2CH掲示板管理者に損害賠償等の責任を認める判決
1 ネット上の掲示板では,匿名の書き込みであることをいいことに他人を誹謗中傷する書き込みが後を絶たない。これら書き込みは,大抵の場合,名誉毀損,信用毀損,業務妨害として民事的には不法行為を構成し,刑事的には 犯罪を構成するものも枚挙にいとまがない。
 特定の個人がこのような匿名の書き込みで,プライバシーを侵害され,社会的名誉を著しく毀損され,その被害者は精神的に極度に追い込まれても,これを法的に迅速かつ適確に救済する方法は今のところ,ないに等しい状態である。 そのような現状の中で,平成14年6月26日東京地裁は,2CH掲示板の管理者に特定の書き込みの削除及び損害賠償の支払いを命じた(判決へリンク)(東京高裁判決)。
2 この事件は,2001年1月ころ,東京都の動物病院が2CH掲示板の「ペット大好き掲示板」上に実名を上げて「経営者(獣医師)Tは精神異常だ」「動物実験はやめろ」などと誹謗中傷する1000回近い書き込みがなされた。T氏は2CH掲示板管理者に発言削除要請をしたが,殆ど削除されず,却って,揶揄侮辱されたため,2CH運営者を相手取り,書き込みの削除と500万円損害賠償を求める訴訟を提起した。
 悪名高い2CH掲示板は,特異な言葉を使うなどして匿名の誹謗中傷の発言に充ち満ちている(ちなみに筆者も昨年5月ころ,三つのスレッドで随分,誹謗中傷されている。)。
 2CHでは,管理者が書込者のIPアドレスなど捕捉しないと言っているので,書込者を特定することは不可能である。
 ところで,裁判所は上記請求に対し,2CH掲示板は書込者が匿名で他人の権利を侵害する発言をし,しかも書込者の責任を追及することは極めて困難であるから,2CH掲示板には他人の権利を侵害する発言が数多く書き込まれることが容易に推測されるので,掲示板管理者は遅くとも掲示板に他人の名誉を毀損する発言がなされたことを知り,または,知り得た場合には直ちに削除する条理上の義務を負っていると判断している。
 そして2CH掲示板管理者が削除義務を怠ったことにより,原告ら動物病院及びその経営者で獣医のT氏に多大の精神的苦痛,経営上の損害を与えており,それらは400万円を下らないと認定してその支払いを命ずるとともに書き込み記事の削除を認めている。
 本判決がなされたからと言って,すべての違法書き込みにつきその責任を訴訟で問うことは,コスト面,時間的な面から無理であろうが,法的責任を追求することがより容易になり,また,掲示板管理者においては,その管理を十分な注意を持って行わないと不法行為責任に問われかねないと考えて今後は違法な書き込みを削除する努力を行うことにつながると考えられる。
(平成14年10月12日記)

インターネットオークションと詐欺・その撲滅策
 広島県警は,12月3日インターネットオークションで,他人のパスワードを盗んで,その他人になりすまし,現金を騙し取ったとして広島市の衣料品販売業者と会社役員(いずれも男性・32才)の二人を逮捕した。
 警察の調べによると犯人らはヤフージャパンインターネットオークションの女性会員のパスワードを盗んで,これを盗用。オークションにデジタルカメラを出品したように装い,シンガポール在住の日本人会社員から現金4万5千円を騙し取り,さらに他の会員のパスワードを盗用して,携帯電話を出品したように装い,男性会社員から現金2万円あまりを騙し取った疑い。

パスワードを盗用された会社員女性が茨城県警に届け出て,広島県警と合同捜査の結果,犯人らを割り出した。両容疑者は共謀して,公開されているオークションのIDなどからパスワードを解読,盗用されたパスワードの会員の実績を悪用し,入札者を信用させていた疑いが強い。被害者はいずれもIDから容易に類推できるパスワードを設定していた。

これまでの調べでは,両容疑者は共謀してパスワード盗用の手口を繰り返していたらしい。県警では,全国の150人以上から合計500万円余りを騙し取って架空口座に隠していたとみて不正アクセス禁止法違反容疑での立件も目指す。

