限界バトル(前)



夜も更けそろそろ寝るか、と万丈目が思い立った時。

「大変だ大変だ〜万丈目ぇ〜」

と叫びながら、十代が部屋に飛び込んできた。

「………十代…何が大変かは知らんが、ノックして、名を名乗り、それからオレが入れと許可してから入って来い。それと、万丈目さん、だ」

いちいち噛み砕いて言ってやるが、十代は「それはまだるっこしいぜ」と聞く耳持たない様子だった。
何度注意しても直らないので、そろそろ万丈目も諦めの境地で小さなため息を吐く。

「で?何が大変だって?」

ベッドの端に腰かけて足を組んで座っている万丈目の前に立ち、十代は少し上体を屈めて顔を近付けた。

「万丈目、オレすっかり忘れてた」

「…何をだ?」

何となく、近付いて来た分だけ万丈目は後ろに上体を反らせる。
そして後退さる万丈目を追うように、十代も更に前へと進む。

「さっき思い出したんだ」

「…だから、何を…」

図々しくも十代はベッドにまで乗り上げてきている。
しかしそれを万丈目が睨みつけても、あまり効果はないようだった。
その顔を至近距離からじっと見詰めて、そして十代はニッコリと笑った。

「今日ってさ、オレの誕生日だったんだぜ」

「えっ」

(……コイツ、自分の誕生日を忘れていたのか?)

と万丈目は一瞬ほうけてしまった。
逃げる万丈目の動きが止まったので、十代の接近する動きも止まった。
しかしすでに殆んどベッドに押し倒されているような状態である。

「…き……急にそんなこと言われても…何もあげるものなどないぞ?」

顔の距離が近過ぎて万丈目は思わず目を逸らせるが、この状況から逃げ出すという考えは少しも頭に浮かんでいなかった。

「ほんとはさぁー前からいろいろ考えてて…誕生日には二人っきりでデートしようとか思ってたのにさ」

「で……デートってな…」

(…いつからそんな、デートするような仲になったんだ、オレたちは?しかも二人っきりでって?いや、二人っきりでするからデートっていうのか?いや、そもそもこんな絶海の孤島で、行ける所も限定されてる。誰かに見られないとも限らないし…)

動けなくなった体とは正反対に、万丈目の頭の中はめまぐるしく超高速で思考が働いていた。

「まぁ二人でいられればオレは何処でもいいんだけど。でももう夜だし、今外に出ても星見るくらいしかないし」

「………あぁ」

(…星見るの好きだったんじゃないのか?少しくらいなら付き合ってやってもいいが…)

と思ったそばから、十代が反対意見を出す。

「けど星が見れても外は暗いし、お前の顔が見れないんじゃつまらないよな」

「………………」

そんなことをさらりと言われても、万丈目には返す言葉が見付からない。

「だからさ、デートは諦めるとして」

「……うん」

万丈目は頷き、恥ずかしいという気も多少あったが、すぐ近くにある十代の顔を真っ直ぐに見上げた。

「デートの替わりにデュエルしようぜ」

「で……デュエルって……」

(…『デ』の一文字しかあっていない!!)

何となく緊張して身構えていた万丈目は、どっと体の力が抜けてしまう。

「な?いいだろォ?誕生日のプレゼント代わりにさ…オレとデュエル」

笑顔でねだる十代は、欲のないことこの上ない。
妙に意識した自分がバカらしくて、それも気恥ずかしい思いだった。
自分とデュエルすることを、殊の外喜んでくれるのは何となく嬉しい気もする。
だが、それなら『オレとデュエルすること』と『オレ自身』とどっちがいいんだよ、と万丈目は考えてしまう。
しかしそんな考えにこだわること自体、自分のプライドを傷付けるだけだった。

「……万丈目?」

押し黙る相手に、十代は首を傾げて名を呼ぶ。

万丈目は、ここはすっぱりと気持ちを切り替えることにした。

「よーし、いいだろう。ギャフンと言わせてやる」

「ギャフンなんて言わないぜ」

どうやら乗り気になってくれたことを素直に喜んで、万丈目の上から十代はさっさと体をどかせた。

「……じゃあ…ぐうの音も出なくしてやる」

「おもしれぇ、やろうぜ万丈目」

ベッドから下り、自分のホルダーからデッキカードを取り出す十代の後ろ姿に、万丈目はちょっとだけ眉を顰めて呟く。

「……さん、だ………このデュエルばかが」





そんなこんなで、十代の誕生日は日付けが変わる頃までデュエル三昧だった。
勝敗で勝ち数が僅かに多かった十代が、デートはまたいつか改めてしよう、という約束を取り付けて終わったのだった。





そして平凡非凡な日常を繰り返し、十代もそんな約束を忘れ去ってしまった、ある日曜日の早朝。

バッタン!!

