***あ〜ごめんなさい***
***ダメな話ですから***
***アバウトに読んでみてください***
***前にもまして万丈目くんがアホっぽい***
この胸いっぱいの愛を 2
「すごい悲鳴を聞いたと近所の人が通報してくれたんですよ」
男は警察の者だった。
今日はたまたま別の捜査で近くにいたところを、連絡を受けて急行してきたというのだが。
念のため手帳を見せてもらうと、正しくは警視庁の人間で、階級は警部補ということだった。
(警部補…若いのにたいしたものだ)
万丈目は素直に感心して手帳を返す。
結構道に迷いながら遠くまで来ていたらしく、万丈目と護衛は警部補の車でマンションまで送ってもらうことになった。
「警部補さん、早いところあの変質者を捕まえてくれ。だいたい警察はちゃんと捜査しているのか?」
「してますしてます。詳しいことは管轄が違うんでね、分かりませんが。一応犯人のメドはついてるということですから、近いうち解決しますよ」
本当かよ、と万丈目は疑わしい目を運転席の警部補へと向ける。
あんな目立つ格好の変質者を、今まで野放しにしてきた警察の無能さには、不信感さえ覚えていた。
(あんな変な格好しやがって…変なマスク被って…変なマントなんか着やがって…あの下はまさか全裸か??)
考えると万丈目はまた背筋が寒くなってきてしまう。
どんな悪にも屈しないつもりだったのだが、変態は別だ。
生理的に受け付けない。気持ちが悪い。
D・Hの方がまだ少しはマシだろうと、そこまで思うのだった。
と、そこでようやく万丈目は、すっぽりと頭から抜け落ちていたことを、冷静に思い出した。
(そうだった……あの変態野郎は……)
カードの精霊を連れていたのだ。
ということは、よりにもよってあの変質者がD・Hの正体か。
「ここでいいか?」
マンション入り口前の道路脇に停車して、警部補が車を降りるためドアを開けかけたが、その腕を万丈目は掴んで止めると顔を近付けた。
「デュエリストのハンターとか名乗るバカ共がいるそうだが、警察は何か情報を持っているんじゃないのか?」
「…いや、何のことだか」
一瞬言い淀んだ警部補の様子に、万丈目は直感的に確信した。
(情報公開の規制をされているのか…過去の新聞記事にも何の報道もされてはいなかった…上からの圧力か?)
政界財界あらゆる方面に顔が利く大企業ともなれば、マイナスイメージに繋がるような事件は、極力表沙汰にせず内々のうちに処理されるのが暗黙の常識だった。
それならば今回も専門の掃除屋が動いていると見て間違いがないだろうと思う。
だが、しかし…と万丈目は眉を顰めた。
「……オレの同期の卒業生に、遊城十代という男がいる…心からDMを愛する…オレが認めたデュエルの天才だ…だがこの数ヶ月、行方が分からなくなっている……もし生きて無事でいるなら…奴がどの大会にも出場しないなんてことは、ありえないんだ」
「……万丈目くん」
警部補は浮かした腰をシートへ戻し、万丈目の思いつめた顔を見返した。
「十代は奴らの手にかかって…あいつはもう……そんな気がする」
「それは考えすぎだ、万丈目くん…」
落ち着かせるように肩に置こうとした警部補の手を払い、万丈目は助手席から車の外へと降り立った。
「オレは丸々あんたを信じている訳じゃない。あの変質者の目星がついているというのなら、あれがD・Hだというのも分かっているんだろう。わざと捕まえずに泳がせて監視してたんじゃないのか?」
「いや、それは誤解だ…」
「通報があったにしては、駆けつけるタイミングが良すぎだったな。警部補さん…いや、スイーパーさんと呼ぶべきか」
「……えっ」
目を瞠る警部補に背を向け、万丈目はマンションの入り口へ足を向けた。
不穏な雰囲気を察した護衛がすぐ後ろから追随してきたが、万丈目は見向きもせずにそのまま先に進む。
マンションの正面玄関に設置されたバイオメトリクスシステムでロックの解除をし、自動ドアを開け中へと入った。
ある決意を胸に、真っ直ぐ自分の部屋へと向かう。
玄関で靴を脱ぐのももどかしく、急いで室内へ駆け上がり寝室のクローゼットに仕舞い込んだジュラルミンケースを引っ張り出す。ずっと封印してきたカードの束を、そっと手に触れてから、思い切って掴み取った。
その瞬間、確かに何か不思議な感情が、万丈目の胸いっぱいに広がっていた。
「………………」
『…サンダー…』
かすかな声を聞いて、顔を上げた万丈目は驚く。
「ザルーグか…?」
彼だけではなかった。
一人一人の姿が次第にはっきり見え始め、あっという間に精霊たちで部屋がいっぱいになる。
「…みんな……」
最後に小さな物体が三つ現われ、万丈目の周りをふわふわと飛び回った。
『アニキ〜アニキ〜』
泣きながら顔に張り付いてくるのは、おジャマイエローだ。
「お前ら……いなくなったと思ってた…」
こんなどうしようもない自分を見捨てて、何処かへ行ってしまったものだと。
