コラム〜電子ブックの将来は?〜

 このコーナーのタイトル、ホンキホンネの元ネタの掲載紙であった、ベーマガことマイコンBASICマガジンがこの5月で休刊になってしまいました。今現在コンピュータの達人と言われている人々の多くがかつてお世話になった、ある意味日本のIT業界を支えた雑誌と言ってもいいベーマガが消えるとは……時代の流れとは言え寂しいものです。掲載されていたプログラム、必死こいて打ち込んだっけ。あれが電子データだったら楽だったのに、と思うこともあったけど、今となってはあの単調な作業も懐かしい想い出。
 というわけで、今回は電子ブックの話をしようと思います。(うわ、なんて強引な前振りだ)

 2003年4/24〜4/27にかけて、東京ビッグサイトで国際ブックフェアというイベントが開催されたというニュースがテレビで流れていた。これは世界25ヶ国550社の出版社が一同に出展するアジア最大規模の本の見本市である。書籍であるから、紙での出版物がメインなのであるが、時代を反映したハイテク製品も展示されていたらしく、テレビのニュースで電子ブックの展示コーナーの映像が流れていた。

 電子ブックの歴史は意外に古く、1993年、なんと10年も前にすでに製品化されている。しかし、それが普及したかと言うと、ご存知の通り、お世辞にも商売として成功しているとは言いがたいのが現状。一部、ビジネス向けに特化したザウルス文庫などの成功例があるものの、単体で電子ブックとして発売されている端末は、大手家電量販店の店頭でもほとんど見かけない。
 というのも、現状の電子ブックには、印刷コストがかからない、電子データだから配布が容易、等の利点を覆してあまりある難点があるのである。

問題点その1:画面が見にくい
 ほとんどの電子ブックは、画面表示はモノクロ液晶である。消費電力の問題もあるが、文字を読むだけならカラーにする必要はないからだ。現在発行されている書籍も白黒がメインだから、これはこれで別にかまわないのだが、紙に比べて圧倒的に見にくいのはいかんともしがたい。カラー液晶でも、輝度の問題で長時間見ていると目がつかれやすい。解像度の問題もある。正直、こんなもので長編小説を読む気にはなれない。

問題点その2:電気がないと見れない
 その1とも若干かぶるが、電池を入れなければ表示されないと言うのはつらい。家で読む分には良いかもしれないが、長旅の供に持っていく等の使い方をする場合問題が出てくる。旅先でほいほい電池を使い捨てにするわけには行かない。
 現状、モノクロ液晶タイプのPDAでも、頻繁に使用していれば単三電池2本では数日程度しか持たない。電子ブック向けに特化した低消費電力の端末でも状況はさほど変わらないだろう。入れ替えの手間も問題だが、コストもバカにはできない。電池とてただではないのだ。

問題その3:販売方法
 電子ブックを購入するためにはどこに行けばいいだろうか? 電子データだからインターネットで買えば良い。ごもっともである。しかし、インターネットはただではない。常時接続している人の感覚からすれば、インターネットなんてただ同然、誰もが接続環境を持っていて当然だと思っている人も少なくないだろうが、実際にはそうではない。インターネットでないとコンテンツが購入できないとなると、どうしても購買層を狭めてしまう。
 かといって、ROMカートリッジ等の記憶媒体を販売する方式だと、それはそれで物理媒体に左右されないと言う電子ブックの利点を殺してしまうし、製造コストもかかる。それなりの解決策を用意する必要がある。

問題その4:出版制度が対応していない
 販売方法とも絡む問題なのだが、ISBNコード付きの一般的な書籍には、再販という制度がある。これは各小売店で価格競争を禁止する制度で、小売価格はメーカーの希望価格を遵守しなければならない。その代わり、委託制度というものがあり、売れ残った書籍は(期限があるが)メーカーに返品することができる。
 こんなシステムを電子データ販売でそのまま適用できるわけがない。問屋流通が基本の出版業界では形のない電子データは取り扱えない。メモリ媒体を販売するにせよ、専用端末から販売するにせよ、書籍とは全く別の販売システムを新たに作る必要がある。

問題点その5:コピー問題
 電子書籍と言うのは、いわゆる電子データであるため簡単にコピーすることができる。これは商売として非常にまずい。個人ユーザーレベルで商品と寸分たがわぬものをほいほいコピーされてしまっては、著作権保護とかそういう問題以前にビジネスとして成り立つ販売方法が確立できない。データが安易にコピーされないように、データ及び端末の共通仕様をハードウェアレベルで策定する必要がある。

