今日はどうしても午後には出社せねばならなかった。ならば山なぞに出かけないで会社に行けばいいジャンというのが大方だろう。しかし、どうもストレスがたまり、床に付いてから起きるまでの間も”どう返答しようか”との思いが強く寝付けなかった。
そして指示に対する返答は決めたのだが、書く前に頭の中をすっきりとしておく必要がある。わだかまったままで記章すると私憤が残る。そして他人のメンツもつぶす内容にも気がつかずにヨシとして提出してしまうだろう。そうすると後でいろいろと気まずい事が起こる。
 まずはリフレッシュしてからだ。日曜日早くにに整理するというのもあるけど、日曜日くらいはユミコちゃんとのんびりしたいジャン。


2月24日(土)
 氷を見ないままに丹沢では冬が終わった。山に降った雪も積もるほどにはとうとうならなかった。
 夜明けも早くなり、四週間前なら真っ暗だった時間帯にヴィラ中川のバス停に降りたときにはすっかり明けていた。リネンサプライ屋さんの看板脇から笹子沢の右岸沿いに整備された車道に入る。前に歩いたときにはダートだった道はアスファルトに固められている。その道も笹子沢堤防までが車道だったのが、それより奥まで延長されている。眼下に見えるナメの流れの左岸には鉄網ステップ付きの仕事道がかいま見える。広い河原地の右岸側を埋めて車道が造られ、その分だけ川幅が狭まった。この道路がない頃には人為的なサクランボか栗林の果樹園風な雰囲気のあった河原の砂地には当時流れにさし渡してあった橋(角材2〜3本を集成したもの)が埋もれるに任されている。車道整備も悪くはないが、以前の良い記憶が車道のために壊されるのがモッタイナイと叫ぶ。しかし、他者にとってはたかが通りがかりの人の安っぽい思い出に過ぎないだろうかもしれん。

 車道は新設工事中の大堤防の手前で終わっていた。工事は進行中だが、早朝のためか無人である。それを良いことに堤防を巻いていく左岸のステップ道を避け、一番歩行が楽そうな川底を組み上げた鉄パイプの間をかいくぐって通過する。これで25m程の昇降エネルギーを低減することとする。
 そこからは以前の記憶どおりの道になる。
 仕事道は左岸に移り、欄干付きの道を辿って次の砂防堤を通過し、川沿いに歩くと防護柵に脚立が立てかけてある地点に着く(屏風岩山から笹子沢−イデイリ沢の中間尾根を下ってくる仕事道の入り口です)
 左から小さなナメ滝が合流する地点で仕事道は分岐する。一本は本流沿いに次の砂防堤を右から越えていく。もう一本は二本杉峠からの尾根通しの登山道方向に進む道である。ここは本流沿いに進む。そして砂防堤を越えたところから、ようやく本来の沢の中となる。
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最初の二段小滝(左側から簡単にパスします)
 笹子沢は出会いからこの地点までは道草しなければおおよそ25分くらいだが、距離が意外に長く流程の半分くらいに値する。距離の割に時間が短いのは傾斜が平坦なのと道が整備され歩きやすいことによる。
 ここまでがそうだから、沢に入ったと言っても踏み跡はまだまだ明瞭に続く。左手に入り口の広いガラガラ支流を見て右に折れるように流れは進む。仕事道はいったん右岸の杉林の中に入り、ナメの小滝(前に通過したが、下に深い瀞釜を持ち、なにか補助がないと水に濡れないでの通過は困難だ。)を通り過ぎた地点で沢に降りて終わる。ここからが本来の沢の歩きになるのだ。ゴーロを短く歩き、二段の小ナメ滝を左側から越える。そうすると水音が高くなってきて50mも歩くと右と左の流れの二俣になる。そして大滝が左右に立つ。二つは何回か見た滝である。左はナメ状に水が岩を這って流れ落ちる。右は水が一気呵成に落ち口から落ちる。水量は昨日の雨でやや多めだ。見慣れたと言っても何回見ても二つの滝を同時に見られるこの場所は豪勢だと思う。
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二俣 左の大滝