『そんなワケないでしょ〜アニキ』
『我らはずっとサンダーの傍にいた。姿も声もあなたの心に届かなかったが、いつかデュエルへの情熱を取り戻してくれると信じていた』
ザルーグは至極穏やかな口調で語った。
「……情熱…」
万丈目は手の中のカードを見詰めて呟いた。
『どんなに目を逸らしても、忘れたフリをしていても、我々を大事に想い続けてくれた気持ちに嘘はないでしょう。私は命果てるまであなたと共に…』
『私は、って、ズルイわよ御頭だけ!私だってもちろん!!』
ザルーグを押しのけるように前に出てきたのは、黒蠍の紅一点ミーネだ。
そして次々に名乗りを上げる精霊たち。
『私も』『オレも』『私だって』『僕も』
『もちろんオイラも一緒にいてもいいでしょ〜アニキ』
「…おジャマイエロー…」
……相変わらず気色悪いなぁと思ったが、万丈目は力強く頷いてみせた。
「ありがとう、みんな」
ガオーンとかいう一際大きな雄叫びが聞こえたが、多分体が大きすぎなので姿は見せずに、声だけ参加というつもりのアームドドラゴンだろう。
しばし目を閉じてから、顔を上げると万丈目は毅然として言い放つ。
「よし、行こう」
新しいカードは一枚もない。デュエルのカンも鈍っているかもしれない。
だが仲間にたくさんの勇気を分けてもらったのだ。
怖気づく訳にはいかなかった。
(…あっ)
玄関へと向かい、ドアを開けたところで、万丈目は改まって思い出した。
(デュエルディスクを持っていなかった…)
「万丈目様!!」
ドアの前でずっと待っていたらしい護衛が、咎めるというよりは心配して顔を顰めている。
「館山、お前はついてくるな。オレ一人でいい」
護衛つきでは警戒して姿を現さないだろうと思う。
「万丈目様、危険です」
「もしオレに何かあってもお前の責任じゃあない。だから一人にしてくれ、頼む」
万丈目は走り出し、エレベーターに乗ると一階まで降りた。
フロアに出て隣のもう一台のエレベーターを見るが、護衛が追ってくる気配はなかった。
(…すまない、館山)
もしも自分の身に何か起こってしまったら、護衛として雇われながら職務をまっとうしなかったと、彼もただでは済まなくなることは分かっていた。だがそれでも決心は変わらなかった。
長い付き合いではないが、自分に忠実に尽くしてくれた護衛に、悪いと思いつつ万丈目はマンションの外へと出る。
「万丈目くん、危険だ」
「あんた、まだいたのか」
血相変えて駆け寄ってくる警部補を、万丈目は睨みつけた。
「我々に任せて君は大人しくしていてくれ」
「オレは自分のやりたいようにやらせてもらう」
引き止める腕を振り解き、万丈目は再び暗闇の中へと走り出して行く。
それを半ば茫然と見送り、「今までとまるで別人じゃないか…」と警部補は呟いた。
あの熱く燃えるデュエリスト魂は、他人がどうこう言って消せるようなものではないと充分知っていた。
だが、熱くなりすぎて己も周りも見失ってしまうようなことになれば、最悪の結果に終わってしまうだろう。
警部補は懐から携帯を取り出し、おそらくは自分が万丈目を送ったのを見届けてから住処へ帰っただろう、その相手へと電話をかけた。
車で迎えに行き合流すると、思った通り失態を咎められる。
「あんたがついてて、何で一人で行かせたんだよ」
「あぁ…全くどうかしていた。館山さんも止められなかったんだ」
眉を顰めてハンドルを強く握り締める警部補をそれ以上は非難せず、彼は前を見据えて「場所は?」と訊いた。
「別れ際に発信機をつけておいた。移動が止まってるからここの公衆公園だ」
横目で見つつナビゲーション画面の地図を指差す警部補へと、彼は急かすように言った。
「早く、急いでくれ。きっとデュエルはもう始まってる」
「分かってるって…」
思い切りスピードを上げようとした時。
「オレはアイツのデュエル、見逃したくないんだ」
「……はあぁ!?」
その言葉に思わずブレーキを踏み込みそうになってしまう。
「お、お前なぁ、何言ってんだこんな時に」
「大丈夫、アイツは絶対負けないぜ。それよりオレは、またデュエルをやる気になってくれたことが嬉しいんだ」
まるで子供みたいに瞳を輝かせる姿は、心の底からそう思っているようだった。
「……彼のことは巻き込まないって約束だったろう。上からの圧力が厳しいんだ。なにせ万丈目グループのご子息だろ。引き止められなかったオレもマズイんだけど、彼に不用意に姿を見られたお前もマズイぞ」
「……ごめん」
その点は反省しているらしく、シュンとする彼に警部補は続けて言った。
「とにかく、危なくなる前にちゃんと助け出すんだ。何かあったらオレのクビだけじゃ済まないからな。お前の復帰だって危うくなる」
「ああ…」
分かってる、と彼は窓の外に広がる暗い景色に目を移した。
事の始まりは夏場に起こった一つの事件だった。
