
「そこの橋にところでお願いします」
”悪沢”はバスで行ってもアプローチゼロで入渓出来る都合の良い沢だ。交通の便が簡単な丹沢でもとびきり短いアプローチである。また、出会いから詰めの終わりまで、次から次と滝・ナメが連続するのも特筆に値するだろう。石がゴロゴロした沢は歩きにくくてイヤだという人にもバスを降りた地点からF1迄の間が唯一顕著なゴーロであり、その間たった80mでも一番長いゴーロということからもお勧めの沢だろう。もちろん、沢の醍醐味は滝を登ることに尽きるのだが、険悪な相が漂うF2を除けば、どの滝も原則的には確保手段をそれほど期待しなくとも (事故の責任は自己に帰すことはお忘れ無く) 持たなくとも登ることが出来るからマシラのような単独者には嬉しい。
それに何より、水に磨かれたナメスラブ岩の上に薄く広がる水の中に足を踏み入れて歩く距離がかなり長いのに、水深は多くの場合0〜3cm程度の所にスタンスがとれるので靴の中が濡れてこない(マシラの穴あき運動靴ではちょっと無理だというのが難点)という涼味あふれる沢歩きが楽しめるのが、今日のように「気温も湿度も今夏一番の高さとなるでしょう」と言われている日には一番ふさわしい沢だと思う。
悪沢 F1 8m(一説には15mという場合もあるらしい)
バスを降りて10m歩くと沢の中である。木立の彼方に最初の滝(8m)が見える。バスの中の最後尾に、ついさっきまで寝そべっていたので、寝ぼけ眼が覚醒するにはF1までの距離がたった80mでは時間が足りない。足りない分はF1を登って体に恐怖心を植え込むことで補うことにする。とりつくと降りかかる飛沫がバランス感覚の中枢に対して、早くしないと全身ずぶ濡れになってしまうから 急げ!と刺激する。
流れの左側の大まかなホールドを掴み、岩の角に靴を引っかけフリクションを利かせて登る。見た目の悪さよりは割とがっしりと岩を掴むことが出来るので、見かけよりは易しい登りだが、降りかかるシャワーを避ける事が出来ないのが難点だ。滝の上は中川地区で簡易水道として使われていた時代の取水堰の名残になっている。送水路は下の県道沿いに中川の玄倉寺まで続いている。
ナメを挟むと谷間は、それまでの明るい沢だったのが、うねって暗い峡谷風に変容する。そして狭まった谷間の奥にF2(18m)が姿を現す。滝までのアプローチの足場は良い。
F2は左岸手前の岩を回り込み、窪地から上に回り込こんでから、トラバース気味に水際に寄って登る。古い記憶では、たしかそうだった。しかし、その記憶どおりだとすると、その当時、フリクションを利かせて行うトラバースだった箇所が、今は草付きになってしまっている。あまり人が登らないので、長い間に苔が這え、草に変わっていったんだろうか。あるいはマシラの記憶が間違いで、間違った記憶のトラバース箇所より、現実的には可能そうに見える5m下の垂壁をトラバース(シュリンゲが点々としている)が本来のルートだろうか。どっちにしても今現在、草付きをフリクションを利かせるのはちょっと無駄だろうと思う。
それに過去幾多の事故の発生箇所でもある。当然のように右岸の植林整備道から巻く。
悪いことで有名なF2 18m
その整備道があらかたF2を巻き終わり水平になった鉄板製の桟道中央部分から虎ロープを頼りに10m下降し、その下は枯れ葉をブレーキ代わりにして凹画の岩溝を滑るようにして降ってF2の落ち口に立つ。
F3は5〜6m 下に小さく釜を持つ。その釜を左側から回り込んでから岩を攀る。黒っぽい岩はフリクションが利き、滑る気を微塵も感じられない快適な登りである。
ただし、滑らないとは思いつつ、何時滑るかも知れないという気構えだけは忘れるなよとは言い聞かせる。特に快調快適なときこそ、その一歩が・・・・アブナイ・・・・って 分かり切ったことだけど。
