コラム〜さくら出版事件〜

※さくら出版事件の顛末をつづった「走る!漫画家 漫画原稿流出事件(渡辺 やよい著 創出版)」が出版されました。ネット上では表に出なかった情報、このコラムを書いて以降の顛末など、こちらの方が詳しいですので興味のある方は是非どうぞ。(2004.5.16追記)

 渡辺やよいという漫画家さんの原稿が、本人の預かり知らぬところでネットオークションに出品されていたという事件があったのをご存知でしょうか。ちょっとした話題になっていたので、ネットの個人ニュース系サイトを良く回っている人なら知ってるよ、という人も多いかもしれません。
 簡単にいきさつを説明すると、さくら出版が倒産した際、さくら出版が漫画家から借りていた大量の原稿がどさくさにまぎれて持ち出されたらしく、大手中古マンガショップのまんだらけで叩き売られており、何も知らずにそれを買った人がネットオークションでさらに転売していた、というもの。
 渡辺さんは、事が判明してから自分の原稿が取り戻せないかどうか警察やまんだらけに何度も問い合わせ、足を運んだそうです。その結果、わかったことは、原稿を取り戻すためには、客として自分で買い戻すしかない、という理不尽な答えだったそうです。渡辺さんが事を知り某中古マンガショップを訪れた際、おそらく当人は知らないと思われる自分以外の作家さんの原稿が「証明書付き」で大量に販売されているのを目撃、自身の原稿も最後の一つを自分で買い戻したそうです。
 まんだらけは「警察が捜査にくれば協力するから盗難届を出せ」と言って渡辺さんを相手にせず、渡辺さんが「盗品の可能性が非常に高い」と指摘した後も原稿の販売を続け、挙句の果てにはお抱えの弁護士が出てきたそうです。
 その後、流出した原稿の中にかなり有名な漫画家さんの原稿があることがわかり、事態は現在進行形でどんどん大きくなってます。ここに書くのは、6/27現在でネット上に公表されている情報のまとめです。

 最初に、この事件の事を調べていて出てきた用語/事実について、主観をできるだけ排除する形で予め箇条書きにして置きます。

 当事者以外から見れば「ひどい話もあったもんだ」的な感覚ですが、被害にあった漫画家の側にしてみれば「冗談じゃない、死活問題だぞこっちは」ということみたいですね。こう言う騒ぎの場合、被害者側に「加害者はひどいやつだ」という意識がすでにすりこまれてますから、被害者側の発言は明らかな事実とわかるもの以外はちょっと割り引いて見る必要があります。(だから最初に判明している事実のみを並べて見たんですが)
 しかし、それを差し引いて考えても、ひどい話です。

 なんと言っても一番ひどいのはさくら出版。こちらにさくら出版でマンガを描いていた方の話があるんですが、これを読む限り、「マンガを書かせる」→「印税を振り込む時期(約6ヵ月後)になっても原稿料を払わない」→「原稿料未払いがばれたら、踏み倒して別の漫画家を探す」→「最初に戻る」という、マンガの原稿料が慣習上長期の信用払いであることを悪用した詐欺同然の手口も使っていたようで、漫画家側からは「あまりにやり方があくどいんで詐欺罪で刑事事件にしたい」とまで言われる始末。とりあえず負債ということで訴えられたが、出廷すらしなかったので敗訴。それからしばらくたって、敗訴して明確な通知義務があったにもかかわらず未払い負債含めて債務全てほっぽり出して弁護士ごと夜逃げされていた。
 しかも、本来自社の資産ではないはずの原稿がいつのまにかまとめてまんだらけに流出。夜逃げ前にさくら出版が原稿をがめて売り払ったか、夜逃げの時に行きがけの駄賃に関係者の誰かが売っ払ったか、放置されていた原稿を誰かが盗んで売り払ったか、どちらにせよ不正に売却されたことは火を見るより明らか。不明なのは最終的にどういうルートで持ち込まれたものか、ということだけ。
 出版関連職についている知人から聞いた話等も含めて総合すると、漫画家、編集者、出版社の関係はまず信用ありきで成り立っているようです。以前からの慣習もありますが、穴埋め的な急な仕事が頻繁に発生する業界なので、そうならざるを得ないという事情もあるみたいです。そう言う論理で動いてる業界にこんないい加減なやり逃げ企業があったら……。いや、現に出てきてるんですからもう大変です。小さな出版社の人たち中には『さくらのせいで出版全体が信用を失ってしまった。これから我々弱小出版社にはビックネーム作家の先生は原稿を提供してくれないかもしれない』とため息をついている方もいらっしゃるそうで。
 仕事の世界で、一度失われてしまった信用を取り戻すのは大変です。そう言う意味で、さくら出版の所業が与えた影響は計り知れないものがあります。早く関係者が捕まって、正当な法の裁きを受けて欲しいものです。

