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(No13) 気まずい瞬間(その2)

 これも、前回と同じ、大阪駅で清掃のアルバイトをしていた頃のお話。

 このバイト、「夜行列車に給水」なんてことも書いたけど、そうした深夜業務を含む変則勤務だった。

 真夜中、やっと定められた仕事が終わると風呂に入らせてもらえる。大阪駅の、とあるホームの下が風呂になっているのだ。誰も客のいない暗いコンコースを、洗面器を持って風呂に向かうのは「誰もこんなとこに風呂があるとは知らんやろな」と思うと、けっこう楽しかった。

 風呂が終わると数時間の仮眠。これも、とあるホームの下に仮眠室というか、いくつも「かいこ棚」がしつらえてあって、そこに各自もぐりこむのである。疲れているので、あっという間に寝てしまう。寝たかと思うと、翌朝の仕事が待っている。しかし、寝過ごす心配は無用だ。なぜなら、その仮眠室はホームの真下。始発電車が走れば、ものすごい振動と騒音で、寝てられたもんじゃない。「目覚まし時計で起きる」んじゃなくて「目覚まし時計で寝てた」、つまり時計を横に置いて、じゃなく時計の「中で」寝てる感覚だった。

 ともかく、そんな明け方のお仕事の中に、シャッターを開ける時に「駅で寝てる人」にどいてもらうというのがあった。といっても、彼らは「酔いつぶれたサラリーマン」なんかじゃなく、ほぼ「定住者」だから、よっぽどシャッターの開閉や通行の支障になっていない限り、ざっと見まわり声をかける程度だった。

 そうしたおなじみさんの間をまわりつつ、掃除をしていた時のこと、ふと、あるおばあさんと目が合った。そのおばあさんも「寝てる人」の仲間。彼女は、別の寝てる人(この人は、文字通り「寝てる」人だった)にそ〜っと背後から近づき、彼の胸ポケットに手を伸ばそうとする、まさにその瞬間に目が合ってしまったのだ。
 こりゃあ、何とも気まずいというか、何というか。胸ポケットの中身が財布だったら「何してるんや」くらいいったかもしれんが、吸いさしのタバコの箱やったからなあ・・・
 で、お話には続きがある。私と目が合ってしまったおばあさん、それは決して「ニヤッ」というような小ずるい笑みではなかった。照れたような、恥ずかしいような、何ともいいがたい複雑な「笑み」を浮かべつつ、そのまま手を伸ばして、よれよれの箱を抜き取ってしまったのである。
 彼女が立ち去った後も、彼は「寝てる人」のままだった。彼が起きた時にどんなリアクションを見せたか、興味はあったのだがお目覚めを待つほどひまではなかったので不明のままである。

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