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「シド・ハイウインドだ。 一応この船の船長ってことらしいからよ、 ハイウインドのことだったらオレに訊きな。 …ん?船酔いだあ? んなもんは気合だ!気合で直せ!!」 「そこのフサフサのアンタ、宜しくな。 そこのアンタも……ん、アンタ名前何て云った? ……おいコラ、シカトしてんじゃねえって!」 「ヴィンセント! オマエヴィンセントてんだろ、協調性のねえ奴だなあ、 返事くらいしろよ、甲板掃除やらそうってんじゃねんだから…まさか、 高所恐怖症かあ? っておい!手前ヒトがはなしてんのにどこいきやがる!待てよ!」 煩い男だと思った。 声はでかい、仕種は大振、 先に鉄板をいれた茶皮の安全靴で船内をどかどか歩く。 奴の居るコクピットからなるべく離れて座っていても、 床を伝わる振動、ヤニに侵されたしゃがれごえ、 扉のすきまをぬけてくる煙の匂いだ。 煩い、 ………………煩い男。 「ヴィンセント! おーい、ヴィンセント! どこいったー、無口で無愛想なヴィンセントー」 「………」 顎をうずめていたマントからすこしだけ目を上げる、 咥え煙草で歪んだくちもとがさらに歪んだ。 「なんだ、こんなとこに隠れてやがったのか」 「…隠れているわけではない」 「おう、やっと喋りやがったか。 手前の声きくのは何度目かわかりゃしねえ。 声じゃおぼえられねえな、ツラはまあ……あつっくるしい髪してるし、目立つっちゃ目立つが」 「………」 「別にべらべら喋れとはいわねえけどよ…軍隊向きじゃねえよなあ、お前。 でもタークスとやらにいたんだっけか? タークスなんて神羅の犬だと思ってたけどな、手前みたいのでつとまるってことはそうでもねえのかもしれねえな」 「………」 「なんだかよう、あの赤アタマのガキもグラサンボウズもヘンテコだったし… 変わりもんが集まりかね、タークスってのは。 じゃああれか、ルーファウスってのは親分格で変人なのかあ?」 「……知らん」 「なんでだよ、手前タークスだったんだろ」 「…………私がタークスに居たのは20年以上前の話だ。 ルーファウスなどいない」 「へ、 ああ、そうだったか。しらねえのか…… クラウドにでもきいてみるかな、ツラくらいはしってんだけどな… オヤジには似てねえな、コギレイなツラしたガキじゃねえか、 ありゃよっぽどカミさんが美形なんだな、きっとな」 「……………おい」 「ん?何だ」 「……………」 「お、わりいわりい、 そういえばそのクラウドが呼んでるんだった。 デッキにいるぜ」 「……………」 用件を云うのにどれだけかかるのだろう、 呆れていると重い靴音はまた一直線に廊下を歩いて行った。 「キツネだな、ありゃキツネの目だ。 ウソツキキツネの目じゃねえか、オレ様もあんなキツネ野郎信用するなんてヤキがまわったかな…」 独り言がきこえる、 あんなものは独り言ではないじゃあないか、 あんなに遠く、 何故か大きな後姿を眺めながら、 彼を呼びとめた訳を、 本当に尋ねたかったのは、ききとがめたかったのは、 …………なんだったのだろう。 (彼はしらないのに、 なにもしらないのに) 「ルーファウスだけじゃない。 ……………おまえだっていなかったじゃないか」 通路の隅にまた腰を下ろすと、 長いマントが全身を覆った。 さむいわけではない、けれど顎をそのなかにしずめて、両手のゆびをくみあわせる、 ……これは癖だ、 私はまだ、眠り足りないのかもしれない。 「この身体が」 いい証拠じゃあないか? 私はゆめをみている、 長い長いゆめを、……………それなので、 私の周りだけがかわっていくのだ、景色だけがうつってゆくのだ。 私の身だけが変わらないのだ。 「…本物だった頃を、お前たちはしらないのだ。 