前触れもなくノックもせず、突然ドアが大きな音を立てて開かれる。
ズカズカと部屋に押し入る足音で、目を覚ましたのは翔の方が早かった。
もちろん、一番下のベッドの十代は、まだスヤスヤと寝入っているままである。

「起きろ!!十代!!」

「……う〜ん…」

ベッドに近付いた万丈目は、眠っている十代の顔を軽く手で叩き、大きな声を出して起こしにかかる。

「十代!!目を覚ませ!!」

「万丈目くん…こんな朝早くに何…」

いかにも迷惑だというように、翔の不機嫌そうな声が二段目のベッドから聞こえてくる。
しかし万丈目はそれを一蹴した。

「貴様は寝てろ!!十代起きろ!!」

こんな騒ぎまくっていてなんてムチャを言うんだと翔は思うが、十代に用事があるなら放っておこうと見て見ぬフリを決め込む。
翔が頭から布団を被った時に、ようやく十代が目を覚ます気配をみせた。

「ん…んん……なんだぁ…?うるさぃ…」

目を擦りつつ十代が体を起こし、やっとのことで目を開ける。

「起きたらさっさと用意をしろ!!十代」

「……えっ?ま…万丈目??」

自分を起こしたのが万丈目だと分かり、十代は一気に目が覚めた。

「出かけるぞ。早くしろ」

十代は一瞬ポカンとしてしまうが、万丈目は言い捨てると部屋を出ていってしまった。

「…え……な、何だぁ、一体…」

少しの間固まっていたが、十代はよく分からないものの、言われた通り急いで身支度をし、出ていった万丈目のあとを追った。



部屋の外に出ると万丈目はすでに階下の庭に立っていて、十代が下りてくるのを待っている様子だ。

「万丈目」

「またいつか……そんな不確定な約束をいつまでも、消化不良のままで覚えていなければならんというのは、オレには耐えられん」

「はァ…?」

十代は話が読めず首を傾げながらも階段を下りる。

「行くぞ」

「行くって……何処へ…?万丈目ぇ〜??」

十代を待たず歩き始める万丈目を、慌てて追いかけた。



そして万丈目と十代が向かった先にあったのは。

万丈目グループの印入りのヘリコプターだった。

「乗れ」

「…えっ…の、乗れって…」

ええぇ??!と一人オロオロする十代を置いて、万丈目は先にヘリへ乗り込む。

「おい万丈目…」

躊躇ったのはほんの数瞬で、十代は腹を括ると自分もヘリの中へと入っていった。

扉を閉めたと同時にローターが動き出す。
そして万丈目の「行ってくれ」という言葉を合図に、操縦士はヘリを飛び立たせ上昇させた。
しばらくは窓の外のデュエルアカデミアの島の全容を眺めていた十代だったが、移動してゆくにつれ小さくなり、やがて海しか見えなくなったところで、すぐ隣のシートに座っている万丈目に視線を向けた。

「万丈目、一体オレたち何処まで行くんだ?」

「東京だ……心配するな、外出届は昨日のうちに学園に出してある」

「いや、心配はしてないんだけど…東京に何しに行くんだ?」

目差すそこに一体何があるのだろう、と十代は期待と不安の交じった瞳で万丈目を見る。

「………………」

だが万丈目は眉を顰めて、しばし言葉に詰まっていた。

「なぁ万丈目?」

「………………」

黙ったまま万丈目は、自分が嵌めていた腕時計を外す。

「腕を出せ」

「え?」

そしてそれを、不思議そうに見ていた十代の右腕に付けてやった。
細い手首には少々ゴツイ感じがするが、それは十代でも知っているブランド品だった。

「……オレにくれんの?」

自分の右腕を掲げて、十代は珍しげに眺める。
普段腕時計を付ける習慣がないため、何だか少し変な気分だった。

「お前にやる……気に入らないなら外してもいい。だが、それを付けている間……お前の時間はオレのものだ」

え、と十代は目を瞠る。

言葉の意味を考えてみて、時間をかけて理解し、そして徐々に顔が赤くなった。
隣を見ると万丈目の頬もうっすらと染まっていて、何だか思わず抱き締めたくなるのを何とかこらえる。