被害者の一人は,「評価も高く,出品者を信じていた。カメラ付きの携帯電話をヤフーオークションで見つけ,即決!格安の売り込み文句に惹かれて16000円で落札,しかし送金しても商品は届かず,不審に思って県警に被害を届けた。」と言う。

県警の調べでは,二人はネット上で別人になりすますため,公開された他人のID番号から,パスワードを割り出した。被害者はIDを逆転させるなど,単純なパスワードにしていたと言う(以上は平成14月12月3日付け中国新聞記事の要旨)。

このようにオークションに限らず,インターネット上の取引で代金を振り込んだが商品が届かない,商品を送付したが代金が振り込まれない,送付された商品は欠陥商品であったなどという被害は後を絶たない。インターネットの匿名性を悪用した犯罪は増加の一途をたどっているようである。

どうのようにすれば,このようなネット犯罪を防ぐことができるであろうか。警察等捜査機関が直ちにこのような犯罪を検挙し,犯人が厳罰に処せられるなら,目に見えてこの種犯罪は減少するであろう。しかしながら,ネット犯罪は特有の事情として殆ど広域的な犯罪であり,警察の管轄も複数の都道府県に及び,また,捜査にはインターネットなど特殊な知識を必要とし,余程幸運に恵まれないとこの事件のように犯人検挙には至らない。
したがって,犯人を検挙して厳罰に処すという点から犯罪の減少を望むことは現実には実現が極めて困難と言うほかない。

僕は常に言っているが,どのような犯罪でも先ず,被害に会わない努力をして,被害者を出さないことにすれば,このような犯罪の成立そのものが減少するのである。
ネット上の取引は,確かに買い物に出かける必要もなく,座していながら,欲しいものを買えるという便利さがある。オークションのように価格が安い点に魅力がある場合も多い。しかし,そこには思いがけない落とし穴があることを常に認識しておく必要がある。

僕自身,ネットを通じての買い物はよく利用している。パソコン,パソコンソフト,プリンターなど周辺機器,書籍,衣料品,健康食品,パソコンラック,書見台,音楽CDその他他種類の商品をネット上で買っている。これまで100回くらいは購入しているが,トラブルに会ったことは一度もない。

それは取引相手をできるだけ信用できる相手に限り,代金支払方法は品物との引き替えつまり代引きに限ることである。これで相当部分の被害は防げるのである。まちがっても安すぎる品物には手を出さないことである。

なお,本件では取引をした買手が詐欺にかかって代金相当額を騙し取られているが,もう一つ犯人らのなりすましのために簡単にオークションの会員のIDからパスワードが破られていることである。僕自身,ネット上でいろいろな会員になっているので,沢山のIDとパスワードを持っている。これを犯人に利用されないように厳重に管理することはネットを利用するものの義務であると思う。IDを逆さまにしたものや生年月日など単純な符号にしないで,アルファベットと数字を無作為に組み合わせた解読困難なものにするべきである。(平成14年12月14日記)


ネット上で個人の名誉等が誹謗中傷されたときの対処法

インターネット上の掲示板などに自己を誹謗中傷する書込をされ,これを削除し,書込をしたものの責任を追及できないかとの相談は後を絶たない。そこで,この問題を法的観点から考えてみる。

このような場合,大抵,書込者はHN(ハンドルネーム・匿名)であり,その個人情報(住所・氏名等)は不明である。自分を誹謗中傷する書込をされた掲示板等でこれに応戦する書込をしたり,フリーメールのメールアドレス宛に削除,その後の書込中止などを送付してみても殆ど,その効果はなく,却って,相手をエスカレートさせ,ますます泥沼化することが多い。

その場合,考えられることは相手が加入し,掲示板等を設置しているISP(インターネットサービスプロバイダー)あるいは,相手が書込をした掲示板等を設置運営している個人等(以下,ISP等という。)に削除請求をすることである。これなら,書込者自身の住所氏名などが特定できなくても可能である。

個人等を誹謗中傷する書込が他人の名誉,信用,業務,財産等を傷つけるものであることは明かであり,このような場合,裁判例も被害者に書込の削除や損害賠償を請求する権利を認めている(東京地裁H9・5・26ニフティサーブ事件判決,判例タイムズ947・125,東京高裁H14・12・25,2チャンネル事件判決)。