知らないのだ、…………おまえは」 そしてもしも目を覚ますことがあるとすれば、 それはあの銀のライトの反射の中、 私が私の名で居られた最後の日、 屈辱の、 …もう覚えることもない、烈しい怒りと絶望の日。 ………あの男のこえがきこえる、 ひそめられたはなしごえ、滑るような足音、 青白い、なめらかな膚と、慎重なまなざしをして私へ近寄り、 「……おはよう、ヴァレンタイン。 気分はどうかね?」 『 夢だ 』 これは夢だ。 そしてその夢の中に、 ゆるやかでしずかでひやりとした暗がりの中に、 いつも彼が居る。 あの男が、 「ヴァレンタイン、今日はよい知らせがあるよ。 きみの術後の経過はとても良好だ。 流石タークス、と云うべきかな? こんなに早く次の段階へ進めるとは思っていなかった。 私はきみを…いや、きみたちを買ってはいなかったのだがね、やはり彼女…ルクレツィアのようにかよわい女性、それも私のように終日を室内で過ごしてきた肉体にはそうはいかないね。 体力を消耗するんだよ。 とても、とても、とてもね。 なにしろ身体をつくりかえるものだから……けれど彼女は気高い、強い女性だ。 とても、とても、とてもね。 きみはどうかな、ヴァレンタイン? タークスで慣らした肉体は私に充分応えてくれたが、精神の方はどうだろうね? ヴァレンタイン、もう眩暈もあまりないだろう? 歩くことはむずかしいかもしれないが、立つことはできる筈だ。 ……つまりそれは、次へ進んでもよい、というシグナルだろうね? ヴァレンタイン、申し訳ないが、完全な回復を待つことはできないのだよ、 なにしろきみはタークス、の一員だからね…いつ何時、機会を狙っているかしれない、きみは切れ者だから。 口数が少ないのも罠だ。 ムダなことを云わないね、捕らえられて、どんなことをされても名すらいわないだろう? その慎重が常に優とされるかはわからんがね…きみも悔いているのだろう? 決断力を欠いた、と? もっと早くに我々、を止めるべきだった、と? …………思って居るね、ヴァレンタイン。 綺麗な目だ、感情を殺した濁った目が私は嫌いだったよ、だがここへ来てはじめて、私はお前を綺麗だと知ったね。 本来きみは美しいのだ。 怒りと緊張に澄まされた気配が、 赤い目の奥の瞳孔のひらくのが、 ………ああそうだ、彼女がタークスのメンバーだったなら、ひょっとしてきみを愛したかもしれないね。 一番美しいきみを間近でみることができたのだから。 だが残念だね、慎重なきみは研究所なんかで感情をあらわしたりはしなかった。 冷めた顔色と無表情、研究員に悉くきらわれた紺の制服……紹介されなければきみの顔も、名も覚えていたかしれないよ。 きみは任務に忠実に過ぎて、たいせつなものをとりにがしたのだ。 そして今はきみらの蔑んでいた狭く、日のあたらぬ、湿った部屋の中に囚われ、………もっと別の目的に費やされるべきだったきみ本来の美を捕えるものは 私だけ、だ。 戻れないのだよ、きっと、任務中だったなら機会を逃さないきみだっただろうにね? 蔑んだからだ、 この場所を、蔑んだからだよ。 きみはとりちがえたのだ。 ヴァレンタイン、きみはとりちがえたのだ。 戻れないのだよ、 やりなおせないのだ、ヴァレンタイン。 きみの愛するルクレツィアも、 きみももはや元の身ではない。 うれしいかい、ヴァレンタイン。 ヴァレンタイン、きみは彼女に近しいものになれたのだよ? 私の手によって。 ヴァレンタイン。 おいで、ヴァレンタイン。 ……ヴァレンタイン」 声の、 ……声の聞こえない場所が好きだった。 鳥よりも高く早い、上空の風はつめたくつよく、 甲板へ出ていればまず、ねむってしまうことも、 主のない声がきこえてくることもない。 風に抵抗をうけるマントが窮屈なことをこらえれば、 そこは素晴らしい場所だった。 