多分彼の声だけは何があっても忘れないと思う、
つまらなそうに、けれど微笑をかくした口の端をすこしあげて話し出す声は、
低くて抑揚にとぼしく、ふかく耳をすませないと言葉の区切れ目を数えるのは難しかった。

僕がそうして、妙にかしこまった顔でききいっているのを、
きみはやはり少し照れたように気付かないふりで一層俯いて言葉をついだ。
その声はやさしかった、
平凡で没個性でありふれたこえ。


きみの声だけは何があっても忘れないと思う、
歌う彼は日頃からは想像のつかない奔放さと烈しさを持っていて、
それを遠くから
(こんなに、狙い撃てそうなほどちかくてもきみは遠かった)
ききいる僕らは常に不安だった、そして恐れていた。

きみは余りにもキレイで、
その嘲るような、誘うような、僕をダメにする声は水のように潤って、
そして微笑っていた。

ずっと遠くからでも、誰かに入り混じっていても、
歌うときだけ君に気付いた、
まるで真っ直ぐに指をさされているようなこえだった。

僕だけを、
ぼくのうしろめたさをつかまえて指し示す残酷な指のような声だった。

きみはひどくて、
大好きだ。

きみの微かな白いのどのふるえを、
あの魔法をつくりだした振動を、
ぼくは胸をいためてきいている。