話は聞こえていないとは思うが、操縦席はすぐ目の前。
パイロットは多分万丈目家の専属だろうから、滅多なことは出来ないと十代は自重したのである。

その代わりというように、シートの間に置かれた万丈目の手をそっと握った。
そして万丈目も、反対側の窓の外に視線を向けたまま、十代の手をぎゅっと握り返していた。



<続>





…うわぁ中途半端…続くとなってますが、いつになることやら?自分でも分かりません。でもとりあえず、書くなら最後まで(つまり、えっちまで)いくつもりです。しかし難しいよね。私のイメージでは十代はあまり欲情しないと思うんで。だからどうしてもヤるなら、万丈目くんが誘ってくれないとな。それ、難しい……
2006.1.4



























限界バトル(後)



まず渋谷へ行き先行販売の限定カードを手に入れ、軽く昼食を済ませ時間を調整して映画を見る。

そしてその後、前以って手配しておいた、500万もの星を映し出すというプラネタリウム投影機のある科学施設へ行った。

屋上にヘリを停留させてある高級ホテルのレストランでディナーを取り、食後は東京の夜景を眺望出来る最上階の部屋で一休みすることにした。


(少し休んで帰るか…それとも、一晩泊まって早朝に帰るか…)


万丈目がどーしたもんかと考えていると、

「もぉー……お腹いっぱい…」

と、部屋に入るなりベッドに突っ伏していた十代が、くぐもった声で呟いた。

「……十代…」

十代の横になっているベッドに、万丈目はそっと腰をかけた。

「十代?」

呼びかけても返事はなかった。

「……眠ったのか…」

僅かな呼吸の音だけが万丈目の耳に届く。

それ以外は何も聞こえてこなかった。


万丈目は今、こうしてここに二人きりでいることが、自分で計画を立てたというのに、何となく不思議な気がしていた。


最初の印象は最悪で、目障りで何もかもが気に入らない、一生相容れぬ相手だと万丈目は感じていた。

そしてきっとそれは、十代の方も同じだろうと思っていたのだ。

なのに何故か十代は万丈目とは正反対だった。

幼い頃から築き上げてきたバリケードを物ともせず、ボーダーラインさえも乗り越えて、気付けば十代は自分のすぐ傍まで近付いてきていた。

ムカつく、不愉快だと罵っても、十代から返ってくるのは真逆の言葉。

顔をしかめ睨みつけても、十代はまるで堪えず笑顔を見せる。

まさか自分とは対照的に振舞うことで、からかって面白がっているのではと疑い、試しに穏やかな態度で接してみたことがあった。

ほんの少し微笑む程度の顔を向けた時、十代はこれまでと比べものにならない程嬉しそうな満面の笑顔になったのだ。

その瞬間、自分のなかの何かが崩れて壊れていったという自覚が万丈目にはある。

あの十代の笑顔に、そしてその表情をさせたのが紛れもなく自分だったことに、

確かに喜びを感じていたのだ。


「十代……オレは…」


自分の感情を素直に言葉にするという万丈目にとって難しいことを、十代はもうずっと前から容易くし続けている。

今も、変わらず。


「…オレは…」


眠っている十代は寝返りひとつしない。


「オレは…お前が…」


独り言のように呟いていた時、万丈目の携帯に着信が入る。

マナーモードで振動する携帯画面を開くと、表示された名前に少しうろたえてしまった。

だがすぐに電話に出る。

万丈目はベッドから離れて部屋の隅へと移動した。


「正二兄さん…」

ハデにいろいろと手配したことは、もうすでに耳に入っているはずだった。

「はい…今まだホテルにいます…すいません」

怒られるのかと思ったがそういう訳ではなく、せっかく東京まで来たのならば家に帰ってこれないのか、というような話をされる。

万丈目が一人ではないことは知っていたが、一緒にいるのが遊城十代だということまでは分かっていないようだった。

知っていたら『その友人も家に連れてくればいい』などとは言い出さないだろう。


『一体何をしている、ソイツは倒すべき敵ではないのか、称賛と栄光の人生に敗北と屈辱を刻み付けた憎むべき相手ではなかったのか』

万丈目自身ずっと自問していた言葉を、兄たちにも問われることは目に見えている。

そしてその問いに明確な答えを返すことは出来そうになかった。


「すいません兄さん…これからアカデミアへ戻るつもりなんです」

十代が目を覚ましたらそうしようと万丈目は思った。