眺めはコックピットのほうがよいけれど、 水のように流れて行く白い雲を、 海の青と陸の碧が混ざる眩暈を、 ……美しいと思う日がくるとはおもわなかった。 正直、 空を見る日が来るともおもわなかったのだ。 あの日から、 視界にあったのは白と銀と、 …黒と赤。 「ヴィンセン…お、いたか」 「………」 「なにしてんだ、こんなとこで」 「………おまえこそ」 「船長が甲板に出るのはあたりめえだろう。 中じゃわからねえこともあるからな。 雲の匂いだの、風の湿りだの」 手すりにさわりもせずまっすぐに強風の甲板を歩みより、 彼はうすよごれたフライト・ジャケットの前をとじた。 ああ、彼はそらの人間なのだ、 分厚く、ごわごわとしたその上着はこの場所にあっては風をとおさず、 しかも煽られない絶好の装備だった。 「よっと」 私のとなりへ来て、 彼は柵へよりかかり、足をなげだした。 とりだしたライターも、 風に消えない銀のオイルタイプだ。 「………」 「やっぱ空はいいなあ、 おもわねえか、空気がまるでちがう。 薄いけど綺麗だろう、上もしたも青いだろう。 音がしねえんだよ、戦闘機のコックピットもそうだけどな、 なにもきこえない、 するのは振動と、独り言だけさ、 なんもきこえねえ、当てになるもんはなくてよ、 ただ目の前は絶景さ、手前でなんとかしなきゃならねえってな、 操縦もできねえってのに、こうやって手すりから身を乗り出して、 めんたまひん剥いて空に向かうのさ。 たまらねえな、ここにいると、根拠もなく手前がエライ気になってな、 下っ端の…それこそ今下にいる若造くれえの頃からここは好きだったなあ」 「…………」 「あんたにはわからねえか。 でもよ、チョコボに揺られてるよりアンタ、この場所が似合うぜ。 鬱陶しい髪とずるずるしたマントが煽られてよお、ちったあマトモに見える」 「…………………青い」 「オレはどうも、地上の乗り物は苦手だな、 あ、ユフィには内緒だぜ」 「…………だから青いのか、おまえの目は」 「へ? なんかいったか?きこえねえ」 「……………」 「…気の所為か。 そうだよな、……にしても、いい天気だなあ。 でもあっちでうずまいてんのは低気圧だぜ。二日後には雨だな、結構降りそうだ。 雨の甲板ってのもまたいいんだけどよ。 ずるずるすべって、スリリングだぜえ。 アタマからカッパかぶってな、…」 「…………」 「ヴァレンタイン。 おはよう、目がさめたかい。 ああ、うごかなくてよいよ。…いや、うごけないかな。 きいてくれ、昨日とてもよいことを思いついたんだ。 それなのでクスリをすこし入れさせてもらったよ。 とてもよいことだ、とても。 ねえヴァレンタイン、私はね、きみの美しさを損なってしまうのはいやなんだ。 信じていないだろうね? でも勘違いしちゃあいけない、私はきみの烈しさが好きだ。 私はきみの強さがすきなのだよ。 もう誰もしらない、けれどね。きみの弾に撃たれて死んだ者たちはよく識っているかな? だからねえ、ヴァレンタイン、きみにはもっと強くなってもらいたい、 もっとだ、抑圧されたきみの衝動は、あきらかにされるべきなんだよ。 わかるだろう?ヴァレンタイン? それが美しいものなんだよ、正しいものなんだよ。 なぜ今まで押し殺してきたんだい? 私がそれを解放してあげるんだ、わかるね、きみが神羅で培ってきた、下らない理性や自己制御を捨て去るべきなんだ。 きみを自由にしてあげよう。 きみもね、信じられないほどに身が軽くなる、人間が覚えることのない開放感だ、野生の……生物の欲望そのままに戦える。 勿論あのチャチな玩具なんていらない、武器なんてきみには必要ないね? 鉛の弾なんて無粋だろう、動物にはね、神からあたえられた武器がそなわっているじゃないか! 神から!そう神からだよ!」 「おーい、ヴィンセントー」 「………」 「露骨に顔に出るよな、お前って」 「…………」 「まあいいや、あのよ、前から気になってたんだけどよ」 「……………」 「おまえの武器って銃だろう?」 