自分がそんな目に遭った理由が実のところいまだ納得できていない。到底できるとも思えない。
小学校の理科の授業で解剖した魚は鮮度が悪く、教科書に載っているイラストのように内臓がきれいではなかった。いじり回しているうち無惨なことになり、教師はそれを見て「バラバラ事件」と言い、眉をひそめた。
中学校でやったカエルの解剖はもっとグロテスクだった。こいつらの脚を食うやつがいるのかと想像すると、さっき食べた給食が胃から戻って口から飛び出すような気持ち悪さがこみ上げ、必死にこらえた。
大学の生物学実験でラットの解剖を始める前、キーキー泣き叫びながら逃げまどうネズミ達を前に僕は凍りついた。仕事とはいえ平然と彼らの息の根を止める教官が同じ人間とは思えなかったくせに、いざ作業に入るとそんなことはすっかり忘れ、僕はこの生き物の構造を調べることに夢中になった。
月日が経ち、僕の目の前には実に見事な、魅力的な物体が横たわっている。白くすべすべの肌、腰の張りとその上方のくびれ、すらりと2本揃ってまっすぐに伸びた脚…。人体にも完全に左右対称なものは存在しないという。にもかかわらず完璧に近い目の前の存在。すっかり心を奪われてしまった僕…。
ナイフを握り締め、白い肌の上を滑らせ、止める。次なる展開に進もうと胸を躍らせる。窓越しに隣の住人が注視していることなど気付きもせずに。
そして僕は刑事被告人として連れて来られた。僕にとっては日常的なことで、おそらく誰もがやっているはずなのに、内心そうだと思い込んでいたのは僕だけなのだろうか。傍聴席にはこの「猟奇事件」の犯人である「変態」を一目見ようとつめかけた人たち。好奇の視線が背中にまとわりつく中、塀の中に行けという宣告。
3年余りが過ぎ、僕は調理の技能を競う大会に参加している。色も艶もすぐれたみずみずしい素材たち。でもあの時の獲物にはどれも遠く及ばない。あの時僕が捌こうとしていたのは見事な二股の大根だった。見かけはどうあれ紛れもなく大根だったのだ。姿形を愛でつつ素材のすばらしさをを最大限に引き出そうと、僕は全神経を集中していた。それに何の問題があるというのだろう。
隣の住人も裁判所の連中も皆どうかしている。たかが大根にあらぬ妄想を抱いた彼ら自身に目をつぶり、僕を殺人未遂で告発し裁くなんて。
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