 一部では「いいかげんな契約をしているほうが悪い。ちゃんと原稿を返却してもらっていなかった漫画家側のミスだ。自業自得だ」という意見もあるようです。まあ、これも正論ではあると思います。が、関係者の日記などを見ると「そんな事が出来るなら最初からそうしてる」というのが実情のようで。マンガ業界全体の慣習がそうなってるので、新人や売れない漫画家が契約だの原稿返せだの生意気な事言い出すと、仕事を干されて生きてことすら困難になるようです。漫画家の立場が弱いというのもありますが、もともと漫画家と編集との信用商売で成立しているという業界だから、という側面もあるんでしょう。
 まあ、全般的な慣習と言っても契約方法は社によって違うでしょうし、大手になればもっときちんとした契約業務をしているところもあるかもしれません。しかし、中小出版社にそういう契約書を使用しての業務管理ノウハウがあるとも思えませんし、マンガに限らず雑誌のライターなんかだと、穴埋め原稿と言うのが急遽入る事があり、そういう急ぎの事情の時にいちいち契約なんて手順は踏んでたらやってられない、という場合もかなりあるでしょう。雑誌が中心で入稿印刷販売等のスケジュールがきちきちで時間に余裕のないマンガ出版業界では、個人個人の漫画家相手にそういう契約形態を取ること自体にかなり無理があるのではないでしょうか。
 だからと言って、現状維持のまま何の対策もとる必要はないとは言いません。力のある著名な漫画家さんなり団体なりが、まず、余裕のある大手出版社に「せめて連載時だけ、急な場合でも事後でもいいからきちんと契約書を作る業務形態」の前例を作って広めてもらうよう呼びかけるとか、出版社側でのコストがかからないように契約書を漫画家サイドで用意する(まんがジャパンが法的に有効な契約書のテンプレートのようなものを作成し、各漫画家に配布する)とか。
 理想を言えば、さくら出版の悪行にによって失われた信用を取り戻すために、出版業界や編集側からも何らかのアプローチをして欲しいものです。契約書を交わすのが難しくとも、事後に出版社の名前で預り証を書くくらいなら何とかできると思うのですが。まあ、門外漢の素人考えですので、実現は難しいかもしれませんが、今回の事件をきっかけにそういう事がしっかりしてくれるといいなぁ、と個人的に願っています。


 そして、現在進行形である分ある意味さくら出版よりも性質が悪いのがまんだらけ。まんだらけは、事がすでに各所に広まってしまっている6/24現在「原稿が盗品であったかどうかの確認はできていません」と言って原稿の販売を続けています。要約すると、まんだらけは「盗品だという確証はないからこれは盗品ではない。何もやましいところなんてないし、販売するのは当然の権利だ」と言ってるわけです。
 まあ、まんだらけの主張だけを見ていれば、ちょっと無理すれば「ちょっとした行き違いが重なった」ように解釈できないこともないです。……が、他での対応などもあわせて見ると

 この状況で「原稿が盗品と正式に判明すると、漫画家側から原稿の返却を請求されてしまう可能性があるので、まんだらけはそうなる前にさっさと売り払うつもりなんじゃないか」と言われたら、私は反論する事が出来ません。そもそも、状況を知った上で「原稿が盗品であったかどうかの確認はできていません」と言っている事自体、納得できる人というのはかなり少数派なんじゃないでしょうか? 
 なにより、一番凄いのが、以前にも同様の事件が発覚し、そのときの交わした取り決めで「まんがジャパンに所属する漫画家の原稿が持ち込まれた場合、連絡するように取り決めた」が、「一度連絡したが確認が遅くてうやむやになってしまったので、取り決めは無効ということでそれ以降連絡していない」というまんだらけの主張。凄く無理があります。何がおかしいのか具体的な指摘も出来ますが、ちょっと長くなるので、注釈にしておきます。