「え? ……ああ、そうだ。 何か不備でもあったか?」 「へ、戦いのこととなると目のいろ違うのな」 「………」 「そうじゃねえけどさ、 ほら、バレットのはなんつったか、特殊な銃だろ? アンタのはホルダに入ってるけどさ、普通の銃なのか?」 「ああ、特にかわったところはない。 随分古いものだが……変えたほうが?」 「いや……でもさ、アンタ、左腕のさ」 「………………」 「その手甲、武器じゃないのか? 直截攻撃につかわないだろ」 「……………手甲ではない」 「へえ? じゃあなんていうんだ、それ」 「………みたいか?」 「見たことない武器だからなあ…興味あるな」 「…………」 私はだまって喉元の金具をはずした。 「なんで脱ぐんだ」 「…これを羽織っていると、外しにくいからな」 眠るときも脱ぐことがない、 緋色のマントを手すりへかける、 強い風がそれを烈しくたたき、金具が警鐘のようになった。 「見せてやろう」 肘までのそでをすこしたくしあげ、 私は長らくひらかなかった金属の関節を下へずらした。 「なんだあ? ……………………」 「武器でも防具でもない、これは腕だ」 「腕え?」 「見えるだろう、この金属は外皮の代用、 血管だの骨だのは人工組織に護られて鼓動している、 ………ヤツの趣味で透明だからな、あまり見ないほうがよいだろう」 「ヤツ、ってアレか。 あのジジイか」 「…………だから云ったのだ、見ないほうがよいと」 「そんなことねえさ、あの野郎、とんでもねえなあ」 「……………」 「あれ?クラウドだのあのねえちゃんだのも見たのか? こんなんみたらぶったおれそうだけどな、あの二人は」 「……見るわけがないだろう、 悪戯に刺激を与える必要はない」 「まあそうだけどなあ。 でもよお、だからってかくしてんのか? 暑そうじゃねえか、そろそろ夏だってのにずるずるしたマント着やがって」 「………………」 「ああ、アンタだって見せたくねえか…悪いことしたな、オレ」 「…………」 「ん? だからアンタ自身もこそこそしてるとか。 それはねえか」 「……………」 「へえ、話にゃきいてたけど宝条だったか、 大したヤツだよなあ……なんだかよう、科学だろうとなんだろうと、 才能の持ち主がそれをどうつかうかってことまでは、お天道様はしらねえんだよなあ。 運なのかもしれねえなあ、あのジジイだってよ、才能がなければこんなヒデエことすることもなかったのかもしれないしな」 「……………」 「やあ、ヴァレンタイン。 よくなった、 大分よくなったね。 ふふふ、きみは覚えていないかもしれないけれどね、きみの戦闘能力というのはすばらしいよ。 これは素養だね、タークスで鍛えた肉体、タークスで抑圧してきた精神、 ふふふ、きみはすばらしいね。 私はとても満足しているのだよ。 毎日、研究を終えて部屋へもどるたびに、きみを次にどうすればもっとよくなるのか、 そればかり考えている。 ジェノバも勿論魅力的だけれど……きみは元が人間だからかな? 惹かれるね、とても。 信じられないかもしれないが、私の研究意欲というのも、もともと人間の可能性を信じたいというところから発しているのだよ? 可能性、 可能性の一端なのだよ、ヴァレンタインくん。 きみは私の、かけがえのない作品なのだよ。 そして作品は、もう完成の段階に近づいている。 …………長かったかい、ヴァレンタイン? きみのからだにできることはもうすべてしてしまったからね……仕上げなんだよ、工程は。 そして私は、きみという作品にどういう仕上げを施そうか考えている。 自分の像に恋をした、ピュグマリオンのようにときめいているよ、私は! ヴァレンタイン、そして気付いたのさ、 きみがガンマンだったということにね! うかつだったね、一度だが射撃訓練のきみをみたのを覚えている。 