全世界のデュエルディスクの情報を統括している、メインのコンピューターに侵入してきたナゾのウイルス。
それと同時に発見された、数種のバグの暴走。
対応と処置の速さで大事にならずに終わったものの、確認のため内密に全てのデュエルディスク点検と、新たな防護プログラムを施し、また持ち主へと戻すという作業が行われた。
だが数点のデュエルディスクが制御システムから外れたままで、何処にあるのか持ち主の情報すら把握できていないという状態になっていた。
その後デュエリストの闇討ちという形で、D・Hによる被害が出始めたのだ。
所在不明のデュエルディスクがD・Hの手によって、使用されているとみて間違いがなく、その一連の事件の調査とディスク回収も兼ねたスイーパーとして、上層部から特命を受けて動いていたのが自分だった。
これまでD・Hに襲われたと思われる被害者は、しばらくの間心神喪失状態に陥り、回復後も記憶が定かでないために、確かな証言は取れていない。
何が目的かは分からないが、狙いはデュエリストだけだ。標的とされる可能性がある者に監視をつけてD・Hの正体を探ろうとした。
なかでもデュエリスト養成学校の卒業生で、一・ニを争う実力者だという彼に当たりをつけ見張っていたところ、案の定D・Hは接触してきたのである。
闇のデュエルと称して仕掛けられた勝負に、彼は恐れることなく立ち向かっていった。
途中、生命に危険が及ぶと判断し強引に確保を決行したものの、結局は闇に紛れて犯人には逃げられてしまった。
しかし、本物の闇デュエルとトリックのある闇のゲーム、その両方を経験したことのあるという彼の証言により、いくつかの有力な情報を得るに至った。
普通の人間ではないと、万丈目は気配ですぐに分かった。
追ってくるのは全部で五つ、そのどれもが人ではなく精霊の気配だった。
狭い道路を突き進み、住宅地から少し離れた公園へと入ると、万丈目は足を止めて振り返った。
公園内の電灯に照らし出され、黒い影が五つ並んで立っている。
その中にさっき見たマント姿の奴はいなかったが、みな同じようなマスクを被っていた。
静かな怒りに燃える万丈目の瞳は、おそらくこの中のリーダー格だと思われる真ん中の人物へと注がれていた。
だが意外にも一番左端の、一番小柄な男が最初に口を開いた。
「この私がD・Hの頭だ。やっと会えたな万丈目とやら」
「…貴様がリーダーか!!」
小さいのにまぎらわしい。立ち位置考えろ、バカ者が。
心の内で好き勝手罵ってから、「気安くオレ様の名を呼ぶな!!」と怒鳴る。
「では、サンダー。今日は余計な邪魔がいないようだ。デッキはあるのだろう?我々とのデュエルを受けてもらうぞ」
「いいだろう!!だがデュエルディスクがないので、少し地味だが対座でやらせてもらおう」
「………少し地味どころか、カッコが悪いぞ」
「貴様らのそのおかしな面の方がカッコ悪いだろう」
指を差しつつ言うと、リーダー格の男は自分のデッキを取り出したデュエルディスクを、万丈目の方へ放り投げた。
「使え」
「…………」
少し躊躇ったが、万丈目はそれを左腕に装着してカードをセットした。
「…?何だ、これは」
何処からともなく辺りに流れ込んできた霧が急に濃くなったかと思うと、僅か数メートル周辺が完全に外界から遮断されたように真っ暗になっていた。
「これが…闇のデュエルだと?」
「そう、右端から順に始め、そして私が最後だ」
「……こちらの手の内を見てからのデュエルということか?リーダーを張るにしてはセコイな貴様」
手っ取り早く頭を潰せばカタがつくと考えていた万丈目は、不愉快そうに顔を顰めた。
だがリーダーの男は咽喉の奥で笑いながら、「セコイのではなく、卑怯というのだ」と言った。
「何?」
いぶかしむ間もなくデュエル開始を宣言される。
「始めろ」
デュエル開始後、万丈目はすぐにおかしいと気付いた。
対戦相手の戦術に、漠然とした疑問を抱く。何か裏があるが、それが何かは分からなかった。
だが一つハッキリしたことは、これが闇のデュエルなどではないということだ。
「デス・メテオ」
ライフへの直接ダメージを狙う相手の単調な攻撃に、それでも万丈目は冷静に対処していた。
「マジック・ジャマーを発動する」
手札から一枚選び墓地へ送ろうとして、もしや、と一度手を止める。
(こいつの闘いは戦術なんて何もない…勝つことが目的ではない、ただの消耗戦か…)
万丈目はカードを墓地へ送り、憤りを抑えて相手を睨んだ。
「貴様、いい加減にしろ。一体何を企んでいる」
対峙する相手は何の反応も示さず、代わりに答えたのはリーダーの男だった。
「ムダだ。そいつはただの私のしもべ、他の三人もそうだ。お前のライフとカードを減らすだけのな」
チラッと視線だけを向け、万丈目は眉を寄せて苦汁の呟きを吐いた。
「……そうか…やはり」
自ターンでカードを引くと同時に、黄色いモンスターが傍らに現れる。