う〜ん でも うまく行かないな 最近 ちょっと事故続き
もちろん山での事故ではないよ。
一件の処理が片付いたトタンに次、そして次 油断しているつもりは無いのだが
「マシラの職場で事故がしょっちゅうあるから、安全衛生スタッフの感心がそっちに向かっていてくれて、俺等管理の手が抜けて大助かり」なんて、他の職場の管理職から告げられたりして・・そんな日はコンチクショウ!憂鬱そのものだ。・・・・・明日の日曜日も、その件(たとえ赤チン災害でも労災事故はクライス管理の一環として現場に説明させるのが管理方針らしい)での役員さんへの報告準備とネガティブな仕事が続く・・梅雨の雨は降らないけれど気分は梅雨の真っ最中のように憂鬱そのもの・・でも、そんな話しはまた別の機会にでもしよう。
当然だけど、滝は何も問題なく登る。事故は無し。
ナメが続く。
暗かった沢は開け、明るくなる。
そしてF4 20mは流れの右側から取りついて登って、一気に登り切ったと言いたいところだが、やはり、これだけの高度差がある一枚岩の滝ともなると悪い方の場合のことをついつい考えてしまう。その先もフリクションは良さそうだが、一度怖じ気づくと気を取り直すのは難しく、自信が持てない。そこでいざ、高度が増してくる地点からは右の砂の斜面に移って10m程登り仕事道に出て逃げる事になる。仕事道はステップの鉄板が部分的に曲がっている箇所もあるが、F1下からF4の上まで十分に安全に導いてくれるように設けられている良い道だというのも安易に巻き道に逃げたくなる理由の一つだ。
綺麗なナメがここからはずっと続く。
滝もいくつもいくつも出てくる。
その都度メモには記録するが、たくさんあり過ぎて、頭の中ではどこがどんな状態だったか整然とは整理が出来なく、メモ用紙とデジカメ写真を照合して、ようやく「そうだった そうだった」と思い出す。他の沢であれば、それぞれが記憶に残るような場所も、この沢では一括りにされてしまうのである。言葉を換えれば、下部の大滝のような印象強く顕著な滝は、中盤以降は出現しないという事でもある。
スラブの6m滝(左側から取りついてはみたが2m登ったところで諦める
だからと言って、そこからは貧弱な沢だと言うことではない。あまりに小滝が次々次と出過ぎるんだな。それが一つ一つの印象を薄めてしまうのがもったいない言える。
ステップ鉄梯子付きの二段の砂防堤(石を可愛くコンクリで丸くまとめている)に続くミニゴルジュ奥の6mスラブ滝は左側をトライしたが2m登った先の一歩が無く、もう二歩ほどで登り切れるとは思ったが、高くなってダメとなると滑ると言うより落ちる形になるので諦めてズルズルと滑り降りる。巻き道が左岸に着いている。
3m程の小滝の上流で二俣に分岐する。左は湧水帯を過ぎると流れはなくなる涸沢だ。右の本流は5mの立った滝が待ちかまえる。前回は、この5m滝が怖くて登れなかった。しかし、逃げるとなると5m滝の割には大きな巻きが必要だった。そういう面倒な事は嫌いなマシラは、今回は素直に登る事にする。流れの左側からの窪地から一段上がり、落ち口に向かうバンドを足場にして登る。上半身が押し出されるような姿勢になる場所だが、ここで困った人は多いらしく、その場合への回避用シュリンゲ付きハーケンをバランスに使わせてもらって右足と左足のスタンスを流れの中で入れ替えると、体重をがっしりと確保できる岩角に手がかかり、簡単に登り切ることが出来る。下が登れたのなら続く二段の5m滝は落ちても痛くない滝だから簡単だ。
奥に見える5m直瀑 直ぐ上に二段5mと続くがここからは上は分からない