美しかったとも! 実戦でないのが残念だった!的が生体でないのが残念で仕方なかったよ!! きみが人を殺すところが見たかった。 きみが銃で人を殺すところがね! そして思ったのさ、奇蹟の手は一本でいいってね。 そうだろう?そうだろう? 目の高さにのばされたきみの右手はすばらしかった! 星にひきしぼられた弓のように気高かった! すばらしいものはひとつでいいね。 私はサンプルに、サブをつくらないのだよ。 一つ完成すれば、後は破棄してしまうのさ。何故ってそれはニセモノだからね。 きみもそうさ、きみが完成したから私は同じ実験動物はつくらない。 それはきみの存在を輝かせるためだよ!感謝してくれ。 きみも、 その右腕の価値のために左腕を私にくれるね? …大丈夫さ、きみは才能あるガンマンだ。 とてもよくできた義手をつくってあげる、 神経も骨も筋もつないであげる、 直ぐに実力は元通りだよ。 いや、むしろ以前より器用になるだろうか? 正確で繊細な右腕をささえる、 逞しく堅牢な左腕! …きみの黒髪にあわせようね、 軽くて丈夫な、黒の金属で作ろう。 本物の腕と変わらない外見では意味がないからね。 きみの赤い瞳ににあう、 錆びた黒色の金属で作ろう。 美しいよヴァレンタイン。 ヴァレンタイン」 夢だ、 わかっているこれは夢、 夢の呼吸は、苦しいほど覚醒を促す、 早く、 早く、 はやく、 ( 苦しめば早くめがさめる ) 「ヴィンセント!」 「……………レッド…」 喉から出た声は、とおくの呼び声のように聞こえた。 野宿をする、 狭いテントを赤金の毛並みが覗きこみ、隻眼が暗がりのなかで緑にもえている。 「…どうかしたか、まだ暗いうちに」 「ちょっといいかな」 急に明るいところへ出ると目が眩む、あの頃のくせで灯りをつけずにおきあがり、 手探りで銃を確かめた。 ……大丈夫だ、弾の重さはかわっていない。 つめたく、けれど体温を直ぐにうつして確かな手応えをかえしてくれる、 ホルダーに収めたそれに触れているといつもすこしだけ安心できた。 銃の腕では決してだれにもまけることはない、 けれどこれを喪えば私の戦闘能力は高がしれている、そう自覚することが、 返って戦闘時の意識を集中させる。 本来無力なのだ、 そう信じたころから、神羅での私の地位は上がり始めたのだ。 これに拠っているという依存は、 可能性への迷いを断ち切って呉れる。 才能があふれるが故に、方向をさだめられない同期を幾人も見た、 けれど今思えば早々に可能性をあきらめた私の方が愚かだったのだ。 その不自由が、 私の行路を決定してしまったのだ。 航路を。 「構わない、 ……どこへ?ここでいいのか?」 「いいや、そと」 「………」 初夏にしてはすずしい風が渡る、 レッドの赤い鬣は、つきあかりの中で草原のそよぎに紛れ、 私は、視界をさえぎる月光を遮ろうと額に掌を翳した。 「つれてきたよー」 「………レッド?」 「レッドおまえさんは夜目がきくんだからよう。 おい、こっちだ、来いよ」 「……………………」 「ヴィンセント、来い」 「……………………」 声をたよりに歩みをすすめる、すると膝丈ほどの草叢にかこまれた、 僅かな窪地に見なれたフライト・グラスが標のように輝いていた。 「ごめん、オイラさっさと歩いちゃって」 「お前さんはハナもきくからなあ。 元タークスつったって、ハナもメもヒトナミだもんなあ」 「……………」 「なにしてるんだ、座れよ」 「……打ち合わせか? それならバレットやケット・シー…」 「いーや、そんな大したこっちゃねえんだ、 目が覚めちまったからちょっと一服と思ってテントからでたらよお、レッドがなんでか起きてきちまっただけで…」 「だって気配がしたからだよ」 「馬鹿云え、いつもはオレが小便に立ったってぐーすかいびきかいてやがるじゃねえか」 「そうだけどさあ、 ………だってなんだか……」 「…………」 奴までもが無言になる。 