2003年6月20日に、以下のような報道がありました。
無断で肝炎検査、採用取り消しの公庫に150万円命令
採用時の健康診断でB型肝炎とわかり、内定を取り消されたとして東京都内の男性が国民生活金融公庫を相手に1500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が20日、東京地裁であった。伊藤由紀子裁判官は「同意を得ないウイルス検査でプライバシー権を侵害し、違法だ」と述べて慰謝料150万円の支払いを命じた。
判決は「企業は特段の事情がない限り、採用時にB型肝炎感染の有無を調査してはならない」と指摘。ただ、不採用については「正式内定日は10月1日で、それ以前の不採用は不法行為にあたらない」と判断した。
判決によると、男性は大学4年生だった97年、同公庫の採用試験を受け、4次にわたる面接を通過し、6月の健康診断で感染が判明。数度の検査を経て7月に不採用の通知を受け取ったが、すでにほかの金融機関の内定を辞退した後だった。
男性は、血液検査の結果で採否判断をしないよう通知した労働省(当時)の行政指導に反することを公庫に伝えたが結局不採用になった。
<同公庫総務部長の話> 一部主張が認められなかったことは遺憾で、判決内容を検討して今後の対応を決めたい。 (asahi.com 06/20 21:19)
今回いくつかの採用の話を聞いていると、最終試験と思われる試験と同時に採血を含む健康診断を実施し、その後当落を発表している会社があることがわかっています。この手順だけを見ていれば、健康診断の結果で何らかの判断をしていないという保証は全くありません。
労働安全衛生法第66条(文末参照)により、従業員に対する健康管理は企業側の義務とされ、企業の費用にて定期的に健康診断を実施しなければいけません。同法では従業員側も受診は義務としていますが、生活習慣病やガンなどの定期的なチェックができることはある種のメリットとなっています。また当然ながら個々の従業員の健康状態について会社は知りえません。(とはいえ労働組合のような第三社の目でチェックできるような会社でなければ、その実態は分からないとしかいいようがありませんが。)さらには、疾病を理由に出勤停止・自宅待機を「命じる」ためには、あらかじめ具体的な疾病名を列挙した上で就業規則上に明記しておかなければいけません。
しかし、就職活動の学生は従業員ではないため、労働法上の保護や就業規則上の制限を受けることはできません。採血から得られる情報は多岐にわたり、極めてプライベートなものです。企業がその情報を(公式に認める認めないは別にして)採用の参考にしうる立場にあることは、個人情報保護の観点からも、就職の機会均等の面からも、極めて問題が多いのではと思っています。
厚生労働省の「採用のためのチェックポイント」では、「特に必要な場合を除く健康診断などの実施」は「採用選考上避けるべき項目」としています。当然肉体労働が中心となる業種ではある程度考慮されることもあるでしょうが、広告業界で「特に必要な場合」とはどんなことをいうのでしょうか。それでも健康診断をするというのであれば、採用者は特に必要な場合として「採用見送りとなりえる疾病や健康状態」を「事前にかつ具体的に」受験者に説明し、それ以外の情報は利用しないことを明示し、合意の上健康診断を実施する必要があるでしょう。また労働安全衛生法第66条の5(文末参照)に相当する権利として、受験生自ら外部の健康診断を受診し、(クリアすべき)必要な項目だけが記載されている診断書で会社の健康診断を代替するような措置も権利として担保すべきだと思います。
※広告業界では印刷物を取り扱う関係上強度の色弱は採用しないと明記されている場合があります。このような措置はある程度の合理性があると思われますが、そのことを事前に告知し、受験者の同意を得ておくことが重要なのです。
内定告知以前に健康診断・血液検査を実施し、その後不合格とすることは、履歴書、エントリーシートなどの提出物や面接での評価と違い、本人が知りえない重要な情報を会社が持った上での結果となります。実際は健康上の問題ではない観点で不合格となる場合がほとんどでしょう。しかし、受験生にとって、今後縁がない会社に重大なプライベート情報を持たれるということは、極めて不愉快かつ不安なことなのではないでしょうか。(1)まずは人物評価の選考だけで内定を出し、(2)入社の意思を確認し、(3)内定取消となりえる疾病を明示し、同意を得た上で健康診断を受診させるといったフローにすべきでしょう。
採用時の健康診断(が現在行われていること)の法律的根拠については、今後労政事務所、労働基準監督署、顧問弁護士などにヒアリングをしていきたいと思いますが、現実的に「血まで抜かれて不合格」となった受験生のことを考え、今後問題提起をしていきたいと考えます。受験生の方からの情報をお待ちしております(こちらからメールでお願いします。)
参考:労働安全衛生法第66条(健康診断)
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行なわなければならない。
(2〜4略)
5 労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。
※コラム「健康診断するということは、内定したということ。」もご覧ください。