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「始皇帝暗殺」試写会 『始皇帝暗殺』試写会レポート

 「ミスターマガジン」というマンガ誌で応募した試写会に当選し、98年9月5日、一足はやく観てきました。
 会場は、大阪IMPホールでした。


トップシーン!

 ある刀匠一家の暗殺を請け負った職業的刺客の荊軻
 その刀匠の家(作業場)に押し入り、男女構わず手際良く殺していき、助命を請う息子(弟子?)も「俺の顔を見ていなければな・・・」と殺してしまう。

 と、「お母さん・・・」と心細げに呼ぶ少女の声。
 どうやら、この娘は目が不自由のようだ。
「家族を殺されては、私は一生物乞いをしなくてはいけない。私を刺して」
 しかし、荊軻は立ち去ろうとする。
 すると、娘は持っていた刃物を自分の胸に突き立てた。

 苦しい息の下から「もう力が・・・お願い、抜いて・・・」
 魅入られたように近づく荊軻、その刹那、娘はその刃物をまっすぐ前に突き出した。
 その刃は、仇の体を貫く筈であった。
 もし、荊軻が右手で娘の刃物を抜こうとしていたのであれば・・・
「あなたが左利きとは思わなかったわ・・・」娘は、そのまま荊軻に抱かれるように崩れ落ちた・・・

(ひとこと)
 なかなか迫力のある導入部。
 冒頭より「つかみはOK!」という感じ。


戦場シーン

 シーン変わって、戦場の場面。「腕に覚えのある者は車に乗れ」という怒号の飛び交う中、一人の男が戦車(馬車)の脇に乗り込む。

 この男、荊軻か?と思ったが、違った。
 何だか貧相な顔をした男。
 疾走する車をローアングルで捉えた画像はスピード感にあふれている。
 古手の映画ファンとしては、少し「ベンハー」の戦車競争のシーンを思い起こしました。

 車上の男、なかなか強い。次々に敵をなぎ倒していく。
 戦闘は、自軍の勝利に終わった。
 ところが、男の乗っていた戦車を操っていた「上官」は、深く傷ついていた。
 瀕死の上官は、男の手を取り、
 「お前強いな。伍長になれるぞ。名は?」
 男は答える。
 「政」
 「えっ、大王?!」

(ひとこと)
 まあ、これはないわな。
 大王が一足軽のように、最前線で敵と命のやり取りをするっちゅうのはな。
 流れ矢が当たったら秦も終わりやもんな。
 ハナシとしては、おもしろいけど、ちょっと作りすぎやわな。


出ました、コン・リー!

 出ました、鞏俐(コン・リー)。役名は、「趙姫」。
 彼女が来たと知らされた始皇帝は、小躍りして会いに行く。
 どうも、軽いなあ。人間的に描写していると見るべきなのか?

 燕の太子も登場する。実に器の小さい人物。うまく配役していると思います。(顔は、少し研ナオコに似ていた)
 始皇帝を恨んではいるが、対抗すべき手段も力もない。頼みとしているのは、「秦には、わが燕を討つ口実がない」ということのみ。

 そして、趙姫が複雑な動きをします。
 なんと、囚人のごとく自らの顔に焼きゴテを押させたのです。
 つまり、彼女は、始皇帝の「戦乱をなくすために統一を」という言葉に賭けたのでした。
 そのためには、燕を討つ口実がいります。
 趙姫は、始皇帝と燕丹が趙で人質となっていた頃の共通の幼なじみであり、あこがれの人でした。
 その趙姫が秦でひどい目にあえば、燕丹は、何よりも彼女のために始皇帝への刺客を差し向けるでしょう。
 それは、即、燕攻略の大義名分となります。

 「(意気地なしの)燕丹を踏み切らせるためには、この傷がいるのです。わたし、醜くなった・・・?この傷を見たら、平和を守るという誓いを思い出してね・・・」
 そう言って、彼女は、初めて始皇帝(と言うより、幼なじみの趙政)に身を任せます。

(ひとこと)
 たしかに、燕は、暗殺失敗を契機に滅亡の坂道を転げ落ちていきます。
 燕を滅ぼすため、刺客を送るよう秦の側から仕向けた。
 燕には、真っ向から軍をおこす国力はない。追いつめるとテロに走らざるを得ない。
 しかし、「趙の国の徐夫人」(の匕首)という一句から、絶大な権力者のマドンナを創造し、美女は顔を焼き、権力者は自分を殺しに来る者を待ち受ける
 この辺の倒錯した自虐的な展開は、「広島に原爆を落とす日」など一連のつかこうへい氏の作品を連想させました

 それにしても、鞏俐・・・「菊豆」「紅いコーリャン」の頃のイメージは既になく、実に堂々として、チラシの写真でも感じたのですが、宮本信子に雰囲気が似ている


荊軻と趙姫の出会い

 丹とともに燕に送られた趙姫。
 饅頭を盗み折檻を受けている浮浪児を、荊軻が助けようとしている所に出くわす。
 しかし、無銭飲食の金を立て替えてやろうにも荊軻自身がホームレス状態。

 吊るされている子供に一椀の水を与えるため膝まづき、店の主人の股をくぐる荊軻。
 主人は、突如、斧を自分の首に当て、
 「殺してみよ。そうすれば、子供は放してやる」と迫る。(ちょっと、この辺、展開に無理があるのでは?)

