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(No36) あじさい     

  「なあ、なあ、パパ。ママの好きな花知ってるか?」
たけしの話は、いつも唐突である。

 今日は、長女(中3)はクラブ(バスケ)の練習、長男(小6)は塾で、昼間は末っ子(小2)と嫁さんとで3人。自転車の後にたけしを乗せて、近所の公園に向かう途中なのだ。

「ちっちゃくて、丸くて、いっぱいあって、水色やねん」
 昔、サクマのイチゴミルクというキャンディーのCMソングは「♪ま〜るくて ちっちゃくて 三角だ〜♪」だったが、何かよくわからない。

 公園に向かう道路脇、よそんちの庭先などに咲いている花を指差して
「なあ、たけ。見てみ。花って、赤とか黄色とかピンクとか、まあ、紫とかはあるけど、水色の花って、あんまりないで」
「だけどな、ママの好きな花は水色やねん。昨日、ママとお散歩してる時にあってん。ママ、この花好きやわ〜ってゆうてん」
「そうか、あ、せや!帰り、商店街の花屋さん寄って、ママの好きな花あるか探してみよか?お父さんはどんなやつかわからんから、たけが探してや」
「それは、いいな!あ、そう!もし、そのお花あったら、ママにプレゼントしたら、どう?探すのはぼく、買うのはパパ。僕らゴールデンペアやな」

 ゴールデンペアというのは、TVアニメ「テニスの王子様」で青学テニス部ダブルスの菊丸・大石組のことで、最近たけしはよく使う。

 公園でしばらくバドミントンやらサッカーをしてると、嫁さんが来た。家の掃除が少し残っているから、それを片付けたら合流すると言ってたのだ。
 花屋に行く時、どうやって嫁さんを「まく」か、相談してると、嫁さんが「なんなん、今日は?二人でひそひそ話ばっかして。お母さんは仲間はずれなん?」と怒り出した。

「なあ、たけ。お母さん、俺らが内緒話ばっかりしてるから、すねてるで。もう、みんな、ゆうてしまおか?」

「あ、そや、パパ。僕が、マルキでベイブレードこうて(買って)ってゆうて、それでママ先に帰ってもろたら、ええんちゃう?」
 どうも、たけしは私の話を理解してないようだ。なお、マルキは近所のおもちゃ屋。ベイブレードとは、おもちゃの名前。現代式のベーゴマである。

 昼になったので、近所のスーパーへ。パックのお寿司など、昼ご飯を買いに行った。レジの近くで、いきなりたけしが大声を出した。

「なあ、パパ!あとでマルキでベイブレードこうてくれる?」
「えっ?そやな、見るだけやったら、見てもええで」

 相変わらず唐突やな、と思いつつ、ふと不安も感じた。こいつ、マジちゃうやろな?嫁さんがレジで勘定してる間に、たけしを呼び、小声で確認する。
「おい、たけし。ベイこうたるゆうたけど、これ、アレのアレやからな。な、わかってるな?」
「うん、大丈夫、大丈夫!」
 ほんま、大丈夫かいな?

 スーパーを出て、家へ。マルキの近くで、たけが、また大声を。
「パパ、止まって!ママ、先帰ってええで」
「なんでえ?ええよ、ママも一緒に入るから」
「でもなあ、時間かかるし」

「あっ、そう。お母さん、おらん方がいいん?ふ〜ん、そんなら先帰るわ」
 プンプンもんで、嫁さんは帰ってしまった。角を曲がったのを見届け、そろそろと後戻り。花屋は、おもちゃ屋の2軒手前なのだ。

 花屋に入って、しばらくして、たけしが「あった!」と大声を出した。「パパ、これや」と指差してるのは、ガクアジサイである。そうか、これで納得した。数日前、私も嫁さんと、アジサイは、花言葉はあかんけど、花は好きや。普通のんより、ガクアジサイの方が好きや、なんて話をしたのを思い出した。

 店頭には、ガクアジサイの鉢植えが6つほど並んでいた。
「いくらかな?」

「聞いてきてみ」
 たけしが、店のご主人に値段を聞き、2300円と言われて、目を丸くして私のところに帰ってきた。
「パパ!めっちゃ高いわ!やめよか?」
 ここまで、話が盛り上がってるのに、今さらやめられない。
「かめへん。どれにするか選んどいで」
 たけしは、花屋の店先にしゃがみこみ、品定めを始めた。
 しばらくして、
「これや!」
と、一つの鉢植えを取り上げた。
「おっ、僕、さすがやなあ〜。こん中で、それが一番ええやつやねん」と、店のご主人がおおげさに感心してみせた。たけしも得意げである。
 おそらく、どの鉢を選んでも、そう言ってくれたのだろうが。
あじさい

勘定は、2000円ちょうどにまけてくれた。たけしが大声で「めっちゃ高い!」と言ったからだろうか?

 家に帰り、たけしから嫁さんに花を渡した。
 花をテーブルに飾って、3人で昼めしを食べた。スーパーのパック寿司やコロッケを並べ、冷蔵庫から缶ビールやジュースを出して食べたのだが、そいつは、なかなか、一流レストランでのお食事にも負けないパーティーでした。