右手から涸棚5mが合流した地点からは岩質が変わる。そこまで黒一色だったのが、淡い灰色一色に変化する。ただし、その岩だけが単独の区間は短く100m程で終わり、次には石英閃緑岩が混じる。それから元の黒っぽい石も再び出てきて、織物の縦糸横糸がジャガード機に操られて作られる模様のように岩の形態も変化する。それまでは滑らかだったナメも岩質の変化に対応したかのようにゴトゴトした岩床に変化して、それらが部分部分で途切れ、途切れた地点と次の地点の段差が小滝となってお互いをつなげる。それらの中に急で登るのが困難な滝は無い。
静かに石英閃緑岩の岩床が続く
沢が右に折れた地点に立つ20m滝は黒色の岩で出来た滝だ。高度は高いが岩の節理が水平に走り、順層のがっしりとホールドと、運動靴をおける程度のスタンスも作ってくれ、おまけにフリクションは良いときている。そんな状態だから、20mもの滝を登っているという感覚もなく簡単に登ってしまえるのだ。
次の6m滝は水の中のフリクションがよい。四段の緩い傾斜の15m滝、5m滝と続くが難しいところは何もない。
やがて、正面は滑床が光り、左は深い沢が続く二俣へ着く(左が本流)
本流ではない正面のナメ床を選ぶ。岩は石英閃緑岩一色のざらざらとした岩肌を持ち、緩い傾斜が付いた平らな岩の上を表面を降らす程度にだけわずかな水が流れるだけの易しさだ。そんな岩の上だからカメラを片手に持ったまま、反対の手で時々岩の表面の表面に触れる程度のバランスで登ることが出来て気分がよい。
そのナメが若干だけ傾斜を増し、そこからは両手でバランスを取って10m程登るとナメの詰めは2mの急な滝となる。それを右手から回り込んで沢に戻ると巻く前のと同じようなスラブの岩が更に50m程続く。
もう少しで稜線というあたりでスラブの岩の上をヒタヒタ登るのだ
岩の上に泥が乗り、間伐で切り倒され、短尺にそろえられた丸太が何本か沢の中に転がり落ちてくるようになると上に稜線が見えてくる。空に浮かぶ青葉が今日は綺麗。
急斜面をひと登りすると、その稜線に付く。
屏風岩山の手前のピークまで行く。くっきりとした富士山を眺める。植栽林の柵の向こうに葛飾北斎の富岳百景の雲型のような残雪が丹相甲国境の山々の上に浮かんで見える。屏風岩山からの景色はそれで十分だった。
富士山(屏風岩山の山頂手前のピークから)
大滝峠入り口への下山路に入り、平坦地を通過しP965mを通り過ぎてから斜面を降った先で台地が右手に膨らむ地点から、箱根屋沢と悪沢の分界尾根に入る。
以前から何回か、この尾根を降ってみたいと思っていたが、分岐を見過ごしてしまったり、見通しが悪くて下降方向に確信が持てなかったりして、いままで、この尾根を試したことがなかった。
今日は天気は良い。それに中川11時8分発のバスまでは1時間30分はあるから、多少は間違っても余裕時間を修正に当てる事が可能だ。
踏み出すと、直ぐに道が見つかった。整備はされていないが、確かに人によって踏まれた道である。上の稜線近くでは見あたらなかった黄色のマークテープも何カ所かあった。細いがしっかりとした尾根が≒850mのピークまで続く。
850mのピークには、屏風岩山にあったのと同じな登山プレートが朽ち木の上にセットされていた。このプレートは方向を示し、注意点を記す金属製である。屏風山頂のより新しく痛んでいないのは、周囲の木々により風雨から保護されてきたからだろう。おそらく、この尾根も屏風岩山に登るにふさわしいとルートと篤志家の方が整備されたんだろう。
しかし、登山標識に浮かれていては、この尾根は下れない。あたりは大きな杉の木のなだらかな斜面に変わり、尾根は三方に別れて降っていく。見通しが利かず、なだらかな山頂というのは方向を見間違う典型的な地形である。