 もみ合いの中、主人は死に、荊軻は捕らえられる。
 死刑の直前、趙姫に助けられ、丹より始皇帝暗殺を命じられるけれど、荊軻は剣を執ろうとしない。

(ひとこと)
 私にとって、荊軻役の張豊毅(チャン・フォンイー)は、「さらば、わが愛/覇王別姫」もさることながら、「項羽と劉邦〜背水の陣〜」の韓信役が印象深い。
 股くぐりのシーンでは、思わず「よっ!十八番!」と声をかけたくなった。


「ろうあい」の「じゅんあい」

 その他、気付いた点としては、単に「巨陰」「車輪ぶん回し男」としてだけ扱われがちな「ろうあい」が、したたかで、しかも、部下思いの男らしい人間として描かれていました。

 反乱も、本当に太后と子供たちへの愛ゆえに起こしたように描かれ、最初のうちは、色と欲だけで結びついた、森川正太(っていましたよね?青春ドラマで脇役とかやってた。名前違ったかな?)とペギー葉山のように見えた二人が、最後は、年齢差と身分の差、宮廷制度の壁を打ち破ろうとした純愛カップルのように見えるから不思議。


ずるいぜ、陳さん

 映画が終わり、スタッフロールが流れる時、「呂不韋:陳凱歌」とあって、思わず「おおっ!」と驚いてしまった。
 場内も、その瞬間少なからずどよめいたから、そう感じた人は多かっただろう。

 前日(9月4日)NHKのニュースで陳監督のインタビューが流れ、顔は見たことがあったが、出演していたのは気付かなかった。

 この映画では、政は、自分が呂の子とは知らず、処刑寸前の「ろうあい」から「自分の母親に聞いてみろ」と言われ、ショックを受ける設定になっている。
 それで、呂の方から、
 「わしを殺せ。この噂を打ち消すには、そうするしかない。実の父親を殺す子はいないのだから・・・」と言う。
 しかし、政には決心がつかず、苦悩する。

 ふと顔を上げると、呂が縊死している。
 足元にとりすがり、政は鳴咽とともに、こうつぶやく。
 「父上・・・」

 もちろん主役ではないが、なかなかおいしい役である。
 「あんたはヒッチコックか」とツッコミを入れたくなった。
 今なら、ヒッチコックより、クェンティン・タランティーノの方が通りがよいだろう。
(蛇足ながら、補足説明いたします。
 アルフレッド・ヒッチコッククェンティン・タランティーノも、自分で監督した映画にちらりと出演するので有名な映画監督であります。
 特にヒッチコックは、さりげなく通行人として出てたりするので、「ウォーリーを捜せ!」じゃないですが、各作品でどこに出てるか捜すのが楽しみだったりしました)


マーケット・リサーチの結果は?

 私としてはなかなか楽しめた作品だったのですが、世間一般の評判はどうなんでしょう。
 そこで、マーケット・リサーチを試みることにしました。
 と言っても、会場で耳を澄ましただけなのですが。

 会場で私の隣には、OL風の女性が座っていたが、終わったとたん、
 「なんや、さっぱりわからへんかった」
とつぶやいていました。

 データとしては、もう1例。
 出口に向かう途中、若いカップルが感想を述べ合っているようでした。
 失礼ながら、追い越す瞬間、耳をダンボにさせていただくと、男性の方が
 「いろいろ話が込み入ってて、かんじんの本編の筋がわかりにくいなあ」とのこと。

 まあ、無理のない話です。
 例えば、いきなり「ろうあい」が出てきますが、彼がどういう人物で、また、どういう経過で今ここにいるのか・・・なんてことは一切説明がありません。

 政が母后を訪ねて食事をしている時に、うっかり子供がその席に迷い込んできて、その子は「ろうあい」に「お父さん・・・」と呼びかけてしまいます。
 彼は「親戚の子でして」とごまかすが、政は「そうか、お前はわしの弟か・・・」とつぶやく。

 これをきっかけに「ろうあい」は急遽蜂起するように描かれているのですが、内容を知らないと、なぜ、あのやり取りであれほどあせらねばならないのか訳がわからないでしょう。

 蛇足ながら説明を加えますと、「ろうあい」は、荘襄王亡き後の母后の夜のお相手第二号として、第一号の呂不韋の手により送り込まれました。
 母后のお側近くに侍るのですから、当然「宦官」という触れ込みであります。

 ですから、始皇帝の「弟か・・」というつぶやきだけで、
(1) お前がにせ宦官であり、しかも母と通じて子供までなしたこと、
(2) 皇帝の「弟」である以上ライバルの一人となりうること、
(3) 「ろうあい」とその子は存在自体が許されないもの(宦官が子をなす筈がない)であるから、生き延びるためにはこの子を擁立して始皇帝を倒すしかないこと、
 そして、そうしたすべてがお見通しだよ、ということがわかり、「ろうあい」としては「殺らねば殺られる」状況に追い込まれているのが明白になったわけです。

 思うに、『史記』などをなぞって、始皇帝と呂不韋、「ろうあい」、また、燕太子丹などの関係をざっとでも知っている人なら十分楽しめるでしょうが、そうでなく、「始皇帝が中国の王様だってことは知ってるわよ、そうそう、『ラストエンペラー』は見たことあるし・・・」ぐらいの人だとかなりしんどいに違いありません。

 しかし、後者の人でもわかるように解説を加えながら作ると、何時間かかるかわかりませんよね。
 試写会のはがきには、フランスの雑誌(「ステュディオ誌」)には、この映画は、「タイタニック」にも匹敵するとの評が載ったとか。
 望むらくは、実際に「タイタニック」並みのブームが起こり、女性週刊誌などに「始皇帝、その出生の秘密!」なんて記事が載りますように。

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