したがって,被害者は訴訟を提起して書込記事の削除及び損害賠償請求をすることが可能で,大抵の場合,被害者が勝訴するであろう。しかし,誰でもが上記判決のように弁護士を依頼して訴訟を提起することは困難である。それは弁護士費用等コスト面と訴訟を提起,遂行するために要する時間と手間をかけることが苦痛であるからである。

最近は,ネット上の匿名の書込による権利侵害の被害については,ISP等もかなり理解を示してきているはずである。正式な削除の請求等に対してISP等が的確な対応をすることも期待できないではないであろう。そうとするなら,先ず,被害者が違法な書込の削除を願うなら内容証明配達証明付きの郵便で正式に削除依頼をしてみるべきである。自分でやるなら,郵便料だけで済むし,弁護士に依頼しても弁護士名での内容証明郵便の送付は弁護士費用5万円くらいで引き受けてくれる弁護士も多いからである。さらに弁護士に削除を巡る交渉を委任するなら,弁護士費用30万円ないし50万円くらいで引き受ける弁護士を捜すこともそんなに難しいことではないであろう(但し,ここで問題にしているのは特定の個人等の名誉を侵害する違法な書込であるが,慰謝料を除けば財産的侵害がない事案を対象にしている。また,そのような違法な書込であるなら,精神的苦痛に対する慰謝料も普通には100万円を超える判決を期待することは困難と考える。)。

そうは言っても被害者にとって単に名誉等人格権の侵害を我慢しておけばいいというような生易しいものでなく,書込によって侵害される利益が大変大きい場合は別である。例えば,架空の不倫行為につき迫真的かつ具体的な書込を個人情報とともに書き込まれ,たまたま疑われる状況もあったために深刻な離婚問題になるとか,勤務先での集金横領事件があったときに内部告発として個人情報とともに架空の横領事実が書き込まれ,簡単に無実であることを証明できないときなどを考えることができる。

このような場合は,迅速かつ的確な対応をしないと被害者としては大変深刻な状態に置かれることも考えられる。先ずは書込削除の仮処分を申し立てることである。被害者の名誉等人格権の侵害が大きく,放っておくと離婚問題が調停等になり得るとか,勤務先を解雇されそうになるとかすれば,書込削除の仮処分申請は認められる可能性が強い。仮処分申立ての場合,被保全権利の存在と保全の必要性が要件である。被侵害利益は名誉等人格権であり,保全の必要性は書込を削除しない場合の回復困難な損害である。上記設例の場合不貞行為の不存在,集金横領の不存在は,被保全権利の存在及び保全の必要性の両面から,ある程度,仮処分申請に際して証明する必要があると考えるが,元々,保全事件においては厳格な証明でなく,ある程度確からしいとの疎明で足りるとされているので,それほど難しいことではないであろう。

書込削除の仮処分申請が認められた場合,ISP等がこれに従って削除しない場合は厄介である。もちろん,強制執行の対象となり得るが,事柄の性質上,執行官が直接,削除するとか,削除する義務者に代わって削除するということは認められないであろうから,間接強制つまり削除が一日遅れると一定の損害金を支払わなければならないと言う方法しかないであろう。

違法な書込によって精神的苦痛を被ったとして慰謝料請求の損害賠償も認められるであろうが,上記二つの設例のような事案を除き,ありふれた違法な書込の場合は金額的には上記のように多くを期待することは困難である。