 良く見ると、まんだらけはいまだに「盗難物であると言う確証は無い」と主張しています。別に自分が善意の第三者である、と言いたいわけではなくて、正規の中古品だからそもそも取引には何の問題ない、と言っているわけです。さくら出版の件がすでに公表されているにもかかわらず、なぜこんな無理のある主張をしているのか、まんだらけの立場を推測してみました。
 生原稿は、100万なんて値段がつくあることもある凄く旨みのある商売だから、買取が出来ないなんて事になると困る。でも、いちいち時間かけて確認してると業務に支障が出すぎてやってられない。また、193条による返却請求の権利を行使される可能性がある以上、たとえ自分が善意の第三者であっても品を所持してる間に盗品である事が発覚するとまずい。だから、連絡するにしても買い取り前に盗品で無いかどうかの確認までをまんがジャパン側にしてもらう必要があり、そうでなければやぶへびになる可能性が高いから連絡なんかやりたくない。念のため一回はまんがジャパンに確認取って見たけど、どう考えても買い取り前に盗品であるかどうかは判明しそうにないからやめた。
 あくまで推測なので、確たる証拠はありません。ですが、これでつじつまは合っていると思いませんか?
 他にもあります。目安箱の別の個所で「漫画家さん本人がお金払って原稿を買い戻してもらうのが一番手っ取り早い」とも主張しています。これも193条がらみでまんだらけの意図を解釈すると、つじつまが合ってしまいます。つまり、漫画家がいったん買い取ってしまうと、まんだらけは盗品の占有者ではなくなり、この時点でまんだらけは品とは無関係になります。もちろん、買い取ってしまった後に「あれは盗品だと判明したから金を返せ」と言うためには、少なくとも、まんだらけが盗品と知っていたかどうかというきわめて困難な証明をしなければならなくなります。
 まとめると、193条に基づく請求をされないために、こんな無茶な主張をしてるという推理が成立してしまうのです。相手がもたついてる間にさっさと売り払ってしまえば、その後事が判明してもまんだらけとしては懐は全く痛くないですから。
 盗品の疑いがかかった時点で販売をいったん差し止めるのが本来あるべき中古品取り扱い業者の対応、と言う気がします。このあたり、一般の古書店関係者等にも意見を伺いたいところです。

 事件を知った最初のうちは、さくら出版許すまじ、まんだらけひどい、という思いもありましたが、調べてるうちに193条の事が出てきて認識が大きく変わりました。まんだらけから品を買い取った客にとっても無関係ではなくなるからです。
 例えばですよ、ネットオークションで売りに出ているものを盗品だと知らずに買ってしまったというケースを考えて見てください。落札後に盗まれた被害者がオークションにその品が出展されていた事を知るとしかるべき手続きさえ踏めば「それは昨年盗まれたものです。私に返却してください」と民法193条に基づき回復請求する事が出来るんです。そうなるとせっかく落札した品をすっぱり手放さなくてはならなくなります。もっとも、194条に競売や中古業者を通して善意に購入した場合は、回復請求は正当な代価を支払わなければならない、という事になっているようなので、丸損、ということは無いようですが。ただし、回復請求は被害者の権利ですので、条件さえちゃんとちゃんと満たせば善意の第三者といえども、拒否できません。この事については、一般利用者もきちんと認識しておく必要がありそうです。
 もちろん、まんだらけで購入した場合も同様です。というか、さくら出版の原稿に関してはそうなる可能性がきわめて高い品なわけで、被害者からの買い取りを拒否することができないという、そんな怪しい品を売りに出してる事自体に大いに問題があります。一般消費者の立場からしてすでにまんだらけは要注意です。


注釈



民法193条


まんだらけの主張がおかしい点


参考リンク

  • 渡辺やよいさんのHP(2003/6/6以降の日記に今回の事が書かれています)
  • 井出智香恵さんのHP(2003/6/19以降の日記に今回の事が書かれています)
  • 2003.6.28更新



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