「え…?ここからですか?」

正二に言われ万丈目は窓に近寄り、薄いカーテンを開けて外を見た。

「ええ…見えます……あ…」

この高層ホテルの最上階からは、遠く離れた東京タワーの光も肉眼で見ることが出来た。

「はい……ありがとうございます……長作兄さんにもよろしくお伝え下さい」

短い挨拶を交わし携帯を切ってからも、万丈目は窓の外をしばらく眺めていた。

夜空に星は見えず、その代わりのように地上にはさまざまな光が灯っている。

だが決して綺麗なものとは思えなかった。


「東京じゃ星は見えないけど…プラネタリウムで見た天の川はスゲー綺麗だったよな」

不意に聞こえた声に、気付けば十代がすぐ後ろで同じように窓の外を眺めていた。

万丈目は振り返らずに、窓に映っている十代の顔に視線だけを向けた。

「起きたのか…」

帰る時間がきたのだということを、少し残念に感じる万丈目だった。

「な、ここまで来たのに家には帰んねーのか?」

不思議そうに言う十代に、万丈目は「あぁ」と短く答える。

「やっぱもう…アカデミアに戻るんだ…?」

む、と僅かに眉を寄せてから、万丈目は振り向いて十代の顔を直に睨んだ。

「さっきの電話、聞いていたのか?」

「…うん」

バツが悪そうに頬をポリポリと指先で掻いて、十代は頷いた。

そして少し間を置いてから、「さっきお前、何て言おうとしてたんだ?」と聞く。

万丈目は何のことだか分からず、「何がだ」と首を傾けてみせた。

「…さっき……オレが寝たフリしてた時」

「なに」

白状するように言った十代のおどけて笑う顔。

一瞬怒りを覚えたものの、それを間近に見た万丈目は、波立つ感情が不思議と収まってゆくのを感じた。


「十代……オレは…」


さっき言いかけた言葉は、すぐ咽喉元あたりまで出かかっているのに、実際声に出して言うことはなかなか出来なかった。

十代は苦笑いすると、万丈目の眉間に右手の人差し指を軽く押し当てた。

「んな難しい顔すんなよ、シワ寄ってる」

ツンツンと突付かれて、万丈目は少し剥れたように上体を反らせた。

背中が窓ガラスに当たり、追いかけるように十代の両手が肩にかけられる。

急に気恥ずかしくなってきた万丈目は、俯き気味に十代から視線を外した。


「……準…」

「え…」


突然十代に下の名前で呼ばれて、思わず万丈目は顔を上げる。

だが十代の目は窓の外へと向いていた。


「……おめでとう…準……誕生日…おめでとう」

「な…?」

囁くような十代の言葉に、万丈目は驚いて目を見開く。

その十代も驚いたという表情をしていた。

「今日、お前の誕生日だったのか?」

「なんで…」

振り返り万丈目も窓の外へと顔を向ける。

遠く東京タワーに灯るライトの一つが、不規則に点滅し続けていた。

「あのライト…モールス信号になってる…あれって、お前の兄ちゃんがやらせてんのか?なんかスゲーなぁ…」

感心している十代の方に万丈目が再び視線を戻す。

「何故お前が解読出来るんだ!?」

何らかの事態に備え信号やら無線操作やら、ひととおりの通信手段の教育を受けていた万丈目だったが、十代までもがそれを知っているということが信じられなかった。

「えーっと…子供の頃見た海自の映画でやってて、カッコいいなぁって興味持ってさぁ…小っちゃい頃はいろんなことに興味持つじゃん?」

「……そういうものか…?」

万丈目が首を傾げていると、

「それより何でもっと早く教えてくれなかったんだ?プレゼントも何も用意出来なかったぞ」

と十代が不満そうに口を尖らせた。

自分のことを棚上げにして、そんなことを言う。

「いいんだ、別に…何も欲しいものなどない」

「ケーキとかは?」

「いらない」


今日が自分の誕生日だということを十代が知らないままでも、万丈目は構わなかったのだ。

欲しかったのは時間。

そしてあの夜の約束を果たすこと。

だがそれが十代のためなのか、ただ自分がそうしたかったのかは、深く考えないでおいた。


ガックと両肩を落として、十代は目を瞑った。

「つれないなぁ…万丈目」

そしてポツリと呟く。

「オレ…感動したんだ」

「…何がだ」

「オレの誕生日にした約束…二人っきりでデートしようっていうのを覚えててくれたんだよな?それに…それに、お前が自分の誕生日に…大切な日に、オレと二人だけでいようって思ってくれたことが……嬉しいんだ」