問題その6:商品が少ない
 これが最大の問題であると言ってもいいだろう。電子ブックとして提供されている商品が少なすぎるのである。書籍として刊行されている物の中で、電子ブックとしても読めるものはほんの一握り。しかも、キラーコンテンツとは言いがたいニッチ商品がほとんどである。かといって、電子ブックのみのオリジナル商品がどれほど出ているかと言うと……。
 まず商品が用意できないことには、そもそも市場を作る事が出来ない。しかし、市場ができていなければ、出版関係の各社は電子ブック市場に参加しないだろう。難しい問題である。

 その1やその2のようなハードウェアの性能に起因する問題は、近い将来解決されるだろう。例えば記憶型液晶を採用した松下電器の買uック(2003年秋発売予定)は、単三乾電池2本で、3〜6ヶ月使用可能であるという。販売方法も、コンビニエンスストア端末などを利用すればオンラインでのコンテンツ販売が比較的容易に可能になるはずだ。
 残る問題は著作権と出版業界である。きわめて保守的な流通制度をとっている出版業界が、新しいメディアである電子ブックに対して反発をするのは必至だ。市場を形成するに足る魅力的な商品を用意するためには、出版業界をまるごと取り込むか、もしくは出版業界以上の市場を作り上げる必要がある。どちらも困難だ。

 これだけだと、電子ブックの将来は暗いようにしか聞こえないが、電子ブックには電子ブックの強みがあることも確か。それをどう生かすか、が今後の電子ブックの将来を占うだろう。では、電子ブックには、具体的にどのような利点があるのだろうか。

利点その1:電子データの管理とコスト
 なんと言っても一番の利点は、物理的な媒体に左右されない、ということだろう。電子データはネットワークを通じて簡単に配布する事ができるので、紙媒体の書籍のように地域によって配本が遅れたり、売り切れて買えなかったりと言うことが起こらない。また、データは在庫にはならないので、絶版もほとんどありえない。もちろん、版元品切れ再版予定なし、などという事態は起こりえないし、不良在庫に場所を取られることもない。当然、管理費用も大幅に削減できる。
 また、電子データには製本工程も搬送もなく、執筆、編集が終われば即販売可能となる。ネットワーク端末の初期導入費用こそかかるものの、印刷コストは文字通りゼロ、配送コストも限りなく低い。つまり、紙の書籍に比べて低価格での販売が可能となるはずだ。

利点その2:データの更新
 電子データは、販売開始後の誤字脱字等の修正も容易だ。紙媒体の書籍であれば、誤字脱字の修正は版の更新を待たねばならないし、すでに出回ってしまった本への修正は不可能だ。だが、電子データなら誤字は見つかり次第修正ができるし、教科書、参考書等で内容不備があった場合の訂正/反映も随時行う事が出来るシステムが構築可能である。

利点その3:メディアの持つ機能の可能性
 電子ブックのメディア特性は、紙の媒体とはその性質が似ているようで大きく異なる。文字の検索を行う事が出来たり、拡張機能を盛り込むなどすれば音声や動画などを組み合わせたマルチメディア的な演出も可能となるだろう。まあ、マルチメディアというのが行きすぎだとしても、ネットワークなどを利用した紙の媒体では不可能な表現手法が新たに生まれてくる可能性は大いにある。

利点その4:ペイライン
 生産コストが部数や分量に左右されない電子ブックは、ペイラインも低い。つまり、あまり部数の出そうにないニッチな商品でも利益を出すことが可能となる。オンデマンド出版も紙媒体よりもずっと容易になる。他にも、少数の熱狂的ファンにのみ人気があるが数が見込めず利益が出ないため出版を見送られた本、原稿があるのに出版社の都合等で出版できなくなった本、雑誌に掲載されたが単行本化するには分量が少なすぎて出版できない本などなど、今まで日の目を見ていなかった作品等。これらの作品にとって、電子ブックというメディアは救世主となるかもしれない。
 また、電子ブックの規格に統一されたものが登場すれば、個人レベルでの電子ブック作成が可能になるソフトウェアも登場するだろう。自分の書いた本をみんなで持ちよって一緒に読んだり、グループでシェアードワールド的な創作を行ったり、といったことがより手軽にできるようになるに違いない。このあたりの小回りの良さをどう生かすかが電子ブックの将来を占う鍵となるのではないだろうか。

参考リンク

  • 読書用端末買uックを発売 (News Release 2003/4/22)
  • 出版技術講座
  • 2003.5.8更新



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