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二俣 右の大滝
 さて一通り見て楽しんだら中央の岩にリッジに取りつく。右の大滝落ち口左下5m付近までは傾斜もソコソコ、立木やホールドも豊富で簡単な登りだ。問題はそこからの登りである。前回には右の落ち口に続く岩のバンドを辿ったが落ち口の直上2mの地点まで進んだところで、下に20mの遮るものない垂直の落差の存在に怯えてしまい、落ち口に降りるための確かな手がかりが探せず、そこから撤退したのだった。そして左俣方向に登って大巻きをして大滝に続くゴルジュ帯をパスして右俣に戻ったのだ。

 前回が、そうだったというのは忘れていた。会社に一回行って自宅に二度目の帰宅をして
 「さあ 忘れる前にちょこっと書いておこう」
 「でも最近は書くのが億劫だから前回のレポートで使えそうな部分を抜粋し、アレンジし直して済まそう」なんて考えて前の文を読んで
 「ああ そうだったんだ」
 というんで思い出したのだから、今回の巻きの最中には前回がどうだったかなんてまるで記憶に無かったのだ。
 そんなだから、当然のように今回も落ち口へのバンドに進む。バンドと言っても水平ではなく、右上がりの傾斜の細い岩棚の上に泥が乗ったもので手がかりは岩の角が使えるが足元は泥により滑りやすく安定しているとは言えない。だから頼りにする岩は万が一ぶら下がっても体重を支えるだけの大きさと角度を有し且つ絶対に浮き石なんて掴んじゃダメダ。自ずと慎重になる。落ち口まで上がり、灌木を支えに写真を一枚撮る。さて、それから 灌木から1m程上流側に進む。落ち口からは1m程進んだことになるがスラブの岩は全てが落ち口方向に傾斜を持っていて、落ちたら滝の上の小さな瀞釜で止まるという確証は持てない。おそらく前回は、この状況から無理するなと撤退したんだろう。さて、今回も一歩は踏み出したが、そこから先は躊躇した。いったん灌木まで撤退する。しかし、滑りやすい泥のバンドを先ほど通過する際にこねくり回して更に滑りやすくしてしまったのだから戻るのも面倒だ。何とかならんだろうか。確保用ロープでも持っていれば灌木に支点を取って万が一の用意にすれば安心して通過は出来るだろう。戻されたからといって決して難しい岩場ではない。スタンスだって現に見えている。ただ、眼下は20mの垂直な岩場である。足場はどちらかというと上方向に多く、それに従うとスラブの岩場の中央に引きずり出され沢への下降が出来なくなる。どうしても立木から一歩だけ岩場を上がったら、そこからは下方向に降りなくちゃあならない。そのような状況の中で、もしも滑った場合に体重を支えられると思える確かなホールドが見あたらない無いだけ。滑らないという確証があればどうと言うことのない二歩・三歩なんだな。
 岩の持ち方をグリップ力が少しでも増す方向にと何回か変え、足元を確かめ、体重の支点を50cm下げる。左右の足を踏み換え、右足を上流側に踏み出す。ホールドを掴み直す。右足を左足に踏み換え支点を更に20cm下げる。右手のホールドを左手に移し替える。何事もなかった。あっては困るが、発生する可能性が0.1%でもあれば躊躇して当然だろう。その動作まで達すると、やれやれ、これで滑っても下の小釜の中で少し濡れるだけとなり下降は終了する。
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大滝上のゴルジュ(小滝が連なり通行は困難)
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ゴルジュの出口は5m滝(4m?)流れ右手を登るが3m登って落とされる(下はクッションなので問題なし)
 さて大滝の上は小釜を挟んで2m程の小滝である。しかし小釜はパスするのが難しい。左右のスラブはすべすべで手がかりがない。釜に入っても、そこも滝も登るのは面倒そうだ。とりあえず釜を浅くするため、釜の出口の堰になっている枯れ葉に石を取り除く。取り除いた石が豪勢な音を立てて滝下に落下する。水量も一時的だが通常の二倍くらいにはなっただろう。しかし、釜の深さが20cm程減っても、その小滝を登れるようにはならなかった。釜の中にあった1m程の流木を立てかけて梯子にしてみたが、それでも高さが足りない上にモロ・シャワーになることが目に見えているので、登るのはあきらめた。暖冬とは言っても冬の行水は修験者でも無い限り免責に願いたい。
 幸いに左岸には大滝落ち口方向に岩のバンドがあり、それを落ち口上まで戻ってから小リッジを5m程上がると傾斜の緩い岩棚が下のゴルジュに沿って続いていて、先ほど突破できなかった地点を眼下に上流側に進み、5m滝の手前で沢床に降りることになる。
 5m滝だが水の流れている部分は傾斜がきつく登るのはきつい。右手が小さなふくらみを持っていて、そこには手がかりもありそうで簡単に見える。だが、実際に取りついてみると手がかりは逆層なため、しっかりとつかめなかった。それに乾いてフリクションが利きそうに見えたスタンスも滑りやすく、おまけにせっかくの手がかりなのに岩が脆い。案の定、3m程登ったところで足が岩から外れ、そのまま落下してしまう。下が岩の集積地なら大事故に至ってもおかしくないが、心配はご無用に願いたい。下には枯れ葉と砂がクッションとして1m以上堆積していて難なく軟着陸するのだ。でも最初からそんな状況が分かっていたからこそトライしたのだが、一度落ちると再びそこを登るのはあきらめなくちゃならなかった。5m滝の10m手前の急斜面を涸れた珠洲竹を頼りに登り、灌木帯に入り、小尾根を20m程進んでから別の小尾根を下降し、5m滝に続く2m程のスラブ滝もパスした地点で沢に戻る。
 これで笹子沢の滝見としての核心部は終わる。滝場の急傾斜はリセットし、上流には緩やかな広い河原に沢が流れる。暑いので二枚の服の前ボタンとファスナーを開けて歩く。あたりからウグイスのさえずりの練習音が響く。仕上げるまでもう二週間ほど必要だろうか。白っぽい大岩の岩の先からは小石がゴロゴロする河原である。その中に樹齢数十年以上は経過したらしい灌木が多く立つことから、この沢では滅多に急流になるなんて事が無いんだろう。やがて穏やかな沢の中で、一段高まった台地に小屋のあった地点に進む。今は朽ちてつぶれた残材が残るのみだが、放置されているビニールホースなどの様子からS40年代くらいまでは使われる小屋だったんだろうと思われる。右に左の尾根にと仕事道が伸びているように見える。あたりの尾根は低く近い。