「…………」


万丈目が曖昧に誤魔化し隠していようとしたことを、十代は簡単に見つけ出し暴いてゆく。


「……今日が…たまたま日曜日だったからだ…」

負け惜しみのように、それだけ言うのがやっとだった。


ふっと笑って十代が万丈目と視線を合わせる。

「それでもいいよ。ありがとう…」

もう一度十代の両手が万丈目の肩に置かれた。

「お前は覚えてないかもしれないけどさ…初めて万丈目が笑いかけてくれた時、あの時オレのなかで世界が変わった気がしたんだ。何でずっとお前が気になってたんだろうって、自分でも不思議だった。オレがお前を…そうか、好きだったんだって気付いた瞬間だった」

万丈目がはっと息を呑んで、十代の揺るがない瞳を見詰める。

そして、引き寄せられる力は強いものではないけれど、万丈目はすんなりとその腕の中に収まっていた。

「十代…」

オレも…


そう言いそうになった時、いきなり抱き締められていた身体を引き剥がされた。

「十代??」

万丈目が怪訝な顔をすると、十代はまたも窓の外を凝視していた。

そして引き攣るような表情で、「あれ…見ろよ」と万丈目の注意を促す。

「?」

十代が見ていたのは、さっきと同じ東京タワーの光の点滅だった。

違うのは信号の内容が変わっているということである。



『さっさとアカデミアへ帰れ』



「……まさか…どっかから覗いてるってことはないだろうな…」

「バカ言え…兄さんがそんなことを」

……するかもしれない。とはさすがに口に出すのを控える万丈目だった。

だが十代は真剣な顔で恐ろしげに呟いた。

「壁に耳ありクロードチアリって言うだろ」

「…どこのオヤジギャグだ」


電話で言った手前、やはり夜のうちにアカデミアへ戻ることにする。

別の部屋で待機してもらっていた操縦士と共に、屋上のヘリポートへと向かい、そのまま真っ直ぐに帰島した。



そんな中途半端な一日を終え、翌日の月曜日は少し眠そうに授業へ出ることとなった。


大体の事情を察しているのか、翔は二人に何も聞いてはこなかったが、ただ、土産がなかったということを、ちょっと不満に思っているようだった。


授業中平気で居眠りしていた十代が、休憩時間に起き出してあくびをしている。

離れた席に座っていた万丈目が呆れたようにそれを見ていると。

伸びをしたままの姿勢で十代が万丈目の方に顔を向け、まだ眠そうな目を細めて笑いかける。


そして伸ばしていた腕を、せわしなく動かし始めた。

隣に座っていた翔は、十代の奇妙な行動にさすがに黙っていられず口を挟む。

「アニキ…寝起きでヘンな踊り踊って…寝惚けてるんスかぁ?」


その声は万丈目のところまで聞こえていた。

少し躊躇したが万丈目も手早く短めに送り返す。


言葉に出来れば簡単なのだけれど、口に出せない万丈目の精一杯の素直な気持ちだった。






ちゃんと返事を受け取ったらしい十代の嬉しそうに笑う顔を見ながら、

(アイツ手旗信号まで知ってたんだな)

と、万丈目は幾分感心するのであった。



<終>




え、こんなんで終わりとは!!なんじゃこりゃ。
メインのはずのデートエピソードが3行で終わってるよ…最初はいろいろ考えてたけど(十代がギャルにからまれたり万丈目が誘拐されかかったりケンカしたり仲直りしたり…)書ききる情熱がすでになかった。
しかもナニ?最後のナニまでどころか、未だ『好き』の一言も言えず…ヌルいわ〜
…で、話の中に出てきた十代が子供の頃に見た映画ですが…GXが今より少し未来の世界っぽいので…某亡国のイージス…
だってこの話考えてた時、ハマってましたからねぇ…かなりダメな感じになっちゃったけど。
やっぱり時間が経ち過ぎると、最初の考えどおりにはまとまらないということが分かりました。きっと他の停滞している話もそうなるんだろうなぁと思う。とにかく自分の力の限界バトルということでした。(何だそのオチ)
2006.6.24