなくなるような箇所が何カ所かあって、思いの外に登山道までが遠かった。沢を詰めた方が工程的には余程楽かもしれなかったと思った。 たどり着いた地点は鍋割峠からP1108m方向へ僅かに50m程の場所であった。

二俣から分界尾根を登る。ルートは明白だが複雑な地形が続く
 さあ、余勢で鍋割山へ

 鍋割山は富士山がよい山だ。

 今日は見晴らしはダメかなと思ったけれど、後山の山稜が雲の分界になっていて渋沢の町の方は雲が無いが、山稜より右は雲海が流れ、その上にぽっかりと浮かぶフジサンが見えた。
 なんか格好いい富士山だった。

鍋割山から 雲海の上の富士山だよ
 そう言えば往路の電車の中で、富士山に行くらしいおばちゃんが 「今日はダメかも知れないけれど山の天気は下界とは違って行ってみなくちゃあ分からないから私今日は出かけてきたの」といっていたのを思い出す。

 それにしても、後沢乗越しの道は人がわんさかいて、これはオーバーユースだろうと思う。みんなどこに行くんだろう。
 えっ お前だってその中の一員だろう。
 そりゃあそうだ。
 せめて山道を崩さないよう、体重を掛けないよう、歩いて下ることにしよう
 (どう歩くのかって?? そんなこと知るかっ!) 

写真集です



自宅6:25〜本厚木6:51〜松田7:23JR〜谷峨7:50バス〜玄倉8:10〜青崩隧道9:05隧道にそう道?〜モチコシ沢出会い9:25〜モチコシの大滝見物_9:25_30〜向山沢大滝〜発電所下10:00〜アッチ沢F1良く登ったよね経由で林道_玄倉発電所に戻る10:10〜ユーシン10:45〜鉄砲沢出会い10:55〜鉄砲沢へ〜二俣11:45〜二俣の界尾根を登る〜登山道へ(鍋割峠の西方50m地点)12:15〜鍋割山12:35〜後沢乗越〜二俣13:15〜大倉14:00_08バス〜渋沢14:30〜本厚木14:50選挙活動で駅前は騒然〜自宅15:15 ポツリ ポツ ポツ・ポツ ポツ くらいの雨が最初からバスに乗るまで これくらいは一番山は歩きやすいよね 2009/07/18
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