『アニキ〜大丈夫なんですか?』
「………………」
眉間に入れた力が自然と緩くなった。
「おジャマイエロー」
…全く、いつ見ても相変わらず気色悪い。
万丈目は無意識に笑みを浮かべて答えた。
「問題ない。そこで黙って見ていろ」
試合形式は5対5の勝ち抜き戦だった。
ライフがゼロになった時点で交代し、その対戦相手のライフ・手札・デッキ・そして場のカードはそのまま次の試合へと継続されるという団体戦で使用される特殊なプログラムだ。正規の試合ルールに則っていない。このデュエルディスクそのものも、手を加えた改造品だった。
一方的不利に運ぶかと思われたが、ライフはすでに半分近くに減りデッキのカードも残り少なくなってきたものの、万丈目が有利な状況であることは確かだった。
中盤でフィールド上に召喚されたアームドドラゴンLV10を、対戦相手は攻略出来ずにいたのだ。
リーダーの男は黙ったままじっと万丈目のデュエルを観察している。
(おびえることもなく、実に威風堂々とした立居振舞…何のおそれもないようだが…しかし何故だ)
「異形の従者を召喚し、プレイヤーへ直接攻撃」
効果により直接ダメージを与えられ、万丈目のライフが更に削られるが、次のターンでのアームドドラゴンの攻撃により相手は倒された。
計画通りカードとライフはもう残り僅かというところで、最後のデュエルとなる。
しかし当初の予定ではもっと精神的に疲弊しているはずだった。
それが何故こうまで不屈の闘志を保ち続けられるのか、不思議で仕方がなかった。
「オレはカードを二枚伏せターンを終了。あとは貴様だけだ。さっさとかかって来い」
「随分と強気なものだが…お前は本当に人間か?痛みを感じない訳ではあるまい」
リーダー格の男はデュエルディスクを装着し、デッキカードをセットする。
万丈目はそれを見据えて、「ふざけるな」と叫んだ。
「貴様らこそ人間ではなくただの精霊なのだろうが。何が目的だか知らんが、闇のデュエルなどと謀りやがって何のつもりだ。本物の闇のデュエルはこんなものではない。同じ精霊でも黒蠍共と闘った時の方が100倍は強烈だったぞ」
『サンダーサンダー』
これまでの戦闘での相手罠カード・追いはぎゾンビによる効果で、無造作に墓地へと送られ続けた黒蠍団から、控え目なサンダーコールが起こる。
「ザコは黙れ。確かに私は人間ではないが…この体はただの借り物だ」
一段と霧の濃くなった視界の先で、男が付けているマスクに手をかける。
「……何?」
「しかも、お前のよく知る人間の体を借りているのだ」
「…………そんな、バカな」
息を飲む万丈目の目の前で、マスクを脱ぎ捨てた男の顔が、苦しそうに歪むのが見えた。
<続>
うわぁ。ヒドイ。いろいろ適当すぎだと思います。あれとかそれとか。いやしかし、この話はただあの映画の一部をパクろうという試みだったわけですから、他の設定とかはむりやりこじつけたようなものです。許してください。
そんでもって、長々と悩み続けた万丈目くんのデュエル内容なんですが〜私ソフトの詰めデュエルさえクリアできないアホですから、全然理解してないかも。あれとかこれとかそれとか。次になんとか書き切れればいいと思うんですが、カードの使い方間違ってるかもしれない…と思うと不安です。もうちょっとカッコよくしたいんですけど自分の限界が見える。……あともうちょっと続きますが、2回くらいで終わりたいです。なんだか自分でもつまらないから。あと、おジャマデッキじゃなくて、アームドドラゴンデッキで、しかも黒蠍団入れてるっていうムチャクチャな構成ですみません…素人ですいません…十代いなくてすみません…
2005.11.23
この胸いっぱいの愛を 3
頭全体を覆うマスクを脱いだ男の素顔に万丈目は愕然とし、動揺を隠せずにいた。
「何故、お前が」
苦しげに小さく呻き額の汗を拭うと、男は懐から取り出したメガネをかけた。
「…ウム、よく見えるな」
その姿は数ヶ月前まで学園で共に過ごした、丸藤翔のものだった。
「……丸藤…何故お前が」
「驚いたか…お前にかけた電話もおびき出すためのものだったのだ。情報を与えれば必ずお前は一人で挑んでくるだろうと踏んでいた。遊城十代のことが知りたいのだろう?」
万丈目は息を飲むと、怒りを抑えきれずに肩を震わせて翔を睨んだ。
「やはり…貴様らが十代を…何てことだ、今までずっと信じてきた奴の正体が…人間ではなく実は精霊だったというのか」
『アニキ、落ち着いて〜あいつはただ、メガネくんの体に取り憑いてるだけで、メガネくんは普通の人間だよ〜』
ポンと万丈目の前に現れたおジャマイエローが、オロオロと飛び回りながら言う。
「あぁ…」
それもそうか、と思いつつ万丈目は翔の顔を見据えた。
相手が翔なら十代も油断してしまうかもしれないと思う。
(そのスキをついて…まさか本当に崖から突き落としたというのか??)