気にならないわけがない、 緑の濁流にのまれて、自分をなくしてしまった彼のこと。 ………あの目、 青くかがやいていた瞳が、薄くさかれたように透をなくして、 車椅子にしがみついた身体は決して、元々長身ではなかったのだけれどまだほんの、 ほんの21歳で、 それは頼りない子供なのだと、 我々の識っていた彼さえ彼ではなかったのかもしれないと、 我々をうちのめすには充分すぎるほど頼りなく、生気を欠いていた。 そして彼の過去………詳しくはわからない、 けれど五年前になにかが、彼の時間を奪い去ったことだけは確かだ。 『 喪われた時間 』 ………………なにものかに、残酷にときを裂かれる、 記憶を、自我を、経験を、 なにものか、 ………それはなんだった? お前にとってはなんだったのだ、クラウド、 何だったのだろう、わたしにとっては? 私にとってはなんだったのだろう? 「あいつもなあ」 咥えていた煙草をぽつりと落して、奴が口をひらいた。 「無謀なガキだって思ってたが、 ……必死だったんだなあ、ほんとは。 自覚なかったみてえだが……手前でいるために、必死だったんだよなあ。 なにがなんだか、オレにはわからねえが…五年前、つったか? したら15.6か。 つったらなあ…ケツの青いガキじゃねえか。そんなんからよお、……とまってんだろ、アイツ。 わかんねえけどよ、…わかるような気がするんだよな、 いや、やっぱわかんねえか!………わかんねえんだけどよ、わかりてえよな。 ……神羅とか…あの黒い男……セフィロスだか……なんだかよお」 「…………シド…」 「…………」 「わりいなあ、なんか目が冴えちまって。 こんな暗え話につきあわせちまって」 「ううん、そんなことないよ。 大事な話だよ、…シドが、オイラはシドがリーダーでよかったと思う」 「バカ云えよ、オレ様は統率なんてのにはむかねえんだよ、 パイロットなんて、専断でなんぼだぜ? 専断だからよ、間違ったら手前がドカンなんだよな。 手前だけがドカンなんだよ。………思ってたから、戦闘機のパイロットは愉しかったんだけどよ。 …でもあれだなあ、ロケットだのなんだの……でけえ船だと違うからな…… オレがとびゃあいいってもんじゃねえから。 むかねえよ、オレは」 「そうかなあ、そりゃあ、クラウドと…シドじゃ全然ちがうけど。 でもさあ、ほら、シドって煩いだろ?」 「ああ?」 「じゃなくて…ほら、にぎやかじゃないか。 ティファもいなくて、でもシドがあれが違うのこれがわからねえのって騒ぐから、二人分うるさいよ」 「レッド、お前喧嘩売ってんのかあ?」 「違うよ!褒め言葉だよ!」 「ちぇ、褒めるならもっとことばを選べよな…」 新しい一本をとって、彼が火をつけた。 ほんの一時、 青い月光がさえぎられて、 慎重に煙草を咥える、すこしだけかたはしを持ち上げた彼の口元が見えた。 「…………シド」 「ん、なんだ」 「………………いや」 視線をそらせると、離れた岩肌の下に、微かにテントの影が見えた。 あの中に我々の仲間が三人、 そして南の島にも我々の仲間がふたり、 私の直ぐとなりにも、 私の仲間が二人いた。 奴は煩い男だった。 その上一方的で、無駄話ばかりするくせに用件を一向にきりださない。 けれど、 私を呼んだ用を訊いてしまうには、 そこは静かすぎた。 あまりにも似つかわしくなく、 奴すらもしずかにすぎた。 ただ、 いつもやかましい足音としゃがれごえとともに流れてくる、 赤箱の煙の匂いだけが、 とてもゆっくりと、風にあおられるマントにうつりこんでいた。 「なんかよお」 「………」 「オレ様もそうだけどよ、 ……絶対、なんかしらあるんだよ、 自分で無為だったって思ってるところが。 