嘘のような話だけれど、彼は花が好きだった。
「そうだったか?」
「さあな」
「なんだ、それ」
「いいじゃん、別に。
でも多分そうだ」
「わかんねえな、お前って」
W(友人の名だ)は肩をすくめた、けれど笑ってはいなかった。
「でも、」
そうして言葉を続ける。
「お前がそういうなら、そうなんだろうな」
「うん」
俺は笑った。
わらって腕の中の花束を抱いた。
それはいい年をした男が持つには似合わない大きさで、日差しのくたびれた晩秋には似合わない、
黄金色をしていた。
俺たちは長い、ひどくしずかな道のりを歩いている。
暫く二人で黙って歩いた。
「なあ」
その沈黙を愛しながら、口を開いたのは俺のほうだった。
「俺とあいつってさあ、仲悪かっただろ?」
「…昔、な」
「悪かっただろ」
「まあ、そうかもな」
「あの頃、さ」
「…………」
「あの頃のことをよく思い出すよ。
殆ど話したこともなかったってのに、飲み会なんかで一緒になるとしょっちゅう殴り合ってた。
次の日になっちまえば理由も思い出せないのに」
「……昔な」
「なんでだろうな、あの頃俺らは、
何を、してたんだろう」
「でもその後、あっという間に仲良くなったじゃねえかよ」
「うん」
「だから、お前らほんとは相性よかったんだよ」
「うん」
「………」
「でも、あの頃のことを良く思い出す」
花束は黄金色をしていた。