 小屋跡を出ると、すぐに小滝が迎える。そして奥の二俣となる。
 左が本流だと思うが、今日は右のほうに入ることにする。入り口から奥に滝みたいなものが見えているんだから、ついつい「この先 なにがあるんだろう」とワクワクしてしまうから当然の選択だと思う。
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奥の二俣を右に入った先にある8m滝(右手から簡単に登れる)
 入ってすぐに2m程の小滝が迎えてくれる。そこから急に狭くなり右に小さく曲がり3m+6m滝と続く。6mの傾斜はきついが右から回り込むと階段状のステップが登りを易しくしてくれる。続くのは急なガレ石に覆われた流れで水は消える。そして傾斜を更にまし、両岸が狭まり、その狭さに転げて来た岩が引っかかって出来たCS(チェック・ストン)が二個続く。最初の高低差2m程のCSは易しく見えたが実際に取りつき急傾斜なルンゼ状の中からCSの外表面に出てみると下までの距離はとても2mなんてもんではなく、もしも落ちたら10m以上はあるなんて気がつくと足が震えてしまって止まらない。そうなるとニッチもサッチも・ほうほうのていで登り切る。CSは更にもう一つ続く。沢幅が岩が引っかからない程度に広がるが傾斜は一向に減じないままに、心臓が破れかと言うほどの長さを歩いて、実際はたいした距離ではないはずだが、やがて2m程の小さな崩落帯を乗り越すと沢は終わる。そこから5分と経ずに登山道に出る。屏風岩山の右250m地点にあるP1050mから大滝峠口への仕事道を150m行った地点で湘南アルパイン・ツワー・クラブの宣伝が木に掲げられている場所である。
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急なルンゼ状を登る(急で息が切れる)
 軽く歩いてP1050m迄行く。朝方松田付近ではピーカンの空にくっきり浮かんでいた富士山には須走側から雲がかかり半分隠れて見える。しかし空は青くくっきりとまぶしく春に輝いていた。今日はこの景色を求めてここまできたのだ。