なんかしらできたかもしれねえ、けどしなかった機会ってのがさ」 「…うん」 「いや、そういうもんだと思うんだよな、オレは。 そんでよお、でも思い出したりしながらさ、結局薄れて行ったりするわけよ、 記憶だの悔しさだのは。 …それで思うんだけどな」 「…………」 「クラウドに……まあお前らに会ってよ、 しちめんどくせえこともあるけどな…リーダーなんてやらされてみたりしてな。 でも、なんつうか、運だなって思ったんだよ。 オレはついてるってな」 「……なにがだ」 「だからさ! なんてーか、借りを返せる気がしたんだよ! はじめはにっくき神羅に立てついてるアンタらとなら、あのぼっちゃんにぎゃふんと云わせられるかとか思ってな。 ……でもよ、そういう借りだけじゃなくてさ…」 「…………」 「わかんねえけどよ、 ……借りってあるじゃねえか、 レッドだって、………お前だってあるだろ。 クラウドだってティファだって、バレットだってユフィだって多分そうだろ。 きいたことねえけどさ。 どっかにおいてきたもんをさ、 取り戻せないにしても、決着つけられる気がしたんだよな。 クラウドだの……あんたらだの見ててさ」 「…………いや、べつにオイラは…」 「わかんねえけどよ、 思いこみだけどよ」 「…………」 「なんだろなあ、 クラウドのヤツも、今あーんなんだけど考えてる筈だぜ。ほんとのところ。 心配することねえさ。 な。 心配することねえんだよ。オレらは」 「……………」 ……………長い夢をみている、 夢を、 私だけが少しも変わらない夢をみている。 目を、さまさなければ私はやりなおすことはできない、 目を、さますことができたならばあの男に抗うことができるかもしれない。 けれど、取り戻すことのできぬまま止まったときのままでここに居続ける、 喩え彼らが私よりずっとさきに、去ってしまうのだとしても、 あの湿った夢の中にもどるよりずっとよいと思った。 もし2度と取り戻せないものなのだとしても、 悔いるばかりの自分であるとしても、 私にくらべればなんて儚い、 彼らがしずかに眠るよるがこの私と、 ほんの一晩でもかさなるのだとしたらそれが私のもとめていた光明かもしれないとおもった。 「大丈夫だよなあ、 このオレ様がついていってやってもいいかって思ったんだからよ。 間違いねえさ。 間違いねえんだよ」 「そうだよね。 そうなんだよね」 「あーああ、 なんかくっちゃべったら眠くなってきたな。 悪かったな」 「いや、オイラおもしろかったよ」 「…………」 「ヴィンセント、もよ」 「………………………いや…」 月に照らされた闇の中で私をよぶこえがきこえた。 ヴィンセント、と。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: アトガキ: こんばんは、在原です。 そういうわけで初のFFSSです。(わけわからんやん) ええと、在原はシドヴィンがすきで…セフィクラもすきですが、ヴィンのことって結構、 語られてないじゃないですか。EDにはいないしよお(笑) で、あのしとも「私の罪が罪が」とかいっちゃって、にっちもさっちもどーにもブルドッグだと思ったのです。 そいなので、在原としてはもし、どうせシドのほうが先に死んでしまって、 ヴィンセントはこれからずっとずっとひとりで生きていかなくちゃならないのだけれど、 それでも自分が彼らと同じだって云う、 同じだったっていう感覚を抱いてほしかったなあ、 というのが希望だそうですよ。 なんだか一晩でかいたそうなので、いろいろ不備があるかと思いますがみのがしてくれよう。 しかし、ヴィンが一人称なのにこいつしゃべらねえしゃべらねえ。宝条さんのイカレたせりふが在原の内心だということは、ないです。 そういうわけで、在原にFF同人誌をよくかしてくれる、どんどん山さんに捧ぐ。 またかしてね(笑) |