体を乗っ取られたせいだけではないだろう、翔の顔色はあまり良くなかった。
あの覆面が防護マスクも兼ねていることを、おおよそのからくりと共に万丈目は気付いていた。
「お前も薄々勘付いていると思うが確かにこれは闇デュエルなどという大それたものではない。この辺り一面を覆う霧には感覚を狂わせる一種の毒ガスが含まれている。デュエルディスクからの電気信号を利用し僅かな神経への刺激でも痛みを倍増させる効能を持つ。直接脳に痛みを感知させてすべてのダメージをダイレクトに伝わるよう錯覚を与えているわけだ。精神を弱らせたところで我々がその相手の体を乗っ取る手筈だが…しかしお前にはあまり効き目がないようだな」
おそらく神経ガスの模造か幻覚剤の類か、どちらにしろ一般の人間が手に入れられるものではなさそうだが、と万丈目は思う。デュエルディスクの改造技術にしても、たやすく出来るようなレベルではないとすれば。
徹底して事件が公表されないのも、背景にそうした裏の事情があるからなのだろうと見当は付いた。
翔の言うように決して効いていない訳ではないが、万丈目は毅然とした態度を崩さなかった。
「貴様の目的は何だ。十代を…アイツを一体どうしたんだ?」
「……少し話が過ぎたな。私のターンだ」
カードを引く翔の姿を見詰めながら、万丈目の心の内は微妙に揺れ動いた。
このままデュエルを続け相手に攻撃をかければ、翔に苦痛を与えることになる。
それを分かっていてあの防護マスクを脱いだのだろう。勝負を躊躇わせるために。
もし翔の精神が耐え切れずにどうにかなってしまったら…と考えるが、しかし万丈目はその迷いも一瞬で振り払った。
三年間付き合ってみて、翔はそんなヤワな神経の持ち主ではないことをよく知っている。
それに。
(…それにオレは結構アイツにはイビられてたんだよな)
遠慮はすまい、と口角を上げ相手の攻撃の出方を待った。
翔は手札から一枚モンスターカードを選ぶ。
当然、普段の翔が使うデッキではないだろうことは予想がついていたのだが。
「アマゾネスの格闘戦士を召喚」
戦闘ダメージをゼロにする効果を持つ戦士族の召喚に、万丈目は身構えた。
「竜殺しの剣を装備し、アームドドラゴンを攻撃する」
「……!!」
襲いかかってくるモンスターに、万丈目は目を瞠った。
(マズイ…だが、ここでこいつを召喚できれば…)
「トラップ発動、ヒーロー見参!!」
今の万丈目の手札はモンスターカードが二枚だった。
その中の一枚は攻撃力ゼロのおジャマイエローだが、もう一枚のシャドウ・グールを召喚できれば、次のターンで相手へのダイレクトアタックが可能になる。
(十代…お前のカードだ…オレを守ってくれよ、十代…)
『アニキ〜アニキ〜』
その時、万丈目が十代の顔を思い浮かべようとしたところで、おジャマイエローが目の前に擦り寄ってきたのだった。
「ええい!!ジャマだ!何だ一体!?」
手で払いのけ、万丈目が目を吊り上げる。
『オイラを出しておくれよ〜』
お願いのポーズを取るおジャマイエローに、万丈目は唖然としてしまう。
「バ……バカ、何を言う。攻撃力ゼロのお前が出て行って、どうするんだ?今のオレのデッキには…」
おジャマ関連カードは入れていないのだが、敵の前で全てを口にすることは思い止まった。
『アニキ…オイラ何だかおかしいんだけど…アニキにはあいつと闘ってほしくない気がするんだ』
「どういうことだ?お前…オレに負けろというのか?」
怒るより寂しげな表情になる万丈目に、おジャマイエローは慌てて首を振った。
『そうじゃないよ、ただあいつは何となく…オイラたちと一緒なんだと思うんだ』
「一緒って?どういう意味なんだ…?」
『分からないけど…話してみれば何か分かるかも。説得できるかもしれないよ』
(…バカ言え…すぐにやられてしまうに決まっている)
そうは思ったが、おジャマイエローがそんなふうに言い出すなんて、今までなかったことだった。
(主人としては希望を叶えてやるべきか…それともあくまでただのしもべとして扱うべきか)
しかし自分でも意外なくらい、万丈目は然程迷いはしなかった。
「好きにしろ。だが…選ぶのはヤツだ。さぁ、貴様がカードを選べ」
万丈目の差し出す二枚のカードを見て、翔は眉を顰めると左の方を選択した。
覚悟を決めて万丈目はカードをセットする。
「おジャマイエローを守備表示で召喚」
喜びを体一杯で表現しつつ、黄色いモンスターの実体映像が現れた。
「私のターンは終了、だがこの時アームドドラゴンは破壊される」
「…クッ」
雄叫びを上げ消えてゆくアームドドラゴンの姿を見届け、万丈目は僅かによろめいた体勢をすぐに整えた。
そしてフィールド上のおジャマイエローを見る。
一体の生贄で手札のシャドウ・グールを召喚することは可能だったが、それはすまいと思う。
そして新たにデッキからカードを引いて、再び罠カードをセットした。
『ねぇねぇ、あんたさっき言ってたよね』
「……何だ」
おジャマイエローの言葉に、翔が反応を返したことを万丈目は驚いていた。
聞く耳持たず無視されるのではないかと思っていたのだ。
『弱らせたところで体を乗っ取るって。あんたはカードの精霊ではないの?何でウチのご主人様を狙うのさ』
「…私はカードの精霊ではない…」
何?と万丈目は目を見開き、翔の様子を窺った。
神経ガスの影響か、苦悶の色を浮かべているように見えた。
「万丈目…まだ不完全ではあるが、お前には他の人間にない特別な能力がある…お前の体を奪い、その力を使うことで私は目的を果たす」
「特別な力…?精霊をあやつるとかいう力のことか?だったら十代の方がよっぽど…」
「奴は我々にとって一番やっかいな相手だ。あいつは…我々悪しきものを浄化しようとする能力を持つ…生かしておくと危険な存在なのだ。だから始末した」
「え……」
突然万丈目の視界が揺れる。今まで耐え続けたものが足元から崩れ落ちそうになり、万丈目は拳を握り締め懸命にこらえた。
(始末…始末って何だ…十代をどうしたって……?)