 下り
 今日は大滝峠入り口への道に引きずり込まれることなくイデイリ沢と笹子沢の中間尾根を下る。
 下降開始してすぐに大滝峠入り口への水平経路を見送り、次にP666mへの分岐を左に見送り、更に下降してP669mから一端右手の小尾根に誘い込まれそうになったが(そのまま下降すると30数年前と同じように笹子沢右俣のゴルジュ帯の上に降りる)今日は面倒がからずに戻る。続いて下降していくと次は小ピークP467m方向への踏み跡(赤杭あり)に誘われ、でも戻ったのは良いが、今度は大滝直下の地点に下降する踏み跡に誘われる。このように今日は何かと誘いの多い下降路である。急いでいるから次にしてよと思わず喉から出てしまうくらいだ。しかし”忙そがわ回れ”は本道である。下からの滝音を聞いて”あれっ間違ってる”と気がつくのが少し成長したアカシかな。左手方向の珠洲竹の中の薄い踏み跡を見つけ、遮二無二横断し本来の仕事道に合流し、そこからは順調に下降して予定どおり脚立を使って鹿柵を乗り越えて笹子沢沿いの渓流道にでる。
 この道は下から登るのなら間違いは少ないが、そう思っているのはマシラだけかもしれないが下降に使うと各所に間違いを誘発するためのトラップを備えていて、なかなかやっかいである。もちろん機器を用意し示された道を歩く人には間違いなんて起こらないだろう。

 砂防堤では複数の人が工事に忙しく、通りかかったマシラなどには見向きもしない。


 帰宅して昼飯も食わずに出社し、結論は決めてあったレポートを書いて提出しておく。でも、たった五行の作文に5時間もかかっちゃった。多分、月曜日 もう一度呼び出されることになるだろう。意見を変えるつもりは無いが指示には従うつもり。すこし憂鬱。



前回の笹子沢 2003/03笹子沢右俣(中川)

自宅4:50〜本厚木5:16〜新松田5:55富士急バス〜ヴェラ中川(笹子沢橋)6:55〜新築中砂防堤下7:15〜最後の砂防堤7:30〜二俣(大滝下)7:45〜大滝上8:05〜ゴルジュ帯通過8:25〜小屋跡8:40〜奥の二俣8:45〜稜線9:20〜P1050m9:25〜笹子沢中流域への下降路(仕事道)を下る〜笹子沢経路(脚立)9:55〜笹子沢橋〜細川橋10:05富士急バス〜谷峨10:45JR〜新松田11:04〜本厚木〜自宅11:50〜12:30ご出勤;今日はただ仕事日だ。 山の中では暖かく汗が出るほどだったが、谷峨まで帰ってきたら冷たくなり、出社するころには北風に体が押し返される程の天気。作文を一本したあとで、安心したのか机の上に一時間ほど居眠りしちゃった。だから作文時間は本当は四時間だった。早く帰ろう! 2007/02/24
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