歯科臨床特集 「不良な根管治療」

このレントゲン写真の患者さんは、
1999年11月、上顎左側側切歯(ほぼ写真中央の歯)が
「グラグラして痛くて噛めない」といって当院に来院されました。
患歯は他院にて根管処置がなされていたものの、
レントゲン写真でも明らかなように、
根管の充填物と歯質との間に隙間(黒く写っている部分)が見られ、
緊密な根管充填がなされていないことが分かりました。
そして、このいいかげんな根管充填が原因と思われる、
歯の根の先端に膿がたまる病気(根尖病巣)ができていました。
ただちにねじ込まれていたピンと不良な根管充填物を除去し、
感染した根管を拡大・消毒する治療を開始しました。
約1月半、数度にわたって根管内を消毒、
細菌培養検査を行って根管内が無菌的になったことを確認した上で、
通法に従って、ガッタパーチャというゴムのような樹脂で
緊密な加圧根管充填を行いました。

2枚目のレントゲン写真は根管充填後約1か月経過した時、
2000年2月に撮影したものです。
根管の充填物は以前のものと比べて太く、
しかも根管内壁に隙間なく密着しているのが分かります。
また、根尖病巣も以前の写真と比較して小さくなってきているのが
はっきり分かります。

3枚目のレントゲン写真は根管充填後1年を経過したときのものです。
根尖病巣はほぼ消失し、治癒に向かっていることが分かります。
ただし、このままの状態では歯は枯れ木のようなもの。
だんだんともろくなって破折し易くなります。
そこでメタルコアという芯棒を立てて歯を補強して、
歯冠修復物(クラウンなど)を被せて治療完了となります。
以上の症例を考察するならば、
この患者さんが当院を訪れる数年前に他院にて治療したとき、
きちんとした根管充填がなされていれば
このような事態には陥らなかったはずです。
当院で根管を消毒して緊密に充填しなおすことで
治癒へ向かっていることでも明らかです。
つまり、いいかげんな治療が原因となって、
根尖病巣を作らされてしまったのです。
では、なぜいいかげんな治療になるのでしょう。
いいかげんな治療をしたからといって、
必ずしもこのよう不都合を生ずるとは限らないことも、
不良な根管充填を生む原因の一端です。
が、一番の原因は不当に安い保険の診療報酬です。
つまり、きちんとした治療をしたくても、
薄利多売を余儀なくされる日本の保険医療制度の下では、
治療に時間をかけたのでは医院の経営が危うくなるので、どうにもならんのです。
ではこの患者さんに当院が施した、根管充填の方法を説明いたします。

これはガッタパーチャというゴムのような樹脂でできた根管充填材です。
番号は先端の太さを表わしており、45=0.45mmという意味です。
上の写真は主ポイントと呼ぶもので、
リーマーやファイルといった、治療用器具で拡大した根管に合わせて
色々な太さのものが用意されています。
しかしながらこのまま根管内に入れるだけでは緊密な充填は望めません。
シーラーと呼ばれる、充填後に硬化する充填補助材を
ガッタパーチャにまぶして根管内に挿入し、
スプレッダーという針のような器具で、
ガッタパーチャを根管壁に圧接して、
できた隙間に主ポイントよりもかなり細い

ガッタパーチャ(写真上:ガッタパーチャ・アクセサリーポイント)を挿入して、
再びスプレッダーで圧迫します。
この操作を幾度となく繰り返す「加圧根管充填」を行わなければ、
緊密な根管充填とはなりません。
ところが、加圧根管充填は時間がかかるうえ材料費もかさむので、
(ちなみに長いほうのアクセサリーポイントは、1本あたり12円もします)
とかく圧迫するところを省略して、主ポイントとシーラーだけの、
不良な、圧迫しない根管充填で済ませている医院が多いのです。

上の写真はガッタパーチャの種類を示したものですが、
上がアクセサリーポイントの長いほうで、まん中が短いほう、
下は主ポイントの#50(先端太さ0.5mm)です。
これを、直接見ることすらできない根管内の、
針の穴ほどのスペースに手先の感覚とカンで挿入するのですから、
それは容易なことではありません。
技術も、時間もかかります。
時間がかかれば必然的に費用もかかります。
なお、ガッタパーチャは常温で硬めのチーズくらいの固さですが、
加温すると軟らかくなるので、
軟化して根管内に圧入する充填方法もあります。
が、冷えて硬化するときに収縮するなど、
ポイント式と比較して圧倒的に優れるものでもありません。
時間がかかる、材料費がかさむ、と申し上げましたが、
では次に、具体的にどのような診療報酬がいただけるのか、
ご説明申し上げます。
また例によってこの患者さんの場合です。
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初診料 1800円 |
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再診料 380円 |
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再診料 380円 |
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再診料 380円 |
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再診料 380円 |
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再診料 380円 |
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再診料 380円 |
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上記が根管治療が終わるまでに得ることのできる診療報酬です。
計7回の治療で、累積3時間をかけて 10,370円をいただけることになります。
計算すると1時間あたり約 3,400円の粗利益となりますが、
ここから人件費、材料費、光熱費、地代や家賃などの経費を支払わなくてはなりません。
はたしてこれで足りるのでしょうか?
ちなみに、だれも雇わず、何もしなくても出て行く維持費を見積もると、
どんなに少なくても1時間あたり2500円かかります。
アシスタントのパートの時給はだいたい1,000円くらいですから、
人を一人雇えば、この時点で赤字となります。
材料費も、院長の時給も稼ぎ出せません。それなのに、
「歯医者はお金持ちだから」などと言われると悲しくなります。
では、どうすれば利益を上げられるか、考えてみましょう。
保険診療はどんなに時間をかけてていねいに治療しようが、
それとは逆に、どんなに手抜きの治療をしても、
いただける診療報酬は同じです。
ということは時間をかけずに手抜きの治療をするほうが利益は上がります。
だから冒頭のレントゲン写真のような、いいかげんな治療がまかり通るのです。
とはいえ、歯科医院とて倒産したくはありませんから、
「患者には悪いが」と思いつつ、
「今日も保険で薄利多売の治療」に明け暮れる、
これが手っとり早く利益を上げる方法の一つです。
もう一つの方法は保険外、つまり自費による診療です。
でも、治療開始から自費しか受け付けないのでは
たぶん患者さんは来なくなるので、導入は保険で治療を開始し、
患者さんにとってメリットの多い修復治療に入ってから
自費診療を薦めてみるのが常套手段となります。
歯科医院も、この方式で全ての患者さんに納得していただけるなら、
たいへんなメリットがあります。
時間をかけて、保険では不採算な根管治療を行っても、
何の問題も生じないでしょう。
保険の不採算分を自費で回収できるからです。
問題は、患者さんの都合で自費の診療ができず、
最後まで保険による治療のみ、となった場合です。
根管治療の不採算分は、
保険による修復治療の診療報酬では回収しきれず、
赤字となって歯科医院の経営を圧迫します。
かといって、
数年後に問題が起きやすいことを承知の上で
いいかげんな根管治療を行うことは、
僕にはできません。
| 上記の治療で活躍した 治療用機具 |
![]() これがウワサのラバーダム防湿。 患歯を雑菌だらけの口腔内環境から隔離します。 根管治療の必需品ですが、 されたことのある方はとても少ないのはナゼ? |
![]() 電気的根管長測定装置。 電気抵抗値で歯根の長さを測ります。 これも根管治療の必需品。 このおかげで根治も恐くなりました。 |
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