刑事事件の面からの対応について考えてみる。個人の行為等につき,真実であってもそうでなくてもその人の名誉等を毀損する書込をすれば,名誉毀損罪や侮辱罪の成立が考えられ,ほかにも脅迫罪,業務妨害罪などの成立も考えられる。したがって,被害者は警察に告訴あるいは被害届の提出が可能である。しかしながら,そのような犯罪の犯人としては現実に書込を行った者が対象である。そうすると犯人を特定することが先ず,困難である。犯人が特定できなくても犯人不詳として告訴等は可能であるが,事件の性質上,人の生命,身体,財産が侵害されている犯罪ではない上,インターネットの性質上,犯罪地を特定することが困難(犯罪地とは,犯行が行われた土地,その結果が発生した土地)であるから,警察が原則として都道府県単位に組織され,犯罪捜査も原則的に都道府県内に限られるから,これら面から警察は,この種犯罪の捜査に積極的でなく,刑事事件として書込の削除を期待することは難しいとしか言いようがない。都道府県警においてIT関係の特別捜査班を組織しているところは多いが未だ,その成果を期待することは困難である。
犯人の特定については,昨年施行された「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(いわゆるプロバイダ責任制限法)によって,一定の要件があれば,書込者の住所氏名などの人定事項の開示請求が認められた。
つまり,その権利侵害が明らかなことと損害賠償請求権の行使等のために必要である場合その他正当な理由があることを条件にプロバイダに発信者つまり違法書込者の人定事項の開示請求が認められている。しかしながら,法施行後の開示請求の有無,開示請求数,これに対するプロバイダの対応等につき,未だ明らかにされた報道を見ることがなく,その実態は不明であり,条件さえ整えばプロバイダが簡単に情報を開示する状態になるには,今後相当な時間の経過を要すると思われる(平成15年1月26日記)。


あなたの口座は狙われている!ネットバンキング取引

インターネット上の財貨の移動を伴う取引は常に危険を伴うことはこれまでに何度も言ってきたことである。危険を回避するためには,そのような取引をしないに限る。しかし,取引が安全に行われるなら,これほど利便性の高い取引方法はほかにない。したがって,できるだけ安全性を確保しながら,ネット上の取引を行うことになる。

ここのところ,ネットバンキングつまり殆どの銀行が開設しているネットバンキングを利用すれば,机上のパソコンで瞬時のうちに,残高照会,取引履歴を照会することが出来る。僕も事業上の口座につき,ネットバンキングを利用して取引照会をして便利に使っている。しかし,ネット上の自分の口座からの銀行振込みなど預金の移動を伴う取引については危険性を伴うこと,僕の事業程度では,現実に銀行に出かけていって振り込むという手続をすることがそれほど手間を取ったりするわけではないし,逆に言えば,危険性を承知の上でネットバンキングを利用しての預金の振り込みをすることにそれほどメリットはないので,残高照会,取引履歴の照会に限って利用している。案の定,ネットバンキングの銀行振込みを利用している人の口座が狙われて,勝手に口座の預金を盗み取られるという事件が発生した。現在,ネットバンキングを運用している金融機関は360余り,延べ利用者は約750万人と言われている。

平成15年3月7日付けのマスコミ報道によると「インターネットで金融取引が出来るネットバンキングを悪用して,「シティバンク」の顧客口座から1600万円を引き出したとして,警視庁は6日までに川崎市の元シンクタンク社員と東京都文京区の会社員の二人を不正アクセス禁止法違反と盗みなどの疑いで逮捕した。」と言うことである。

警察の調べによると二人の容疑者は,東京都内や神奈川県内のインターネット喫茶のパソコンに,入力履歴を記録できるソフトをあらかじめ仕掛け,ネットバンキングを利用した客ら約900人分のパスワードなどを盗んだ上,不正に入手した自営業者のネットバンキング用パスワードなどを使ってシティバンクのコンピューターサーバに侵入して自営業者になりすまし,預金1600万円を別の都市銀行に開設した仮名口座に振り込み,これを引き出して盗んだと言うものである。

二人の容疑者は,約2年前から,パソコンのキーボードに打ち込んだ状況を逐一,記録できるソフトを新宿,澁谷,上野など少なくとも13店のインターネット喫茶にあるパソコン約100台にひそかに組み込み,定期的に店を回って記録を取り出していたという。そのソフトはネット上で無料配布されているものだったという。

このような犯行方法から,余程確実なセキュリテイを施さない限り,自分のパソコンから,ネットバンキングのパスワードはもちろん,財貨の取引を伴うネット取引のパスワードなどが盗み出される危険性がますます,高くなっていると考えざるを得ない。少しくらい便利だからと言う理由から,安全性について十分検討もしないで簡単にネット上で財産取引を伴う取引など極力,避けるに超したことはない。

