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2001年10月のひとこと書評
(掲示板に書いた文章の転載。評価は★5つが最高)
(024)『中国火車旅行』(宮脇俊三。角川文庫)
列車マニアの氏が、ただひたすら中国の列車に乗る。
圧巻は、上海〜ウルムチ3000kmの旅。停車駅は開封、洛陽、西安、酒泉、などそうそうたる地名が並ぶ。が、西安の城壁を見て、少しは下車して観光すればよかったかなと一瞬思うものの、ともかくひたすら列車に乗り続けるのだ。
車中3泊の予定が事故があって、20時間近く遅れてしまう。しかし、乗客は大してあわてない。氏も「没有時間」の世界に入っていく。そして、ウルムチに到着したとたん、とんぼ帰りで飛行機に乗って帰ってしまうのである。
★★★
(023)『中国の城郭都市』(愛宕元。中公新書)
現在、復刊運動がおこっている本だが、古本市で見かけた。
図表や写真なども多く、たいへん資料価値が高い本だと思う。
特に、35Pの「〜mの城壁を作るのに必要な人員は?」の算出式が説明されるところなどが個人的にはツボである。
★★★☆
(022)『東洋的古代』(宮崎市定。中公文庫)
永一さんとこの掲示板で、kayさんが触れておられたので読んでみた。
『史記』の「貨殖伝」で当時の家畜の価格を推計したり、鴻門の会の座り位置と文章の関係、悪逆趙高の復讐譚など華麗なる謎解きが繰り広げられ、読み物としても純粋におもしろい。
★★★★
(021)『アウェーで戦うために』(村上龍。光文社知恵の森文庫)
「フィジカル・インテンシティ」第3作。
サッカーとは、極端にロースコアのスポーツであり、言い換えれば試合時間中「えんえんと攻撃が失敗し続ける」スポーツである。
それだけに、アナウンサーや解説者がしたり顔で「この1点は大きいですねえ」などと言うのが氏には許せない。小さな1点だの大きな1点などはない。サッカーの1点はすべて「致命的」なのだと。
しょせん、人間は転がるボールほど速くは走れず、蹴り上げられたボールほど高くはジャンプできない。
だから、100m走のチャンピオンより、走り高跳びの金メダリストより、正確なセンタリングをあげられる、極言すればただ、それだけのベッカムが、誰よりも恐ろしい脅威になりうるのだ・・・なんて、言われてみると当たり前なのだが、感心してしまう。
コストやリスクに関する指摘は、痛烈だ。
「罪を認めたときに、恥をさらして世間から圧倒的な非難を浴びるという余計なコストを軽減しない限り、日本的な組織の中での不祥事の隠蔽は続くだろう。」
これは、記者会見でテレビカメラに向かって頭を下げる、日本ではおなじみだが、外国ではついぞ見かけない光景を見ての感想だ。 (ミスを犯すと多大のコストを背負わされ)個人がリスクを負ってトライすることに対する賞賛がない社会では、ミスをしないことが最優先になる。
氏は、1対1の勝負を避けているように見えがちな日本選手の背景に、そんな日本社会の価値観を見ている。
★★★☆
(020)『チンギス・ハーンの一族1〜4』(陳舜臣。集英社文庫)
私は陳舜臣氏は小説家としては不器用な方だと思う。(決して「嫌い」ではない。技巧的ではないと言っているのだ)
しかし、氏の描く人物は魅力的である。「オゴディの声をきけば誰もがその声のしたあたりに、惹き寄せられ、自分も仲間の一員として、談笑に加わりたいと思うのである」などでそう思う。
氏は特に女性を描くのが苦手とされる。(『妖のある話』まえがきなど)
この作品ではナイマンのマリアという女性が出てくる。としをとらない。魅力的なんだが、『秘本三国志』の少容に似ている。
オゴディからグユク、モンケ、フビライへのハーン位をめぐる争いのあたりはおもしろい。「おや、うまいじゃないか」と思った。
しかし、ラストはなんか竜頭蛇尾という感じ。
1巻の34P。「何日かして、水夫が「コンスタンティノープル!」と叫んだとき、マリアはやっと、過去とさよなら出来るのだと思った。」
陳舜臣氏は、あの顔で(←悪い意味ではない)「過去とさよなら出来る」!
なんて書いたのだろうか。
★★★
(019)『南洋通信』(中島敦。中公文庫)
南洋パラオに赴任した中島敦が家族に手紙を出す。
時には妻にグチをこぼし、それによって妻に心労を与えたかと反省する。自分の好物のことを懐かしむ文章を書いては、「送ってくれと言ってるのではないから、気を使うな」と書く。下の子(のぼる)をノチャ助と呼び、かわいい盛りに離れて暮らさざるを得ないことを残念に思う。
声高に反戦を叫ぶ作品では全くないのだが、「戦争」というものを実感させる。(ただ、一般的な作品ではないので、中島敦のファン向け)
★★★
(018)『老荘思想』(安岡正篤。明徳出版社)
本来、こうゆう概説書でなく、原典にあたらねばならないのだが。
概説書といっても、個々の文献を総花的に紹介するのではなく、「老荘思想の本質を体系的に解説」したもの。
ひとくちに「老荘」といっても「黄老」と「老荘」に分けられるとか、3つのタイプの医者を描き、孔孟、老子、荘子をあてはめるところなどがおもしろかった。
「黄色」礼賛のところは首をかしげた。
★★★
(017)『なんぞそれ神速なる』(伴野朗。徳間文庫)
伴野氏といえば、いつも取り上げる素材はいいと思うのですが、作品そのものは、あまり好きになれません。
今回も迷ったのですが、表題作は司馬懿。そして史記の酷吏列伝に出てくる郅都などを扱っているということで買いました。
たしかに郅都は竇太后の恨みをかって罪に落とされたのですが、それを「”女性パワー”の炸裂」という表現をするセンスがどうも合いません。
「皇帝をつくった男」というのは、劉歆という男が王莽を皇帝に仕立て上げようとしたのだ・・・という話。
しかし、傀儡と思っていた男が、知らぬ間にキングメーカーも制御できない状態に・・・という、何か陳腐な筋立て。
結局、伴野氏に抱いている印象を覆すことはできませんでした。
★★
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