梅見の記 '02-03-07
暖冬だったという。結構寒かったという印象だが、統計は暖冬だと主張する。そして、統計通り、春の訪れがいつになく早かった。3月上旬、すでに梅が満開を迎えようとしていた。花の香りに誘われ、青梅の吉野梅郷に出かけた。外出嫌いの自分には珍しいことだったが、すばらしい一日となった。
JR青梅線 日向和田駅下車。平日だというのに、すごい人。
「紅梅苑」前。柚 篭(ゆずかご)がけっこうおいしかったが、 紅梅饅頭は紅葉まんじゅうに梅の香りを付けただけのものだった。
町中どこもかも、梅、梅、梅。花の色も様々で、同じように赤と表現しても、うす紅色、鴇色、珊瑚色、ピンク、サーモンピンク、梅なのに桃色、これまた梅なのに桜色、蘇芳色、今様色。色のボキャブラリーが尽きてしまうほどだ。白梅もまた微妙に表情を変える。今日の日のために見事に澄んだ青空との対照がすばらしい。肺いっぱいに梅の香りを吸い込む。
青梅市梅の公園到着。梅は8分咲きといったところだろうか。それにしてもあまりの美しさに息をのむ。斜面にはあらゆる種類、あらゆる色の梅が立ち並び、勝ち誇ったような美しさを見せつける。人間は申し訳なさそうにその美しさのおこぼれに与ろうと道を通してもらっているようだ。
梅の道を行く。赤と白の梅、どこまでも青い今日の空。世界は色にあふれている。
今では花見といえば桜だが、万葉時代まで花と言えば梅だった。楊貴妃も梅をこよなく愛したという。さもありなん。桜の花のあの妖しさは人の心を奪わずにはおかないが、梅のあの明るくおおらかな美しさは、まだ冷たく張りつめた空気と相まって魂を解放してくれる。春はすぐそこまで来ていると梅が告げる。
こんな梅のアーチの中、しばし疲れた足を休める。梅の花の強烈な香りと色がからだを駆けめぐり、心をざわつかせる。魔力を持つのはなにも桜だけではなさそうだ。
この後、吉川英治記念館"草思堂"などを見学して帰った。文豪は戦争のさなかこの地に移り住み、悶々とした日々の中、原稿用紙を埋めたという。吉川英治もこよなく愛でたという梅の花に囲まれた一日だった。