本件の場合,預金を勝手に引き出された被害者と銀行との関係は盗難にあったクレジットカードを勝手に使われたときと同じように銀行に損害の賠償を求めることはできない。被害者のパソコンに侵入されて盗まれたパスワードなどによって銀行のインターネットサーバに侵入され,預金を勝手に引き出された事実関係からは,銀行の責任を問うに足りる事実はなにもないからである。

金融機関側もこの点につき次のような免責規定を制定しており,これを打ち破って損害の賠償を請求する法的根拠は見あたらない。
(パスワード・IDの管理) 契約者は、パスワード・IDにつき、第三者に知られないように自らの責任において厳重に管理を行うものとします。なお、これらにつき偽造、変造、盗用、または不正使用その他の事故があっても、そのために生じた損害については、当行は責任を負いません。
(平成15年3月11日記


ウィルス等侵入に対するコンピューター犯罪

1  電磁的記録毀棄罪

刑法258条は「公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は,三月以上七年以下の懲役に処する。」と規定し,同法259条は「権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者は,五年以下の懲役に処する。」と規定する。両条に「電磁的記録」が取り込まれたのは,昭和62年法52による改正によってであった。
元々,両条は「公用文書毀棄罪」「私用文書毀棄罪」の規定であった。ところで,社会的に重要な事項についての証明機能及び情報の記録,保存機能はパソコンが今日のように隆盛になるまでは,殆ど文書によってなされてきた。それがパソコン及びこれに付随する器機の発展,コストの減少化とともにこれら情報の証明,記録,保存は電磁的記録(いわゆるファイル等)によって行われるところとなった。しかし,パソコンの電磁的記録は文書ではないから,文書毀棄罪の適用はなく,社会的に重要な機能を果たしてきた電磁的記録を文書毀棄罪の規定に取り込むことによって,その保護を図るために文書毀棄罪の中に電磁的記録を取り込んで処罰の対象とする法改正を行ったものである。

刑法上の文書とは,文字または文字に代わるべき発音的符号を用いて表示され,ある程度永続するべき状態において物体上に表示されたものであり,内容は意思の表示でも観念の通知でもよいが,一定の連絡した意味を有し,客観的に理解され得るものとされている。したがって,電磁的記録は,磁気ディスクや磁気テープであって,それ自体可視性,可読性がなく,文書とは言えないのである。

「公務所の用に供する電磁的記録」とは,公務所で使用するために保管中の電磁的記録またはこれと同視できるような形で公務所が支配管理している電磁的記録である。例えば,磁気テープ等をもって作成された住民票等の記録,自動車登録ファイル,不動産登記簿などがその典型的なものである。「公務所の用に供する電磁的記録」である限り,権利義務または事実証明に関する電磁的記録に限らず,プログラムを記録した電磁的記録,データベースの電磁的記録なども含まれる。

「権利または義務に関する他人の電磁的記録」とは,権利義務の発生,変更,消滅の要件となり,または,その原因をなす事実について証明力を有する電磁的記録である。銀行のオンラインシステムにおける預金元帳などのファイル,テレフォンカードなどになされた残度数記録などもこれに当たる。「他人の電磁的記録」とは,自己以外の他人に帰属する電磁的記録であり,他人の支配,管理下にあるものである。

「電磁的記録を毀棄する。」とは,文書毀棄の場合,文書の本来の効用を毀損する一切の行為あるいは,文書の一部またはその全部の効用を失わせるためになされる一切の行為と考えられており,有形的な毀損だけでなく,隠匿その他の方法により一時文書の利用を妨げることも含まれていることから,電磁的記録の本来の効用を妨げる行為つまり電磁的記録の入っている記録媒体を破損し,切り裂く,電磁的記録の全部または一部を消去し,または改変するような行為など物理的有形的方法のほか,電磁的記録の存する記録媒体を隠匿するという無形的方法も含まれる。

刑法259条の私電磁的記録毀棄罪は,親告罪とされている(同法264条)。告訴権者は,その電磁的記録を支配,管理している立場にある者つまり,その電磁的記録を使用するシステムの設置者,これに代わるべき者になる。私電磁的記録毀棄罪の法定刑は,上限が懲役五年とされ,下限は条文に明記してないが,刑法12条1項により,下限は懲役一月となる。
平成15年12月4日記