『アニキ、しっかりして』
おジャマイエローが心配そうに声をかけてくる。
「あ…?あぁ、分かっている」
毒がまわりだしたのか、万丈目は眩暈を覚える。血液の流れてゆく刺激ですら、痛みを伴うようだった。
「貴様…貴様が十代を?何故だ!!」
理由を聞いても納得できず、万丈目は叫ぶが翔は取り合おうとしなかった。
「おしゃべりは終わりにしよう」
「答えろ貴様」
万丈目は今ほど激しく怒りに身を震わせたことはないだろうと思う。
こいつは、こいつだけは許せないと、憎悪に燃える瞳で翔を見据えた。
『アニキ!!』
おジャマイエローの悲痛な響きの呼びかけに、万丈目はハッと我に返る。
『アニキ…そんなおそろしい顔はやめておくれよ…何だかオイラ哀しくなる』
「かなしいって…お前…」
万丈目は今の自分を顧みて、眉を寄せて俯いた。
そもそも十代の敵討ちのようなデュエルだ。怒りも憎しみもなく、穏やかに闘うなどとできるわけがなかった。
(だが…オレはこいつを怯えさせるほど、そんなにおそろしい顔をしていたのか…)
グッと目を瞑ると、何となく十代の声が耳に蘇ってくるような気がした。
『万丈目…デュエルっていうのはさぁ…』
(…分かっている。他人のためじゃなく、自分のためにすべきだと言いたいのだろう)
『楽しいだけじゃなくて…苦しいこともあるよな。それはオレも分かるけど。でもお前のデュエルはいつも崖っぷちみたいでさ、何だかつらそうに見えるんだ』
(…そうだ…オレにとっては…それも十代、みんなお前が…お前のせいだ)
『いつか、何にも背負うものがなくなって、心から楽しいって思える時がきたら、その時こそ本当に決着ってヤツをつけようぜ、オレたち。いいだろ』
(………そんな日はきっと…オレには一生こないんだよ…)
脳裏に浮かんだ言葉は、ノース校代表としての試合に敗れた万丈目へと、十代が言った精一杯の激励だった。
(十代…本当はオレは、ずっとお前が…)
何かに急かされるように万丈目が目を開けると、そこには先程までの一面暗い霧に覆われた光景が広がっているだけだった。
「……え?」
『アニキ?大丈夫?しっかりしてよ』
無意識に周りを見回すが、十代は何処にもいなくて、当たり前のことなのにとても淋しいと感じていた。
もっと早くに気付くべきだったと、万丈目は自分の愚かさを悔やんだ。
後悔ばかりしている自分にも、また悔いが残る。
(バカだなオレは…こういうのを堂々巡りっていうんだ)
もう疲れた。誰かを憎むことも、恨むことも。
慈しみ微笑むだけでいられるのならばどんなに幸せだろうか。
誰かにとっても自分にとっても。
だが自分にとってのその相手は、もういないのだ。
もう遅いけれど、いなくなって、今になってやっと気が付いた。
そして同時に胸の内に重く冷たく蟠っていた大きな塊が、暖かな陽だまりの中のようなやわらかさに変化してゆく。それを不思議な思いで万丈目は自覚していた。
「…ターンを終了する」
万丈目が宣言すると、翔はデッキからカードを引いた。
「私はグレイ・ウイングを召喚。このカードは1ターンに二度の攻撃を可能にする効果を持つ…まずはそのうるさいザコを片付けてやる」
翔のモンスターに、おジャマイエローが攻撃される。
『あ〜れ〜アニキごめん〜』
破壊され墓地に送られた時、万丈目の罠カードが発動された。
「復活の墓穴、お互い墓地からモンスター一体を守備表示で特殊召喚する。お前の墓地には守備力1300のアマゾネスの格闘戦士だけだ。そしてオレはカオス・ネクロマンサーを召喚」
それは前のデュエルで、アームドドラゴンLV10の効果発動時、万丈目自らが墓地へ送ったカードだった。
「攻撃力守備力ゼロ…?」
フィールド上に現れたモンスターに翔は唸った。
「更に速攻魔法、地獄の暴走召喚。オレは墓地からもう一体のカオス・ネクロマンサーを攻撃表示で召喚する」
カオス・ネクロマンサーは、墓地に存在するモンスターの数だけ攻撃力を上げる効果を持っていた。
「ここにきて攻撃力3900か…驚いたな。それならばその魔法効果により、私もデッキにいるアマゾネスの格闘戦士を二体召喚させる。そして攻撃はせずにターンを終了だ」
守備表示のモンスターを破壊しても、カオス・ネクロマンサーの攻撃力を上げるだけだ。
それよりも自フィールド上には四体のモンスターがいる。次のターンまで凌ぎ切れれば手札にあるギルフォード・ザ・ライトニングを召喚でき、効果により相手のモンスターを破壊できる、と翔は予想を立てていた。
「オレのターン……」
万丈目はデッキからカードを引き抜く。それはついに最後の一枚だった。
「これが最後のターンだ。オレは守備表示のカオス・ネクロマンサーを生贄にし、シャドウ・グールを召喚する」
効果により二体のモンスターの攻撃力は、3000と4200へと上昇する。
しかし、どんなに攻撃力を上げても勝ち目はないだろうというのに、それでも最後まで攻撃を貫き通そうとする万丈目の誇り高さに、翔は心からの敬意を表していた。
「グレイ・ウイングは破壊できても、アマゾネスの格闘戦士への攻撃による戦闘ダメージはゼロ。次のターンで引くカードのないお前の負けは決まった…」
「いや、そうでもない」
今引いたばかりのカードを、万丈目は裏返して見えるようにしてやった。