P850m(標高点ではありませんので推定)に立つ山標識
その三方の下りのいずれの方向が正しいのだろうか。最初は最左手の夏葉樹の尾根に入る。ひとしきり下るが、右手の尾根の方が良さそうな気がするので、次に最右手は杉の林の中を探る。下の方向は見通しはここも無し。そこで真ん中の尾根を試したが、直ぐに急な斜面に代わり、沢の中に一直線で突っ込んでいく気配である。
やっぱり最左手の夏葉樹の尾根が正しいんだろうか。もう一度、その尾根に入り、今度は前よりは少し長く5分ほど降ってみるが、やはり沢の中に入っていきそうだ。
地形図を持っていけば、こんな迷いは事は無い。
850mのピークは標高点ではないが、標識も設置されているほどの顕著な尾根の末端だから、それを地形図上で特定できないことはない。そうするとP850mから先は緩やかに三方に膨らみで、それぞれが降って行けそうな三方の尾根であっても、地形図で現在地を定めさえすれば、容易に最右手(P850mからは直進する方向)の方向に進みのが正解だといっぺんで選択できるのだ。
しかし、地形図がなく、下方の見通しが利かないとなると、それこそ山勘で方向を定め、出来るだけ早く五官を利かせて修正するトライ&エラーのやり方で進むしかない。実にまどろっこしい。ついつい勢いに任せて沢に下って、そこから下流に下っていきたくなる。
五分で降ったところを10分ほどかけ登り返し、次に最右端の杉の林を進む。100m程下降した地点で下に尾根状が見えてホット一安心する。そこからは境界杭もしばらくはあり、踏み跡も明確になり、さあ残りは楽ちん下降できるだろう。そう思ったところで再び踏み跡不鮮明。なだらかな山稜に誘われて浮かれて歩いた結果どこかで仕事道をまたまた外したのだ。先ほどと同じように下降を二度ほど繰り返してはためし、最右手の方向の踏み跡を下降する。
おそらく、この踏み跡は正解の道ではない。もっと容易な道があると思うが、それでも、ブッシュ帯にあって下降に苦労することはなく、踏み跡の気配が全く消えて方向に迷うとか急斜面の中で下降に苦労するなんてこともなく、気がつけば自動車の走行音が響いてうるさい箱根屋沢橋の袂に降り着いた。
迷ったので時間は想定よりはかかったが、中川発のバスには十分な時間があり、その余裕でもって悪沢F1に行き、山で付いた汚れを落とすため山パンと靴の洗濯を行った。割沢橋 (悪沢出会いにかかる橋)には朝方には無かった車が二台停車中。その横で流水で洗った靴下を絞る。車のうちの一台はゼフィルスさんのものらしい。
写真集です お時間あればどうぞ
自宅4:55〜本厚木5:16〜新松田6:00富士急バス〜割沢橋6:55 悪沢出会〜F2悪沢7:10〜小型二段砂防堤7:45〜ゴルジュ帯奥6mスラブ滝8:00〜20m滝8:45〜二俣9:10〜稜線9:30〜屏風岩山手前のピーク9:45〜大滝口への尾根を下降し、P965mから少しくだった地点から箱根屋沢と悪沢の分界尾根に入る。9:50〜P850m(登山標識あり)10:00〜箱根屋沢橋(下降終了)10:40〜悪沢F1下で水浴び10:45_55〜中川温泉11:08バス〜谷峨11:47〜新松田12:04小田急〜本厚木〜自宅12:50 2007/06/16
箱根屋沢と悪沢の分界尾根は踏み跡があり、方向を誤らなければ屏風岩山から中川温泉までを最短で下降できる尾根だと思う。なだらかな部分での杉林の中で迷わなければの前提付きだけどね。
富士山がくっきりとして梅雨入り二日目にして早くも明けを感じさせる五月晴れの一日でした。
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