「装備魔法、光学迷彩アーマーをカオス・ネクロマンサーに装備。プレイヤーに直接攻撃する」
「なに!」
迫り来るモンスターに、翔は目を瞠って後退り叫んだ。
「こ、殺す気か!!今の状態で4200ものダイレクトアタックを受けたら死ぬぞ、普通は」
「大丈夫だ。オレのよく知る丸藤は…普通じゃないから」
「うわあぁ〜」と悲鳴を上げ、小柄な体が吹っ飛んでいく。
万丈目はカードをディスクから出し、その中の一枚を手に取った。
(十代…このおまもりのおかげで勝てたのかもな…)
そしてデュエルディスクを外し、翔のもとへと駆け寄っていった。
<続>
ヤベ。地獄の暴走召喚での召喚の仕方が間違ってる気がするんだけど、実際やったことないから確かめようがなかった。イヤ、多分絶対間違いだと思う。ホントにその辺が曖昧だけど、間違ってても見ないフリでお願いします。あいたぁ〜普通にリビングデットの呼び声とかの方がスマートだったんじゃないかと、今になって思った…
そういや、日曜にせめてカードがあればなぁと思って買いに行ってみたけど、まだ売り切れなんだもんなぁ…ナンデだよ〜そりゃ使いませんけど、アームドドラゴンは欲しい気がする。
で、ついでにまたアイシールド21のフォトコレ買ったけど、やっぱりスカしか出なかった。結構高いのに。
それにしてもいつまで続くんだこんな話…最初考えてたのと大分違っちゃったよ…パラレルでも万丈目くんを死なせるのはやっぱりヤメにしようと思った。当たり前だ!!バカか私。と反省…
2005.11.28
この胸いっぱいの愛を 4
倒れたまま動かない翔を、抱き起こし顔色を窺う。
「丸藤…大丈夫か?」
眉が僅かに動き、翔が体を捻って呻いた。その拍子に手元からカードが零れ落ちる。
デュエル中の手札の残りだった。
「こ…れは…?」
カードの一枚に目を止めた万丈目は、それを拾い上げ驚く。
相手プレイヤーに直接ダメージを与える魔法カードで、残り僅かだった万丈目のライフを全て削るには充分なものだった。
「何故これを使わなかった?あの時オレの手札に防ぐ手立てはなかった。何故オレを討たなかった?」
「ウ…」
万丈目の呼びかけに、翔が目を開ける。
「……どうして…」
「分からない…何故だろうな。あの黄色いヤツがあまりにうるさくするから…出すのを忘れていたのかもな」
万丈目は軽く目を瞠った後、少し笑ってみせた。
「お前…名前は?」
翔は再び目を瞑り首を振った。
「名などない…試作や実験のため使われ破棄されてきた数々のモンスターの集合体…精霊にまで昇華できなかった残留思念…ある時突然自我に目覚めたが、もともと本体がなくそれ故人の体を借りなければならなかった」
「では、あそこの四人は?」
「私たちは全てもとは一つ…だが一人の人間の中には、器が小さすぎて入りきらなかった。分割すればその分力も弱まる…そこで、サーチシステムに侵入し登録された個人情報を得て、私たち全てを収めるに相応しい器を探し出した…それが」
「十代と、オレだったか?」
「そうだ…まず先に遊城十代を狙ったが、浄化されかかった私は…デュエルの最中手下に襲わせ、彼を排除しそのまま逃亡した。警察が嗅ぎ回っていたが、常に闇討ちを仕掛けた相手の体へと移動を続け、見破られぬよう密かに行動してきた。最終的に顔見知りであるこの体を奪い、お前が隙を見せるのを待ったがうまくはいかなかったな…」
「そうか…十代を襲ったのは丸藤ではなかったんだな…」
それを聞き万丈目は少し安心する。
乗っ取られている間の記憶が残るのかどうかは分からないが、翔があれ程慕っている十代に直接手を下していたら、きっと心に傷を残すだろうと思っていた。
「お前は…一体何のために生まれてきた?何をするためだ、復讐か?」
「復讐…そう…お前の体を使いこの世の全ての怨念を集め…さらに強大な力を手に入れ…そして、そして私は……何になりたかったのだろうな…」
「も…いい…分かった」
言葉が続かなくなる翔を、万丈目は黙らせる。
「それより…オレとのデュエルは…少しは楽しいと思えたか?」
「楽しい…?」
分からない、というように首を振る翔に、万丈目は苦笑いをしてみせた。
「……そうか…十代みたいに、浄化だなんてことはオレにはムリだな」
ふっとため息のような笑いをこぼし、静かに言う。
「ならば来るがいい。オレのもとに」
翔は驚いた表情で万丈目を見上げた。
「オレの体が必要ならばくれてやる。アイツが言っていた…お前は自分と一緒なのだと。お前はザコだと言うが、オレの周りはみんな気のいいヤツらばかりだぞ。いつか楽しいと感じることがきっとあるはずだ。だから他の人間に危害を加えるのは止めろ。丸藤もあとあの四人も解放してやるんだ。いいか?オレの仲間がお前を認めるならば、オレはお前の味方だ」
「……正気か…」
万丈目は翔の手を握り頷いた。
「丸藤を元に戻せ」
その手をぐっと握り締め、翔も万丈目も両目を瞑る。
やがて翔の体から力が抜け落ち、解放されたと同時に万丈目の方へと入り込んでくるもの。
毒を吸い込まないよう、極力呼吸数を抑えていたための酸素の欠乏もあり、万丈目の意識は遠退きつつあった。
だがほんの一瞬の重圧感だけで、瞬きすると体に感じる不自由さはなくなっていた。
体にあった毒素が浄化されたかのようだった。
(……なんだ、これは?)
目を開けても何も見えるものはない。そこは何もない、完全な虚無の空間だった。
『…ア…キ…アニキ…』
遠くて近いような声が何処からか聞こえてくるが、姿は見えなかった。
(…おジャマイエロー…何処にいる?)
何もない空間で自身の形すらはっきりしないけれど、万丈目は意識の中の自分の手を、前へと懸命に伸ばしていた。
そして、その手を何かに掴まれると同時に、思い切り引っ張られるような感覚があった。
『…万丈目…』
何処か遠くの方で、懐かしい誰かの声を聞いた気がした。
「……融合…解除……危ないところだった…」
かすんだ意識の割りに、今度はすぐ近くで声が聞こえ、万丈目は目を開く。
白濁したような視界だったが、これは先程いた公園の霧ではなく、もっと湿った感触がするものだった。
「気付いたか」
「……えっ…」
白い視界の中に、白い服を着た人影を見つけ、万丈目は次第に覚醒していった。
「……誰だ…?」
「オレだ」
白い靄は霧ではなく、湯気のようだった。
その中に佇む人物が、白いコートを翻して振り返った。
「正義の味方・カイバーマン」
名乗る相手を茫然と見ながら、万丈目は続けて言う。
「……カイバーマン…の、コスプレか?」
「カイバーマン様だ。久しいな、覚えているか?遊城十代とのデュエルで一度会っただろうが」
うまく働かない頭で、万丈目は反芻してみる。
「…カイバーマン…デュエル…?」
「カイバーマン様だ」
そう言うカイバーマンを前に、万丈目は過去の記憶を掘り起こしていた。
そして、ようやく思い至る。
「あぁ?あの時の精霊界にいたカイバーマンか?」
「カイバーマン様だ」
尚も言うカイバーマンをよそに、万丈目は周りを見渡した。
「じゃあここは…あの温泉か…?ということは、デュエルアカデミア?」
夢でも見ているのか、と万丈目は思ったが。
「今の貴様は肉体から離れた魂だけの存在だ。オレが手を貸すのがもう少し遅れていれば、貴様はあの魔物と融合してしまうところだった」
あぁ…そうか、と思い返した。
あの時体を明け渡す約束をしたのだ。
「それではオレは、自分の体から追い出されてきたのか…」
何となく実感が持てず、自分の体を確かめるように服の上から手の平で探ってみた。
左胸の辺りで手を止め内ポケットを探ると、そこには十代からもらったカードが入っていた。
「……他のカードがない…おジャマイエローたちは…」
だがすぐに思い出す。
仲間たちと共に楽しく暮らせと言ったのは自分だった。
そういえば、最後に十代の声を聞いたような気がして、自然と笑みが浮かんできた。
もう一度会いたかったな、と思う。心残りがあるとすれば、それだけだった。
「遊城十代に会いたいか?」
「…え?」
万丈目はハッと顔を上げ、カイバーマンの仮面に隠された瞳に目を合わせる。
「ついて来い」
白い湯煙の中を、カイバーマンは歩き出した。
その後ろ姿を見失わないよう、万丈目は慌ててあとを追う。
「カイバーマン!」
「…カイバーマン様だ…何だ?」
言葉の遣り取りに妙な既視感を覚えながら、万丈目はその横に並んで歩く。
「一体あんたは…何なんだ?」
面を取れば素顔は美形なのだろうと思われる。
その整った口元が僅かに笑みの形を作った。
「例えるならばそう、貴様が長い航海を得て迷い続ける難破船ならば、このオレは導く光の戦士、灯台のようなもの」
「……難破船…」
確かに自分の人生は後悔ばかりだったが…難破してたら、いくら光で導かれても沈没するだけじゃないか、と万丈目は眉を寄せて考えた。
「壊れた船を直す修理工が貴様の仲間たちだな…そしてその仲間たちを統べるのがこのオレ」
「…カイバーマン?」
万丈目は自分より少し高い位置にある、その顔を見上げる。
「カイバーマン様だ。オレは精霊界の長であるのだぞ」
「……あ…」
昔会った時、おジャマイエローも『カイバーマン様』と呼んでいたことを思い出した。
「そうか…偉そうにしてたんじゃなくて…本当に偉かったんだな…」
何となく見方が変わってくる万丈目だったが、気になるのはさっきカイバーマンが言ったことだった。
もしかしたら、十代に会えるのではないかという期待で胸がいっぱいになっていた。
(会いたい。もう一度でいいから…アイツに)
突然白い視界が開けると、足元には細いせせらぎが続く薄暗い洞くつになる。
どういう場所なのか疑問も少しはあったのだが、それよりも。
本当にこの先に十代がいるのだろうか、と万丈目は胸を高鳴らせてカイバーマンのあとに続いて歩いていった。
<続>
……もっと長く一気に書ききれればいいと思いますが、テンション続かないのでこんな小分け小分け…さらに頭悪い話になってきました…
2005.12.7